独り身オメガに幸せを

蒸しケーキ

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出会い

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※暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。

「やめろ!お前ら!こんなっ!ことして!!は、離せ!!」

 大学で体育の実技科目が終わり、居残りで体育館倉庫の整理をしていたとき、背後からいきなり誰かに襲われ、身体の自由を奪われた。

 暗くて誰もいない倉庫の中には、独特なゴムのような匂いがこもっていた。暗いせいで顔はよく見えなかったが、気配からして四人ぐらいの人間がいた。

 今の科目は一年生の必修科目だったから、相手が同学年の誰かだということだけは分かった。両手は上で縛られ、着ていた服は無理やり脱がされて、無残にも地面に投げ捨てられていた。

「うぅ......やだっ!!やめろ.....やめて.....くれっ.....」

 身動きができない恐怖で、息をすることさえ苦しい。これから何をされるのかという嫌悪感が、胸の中でぐるぐると渦巻いた。

 恐怖心で、大粒の涙が目からポロポロと零れだし、身体も小刻みにブルブルと震えだした。

「おいおい。やめろって言ってる割には、喜んで後ろ濡らしてるくせにな?ほら、順番にやっていいぞ」

「じゃあ、俺からいこうかな~」

 後孔にひたりと、嫌な物があてがわれた。

「いやっ!!やだっ!!!やめっ~~!?い、いた.....いっ」

「はぁ.....きっついなぁ~。...おい!!暴れんなよっ!!!」

 身体をよじったり、無理に手を引き抜こうとするが、全く歯が立たなかった。アルファに敵うわけがない、と現実を突きつけられているようで悔しくなった。

「ったく...大人しく抱かれてろよっ!!」

 俺は、頬をばちんっと強く叩かれた。そのせいで唇の端が切れて、口の中に鉄の味がじわじわと広がった。

「おら、口もちゃんと使えよっ!」

「んんっ!?ぐっ......おぇっ...う...んっ」

 嫌だ、痛い、苦しい、気持ち悪い、やめて、なんで?どうしてこんなことするんだ??俺がオメガだから??オメガだからダメなのか??

ーー母さん、父さん、助けて.....。ごめんなっ....ごめんなさ....い。俺の意識はそこでぷつりと途切れ、深淵に落ちた。

「っ!?はぁっ...はぁ...。この夢......ってことは...そろそろ来そうかな。」

 あれから、数十年経った今でも夢に見ることがある。それも、発情期が近づいているときに限って。

「母さん大丈夫??汗ぐっしょりだよ。また嫌な夢でも見た??」

「あぁ...ごめんね。瑠夏るか大丈夫だよ。」

 俺は瑠夏に「何でもないよ」と伝えるように、にこりと微笑みかけた。

「そう?なら、いいんだけどさ。」

 今では、すっかり大きくなった俺のかっこいい自慢の息子。発育よく育ってくれたおかげで体躯もかなり良く、学校でもかなりモテているようだった。

 そんな瑠夏も、もう高校生になった。俺は今年でめでたく?三十三歳を迎える......時間の流れは残酷だ。この子は俺が大学生の頃、顔も名前も知らないようなやつらに、体育館倉庫で無理やり強姦されたときに妊娠した子だ。

 ただ襲われたとき、誰とも番にはなっていなかったことが不幸中の幸いだった。妊娠を知らせたときの母さん、父さんの表情は今も忘れることはないほど、脳裏に焼き付いている。

 母は青褪めた顔をした後、目を真っ赤に腫らすぐらい泣き、父は怒りの余り握っていた拳から、血を流していたほどだった。

 父さんと母さんの計らいで、俺は大学を中退した。そして家族全員で遠く離れた地方へ引っ越した。だからあの四人の処遇は知らない。いや知りたくもなかった。

 始めこそ、俺が子どもを産んで育てることに父さんは

「大学生一人で育てられるわけがない!」

 と、声を荒げ母さんも

「辛くて、大変な思いをするのは、葵なのよ!?」

 と言い猛烈に反対していた。

 二人が俺のことを心配してくれて言ってくれているのは、痛いほど分かる。だけど「生まれてくるこの子に罪はない」「産ませてくれないなら俺一人で育てる!」

 そんな風に俺が啖呵を切ったものだから、両親ともに最終的には折れてくれ、ここまで立派に育てることができた。なんだかんだ、母さんも父さんも瑠夏のことを可愛がってくれたので、よかったと思う。

 たまに、瑠夏の顔を見て強姦した奴らのことを思い出さないのか、辛くはならないのか、って何度か言われたこともあった。

 ただ、あの時のやつらの、顔も名前も本当に分からなかったので、瑠夏の顔を見て辛くなったり、フラッシュバックしたりすることは無かった。むしろ、瑠夏の顔は誇らしいとさえ思う。

 けれど、アルファに対してはとても強い警戒心を持つようになった。まぁ、これは必然的なことだから仕方ない。

 この話は、瑠夏も知っているが、初めて瑠夏にこの話をしたときに酷く泣かせてしまった。瑠夏は俺に「ごめんなさい」と言い続け、家に全然帰ってこないなんてこともたくさんあった。

 そのたびに、瑠夏を探し回ったことも、今では大切な思い出の一つだ。

 後に、その行動の原因は、瑠夏の第二次性がアルファであり、自分も俺の”怖い”という恐怖の対象になってしまうのではないか。という気持ちからきたものだと知った。

 なんて心の優しい子に育ってくれたんだろう。

 瑠夏には真っ当な人生を歩んで、幸せな日々を送って欲しい。そう願わずにはいられなかった。

「じゃあ、俺もう朝練行くからね。母さん、無理しないでよ?行ってきます!!」

「分かってるよ。うん、気を付けて行ってらっしゃい」

 高校生活にもだいぶ慣れてきたようで、毎日元気に「行ってきます!」と言ってくれるのが、親としてはこれ以上ない幸せだった。

 昔は、何度も何度も「え?男性オメガなの?」「いやだ、番もいないなんてかわいそうね...」「まぁ!誘惑なんかされたらたまったもんじゃないわ...」

 など、俺を憐れむ、蔑む声が嫌でも多く聞こえ、そのたびに瑠夏に謝らずにはいられなかった。

 俺自身のことを悪く言われるのは耐えられる。でも瑠夏のことを悪く言われる、被害が及ぶのだけは、とても耐えられそうになかった。

 だから、そのたびに俺は瑠夏に「こんな親でごめんな...」と謝っていた。

 そんな俺に対して瑠夏は

「なんで謝るの??母さんは悪いことなんて一つもしてないじゃん。俺は大丈夫だから。母さんが俺を生んでくれなきゃ、俺はここにいなかったんだよ??なんでそんな酷いこと言えるんだろうね。そいつらの言うことなんて、聞かなくていいよ。」

 子どもながらにそう励ましてくれた当時のことを思い出すだけで、目の奥がじわりと熱くなった。

 そんな日々も、中学に上がると自然と無くなった。

 後ろ指を差されたり、ひそひそと何かを言われたりすることもなくなり、第二次性徴についての理解が深まったせいか、面談や授業参観の場でも、憐れむような声は一切聞かれなくなった。

「はぁ...ほんとに、そろそろ発情期入りそうかもなぁ。」

 発情期の周期が記されているアプリを開くと、前回の発情期からちょうど三か月が経とうとしていた。

 俺には番がいないので、発情期は一人で自身の欲望を吐き出さなくてはならない。

 孤独で辛い時間だが、瑠夏のためと思えば何度だって乗り越えられる。

 瑠夏はアルファなので、俺の発情期に当てられてしまう可能性がある。だから、俺が発情期のうちは瑠夏は俺の実家に帰ってもらうようにしている。

 今日か明日には実家に帰ってもらうようにするか...そうだ、母さんにも連絡しないと...

「あれ?瑠夏、お弁当忘れてんじゃん」

 この日は、珍しく瑠夏がお弁当を忘れていた。育ち盛りの子にお弁当がないのは、なんとも耐え難いものだろう。

 普段なら、購買でパンやお弁当を買ってもらうなりするのだが、今日は仕事も立て込んでないし、瑠夏の高校まで届けることにした。

 ついでに瑠夏の姿が見れたらいいな~なんて思いながら。

 瑠夏が通う高校は、電車で三十分ほどの所にある。瑠夏ならもっと上の高校に行けたはずだが

「家から近いとこでいい」と言って聞かなかった。

 まぁ、ここの高校も進学校らしいし、大学に行く分には困らないだろう。

 学校に着くと入口にある受付のインターホンを鳴らす。

 インターホン越しに「すいません 一年生の立花瑠夏の保護者なのですが...」と伝えれば「今 向かいますね」と、年増な男性が姿を現した。

 最近の学校は、セキュリティ云々の関係で保護者であっても、このインターホン越しに、要件や誰がどんな目的で来たのか、などを話さないと、中に入れないようになっているらしい。

 昔よりも随分と厳重になったものだなぁ~と感心する。

「はい 立花君のお母様ですね。今日はどのようなご用件で??」

「息子がお弁当を忘れてしまったようで、それを届けにきまして...」

「あぁ!それはわざわざご足労いただきありがとうございます。立花君もきっと喜ぶでしょう。直接渡しにいきますか??」

「いえっ!!それは大丈夫です。渡していただければそれで...」

「分かりました。ではこちらで責任をもって、立花君にお渡しさせていただきますね。」

「はい!よろしくおねがいします。」

「あれ??母さん??どうしたの!?」

 ぱっと校舎の方に目を向けると、たまたま移動教室だったのか瑠夏と会うことができた。瑠夏は目をぎょっとさせながら心配そうに駆け寄ってきてくれた。

「大丈夫!?なんかあった!?そういや、朝も様子が変だったし......」

「あっはは、大丈夫だよ。心配しすぎ。さっき事務の方に預けようとしてたんだけど、お弁当忘れてたよ?」

「はい」とお弁当が入った袋を差し出すと、瑠夏は目を輝かせる。

「うわ!ありがとう!まじで今日お昼どうしようかって、ちょうど話してたんだよ!」

 その顔を見て、やっぱり届けに来て正解だったなと思った。すると、今まで黙っていた瑠夏の友人らしき子が口を開いた。

「......この人が瑠夏のお母さん??」


















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