独り身オメガに幸せを

蒸しケーキ

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番外編

温かな家族

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 それから三か月が経った頃、葵が「気持ち悪い」と言って吐いてしまうことが増えた。それに以前は大好きだった柑橘系がダメになってしまったようで、今はジャンクフードを好んで食べるようになっていた。

 ーー「これってまさか......」胸の鼓動が早くなるのを感じながら、俺は葵を抱えて急いで病院に連れて行った。

「おめでとうございます。ご懐妊です。」

 検査の結果は俺の予想通りで葵は妊娠していた。妊娠の知らせを聞いたときは嬉しすぎて涙が出そうだった。

 やっぱり吐き気はホルモンのバランスが乱れている影響からきているものだった。

 男性オメガは妊娠しても、お腹があまり膨らまないらしい。だから妊娠に気が付くのが女性と比べて遅くなってしまうのだ。

「本当に妊娠してたなんて、正直びっくりだよ。」

「でも、あんだけ抱いたらそりゃ妊娠もするよ。」

「それもそうだね......蓮の執念かも。」

 ”執念”なんて言われて、思わず顔が少し熱くなった。

「仕事もしていいらしけど、抑えめでやってよ?家事とかは基本俺がやるから、無理だけはしないでね。」

「うん、分かってる。俺もちょっとは運動しないとだし、蓮もあんま張り切りすぎないでよ。」
 
 葵は妊娠期間中、安定期に入るまで食べづわりが酷かった。常に何か食べていないと落ち着かない様子で、空腹になると、酷く吐き気が押し寄せてくるようで、見ていて俺まで胸がぎゅっと苦しくなった。

 俺はその間、なんとか葵の辛さが無くなるようにと、食べたいものが家に無かったら急いでコンビニやスーパーに飛んで行った。

 特に夜中の二時に「蓮~、揚げたてのポテトが食べたい。」と言われたときは、どうしようかと頭を悩ませたのもいい思い出だ。今でもその名残りで冷凍庫の中にはフライドポテトが必ず一袋はストックしてあった。

 そして、とうとう出産のときを迎えた。

 本当は葵と一緒に分娩室に入るつもりだったが

「蓮は絶対来ないで!顔見られたくないから!!」

 と必死に懇願されたので渋々頷いた。本当は一緒に入って手を握ったり、声をかけたりしながら葵の傍にいる予定だったんだけどな......。俺は分娩室の前でただ葵とお腹の子が無事に生まれてきますように、と祈ることしかできなかった。

「葵......頑張れ。」

 葵が分娩室に入ってから実に十時間後、中からは元気な赤ちゃんの産声が聞こえた。気付けば頬に自然と涙が伝っていた。

「良かった......。本当に良かった......。」

***

 病室に入ると淡い陽の光が差し込んでいた。ベッドの上では葵が柔らかく微笑みながら、腕の中の赤ちゃんを見つめていた。

「あぁ!蓮、見て。元気な男の子だって。」

 知識でどう抱っこしたらいいかは頭の中では理解しているつもりだった。だけど、実際に赤ちゃんを目の前にしたら訳もわからず、てんやわんやしてしまった。

「ふふ、首を支えてあげるんだよ。」

「やっぱり、葵は慣れてるね。」

「かなり前とはいえ、瑠夏を育ててますから。」

 産後なのにも関わらず、葵はいつになくけろっとしていた。その姿は本当に十時間も格闘してたんだよな?とつい疑ってしまいたくなるほどだった。

 赤ちゃんも三千五百グラムと元気に生まれ、葵も特にこれといった後遺症もなく、無事に出産を終えてようやく安心できた。

 母は強しーー葵のその姿を見ると、どうしようもなく胸が熱くなった。

「この子、蓮にそっくりだよね。」

「そう?俺は葵似だと思うけど」

「じゃあ、どっちもだね。」

 二人の間に和やかな時間が流れた。この子の成長が今から楽しみだ。

 その後、瑠夏も赤ちゃんに会いに来てくれた。

「俺がこの子のお兄ちゃん......なのか。」

 瑠夏は赤ちゃんを見下ろしながら、難しい顔をしたあとぽつりと呟いた。

「でも、叔父さんよりかはマシか。」

 そう言って笑ったその顔は、どこか照れているようにも見えた。

 季節は一つ巡り、俺は育休から職場に復帰した。葵も少しずつデザイナーの仕事を再開し、我が家には再び穏やかな日常が戻りつつあった。

「はぁ~。今日の業務、早く終わらないかな。」

 家に帰って葵と玲音れおんの顔を見たい。

「蓮君はいつもそんなことを考えていますね。まだもう少し、休暇を取っていてもよかったのですがね。」

「俺もそうしたかったんですけど、葵......番に仕事を全うしろと言われてしまいまして。」

「あぁ。美園さんが言いそうなことですね......。」

「はい、本当に強い人ですよ。うちの番は。」

「さて、そんな蓮君に朗報ですよ。今日はもう落ち着いているのでカルテの作成ができたら今日はもう上がって大丈夫ですよ。あとは、私がやっておきますので。」

「ありがとうございます!じゃあもうできてるので、お疲れ様です!!!」

「......相変わらず早いですね。」

 高井先生の「ふふっ、」と笑う声を背に、俺は急いで家に帰った。できれば、玲音が起きてる時間帯に帰りたいから、一分一秒が惜しい。

 人混みを器用に掻き分けていき、毎回一人でタイムトライアルをしているような気分だった。

「ただいま!」

 玄関を勢いよく開けた。

「蓮!!お帰り!玲音!パパ帰ってきたよ。」

 台所の方から葵の声がして行ってみると、抱っこ紐の中で葵の腕に抱かれた玲音が、ぱちぱちと手を叩いていた。

 あぁ、もう本当に可愛すぎる。俺は幸せを噛み締めながら葵と玲音にキスをした。
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