独り身オメガに幸せを

蒸しケーキ

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運命なんて...

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「......この人が瑠夏のお母さん??」

 目がバチっと合うと、突然、電流が走ったような衝撃が全身を駆け巡った。

 しかし、その衝撃は一瞬で消え去った。いや待て待て。そんなはずはない...よな??落ち着け。

 俺は、ふぅ、と一呼吸置き、気を取り直した。

 改めて見ると、この子も瑠夏に負けず劣らずの美形だな。背丈は俺よりも高く、目鼻はくっきりとしており、目はいわゆる三白眼。

 口元にある黒子は妙に色っぽく、髪色の金髪も相まって、とても高校生だとは思えないほどのオーラだった。

 ちなみに俺は一応百七十㎝はあるので、この子は百七十五㎝ぐらいだろうか??

「......あぁ 初めまして。瑠夏の母の葵です。瑠夏と仲良くしてくれてありがとう。」

 やっぱり、さっきのは気のせいだよな??なんて思いながら俺がにこっと微笑みかけると、その子は下をふいっと向きながら小さく「はい、」と答えていた。

 思春期で恥ずかしいのかな??そう思うと、ついくすっと笑みが零れ、とても可愛く思えてきた。

 うん大丈夫、気の迷いだ。きっと発情期に入りそうだから体調がちょっとおかしくなったのだろう。

 だけど早くこの場から離れるに越したことはない。

「じゃあ、瑠夏学校頑張ってね。あと、今日からおばあちゃん家に帰ってね。」

「...分かった。なんかあったら、ちゃんと呼んでよ?」

「うん ありがとうそれじゃあ。」

「あ あのっ!!」

 帰ろうと踵を返したとき、瑠夏の友達であろう美形の子に呼び止められた。

「俺の名前、美園蓮って言います!!」

「...美園君ね。美園君も学校頑張ってね」

「はい!ありがとうございます!!葵さんもお気をつけて、じゃあまた」

「??うん?ありがとう??」

 なにに気を付けるんだ?またってなんなんだ?そんなことを思いながら、足早に2人に背を向け歩き出す。

 ーーそれにしても、さっきのあの感覚はまずい気がする。頭の中で警報が鳴り響いた。

 よりによって、なんで今になって俺の前に現れるんだ。俺に今更、番なんていらないのに。ましてやなんて......

 念のため、瑠夏には申し訳ないが極力あの子とは会わないようにしよう。そう心に誓い俺は自宅へと帰る。自分の部屋に戻ると、冷静さを取り戻した。

 あの子高校一年生だよな?......てことは、仮にあの子が運命だとするならば、十八歳差!?十八...俺は犯罪者になってしまう!!犯罪者どころか、あの子の親より、俺の年齢の方が上の可能性だってありえる...。

 そんな未来は、絶対に避けなくてはならない。犯罪者の息子として、後ろ指刺されながら生きる瑠夏のことなんて考えられない!!

 もういっそのことバース転換手術でもするべきか...?いや、これは金銭面でも現実的じゃないな。夜逃げなんてできるはずもないし......

「っ!やっぱり、きた。」

 ぞくっ、と背筋に悪寒に似たようなものが抜けた。俺はすぐにスマホで母さんに「発情期に入るから瑠夏をよろしく」と簡単に送り、抑制剤の入った引き出しを開け、一粒抑制剤を取り出し水で流し込んだ。

 周期的にはあと二、三日遅いはずだったんだけどな...仕事も「受け入れ一旦停止します」って連絡を入れておかないと...

 ぽわぽわと、まるで酒に酔ったかのような状態になりながらも、俺は最低限の連絡を済ませ、寝室に籠る。

 身体の奥からじんわりと熱を帯び始め、気怠さが全身に広がっていく。

 俺には番も発情期もいらない。もう全部、全部無くなってしまえばいいのに。

 本格的に発情に入れば、理性はほとんどなくなり、自身の熱や欲望を満たすことだけに頭がいっぱいになる。

 本来、ここに番がいることで、幾許かその発情の症状も軽くなり、精神的にも安定すると言われている。

 ただし、それは番がいるオメガに限ってのこと。俺のように番のいない独りのオメガは、三か月に一度地獄のような苦しみを味わいながら、この辛い発情期を耐えることになる。

 瑠夏がいなかったら俺はとっくに死んでるだろうな。なんて不謹慎なことを頭の中で考える。まぁ、そんな人肌恋しい発情期をかれこれもう十年ぐらいは、一人で過ごしているんだけどね。

 噂だと”番のいないオメガは短命”であるとか、”精神を病んでしまう”だとか言われているが、俺はまったくそんなことを感じたことはなかった。

 だからこれは、誰かがでっち上げた、都市伝説なんじゃないかと思っている。

 ーーいつか、俺にも番ができたら辛い日々を、苦しい発情期を過ごさなくて済むのかな。なんてことを、もう何十回、何百回、何全千回と考えてきた。

 だけど、そんな淡い幻想を抱くのはもうとっくに諦めたつもりだった。それなのに、ずっとあの子の顔が脳裏にこびり付いて離れなかった。

 君が運命だなんて、信じたくないよ。







※攻め視点

 俺は大人びたようでどこか儚い、そして俺に対して怯えているようにも見えたーー友達の母親だというオメガの後ろ姿を見つめていた。

 彼と目が合った瞬間、まるでガツン、と鈍器で頭を殴られたかのような強い衝撃がしたのを俺は忘れない。葵さん、きっとあなたは俺の運命だ。そして俺が身体に感じた衝撃もきっとあなたも感じていたはずだ。

 このとき、俺の中の全細胞が、”このオメガを決して逃がすな”と言っているようにも思えた。

「......なぁ、瑠夏の母さんと俺、運命の番かもしれない...」

「は!?いきなり何??母さんとお前が??まじで冗談もよしてくれよ...頭でも打った??」

 呆れたように瑠夏は言う。それもそうだ。年齢の差もあるし、ましてや友達が自分の母親に運命かも。なんて口にすれば普通は、冗談か冷やかしと思うだろうな。

 瑠夏は、中学の時からの俺の友人だ。まさか高校も同じところに進学するとは思っていなかったけど理由を聞けば「母さんが心配だから」の一点張りだった。

 どれだけマザコンなんだよ、このイケメン君は。なんて最初は軽く思っていたが、今はその理由が、いかに強い意志で決められたものなのか、痛いほど分かるような気がした。

 瑠夏は自分のお母さん、葵さんを守りたいんだ。それがたとえ恋愛感情でなくても、同じアルファならその気持ちが分かる。

 だとしても、俺は葵さんと仲良くなりたい。許されるのなら番にだってなりたい。それぐらい俺が本気だってことも瑠夏には分かって欲しいし、知って欲しいとさえ思っている。

「じゃあ、今日葵さんに聞いてみてくれよ!!俺と会ってなんか感じなかったかって!」

「あ~...今日は無理。てか、しばらく俺も母さんに会えなくなるから...」

 瑠夏は少し寂しそうな表情を浮かべる。瑠夏は俺と違って、感情をあまり外に出さないタイプなので、あからさまにこんな顔をするのは珍しい。

「なんで??」

「発情期に入るんだよこれから。だからその間は俺、母さんの実家に帰るんだ。」

「そう...なんだ」

 瑠夏の雰囲気から察して、たぶんだけど、この類の話題はあまり踏み込まれたくはないんだろうな。

「ま、でも母さんの体調が良くなったら聞いといてやるよ」

「あー......でもやっぱ無理に聞かなくてもいい!!」

「なんだよ、せっかく聞いてやるって言ってんのにさ」

 不貞腐れたようにぶすっとする瑠夏を横目に、俺は申し訳なさを感じつつ

「じゃあ瑠夏の気が向いたらでいいよ」

 と声を掛けるので精いっぱいだった。

 時折、瑠夏からも感じる今にも消えていなくなってしまいそうで、淡い幻想を見ているような感覚。それはきっと、葵さん譲りなんだろうなと思った。

 きっと俺には想像できないような、壮絶な過去が二人にはあるのだろう。いつかその話も聞けたらいいなと思う。

「でも、もしほんとうに蓮が母さんの運命だって言うなら...母さんの発情も辛くなくなるのかな......」

 ぼそっと瑠夏がなにか言ったのは聞こえたが、俺の耳の届くことは無かった。

「なんか言った??」

「いや別に。あのさ、今日の放課後ちょっと時間ある?」

「おう平気だけど、どうした??」

「俺にはどうにもできない問題で...でも、蓮になら、それができるかもしれないんだ」

 瑠夏は少し拳に力を込め、真っ直ぐに俺を捉える。いつかその話を、、がまさか今日聞けそうになるなんて。心の準備はできていないが、俺は小さく「うん、分かった」と頷く。

「じゃあ今日の放課後、俺のばあちゃん家に来て。話したいことがある。」

「わかった。じゃあHR終わったらすぐ帰ろう」

 俺は戦慄した。まさか葵さんの過去が俺の想像の遥か上をいくものだったなんて......どうか葵さん。俺にあなたを守らせてください。











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