死ぬことが確約されている悪役令息ですが、推しの闇落ち回避のために頑張ります

蒸しケーキ

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16.

「入るぞ。」

 扉を開けて入ってきたのはカリムだった。だが、なぜか学園の制服を着ている。

(あれ?狩猟大会の次の日は休みじゃなかったっけ......?)

「あぁ、やっと起きたか。お前、あれから三日も寝てたんだぞ......」

「えっ!? み、三日も!?」

「はぁ......。その様子だとエルザからなんにも聞かされてなかったみたいだな。あいつ、また伝え忘れてんのか。お前が寝てる間に、アルトも見舞いにきてたぞ。」

 カリムはため息をつき、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。アルトまで来てくれたのか......。なんだか実感が湧かない。

 そういえばーー

「あの、カリム様。狩猟大会の優勝者は誰になったんですか?」

「優勝者か? 今年は無しだ。ブラックウルフが安全区域に出現するなんて前代未聞だったからな。」

 まぁ、それもそうか。ブラックウルフの素材の行方は分からないけど、死人が出なかっただけ御の字か。

「それで、お前が会いたいと言うから来てやったが、なんの用だ?」

 あ、そこはちゃんと伝わってるんだ。

「その......もうだいぶ良くなったので、家に帰ろうかとーー」

「ダメだ。大人しくしてろ。」

 言い切る前に一蹴されてしまった。そこまで食い気味に言わなくてもいいだろ......。

 ぶすっとむくれていると、カリムは微かに笑みを浮かべた。

「そんなに帰らなきゃいけない理由でもあるのか?」

「はい。城下街で働いていて、お世話になっている人に何も伝えていないので。」

「ふむ......そうか。なら場所を教えろ。しばらく休むと伝えておいてやる。」

 そんな強引なことを......。と頭を抱えそうになる。それに、断れる空気でもないしな、と言葉を飲み込む。するとカリムは小さく息を吐いた。

「......分かった。家には帰してやる。」

 俺が言葉を発する前に、カリムは被せて言った。

「ただし、条件がある」

 にやり、と八重歯を覗かせて笑う。

(絶対、ろくでもないやつじゃないか?俺にできることならいいけど......。)

「俺の好きなところを、一日一回言え。それで手を打とう。」

「......は?」

「異論は認めん。あと最低でも一週間はここにいろ。”もう治った”なんて嘘は通用しないからな。」

 じゃあな、と軽く手を振ると、カリムは部屋を出て行った。

「俺の......好きなとこ??」

 ーー狩猟大会のあと、なぜか推しとの奇妙な関係が始まろうとしています。

***

 狩猟大会の後、なぜかカリムの愛を叫ぶことになった俺。いやそれ自体に不満はない。むしろ推しだから、何を言うか困ることも一切ない。問題はーーカリムが、学校で会うたびにそれを要求してくることだ。

 しかも場所を選ばない。

「ゼノ。今日の俺はどこがいいんだ?」
「どこがかっこいい?」
「兄上と俺、どっちが好きなんだっけな?」

 ——やめろ。せめて場所を選べ。

 周囲の視線が痛い。めちゃくちゃ痛い。けれどなぜか、俺は素直に答えてしまう。

 そして俺が言い終えると、カリムは満足したように——

 弁当を渡してくる。しかもこれもほぼ毎日。

(いや、報酬制なのかよ......)

 とはいえ食費は浮くし、何より普通に美味い。ありがたいことには違いなかった。

 それにしても不思議だ。あれだけ探しても会えなかったのに、今は嘘みたいに何度も顔を合わせる。

(これ、もしかして仕組まれてる......?)

 そんな疑念が浮かびつつも、今日の俺は少し浮かれていた。狩猟大会が明けて、初めてのバイトの日だからだ。

(迷惑かけちゃったし、今日はしっかり働かないとな)

 授業が終わると、俺はすぐに城下町へ向かった。

 ちなみに馬車はまだ直っていない。だが、今ではこの道を歩くのにもすっかり慣れてしまった。

 酒場の前に立ち、一拍置いてから扉を開ける。

「いらっしゃ——......ゼノちゃん!?」

 クロラさんは俺の姿を見るなり、勢いよく駆け寄ってきて、そのままぎゅっと抱きしめた。

「ゼノちゃん! あんた大丈夫だったのかい!? 全然連絡がないから心配したんだよ!」

「すみません。本当にご心配おかけしました」

「いいんだよ。無事ならそれでさ」

「はっ、てっきり野垂れ死んだかと思ったぜ」

「何言ってんだい!あんたが一番心配してたくせに!」

「うるせぇ! ......ゼノ! 今日はしこたま酒を持ってこい!」

「ふふ、飲みすぎないでくださいね」

 ——変わらない空気。それが、やけに胸に沁みた。

「ゼノちゃん、今日は泊まっていかないんだろう? ならこれを持ってお帰り。食材が余っちゃってね。よかったら食べておくれ。」

 クロラさんが、ベーコンの燻製や野菜、果物をどっさり持たせてくれる。

「こんなにたくさん......ありがとうございます」

「いいのよ。また明日ね」

「はい! また明日!」

 仕事を終え、店の外に出ると夜風が心地よかった。そうして店を後にした、そのときだった。

「——ゼノ君?」

 呼び止められて振り返る。

「ゼノ君、だよね!?」

 そこにいたのは、アルトだった。

(え......?アルトって、こんな風に話しかけてくるタイプだっけ......?)

 妙な違和感を感じつつも、俺はアルトに話しかけた。

「ア、アルト。どうしてこんな時間に?」

「それ、僕も同じこと思ったよ。あ、ちなみに僕はあそこで働いてるんだ」

 指さした先には、別の店。うん。やっぱそうだよね。知ってました。

「ゼノ君もこの辺りで働いてるの?」

「ま、まぁ。そこの酒場で」

「......ふーん、そっか。」

 アルトは視線を落とした。何かを測るような、そんな間。

(......なんだ?)

「あ、そういえば怪我の具合はどう? 一応、お見舞いには行ったんだけど、ゼノ君寝てたから。」

「カ、カリム様から聞いたよ。見舞いにきてくれたそうだね。そんなことしなくてもよかったのに。」

 俺がそう言うと、アルトは照れ臭そうに頬をポリポリと掻きながら「全然!」と照れたように微笑んでいた。
 厭味ったらしく言ったつもりが、アルトには届いていないらしかった。

 あざとさの中に可愛さもあり、この笑顔を向けられたら、誰でも恋に落ちてしまうのも仕方ないなと納得させられてしまった。

「それにしても、あのときのカリム様すごくかっこよかったんだよ!」

「崖が崩れた後、すぐにゼノ君のところに向かって、崖の上から飛んでいってさ、あのあとすぐに僕も追おうとしたんだけど、天候も足場も悪くなってるからって、止められちゃって。僕、二人が死んじゃうんじゃないかと思って、ずっと心配してたんだ。でも、次の日の朝、カリム様がゼノ君をお姫様抱っこして、戻ってきたときは、本当に胸がキュンキュ......こほんっ、安心したよ。」

「へ、へぇ。そ、そんなことが。」

 アルトは興奮したように、息継ぎする暇もなく話し続けていた。

 アルトってこんな目をするキャラだったっけ。

(しかも今、キュンキュンしたって言いかけたよな?)

 ていうか俺、カリムにお姫様抱っこなんてされていたのか。しかもそれを晒されたって......。恥ずかしすぎる。俺がそんなことを思っていると、アルトは改まった様子で俺に訪ねてきた。

「ねぇ、ゼノ君。一つ、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 一瞬だけ、空気が変わった。さっきまでの柔らかさが消え、ぴりっとした緊張感のある空気が流れた。

 ーーなんか、嫌な感じがする。

 アルトは、何か知っている?
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