独り身オメガに幸せを

蒸しケーキ

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蓮君の苦心

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 俺の疑似発情期?が来て二日が経過した頃、高井先生に言われた通りに俺たちは病院へやってきた。

 高井先生は俺の項の噛み痕を見るなり、「これは......また、情熱的なものをつけられましたね。」と苦笑していた。
 
 えぇ...俺もそう思いますとも。だから先生に見せるのを少し躊躇ってしまった。まぁそこのところは先生も...うん。理解してくれていると信じている。

 そして蓮君と番契約に至ってるか診断してもらったところ

「...そうですね。これはまだ、番契約にはなっていないようですね...。」

 高井先生は眉を下げて申し訳なさそうに俺たちに告げた。やはりあの発情期は不完全なものだったらしく、結果として番契約には至っていなかったようだった。

 蓮君は落ち着いて話を聞いているように見えたけれど、内心きっと落ち込んでるだろうな。俺も番になれてると思ってたんだけどね...。そう思いながら肩を落とした。やっぱり現実は、そううまくいかないらしい。

「番関係になっていなくても、蓮君も立花さんもそんなに落ち込まなくて大丈夫ですからね。今回の疑似的な発情期を通して、確実に立花さんのオメガとしての機能も回復したはずです。喘鳴症の症状も見られていませんからね。」

「現に、体重も血液検査の結果もすべて基準値の範囲内ですから。次の発情期は今回より本格的なものになるでしょうね。」

「...そうですか。でも次の発情期って三か月周期で来るもんなんですか??」

 高井先生は顎に手を添えながら、言葉を選ぶようにして考えていた。

「一般的にはそうなりますが、立花さんの場合は分かりかねますね...。なにせ個人差が激しいものですから、一概には言えないのが正直なところです。ですので普段よりも体調の変化には気は配ってほしいです。少しでも気になる点があればすぐに受診してくださいね。いつでもお待ちしておりますので。」

 高井先生は蓮君の方に目線を配りながら伝えていた。蓮君はそれに対して静かに深く頷いていた。俺としても、蓮君がいれば安心だし平気かな。

 病院を出て、家に帰るなり蓮君から珍しく真剣な謝罪を受けた。

「ごめん!!ごめん葵さん!!まさかあんなに噛んでも番になってなかったなんて......。」

「大丈夫、仕方ないよ。それに先生も言ってたでしょ?次の発情期は本格的なものになる~って。」

 そう。あの日、蓮君は俺のことを噛みに噛みまくった。項に噛みつくだけでは飽き足らず、俺の太ももや腕、更には胸までにも噛み痕をつけてくるほどだった。それはもう噛み癖のへきでもあるんじゃないかと疑うほどに。

 二日経った今でもその痕はくっきりと残っている。それでも、この印が俺が蓮君の物だと一目で分かる証になっているみたいで、不思議と悪い気はしなかった。

「はぁ~残念だな~。あ、でもまた葵さんとエッチできるって考えたら別にいいか!!」

 ーーもう少し落ち込んでるかなと思って、励まそうと考えていた俺の時間を返してくれ...なんて楽観的なんだ...。

 まぁそこも蓮君のいいところなんだけどさ。とため息交じりに苦笑いを浮かべた。

 そんなとき、蓮君のスマホが鳴った。電話だろうか??

「蓮君、電話?きてるみたいだよ。」

「あぁ、葵さん。ありがとう」

 蓮君にスマホを渡すと、着信元の名前を確認した途端に蓮君の表情が曇り、そのまま電話に出ることはなかった。蓮君が電話に出ないってことは、友達とかではなさそうだし、もしかして家族の誰かとか...かな?

「...蓮君??出なくてよかったの??」

「いいんです。別に...。大した用じゃないですから。」

「本当に?それって俺には言えないこと?」

「言えなくはないですけど...ただ...」

 蓮君は言葉を選ぶようにして視線を下に落としたまま、だんまりしてしまった。やっぱ困らせちゃったか。うーん、ここは俺が聞いていく方が早そうだな。

「もしかして親御さんとか??」

 蓮君は目を丸くして、「なんで分かったの?」と言ってるような表情をしていた。

「やっぱり、葵さんには分かりますか...」

「そりゃね。だって蓮君から親御さんの話って滅多に聞かないからさ。電話に出ないってことはあんまり関係性がよくない人からなのかなーって。」

 俺は蓮君の隣に腰掛け、蓮君の手を軽くきゅっと握った。

「別に言いたくなかったらいいけど...でもやっぱり知らないのはちょっと寂しいな。」

「言い方がずるいです。」

「ふふ、ずるくしてるんです。」

「あーあ、葵さんには敵わないな。」

 ぽつりと小さく呟くと、握られていた手に僅かに力が籠った。

 ーー蓮君と親御さんの関係性は分からない。せめて、この手から”何があっても大丈夫だよ”って気持ちが少しでも伝わればいいなと思った。











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