病弱な僕と正反対な君

蒸しケーキ

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文化祭02

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 文化祭まで残り数日、ここでちょっとした出来事が起こる。

「え??ご、ごめん。もう一回言ってくれない、、かな??」

 僕は聞き間違いに違いない。いや、そうであってくれと願うように、文化委員の子にもう一度聞いてみる。

 「え?だーかーらー袴田の衣装はこーれ!」

 目の前に広げられる服を見ると、どう考えても執事服ではなかった。胸元が極端に開いていて後ろは、なにかリボンのようなものが付けられている。

 「メイド服だろ!!」

 自信ありげに言われるが、僕はいまいち理解が追いついていない。そうか。颯君はこれを懸念していたのか。それで、やっぱやめるのは無しな?と言ってきたのか。分かってたならもう少し、止めて欲しかったな。そう思い、颯君の方を向くと、

 「ほらな?だからいっただろ?」と言われてしまう。ぐぅの音も出ない。

 「他に無いか、な??ほらサイズ小さくてもいいからさ。こういうのじゃなくて!!」

 「うーん。いや、これ以外にないよ?だって、執事服は基本一条の体格ベースで作ってもらったからな。袴田に合う衣装はこれしかないな。」

 「そんなぁ~。」

 僕は項垂れる。確かに僕と颯君の身長差を見れば衣装のサイズが合わないのは一目瞭然だ。

 「すまん袴田。我慢してくれ。一条が袴田と同じ持ち場、同じ時間帯の勤務だったらいいって言うからさ。ほんと説得してくれてありがとな。マジで。」

 「あと!ちゃんとデートの時間も作れるように調整するからよ!」

 「当たり前だろ。それがなかったら困る。ただでさえ唯のメイド服お前らにだって見せたくねぇのに。」

 すると、水野君が横から会話に入る。

 「おぉ~相変わらずの独占欲。唯に愛想尽かされんじゃねぇの??」

 「それはない。」

 「即答じゃん。」

 僕はそんな会話を横目に聞いている。でもデートかぁ。絶対楽しいだろうな。模擬店もいっぱいあるみたいだからたくさん回れるといいな。デートのために恥を捨てて頑張ろうと、心の中で決めた。

 「とりあえず、今日中に衣装着てくれないか?サイズがこれで大丈夫かっていうのと、もし調整が必要だったら手芸部の子に渡さないといけないからさ。」

 「分かった。今、着替えた方がいい感じかな、、??」

 「??おう、その方が楽だろ?」

 「そ、そうだ、よね。うん。」

 「ん??どうした?袴田??」

 僕はすっかり忘れてしまうところだった。僕の胸には痛々しい傷痕があること、それをあまり人に見られたくないこと。どうしよう。なんとか見せずに脱げるかな。いやでもトイレで着替えてこようかな。あーーでもなんて言おう。お腹痛い?いやそれだと不自然だなぁとぐるぐる考えていると、

 「、、俺が一番最初に唯のメイド服見たいから、別室で着替えてくるな。唯、行くぞ。」

 「う、うん。」

 手を引かれながら教室の出口へと向かう。学校で盛るなよ~と下品な声が聞こえてきたが、颯君は、んなことしねぇよ。と適当にあしらってくれた。

 「この辺でいいか。」

 「うん。ここなら誰も来なさそうだもんね。それと助け船出してくれてありがとう。なんて切り抜けようかずっと悩んでたからさ。颯君が独占欲強いみたいになっちゃったよね。ごめん。」

 「いや、そこは別になんとも思ってないし、独占欲強いのも事実だしな。水野からよく怒られてるし。さっさと着替えちゃおーぜ。あいつらからまたなんて言われるか分かんねぇし。」

 「そうだね!そうしよう。」

 僕はせっせと着替え終わるが、後ろがどうしても自分で結ぶことができない。

 「ごめん颯君。着替え終わったらでいいんだけど、僕の服の後ろのとこ結んでほしいんだ。」

 「おう。分かった。」

 後ろに颯君の気配を感じ、背を向けたままにすると大きくなっていた影がピタッと止まった。どうしたのだろう。後ろ前間違えてたかなと思い

 「???颯君?どうしたの?やっぱ結ぶの難しい??」

  「いや、なんでも。ここ、こうやればいいのか?」

 少し、服がキュッと締められると、ウェストがだいぶ強調される。女の子ってこんな大変な服を着ながら仕事したりするんだなぁと少し感心する。胸元がやけに開いていて風を通しやすく、少し肌寒くなるのが心許ない。

 「苦しくねぇか??」

 「うん。サイズは大丈夫そうかな。」

 「唯そのままこっち見て。」

 肩を掴まれて、くるっと体を反転させられる。僕はもしかしたらキスされるかもと思い、唇をキュッと軽く結んだ。しかし、颯君は全身をじーっと見つめた後に、僕の胸元に手を掛け、襟首の調整をしてくれているようだった。

 「うん。これなら一応胸元は見えねぇはずだ。」

 僕の予想に反して颯君はただ衣装のチェックをしてくれただけだった。期待してしまった自分が恥ずかしい。

 「、ありがとう。」

 羞恥心をごまかすように俯き気味にお礼を伝えると

 「キスは部屋戻ってからな。さっき教室で盛るなって言われただろ??」

 どうやらバレていたらしい。

 「分かってるよ。ただ、なんか期待しちゃったのが恥ずかしいってだけで、、」

 「ほんとなら、してたんだけどな。扉の前に誰かさんがいるみたいだからな。もう入っていいぞ。」

 誰が!なに!!いつから!?と思っていると、扉が開き、水野君がやれやれといった様子で教室の中に入る。

 「はぁ~。お前らほんとにTPOを弁えてくれよな。キスとか聞こえたときはまーじで焦ったわ。クラスの奴らが様子見て来いってうるさいもんでね。」

 「だろうな。サイズは二人とも大丈夫だったって伝えといてくれ。」

 「りょーかい。あれだな。颯はイメージ通り似合うとしても、唯も案外似合ってるのな。」

 「え?そう?水野君から見ても変じゃない??」

 「ぜーんぜん。唯はあんま自分の顔の造形意識したことないタイプだろうし、無自覚なのはしょうがないか。まぁあとはちょっと彼氏さんからの視線が痛いだけで。」

 「お前、早く行けよほんとに。」

 「あいよ。言われなくとも行きますよ~。教室のやつらには当日のお楽しみとかって伝えとくわ。だから着替えて出てきちゃいな。あと、唯それちゃんと当日とかは隠せよ。」

 そう伝えると水野君は教室を出て行ってしまった。それとはなんだろう?鎖骨らへんを指差して言ってたなと思い、着替えがてら鎖骨のあたりを見てみると、そこには赤い蚊に刺され?のようなものが出来ていた。なんだろうこれ?と思い颯君に声をかける。

 「颯君。僕のここ昨日からあった?」

 「、、、あった。てか俺が付けた。昨日。」

 付けた?昨日?思い返してみると、確かに昨日の夜に颯君に鎖骨のあたりを強めにジュっと吸われたのを思い出す。もしかしてこれは、、、と顔がぶわっと熱くなる。

 「キスマーク、、?」

 「いや、まさか水野に見られると思わなくて、ごめん。」

 「せめて!見えないところに着けてよ。」

 「見えないとこならいいんだ。」

 「せめてつけるならの話!!」

 「分かった。そうするわ。」

 ほんとに分かったのか??と疑問を残しつつ、まぁいっかと思い教室に戻る。やはり「なんかしてたんじゃないだろうなぁ~」とクラスの子に詰められたが僕は精一杯「何もないよ!!してない!」と否定していたのに対し、颯君は「どうだろうな。」とにやにやしながら言うだけだった。そのまま放課後となり、

 「とりあえず、サイズ大丈夫そうなら良かったわ!!それじゃ、当日もよろしくなぁ~」

 と文化委員の子は満足げに言い、最後の打ち合わせに向かうようだった。クラスの模擬店の方は、僕らの衣装確認をしている最中にかなり進んでいたらしく、すでに装飾品やら看板などが完成され、教室の隅に置いてある。

 「なにか手伝えることある??」

 と声をかけると

 「ううん!あとは飾るぐらいだから大丈夫!!それより当日は接客しなきゃいけないっていう重要な役目が袴田君にはあるんだから!!準備の時くらいは休んで!」

 「そうだよ~。2日間もあるんだから~。袴田は女子に紛れてだから気遣うでしょ?今ぐらいしか休める時間ないって~。」

 「そっか。ありがとう。その分当日頑張るね。」

 「うん。それがいいよ!!」

 「一条にもなんか文句言われそうだしね~。」

 「、、え?なんで颯君?」

 「付き合ってんじゃないの??ねぇ?」

 「うん。私もてっきり付き合ってるから一緒にホールやるのかと思ってた。」

 ど、どうしよう、言うべきか??いや言おう。颯君と僕は確かに不釣り合いだけど、ここで否定したら颯君に失礼だ。そう思い、一呼吸置いてから

 「、うん。つ、きあってる。」

 はぁ~~最近ずっと顔が熱い。どういう反応されるのかなと様子を伺うと

 「だよね~?ま、見てて分かるし。なんにもないって方が不自然すぎ。」

 「私もそう思う。体育祭終わってからしばらく告白ラッシュだったでしょ?ずっと付き合ってる子いるからって断ってたみたいだよ。」

 「それに、一条の目線の先に常に袴田がいるしさ。相当愛されてんだね。」

 「いいなぁ~。私も恋愛したーい。」

 「ねぇ。一条のどこが好きなのさ!?」

 「気になる~~!!」

 質問攻めにあってしまい、なにから答えたらいいのか分からなくなってしまう。だけど僕はこんなごく自然に受け入れてくれたことがまた嬉しくてたまらなかった。

 「じゃあさ、一条のこと好き??」

 と聞かれると

 「、うん。大好き。」

 と僕はつい笑顔がはじけてしまう。

 「、、、袴田君。その笑顔破壊的だから気を付けてね。」

 「ね。今のうちらだからなんとかなったけど。」

 「えぇ~。僕の顔変だったかな?」

 「いや!!そういうことじゃな「誰の顔が変だって??」

 「げ!!噂をすれば!今ちょうどあんたの話をしてたんだよ。」

 「ふふふ。袴田君ほんとに愛されてるね。」

 「あ、一条ちょっと言っとくわ。袴田自分の顔の良さに全っっ然気づいてないタイプだわ。ちゃんと教えてやんなさいよ。」

 そんなこと水野君も言ってたよな??星谷先輩とかにも言われてたっけな。

 「知ってるし、分かってるよ。」

 「あっそ。じゃあ袴田当日頑張んなよ~」

 「うん。私たちに手伝えることがあったら言ってね。」

 ありがとうと僕が言うと、颯君がもういいか?と痺れを切らしてしまい、僕の荷物を持つと帰るぞ~といい、さっきまで話していた二人には目もくれず行ってしまった。僕はじゃあね!と言うと、二人ともまたね~と返してくれた。話せる人が増えて嬉しいなと思う。このことを颯君に話すと大体

 「嬉しい気持ちと、唯の良さが知られるみたいでいやな気持ちが反復する~」

 と返ってくる。水野君や星谷先輩にこのことを話すと

 「独占欲の塊だから気にすんな/気にしないでいーよ。」

 と似たような返事をされる。

 部屋に帰るや否や颯君がやや不機嫌そうに

 「教室でなに楽しそうに話してたんだ??」

 と聞いてくる。今日も変なスイッチ押しちゃったかなと僕は思った。

 

 


 

 
 

 

 

 

 

















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