独り身オメガに幸せを

蒸しケーキ

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目覚め

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 う、う~ん......。天井に見える光はただの蛍光灯のはずなのに、太陽を肉眼で見ているかのように眩しく感じた。

 身体も思うように動かせない。まるで一本の棒になったみたいだ。

「!?先生っ!!立花さん、起きました!!あれ......いない!?立花さん、ちょっと待っててくださいね!?」

 かすかに声が聞こえた。カプセル越しだから少しこもって聞こえたけど...。なんとなく言ってることは分かった。

「はい」と返そうとしたけれど、喉が張り付いて声が出せなかった。

 あれ...??てか何このカプセル.....。なんか怖いんだけど。

 まばたきを繰り返しながら頭の中の霧を少しずつ晴らしていく。

 そうだーー俺、瑠夏の目の前で倒れたんだった。そんで...えーっと、その後は...どうなったんだっけ?

 ......そういえば眠ってる間、たまに蓮君の声が聞こえた気がする。それとどこか花のような匂いもした。あれは夢だったのかな。

 あぁでも瑠夏大丈夫だったかな。受験はちゃんと受けれたかな。卒業式は...もう終わっちゃった?
 蓮君は......俺のことなんて忘れて、新しい誰かと仲良くしてたりするのかな。

 そんなことをぐるぐる考えていると「パシュッ」と音を立ててカプセルが開いた。中からは白い冷気のようなものが溢れ出てきていた。

「うわっ...なんだこれ、冷たっ」

 いつの間にか声が出せるようになっていた。驚いて思わず自分の喉に手を当てる。ーーどうやらもう普通に喋れるらしい。

 俺、今までこんな冷凍庫みたいなとこに入れられてたんだ。だんだんと思考が冴えてきてこれが例のコールドスリープなんだなと頭で理解した。

 ってことはもしかしてとんでもなく時間が経ってるってこと?今って何年、何月なんだ??まさかとは思うが、三十年とか経ってたりしないよな??

 重い身体をなんとか起こして周りを見渡す。病室自体は見覚えのある風景。特段変わったようには見えない.....。たぶんだけど。

 ただ、もしこれで高井先生が老けてたりしたら...うん。そういうことになるよな。

 ぼんやり考えているとぱたぱたと誰かが廊下を走る足音が聞こえ、次第に近付いてきた。

「立花さん!おはようございます。ご気分はいかがですか??」

 その声に顔を上げると、少し白髪の増えた高井先生がいた。でもそれ以外はほとんど変わっていなかった。

 ーーよかった。年月は過ぎても高井先生は高井先生のままだ。

「はい一応...変わりなく...です。」

「以前のような息苦しさや、肺の痛みなどはありますか??」

 そう聞かれて初めて気づく。そういえば息をするたびにあった、あのひゅーひゅー音もナイフで刺されたような鋭い胸の痛みもない。
 熱っぽさも、苦しさも......何も感じなかった。

「いいえ......ない、です。全然」

 俺の声は、驚きと戸惑いが入り混じっていた。コールドスリープで治るなんて、確か聞いてなかったはず。 じゃあ俺が眠っている間に、特効薬でも開発されたのだろうか?

「ひとまず安心しました。」

 高井先生が以前と変わらぬ、優しい表情で微笑む。

「今日の午後は診療を休診にして、立花さんにお話しする時間を取りました。長く眠っていた分、少しずつ思い出していきましょう」

 ......なんだか、申し訳ない。でも、その優しさがありがたかった。

「.....九年も寝てた.....!?ていうか、俺、まだ三十四歳なんですか!?」

 もう驚きの連続で、頭がついていかない。年齢のカウントってどうなってるんだ?えーっとつまり??身体が眠ってたから、九年分歳を取ってないってこと?

 ーーまぁうん。よく分かんないけど若返った的なイメージでいいのか。俺はこれ以上、深く考えることを放棄した。

「はい。立花さんの身体は九年前の状態のまま止まっていたんです。ですので入院時の年齢が三十四歳ですとーー年齢は変わらず、そのままということになりますね」

 そう説明されても、納得しきれない自分がいる。九年の時間は確かに経ってるのに、自分の肉体はあの頃のまま....。全くもって不思議な感じだ。

 あれーーってことは?瑠夏が今、もし大学に行ってるなら四年生? もしかしてもう卒業??専門学校に行ってたなら、もうすでに働いてる可能性だってある...。

「ですから、瑠夏君や蓮君との年齢差も少し縮まったということになりますね。」

 高井先生がさらりと言う。

 少し...ってーーその感じで考えると、蓮君と瑠夏って今年で二十四か二十五歳でしょ?まてまて。本来十八歳差だったはずなのに今は九歳差...??考えただけでも恐ろしい。もはや、軽くホラーだ。

「まぁそのあたりは追々詳しく説明していくとしてーー」

 高井先生は穏やかに言葉を継いだ。

「症状が落ち着いたとは言え、油断はできません。今は寛解かんかい状態にありますが、再発の可能性はゼロではありません......。立花さん。根本的な治療法について以前私がお話したことは覚えていますね?」

「...はい。完全に治すためには運命の番と番うっていうことですよね。」

「それもあります。」

 先生は小さく頷いた。

「ただ、私は立花さんの意志を最優先にすると治療を始めたときからお約束しました。...実を言うと、蓮君には立花さんが眠っている間、治療の協力をお願いしていました」

「治療に...蓮君がですか?」

「ええ。あくまでも立花さんの体調を維持するために、定期的にフェロモンを取り入れる形だけでしたがね。彼にはもしあなたが、番を持たないという考えを変えなかった場合でも、今後治療関係だけでも構わないとの了承も得ています」

 ......そうだったのか。眠っている間に感じたあの声もあの花のような香りも、俺が意識を無くす前に聞こえたあの声もーー勘違いじゃなかったんだ。

 九年もの間、蓮君は本当に俺のもとに来続けてくれていたんだ。

 それがたとえ治療のためだけだったとしても...そう考えたら胸の奥が熱くなった。

「コールドスリープから目が覚めて、今...お気持ちに変化はありましたか??」

 先生の問いに、少し息を呑む。ーー変わってない、なんて言えない。眠りに落ちる直前、意識が薄れていく中で俺は痛いほど気づかされた。俺は蓮君のことが好きだ。本気で、どうしようもなく。

 だからもう逃げたくない。後悔したくない。もし振られるならすぱっと振られて、また改めてこの病気と向き合えばいい。

 俺は覚悟を決めて答えを出した。











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