14 / 60
前を向いて02
しおりを挟む
「瑠夏!瑠夏!瑠夏瑠夏!!聞いてくれよ!!」
バタバタと玄関から、慌ただしくリビングへ駆け込む俺を見て、瑠夏は少し呆れたように眉を上げた。
「なに??そんな慌てて......なんかあった??」
「葵さんがさ!!症状ちょーっとだけらしいんだけど、良くなってきてるって!!」
「ほんとに?」
それを聞いた瑠夏の瞳がゆっくりと揺れ始めた。目に見えない感情が波紋のように広がっていった。
「......そっか 良かった。蓮も、ありがとな。母さんに輸血してくれて」
「いや、俺は全然いいって。好きでやってるんだしさ~」
「じゃあ、もう自分のことで気に病むことはないな。あの時のお前まじでやばかったからな。」
「その節はどーも。でも、もう平気だって」
うん。今思い返しても、あのときの俺の生活はひどかったと思う。葵さんは俺のせいで病気に罹ったと自分を責め続けて、まともに寝もしないでご飯も食べずにいた。
みるみるうちにどんどんやつれていって、終いには栄養失調で倒れたときがあった。
連絡がぱたりと来なくなったのを心配した瑠夏が家まで来て、部屋の中で倒れていた俺を見つけて病院まで連れていってくれたときがあった。
ーーもし瑠夏が来てくれなかったら、たぶん俺はそのまま死んでいたかもしれないな。
でも、あのときの俺は「自分が死ねば葵さんの為になるかも...」と本気で考えてしまっていたことも事実だった。
俺が何気なくそんなことを口にしたものだから、瑠夏は俺の胸倉を掴んできて
「お前が死んで...母さんのためになるって...それ本気で思ってんの?」
低く、重苦しい声で俺に言ってきた。瑠夏の言葉に思わず息を呑んだ。
そのとき、初めて瑠夏が本気でブチ切れてるのを見たんだよな。まさに鬼の形相で、正論しかかましてこないもんだから、反論の余地が無くてさ......。
本当に怖かった。正直、今でも思い出すだけで背筋が凍る。
ーーただ、それだけ俺のことを大事に想ってくれているのも同時に伝わった。ここまで俺が頑張ってこられたのは間違いなく瑠夏のおかげだった。
「今日も泊まってく?さっきばあちゃんが来てさ。いっぱいおかず持ってきてくれたんだよね。」
「おぉ、じゃあ今日もお世話になりますわ」
「おっけー。じゃあ布団、自分で出しといて」
そんなふうに過ごす日々が続いてーーとうとう俺たちは卒業を迎えた。
葵さんが目を覚ますことはなかったけれど、それでもフェロモン値が少しずつ安定してきているとのことで、確かな回復の兆しが見えてきた。
このまま順調にいけば、十年以内にはコールドスリープを解除できる状態になるそうだ。
そうすれば、また葵さんと会える。きっとまた笑って話せる日が来る。そんな日常が戻ってくればいいなと心の底から願った。
進学先も俺たち二人は無事に決まった。大学と学部は同じ医学部だけど学科は別で、瑠夏はそこから子どもたちと関われるように、と学校で働くカウンセラーを目指している。ちなみに俺は高井先生のような医者になるのが目標だ。
「あーあ、葵さんに見せたかったなぁ~」
「まぁまぁ、写真撮ったんだし。母さんが起きたときにこれ見せてあげようよ」
瑠夏とそんな話をしていると後ろから見知った声が聞こえてきた。
「瑠夏君、蓮、卒業おめでとう」
「あぁ、杏ちゃんだよね?ありがとう。杏ちゃんも卒業おめでとう」
「ふふ ありがとう瑠夏君。」
瑠夏と杏が話しているのを横目に、俺は杏がただ話をしにきただけじゃないことに気づいていた。
「蓮、近いうちにあんたの両親がこっちに帰ってくるみたいよ。パパがそう言ってたわ。」
「りょーかい......杏、ありがとな」
「いいのよ。でもいつかは直接話さないとダメだったと思うし、いい機会なんじゃない?あとは蓮の頑張り次第だけど。また何かあったら協力するわ。.......じゃあね瑠夏君。またどこかで」
杏が笑顔で手を振ると、瑠夏も笑いながら「またね」と手を振り返していた。
「ねぇ、さっきの蓮の親が帰ってくるって話って.....この前蓮が話してくれたことだよね?」
「うんそう、それそれ.......」
俺の親は、海外に拠点を置く企業の代表取締役をしている。その関係で基本的に日本にはいないのだが、たまにこうして突然帰ってくることがある。
杏がそれを知ってるのは、彼女の父親がうちの親父の秘書をしてるからだ。
親父のスケジュール管理はすべてその人がやってくれているから、いつ帰国するのかも、間接的に杏から教えてもらっていた。
はぁ。どうせ帰ってきたら、婚約者がどうのこうの、俺の後を継げだのうるさいんだろうな。
母さんはまだ話が通じるけど、問題は親父の方だ。昔から反りが合わない。たぶん、俺が一人っ子なのも関係してる。親父はなにかにつけて俺を後継ぎとして扱ってくる。
大学の進学先だって、電話越しに「お前は将来、俺の会社を継ぐのだから経営学を学べ」だの「海外の大学にした方がお前のためだ」とか言われて、本当にうんざりした。さすがに俺も我慢の限界で、少し口論になったけど。
やっと葵さんのことで前を向けるようになったばかりなのに。なんで、こんなときに余計なやつが戻ってくるんだよ。チッと無意識に舌打ちしていた。
でも、杏の言う通りだ。帰ってくるなら、ちゃんと話すいい機会なのかもしれない。俺の人生は、俺のものだ。葵さんと歩む未来を、誰にも潰させたりなんかしない。
「ーー葵さん。早く声が聞きたいよ。」
バタバタと玄関から、慌ただしくリビングへ駆け込む俺を見て、瑠夏は少し呆れたように眉を上げた。
「なに??そんな慌てて......なんかあった??」
「葵さんがさ!!症状ちょーっとだけらしいんだけど、良くなってきてるって!!」
「ほんとに?」
それを聞いた瑠夏の瞳がゆっくりと揺れ始めた。目に見えない感情が波紋のように広がっていった。
「......そっか 良かった。蓮も、ありがとな。母さんに輸血してくれて」
「いや、俺は全然いいって。好きでやってるんだしさ~」
「じゃあ、もう自分のことで気に病むことはないな。あの時のお前まじでやばかったからな。」
「その節はどーも。でも、もう平気だって」
うん。今思い返しても、あのときの俺の生活はひどかったと思う。葵さんは俺のせいで病気に罹ったと自分を責め続けて、まともに寝もしないでご飯も食べずにいた。
みるみるうちにどんどんやつれていって、終いには栄養失調で倒れたときがあった。
連絡がぱたりと来なくなったのを心配した瑠夏が家まで来て、部屋の中で倒れていた俺を見つけて病院まで連れていってくれたときがあった。
ーーもし瑠夏が来てくれなかったら、たぶん俺はそのまま死んでいたかもしれないな。
でも、あのときの俺は「自分が死ねば葵さんの為になるかも...」と本気で考えてしまっていたことも事実だった。
俺が何気なくそんなことを口にしたものだから、瑠夏は俺の胸倉を掴んできて
「お前が死んで...母さんのためになるって...それ本気で思ってんの?」
低く、重苦しい声で俺に言ってきた。瑠夏の言葉に思わず息を呑んだ。
そのとき、初めて瑠夏が本気でブチ切れてるのを見たんだよな。まさに鬼の形相で、正論しかかましてこないもんだから、反論の余地が無くてさ......。
本当に怖かった。正直、今でも思い出すだけで背筋が凍る。
ーーただ、それだけ俺のことを大事に想ってくれているのも同時に伝わった。ここまで俺が頑張ってこられたのは間違いなく瑠夏のおかげだった。
「今日も泊まってく?さっきばあちゃんが来てさ。いっぱいおかず持ってきてくれたんだよね。」
「おぉ、じゃあ今日もお世話になりますわ」
「おっけー。じゃあ布団、自分で出しといて」
そんなふうに過ごす日々が続いてーーとうとう俺たちは卒業を迎えた。
葵さんが目を覚ますことはなかったけれど、それでもフェロモン値が少しずつ安定してきているとのことで、確かな回復の兆しが見えてきた。
このまま順調にいけば、十年以内にはコールドスリープを解除できる状態になるそうだ。
そうすれば、また葵さんと会える。きっとまた笑って話せる日が来る。そんな日常が戻ってくればいいなと心の底から願った。
進学先も俺たち二人は無事に決まった。大学と学部は同じ医学部だけど学科は別で、瑠夏はそこから子どもたちと関われるように、と学校で働くカウンセラーを目指している。ちなみに俺は高井先生のような医者になるのが目標だ。
「あーあ、葵さんに見せたかったなぁ~」
「まぁまぁ、写真撮ったんだし。母さんが起きたときにこれ見せてあげようよ」
瑠夏とそんな話をしていると後ろから見知った声が聞こえてきた。
「瑠夏君、蓮、卒業おめでとう」
「あぁ、杏ちゃんだよね?ありがとう。杏ちゃんも卒業おめでとう」
「ふふ ありがとう瑠夏君。」
瑠夏と杏が話しているのを横目に、俺は杏がただ話をしにきただけじゃないことに気づいていた。
「蓮、近いうちにあんたの両親がこっちに帰ってくるみたいよ。パパがそう言ってたわ。」
「りょーかい......杏、ありがとな」
「いいのよ。でもいつかは直接話さないとダメだったと思うし、いい機会なんじゃない?あとは蓮の頑張り次第だけど。また何かあったら協力するわ。.......じゃあね瑠夏君。またどこかで」
杏が笑顔で手を振ると、瑠夏も笑いながら「またね」と手を振り返していた。
「ねぇ、さっきの蓮の親が帰ってくるって話って.....この前蓮が話してくれたことだよね?」
「うんそう、それそれ.......」
俺の親は、海外に拠点を置く企業の代表取締役をしている。その関係で基本的に日本にはいないのだが、たまにこうして突然帰ってくることがある。
杏がそれを知ってるのは、彼女の父親がうちの親父の秘書をしてるからだ。
親父のスケジュール管理はすべてその人がやってくれているから、いつ帰国するのかも、間接的に杏から教えてもらっていた。
はぁ。どうせ帰ってきたら、婚約者がどうのこうの、俺の後を継げだのうるさいんだろうな。
母さんはまだ話が通じるけど、問題は親父の方だ。昔から反りが合わない。たぶん、俺が一人っ子なのも関係してる。親父はなにかにつけて俺を後継ぎとして扱ってくる。
大学の進学先だって、電話越しに「お前は将来、俺の会社を継ぐのだから経営学を学べ」だの「海外の大学にした方がお前のためだ」とか言われて、本当にうんざりした。さすがに俺も我慢の限界で、少し口論になったけど。
やっと葵さんのことで前を向けるようになったばかりなのに。なんで、こんなときに余計なやつが戻ってくるんだよ。チッと無意識に舌打ちしていた。
でも、杏の言う通りだ。帰ってくるなら、ちゃんと話すいい機会なのかもしれない。俺の人生は、俺のものだ。葵さんと歩む未来を、誰にも潰させたりなんかしない。
「ーー葵さん。早く声が聞きたいよ。」
201
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる