独り身オメガに幸せを

蒸しケーキ

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番外編

瑠夏の恋02

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 半年間の謹慎が明けて学校に復帰すると、意外にも周りの反応は温かかった。

「瑠夏君大丈夫だった!?」
「立花~!お前先輩のこと殴って停学とかマジ??」
「いつもクールなくせにやるときはやる男なんだな!見直したぜ。」
「一緒に卒業できないのは残念だけど、困ったことがあったら言ってね!?」
「お前!!留年なんかしてんなよ!!寂しいじゃんか~。」

 そんな声を次々とかけられ、正直拍子抜けした。みんなもっと距離を置いてくるものだと思っていたんだけどな。

 お昼の時間に蓮と合流して話を聞くと、やっぱり蓮も同じような感じだったらしく、ふたりして胸を撫で下ろした。

 蓮がいるから一人でも大丈夫なんて思っていたけど、常に一緒にいれるわけじゃないから、こうやって今まで通りに接してくれたみんなには本当に感謝している。

 聞いた話によると、あの先輩たち三人組は、もともと素行がかなり悪かったらしく、先生たちから目をつけられていたらしい。そして俺たちが謹慎している間にいろいろと調査が入った結果、これまでに行ってきたオメガに対する誹謗中傷や性行為の強要、違法ドラッグの売買まで様々な悪態が明らかになったそうだ。

 叩けば叩くほど真っ黒な埃がどんどん出てきて......最終的には警察沙汰になってそのまま退学処分となったらしい。

 ......まぁ俺の知ったこっちゃない。自業自得だ。そういうやつらがきっちり制裁を受けてよかった。もう社会的復帰も現実的に厳しいだろうし、一生地獄の中で生きていけばいい。そう思った。

「とりあえず、俺も瑠夏もよかったよな。」

「だね、ほんとそれしか言えないや。」

「じゃあ俺、次の講義あるから先行くわ。今日バイト終わったら瑠夏の家行くから鍵開けといて~。」

「おっけ。じゃあまたあとで。」

 お昼の時間が終わり、俺も次の講義へ向かおうとしていた。その途中、偶然出海君を見かけた。こちらへ向かって歩いてきていることには気づいていたが、声はかけずにそのまま通り過ぎようとした。

 ここはお互い知らないふりをするのが一番だろう。そう思っていたのにーー

 すれ違った瞬間、いきなり腕をガッと掴まれた。

「あの......き、君......だ、大丈夫だったの?その......俺のせいで。」

 ”助けてなんか頼んでない”ーーそう言っていたのに、やっぱり心のどこかでは気がかりだったんだろうな。別に気にしなくてもいいのに。......この子、きっと根は優しいんだろうな。

「全然平気だよ。むしろ変に首突っ込んじゃってごめんね。余計ややこしくしちゃったよね。」

「いや.......全然そんなことない。でも、なんで俺のこと助けたの?君にメリットなんてないはずでしょ。」

 ネコのように茶色がかった瞳がまっすぐに俺を見つめてくる。その目は答えを逃がさないと言わんばかりだった。

 ーーあぁ、俺、出海君のこの視線......ちょっと苦手かも。

「なんでって.......ただの自己満足だよ。」

「......自己満足。」

 出海君がぽつりと呟いた。その顔はまるで「信じられない」とでも言っているような表情だった。

「そう。だから、"出海君"が気にすることないよ。」

 名前を呼んだ瞬間、どこか清涼感のある香りがふわりと鼻に抜けた。なんだろうこの香り...。懐かしいというより...どこか落ち着くような...?

「......俺の名前、知ってたんだ」

「あぁうん、こんなこと言うのはあれだけど、かっこいいオメガの子がいるって大学で噂になってるからね。名前、知らない人の方が少ないんじゃないかな。」

 出海君はじっと俺のことを見ていた。その視線は俺の心の奥底を覗き込もうとしているようだった。なんとなく嫌な感じがして

 ーー背中に冷や汗が伝った。

 いつもなら、相手が何を考えているか、何を望んでいるのかなんとなく分かるはずなのに。......出海君だけは何を考えているのかまったく読めなかった。

 そのとき、同じ学科の友達が声をかけてきた。

「お!瑠夏!こんなとこで何してんだよ!早く教室行かねぇと間に合わねぇぞ!留年生同士、仲良く頑張ろうなっ」

「留年生同士は余計だっての......。すぐ行くよ。」

「おう!遅刻すんなよ~!次、鈴木の講義だからな~。」

 うわぁ、鈴木かよ......。鈴木の講義は五分前に席に付いていないと怒られるし、たとえ電車や交通機関がいかなる理由で遅延しようと一分でも教室に入るのが遅れたら即遅刻扱いになるんだよな。しかもこれが必修の科目なんだから、何度担当教授を変えてくれと願ったことか。

「......名前、瑠夏って言うんだ。」

 出海君は誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。その声は周囲の談笑している学生の声に混じって消えていった。

「ごめん、俺もう行かなきゃ。じゃあね......またどこかで。」

 そう言ってこの日は出海君と分かれた。振り返らなかったけれど、背中にはまだあの清涼感のある香りがかすかに残っていた。
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