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41.皇帝生誕祭
そうして迎えた皇帝生誕祭。
今日は各国の要人や、普段は表に姿を見せない重鎮たちまでもが王城に集う日だ。城下町は朝から祭りのような賑わいで、城内も例外ではない。料理人やメイドたちが忙しなく行き交い、廊下を駆ける足音が絶え間なく扉の向こうから響いていた。
ーーそんな中、俺はというと。
朝からカリムに見張られながら、身支度を整えられていた。
俺の支度を手伝ってくれているメイドの手が、わずかに震えている。無理もない。だって、背後からまるで「失敗したら貴様の首を跳ねるぞ......」とでも言わんばかりの圧を感じるのだから。
......そりゃ落ち着かないよな。
心の中でメイドに同情しつつ、俺自身も気まずさを覚える。鏡越しにふと目が合えば、思わず視線を逸らしてしまう。たぶん、それがさらにカリムの機嫌を損ねている気がした。
そんなカリムの今日の装いは、いつもの学園の制服とはまるで違っていた。
白を基調とした正装は、光を受けてほのかに輝き、肩から胸元にかけては繊細な金の刺繍が施されている。細身に仕立てられた上着はカリムの長い手足と引き締まった体躯を際立たせ、腰には深紅の帯のような装飾が巻かれていた。その色が、彼の持つ威圧感と存在感をより一層引き立てている。
首元には王族の証である紋章があしらわれた装飾具。背筋を伸ばして立つその姿は、ただそこにいるだけで周囲の空気を変えるほどの威厳を纏っていた。
......いや、普通にかっこよすぎだろ。
思わずそんな感想が頭をよぎる。
「失礼する。カリム、ゼノ。準備はできたか?」
声の主はカイラスだった。
「あ! 太陽く......じゃなかった! ゼノ!」
「アルト!」
カイラスの後ろからひょい、と顔を出したアルトがそのまま駆け寄ってくる。
「わぁ! ゼノ、すっごくキレイだよ!」
「ありがとう。アルトも相変わらず可愛いな。」
「ふふっ、あ、そうだ。」
アルトはそっと耳元に顔を寄せてきた。俺も少しだけ身を寄せる。
「ねぇ、この前は大丈夫だった?」
「この、前?」
「ほら、やったんでしょ? カリムと」
「......あっ、あぁ。う、うん。」
こ、こんなところでなんてことを聞くんだ!と思ったが、あまりに普通に言ってきたので、素直に答えてしまった。
また、走馬灯のように脳内にあのときの映像が流れ込んできて、顔に熱が一気に集まる。もうこんなときにまで思い出させないで欲しい。
「あ、その感じだとうまくいったーー」
「近い。もう離れろ」
「そんなことしなくても、ゼノのことは取らないよ。」
「そういう問題じゃねぇんだよ。」
「兄上。式典の内容はすべて予定通り執り行います。確認作業もまもなく終わるはずです。」
「承知した。では、また会場でな。行くぞアルト。」
「えぇ~、もう? じゃあねゼノ。」
「おう、またな。」
嵐のように現れて、嵐のように去っていった二人。
カリムはそれを見送りながら、わずかに安堵したように息をついた。……相変わらず不機嫌そうな顔ではあるけど。
式典の会場に入ると、俺は「離れるな」と言われていたこともあり、カリムのすぐ隣を歩く。
カリムに話しかけてくる貴族たちは、俺の存在に気づくと必ず一瞬視線を向け、不思議そうな顔をする。そしてとりあえず軽く会釈。
俺も反射的に頭を下げると、決まってこう聞かれる。
「隣におられる方は?」
そのたびにカリムは「気にするな、直に分かる。ところでーー」と一蹴し、話題を逸らした。
しばらくして、カリムが小声で告げる。
「お前は何も反応するな。黙って傍にいればいい。」
「分かりました。」
俺は素直に頷くしかなかった。
やがて人の波も落ち着き、カリムの元を訪れる者が減っていく。ようやく息がしやすくなった。毎回、この量の人を捌けるなんて、俺には絶対できないな、と考えていると、
「何か食べてこい。しばらくは平気だから。」
そう言われて、俺は豪勢に並べられた料理の前に立った。
......多すぎるだろ。
どれも美味しそうで選べない。全部食べたいけど、緊張のせいかあまり食欲もないし、服もお腹の部分がきつく締められていて、無理そうだ。
悩んだ末に、ローストビーフ、クリームパスタ、葉物野菜のサラダを皿に盛り、壁際へと移動する。
そして一口。
ローストビーフは柔らかく、甘辛いソースと共に口の中でほどけていく。パスタもくどさのないクリームで、するりと喉を通った。
......おいしい。
サラダにはあまり手が伸びなかったがーー
『野菜も食べろ』
なぜか、カリムの声が聞こえた気がして、しぶしぶ口に運ぶ。なんのドレッシングか分からないが、味付けがしっかりしていたおかげで比較的食べやすかった。
もぐもぐと食事をしていると、会場に重々しい鐘の音が響いた。
顔を上げると、壇上には皇帝と王妃の姿。
「今日は、私のためによく集まってくれた。この国の繁栄と安寧を願う者たちと、この時を共にできることを心から感謝する。」
皇帝が一声上げると、会場は静まり返った。
「そして本日、私の息子たちから報告がある。カイラス、カリム。前へ。」
壇上にはカイラスとカリム。
ーーそして、その隣に。
なぜかアルトの姿があった。
(え......なんで、アルトがあそこに......?)
その答えは、すぐに明かされることになる。
今日は各国の要人や、普段は表に姿を見せない重鎮たちまでもが王城に集う日だ。城下町は朝から祭りのような賑わいで、城内も例外ではない。料理人やメイドたちが忙しなく行き交い、廊下を駆ける足音が絶え間なく扉の向こうから響いていた。
ーーそんな中、俺はというと。
朝からカリムに見張られながら、身支度を整えられていた。
俺の支度を手伝ってくれているメイドの手が、わずかに震えている。無理もない。だって、背後からまるで「失敗したら貴様の首を跳ねるぞ......」とでも言わんばかりの圧を感じるのだから。
......そりゃ落ち着かないよな。
心の中でメイドに同情しつつ、俺自身も気まずさを覚える。鏡越しにふと目が合えば、思わず視線を逸らしてしまう。たぶん、それがさらにカリムの機嫌を損ねている気がした。
そんなカリムの今日の装いは、いつもの学園の制服とはまるで違っていた。
白を基調とした正装は、光を受けてほのかに輝き、肩から胸元にかけては繊細な金の刺繍が施されている。細身に仕立てられた上着はカリムの長い手足と引き締まった体躯を際立たせ、腰には深紅の帯のような装飾が巻かれていた。その色が、彼の持つ威圧感と存在感をより一層引き立てている。
首元には王族の証である紋章があしらわれた装飾具。背筋を伸ばして立つその姿は、ただそこにいるだけで周囲の空気を変えるほどの威厳を纏っていた。
......いや、普通にかっこよすぎだろ。
思わずそんな感想が頭をよぎる。
「失礼する。カリム、ゼノ。準備はできたか?」
声の主はカイラスだった。
「あ! 太陽く......じゃなかった! ゼノ!」
「アルト!」
カイラスの後ろからひょい、と顔を出したアルトがそのまま駆け寄ってくる。
「わぁ! ゼノ、すっごくキレイだよ!」
「ありがとう。アルトも相変わらず可愛いな。」
「ふふっ、あ、そうだ。」
アルトはそっと耳元に顔を寄せてきた。俺も少しだけ身を寄せる。
「ねぇ、この前は大丈夫だった?」
「この、前?」
「ほら、やったんでしょ? カリムと」
「......あっ、あぁ。う、うん。」
こ、こんなところでなんてことを聞くんだ!と思ったが、あまりに普通に言ってきたので、素直に答えてしまった。
また、走馬灯のように脳内にあのときの映像が流れ込んできて、顔に熱が一気に集まる。もうこんなときにまで思い出させないで欲しい。
「あ、その感じだとうまくいったーー」
「近い。もう離れろ」
「そんなことしなくても、ゼノのことは取らないよ。」
「そういう問題じゃねぇんだよ。」
「兄上。式典の内容はすべて予定通り執り行います。確認作業もまもなく終わるはずです。」
「承知した。では、また会場でな。行くぞアルト。」
「えぇ~、もう? じゃあねゼノ。」
「おう、またな。」
嵐のように現れて、嵐のように去っていった二人。
カリムはそれを見送りながら、わずかに安堵したように息をついた。……相変わらず不機嫌そうな顔ではあるけど。
式典の会場に入ると、俺は「離れるな」と言われていたこともあり、カリムのすぐ隣を歩く。
カリムに話しかけてくる貴族たちは、俺の存在に気づくと必ず一瞬視線を向け、不思議そうな顔をする。そしてとりあえず軽く会釈。
俺も反射的に頭を下げると、決まってこう聞かれる。
「隣におられる方は?」
そのたびにカリムは「気にするな、直に分かる。ところでーー」と一蹴し、話題を逸らした。
しばらくして、カリムが小声で告げる。
「お前は何も反応するな。黙って傍にいればいい。」
「分かりました。」
俺は素直に頷くしかなかった。
やがて人の波も落ち着き、カリムの元を訪れる者が減っていく。ようやく息がしやすくなった。毎回、この量の人を捌けるなんて、俺には絶対できないな、と考えていると、
「何か食べてこい。しばらくは平気だから。」
そう言われて、俺は豪勢に並べられた料理の前に立った。
......多すぎるだろ。
どれも美味しそうで選べない。全部食べたいけど、緊張のせいかあまり食欲もないし、服もお腹の部分がきつく締められていて、無理そうだ。
悩んだ末に、ローストビーフ、クリームパスタ、葉物野菜のサラダを皿に盛り、壁際へと移動する。
そして一口。
ローストビーフは柔らかく、甘辛いソースと共に口の中でほどけていく。パスタもくどさのないクリームで、するりと喉を通った。
......おいしい。
サラダにはあまり手が伸びなかったがーー
『野菜も食べろ』
なぜか、カリムの声が聞こえた気がして、しぶしぶ口に運ぶ。なんのドレッシングか分からないが、味付けがしっかりしていたおかげで比較的食べやすかった。
もぐもぐと食事をしていると、会場に重々しい鐘の音が響いた。
顔を上げると、壇上には皇帝と王妃の姿。
「今日は、私のためによく集まってくれた。この国の繁栄と安寧を願う者たちと、この時を共にできることを心から感謝する。」
皇帝が一声上げると、会場は静まり返った。
「そして本日、私の息子たちから報告がある。カイラス、カリム。前へ。」
壇上にはカイラスとカリム。
ーーそして、その隣に。
なぜかアルトの姿があった。
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その答えは、すぐに明かされることになる。
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