死ぬことが確約されている悪役令息ですが、推しの闇落ち回避のために頑張ります

蒸しケーキ

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「......え?」

 俺は驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。しかも今、”君も”って言った?

「そうだよね......うん。やっぱりストレートに聞きすぎたかな。」

 口元に手を添えながら、アルトは考え込んでしまった。

「ア、アルトも......転生、してきたのか?」

「うん。そうだよ。僕もこの世界に転生してきたんだ。君と同じようにね。」

「俺、なんかバレるような、変な行動とかしてたかな」

「おかしいなと思ったのは、三年生になってからかな。進級してからすぐのタイミングで、君と会ったことがあるんだけど、そのときの様子が今までとまるで違っててさ。いきなりキャラが変わったから、もしかしてって思ってね。」

「キャラ? あぁまぁ、それはなんとなく自覚はある。けど、それ以外で勘付かれるようなことなんかしたか?」

「階段から君が落ちてきたとき、手を差し伸べたのは僕だったのに、何もしてこなかったから。それでね。いつものゼノなら、僕の顔を見たらすぐに苦虫を噛み潰したような顔をして、去っていくはずだから」

 少しずつアルトと話しているうちに、状況が飲み込めてきた。アルトに転生してきた子の名前は、永代新ながしろあらたくんというらしい。どうやら高校三年生のときにこの世界に来てしまったらしい。

 高校三年生って、青春真っ只中じゃないか......。新君が気の毒に思えてくる。

 けれど、新君は意外にもあっけらかんとしていた。思ってたよりもこの世界が馴染んでいるらしいが、適応力が凄まじいなと思う。

 それからアルトと、元いた世界の話をした。俺はカリムが推しだとか、新くんはカイラスのこういうところが好きなんだよね、とか、そういう他愛もない会話だったけど、俺は嬉しかった。

 ただ、この世界にいる以上、人前で転生前の名前を呼ぶと色々ややこしくなりそうだったから、二人きりのときだけ名前で呼び合うことにした。

「そっかぁ。太陽君って言うんだ。でもよかった。ゼノも転生者なら、僕がアルトを演じる必要もないもんね。ちょっと肩の力が抜けたよ。」

「それにしてもあらたってなんでそんなに知識が豊富なんだ? それにゼノルート? とか、そんなのあったっけ?」

「え? ゼノルート知らないの? ......ってことは、”あれ”が出る前にこの世界に来ちゃったの!?」

「あれ? ってなんのこと?」

「追加のダウンロードコンテンツが出たことだよ! やっぱ、知らないんだ......」

 そう言うと、まるで絶望したような表情を浮かべていた。

「え? そんなのが出たのか。記憶がないな。そもそも俺、バージョン更新とかあんまりしてなかったし、どうやってこの世界に来たのかも曖昧だからなぁ。」

「どうやってこの世界に来たのか曖昧なのは、僕も同じだよ。時間軸がバラバラなのも、それが原因かもね。でも、少なくとも僕が言えることは、『愛しの相手はお好みで』に太陽君の知らない追加コンテンツがあるってことかな。」

「だからね。カリムとゼノが結ばれるエンドがあっても、なにもおかしくはないんだよ。」

「そうだったのか。まさかゼノエンドが追加されるなんて信じられねぇ。」

「それは最初、僕も同じことを思ったよ。でも意外と、ゼノエンドも当時は人気だったよ。」

 そうだったのか。確かに俺もゼノエンドがあればな、とは思っていたから新しいルートができているのは、嬉しいことだ。

 今は、遊べないけど。

「あ、そうだ。俺、夢でゼノに会ったりしてたんだ。新も夢でアルトがでてきたりしてたか?」

「僕? う~ん、夢に出てきたりとかはなかったかな。全部、自分のもてる知識で生活してたよ。夢って具体的にどんなの見てたの?」

「ゼノがちょくちょく、これから起こることを予見してくれる、みたいな夢でさ。途中、『殺すのを手伝ってやる』とかそういう感じのアルトの声も聞こえたんだよ。」

「変な夢か。僕が言った覚えはないけど......可能性があるなら、僕が転生する前のアルトとゼノの会話だと思う。というより、原作のアルト......といったほうが正確かも。」

 転生する前のアルトとゼノの会話か。確かに、新がもし転生してきていたら、ゼノが死ぬことを肯定なんてするはずないもんな。

「さっき言ったよね? ダウンロードコンテンツが追加されて、新しくゼノエンドが追加されたってこと。」

 俺は小さく頷いた。

「僕も詳しいことはもう忘れちゃったけど、ゼノエンドのときは、僕たちプレイヤーがゼノを操作することになるんだ。そしてそのとき、アルトは立場上悪役で......くわえて、カフス家の人間に操られているっていう設定だったと思う。」

「まじか。そんな世界戦も存在したんだな。」

「そうそう。でも今の太陽君の話を聞いた限り、それはゼノの記憶で間違いないと思う。それを見せてゼノが何をしたかったのかまでは、僕にも分からないけど。」

「ただ、もしかしたら太陽君に危険信号を夢を媒介として送っていた......とも考えられるような。う~ん、正直、全部把握してるわけじゃないからわかんないや。」

「まぁ、現に、太陽君は僕の仕業ではなかったにしろ、狩猟大会、王立記念式典で危険な目に遭ったでしょ? 特に式典の時は命を落としかけたんだし、あながち間違いでもないと思う。それで、もうその夢は見なくなったの?」

「あぁ。俺が毒を飲んで生死を彷徨っていたときに、本当のゼノとは会ったんだけど......最後は、消えてったよ。」

「そっか。ゼノは新しい道を選んでいったんだね。」

「あ、それとね。今までの事件は全部、ゼノの実家であるヴェリタス子爵家の命令で行われていたんだよ。さっき見せた小瓶も、君の家と繋がりのある人たちが、情報を漏らさないようにするために常に持っている、自死用の薬なんだ」

「だからそれを知ったカリムが、ヴェリタス子爵家の爵位を剥奪して、領地も全部奪い取って没落させようって、何か画策してるみたいだよ」

「あ、このことは内緒にしてね。カイラスからも他言無用って言われてるから」

「任せろ。俺は口が堅いからな」

 とは言いつつも、いざこれが現実の話だと思うと、少し受け入れ難さもある。

「よかった~。太陽君は毒で倒れてたから分からなかったと思うけど、あのときのカリム、闇落ちエンドのときと同じ表情してて、ほんと怖かったよ」

「ヴェリタス家の人間は全員死罪だ~って騒いでたから、カイラスたちがなだめるのに苦労してたみたい」

 俺が寝てる間にそんなことが起きてたのか。なんか申し訳ない。

「はぁ......俺、もうヴェリタス家の人間じゃなくてよかったわ。じゃなきゃ、確実に殺されてた」

「え~、そうかな? たとえヴェリタス家の人間のままだったとしても、殺されることはないんじゃない? 何より、もうカリムの加護みたいなものがついてると言ってもいいだろうし。」

「てか、ゼノルートって結局、誰と結ばれる予定だったんだ?」

 俺が菓子を口に放り込みながらそう言うと、アルトは途端に目を輝かせた。
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