46 / 49
46.
「まぁ何がともあれ、カリムの言いなりにはならないことね。じゃないとあいつすぐ、つけあがるんだから。」
それと、気になることがあった。さっきからガガガガ......と、地響きのような音が王宮内に轟いている。
「この地響きみたいなの、さっきから聞こえますけど......地震ですかね?」
「この音? 違うわよ。また一つ、王宮の敷地内に離宮を建てるみたいで、それを建設してる音よ。」
「王妃とかが住まわれるんですか?」
「いいえ、カリムがよ。」
「へ、へぇ。......え、カ、カリムが? なんで。」
エルザさんは俺を可哀想な目で見てくる。
「また知らなかったのね。なんでって、あんたと二人きりの部屋を作りたいからに決まってるじゃない。」
「......?」
理解が追いつかず、口をぽかん、と開けるだけで、もはや声すら出なかった。
「あと、あんたの住んでたあの山奥の家? カリムが取り壊したらしいわよ。だから、もうここにいるしかなくなったわね。......っていうのも、聞かされてないのね。」
言葉が出てこず、口だけがぱくぱくと動く。そんな俺を横目に、エルザさんは手際よく採血の器具を外し、ガーゼで止血してくれた。
「はい、これで今日はおしまい。また一週間後ね。」
用が済むと、研究室からはあっさりと追い出されてしまった。
......え、俺の家、なくなったの?
しかも俺の同意なしに?
あの傲慢王子......俺がどうせ断れないのをいいことに......!
今にも腹の底から「カリムーー!!」と叫びそうになるのをぐっと堪え、俺はカリムの待つ部屋へと早歩きで向かった。
ノックもせず、扉をバンッ!と開けると椅子に腰かけ優雅に本を読んでいるカリムの姿が目に入った。
「カリム! 俺のあの家、壊したってどういうことだよ! まだ荷物の整理とかできてないんだぞ!」
「あ? もともとあの家にあったもんは全部こっちに運んである。それと、爺やに頼んで、大きい家具は倉庫のなかに入れさせた。それ以外はそこにまとめておいた。」
カリムが指さした方向を見ると、確かに俺の制服やバッグがきれいに畳まれて置かれていた。
「第一、そんな荷物もなかっただろ。あの家、最低限のものしかなかったしな。あぁ、そうだ。日記も一応残しておいたぞ。」
カリムは読んでいた本をパタン、と閉じて俺の方へ近づいてくる。
まさか、日記を残しておいてくれるとは思っていなかった。
カリムは、俺がゼノとの繋がりを大切に思っていることに気づいていたのだろうか。
今はもう、本当のゼノ・ヴェリタスはどこにもいない。唯一、彼が生きていたと証明できるものは、それくらいしかない。処分しなかったことには感謝している。
......それでも。
無断で家をぶっ壊したことは、やっぱり許せない。いい思い出があるかと言われたらそうでもないが、転生してきた俺を初めて迎えてくれた家だから、多少なりとも愛着は沸いていた。
それに、なんだかんだ秘密基地みたいな感じでお気に入りだったのに。
「何をそんなに怒ってんだ?」
「......別に、怒ってないです。」
「あぁ......お前が、あの家に多少なりとも思い入れがあるのは分かっているつもりだ。」
「だがな。お前を苦しめたヴェリタス家の存在を、痕跡を俺は残したくない。一つたりともな。」
カリムの目は本気だ。
夜空から星がすべて消えたような、光を失った目。
もし、その視線が俺に向けられていたらーーそう思うだけで、背筋が冷える。
口を尖らせて不満を漏らすと、カリムは小さく息を吐いた。
「ごめんな。だが、これだけは譲れない。」
そう言って、カリムは俺のことを子どもみたいに軽々と抱き上げた。
そして、ほんの少し見つめ合ったあとーー唇が触れ合う。
ただ重なるだけの、静かなキス。
......はぁ。
これだけで満足するなんて、ちょろすぎだろ、俺。
そんなことを思いながらも、結局、俺はカリムとの時間を受け入れてしまう。
ーー後に離宮の件が、俺が住んでいた家をモチーフに作られていると知るのは、もう少し先の話だった。
それと、気になることがあった。さっきからガガガガ......と、地響きのような音が王宮内に轟いている。
「この地響きみたいなの、さっきから聞こえますけど......地震ですかね?」
「この音? 違うわよ。また一つ、王宮の敷地内に離宮を建てるみたいで、それを建設してる音よ。」
「王妃とかが住まわれるんですか?」
「いいえ、カリムがよ。」
「へ、へぇ。......え、カ、カリムが? なんで。」
エルザさんは俺を可哀想な目で見てくる。
「また知らなかったのね。なんでって、あんたと二人きりの部屋を作りたいからに決まってるじゃない。」
「......?」
理解が追いつかず、口をぽかん、と開けるだけで、もはや声すら出なかった。
「あと、あんたの住んでたあの山奥の家? カリムが取り壊したらしいわよ。だから、もうここにいるしかなくなったわね。......っていうのも、聞かされてないのね。」
言葉が出てこず、口だけがぱくぱくと動く。そんな俺を横目に、エルザさんは手際よく採血の器具を外し、ガーゼで止血してくれた。
「はい、これで今日はおしまい。また一週間後ね。」
用が済むと、研究室からはあっさりと追い出されてしまった。
......え、俺の家、なくなったの?
しかも俺の同意なしに?
あの傲慢王子......俺がどうせ断れないのをいいことに......!
今にも腹の底から「カリムーー!!」と叫びそうになるのをぐっと堪え、俺はカリムの待つ部屋へと早歩きで向かった。
ノックもせず、扉をバンッ!と開けると椅子に腰かけ優雅に本を読んでいるカリムの姿が目に入った。
「カリム! 俺のあの家、壊したってどういうことだよ! まだ荷物の整理とかできてないんだぞ!」
「あ? もともとあの家にあったもんは全部こっちに運んである。それと、爺やに頼んで、大きい家具は倉庫のなかに入れさせた。それ以外はそこにまとめておいた。」
カリムが指さした方向を見ると、確かに俺の制服やバッグがきれいに畳まれて置かれていた。
「第一、そんな荷物もなかっただろ。あの家、最低限のものしかなかったしな。あぁ、そうだ。日記も一応残しておいたぞ。」
カリムは読んでいた本をパタン、と閉じて俺の方へ近づいてくる。
まさか、日記を残しておいてくれるとは思っていなかった。
カリムは、俺がゼノとの繋がりを大切に思っていることに気づいていたのだろうか。
今はもう、本当のゼノ・ヴェリタスはどこにもいない。唯一、彼が生きていたと証明できるものは、それくらいしかない。処分しなかったことには感謝している。
......それでも。
無断で家をぶっ壊したことは、やっぱり許せない。いい思い出があるかと言われたらそうでもないが、転生してきた俺を初めて迎えてくれた家だから、多少なりとも愛着は沸いていた。
それに、なんだかんだ秘密基地みたいな感じでお気に入りだったのに。
「何をそんなに怒ってんだ?」
「......別に、怒ってないです。」
「あぁ......お前が、あの家に多少なりとも思い入れがあるのは分かっているつもりだ。」
「だがな。お前を苦しめたヴェリタス家の存在を、痕跡を俺は残したくない。一つたりともな。」
カリムの目は本気だ。
夜空から星がすべて消えたような、光を失った目。
もし、その視線が俺に向けられていたらーーそう思うだけで、背筋が冷える。
口を尖らせて不満を漏らすと、カリムは小さく息を吐いた。
「ごめんな。だが、これだけは譲れない。」
そう言って、カリムは俺のことを子どもみたいに軽々と抱き上げた。
そして、ほんの少し見つめ合ったあとーー唇が触れ合う。
ただ重なるだけの、静かなキス。
......はぁ。
これだけで満足するなんて、ちょろすぎだろ、俺。
そんなことを思いながらも、結局、俺はカリムとの時間を受け入れてしまう。
ーー後に離宮の件が、俺が住んでいた家をモチーフに作られていると知るのは、もう少し先の話だった。
あなたにおすすめの小説
転生天使は平穏に眠りたい〜社畜を辞めたら美形王子の腕の中でとろとろに甘やかされる日々が始まりました〜
メープル
BL
毎日深夜まで残業、食事はコンビニの冷たいパン。そんな社畜としての人生を使い果たし、過労死した俺が転生したのは――なんと、四枚の美しい羽を持つ本物の天使だった。
「今世こそは、働かずに一生寝て過ごしたい!」
平穏な隠居生活を夢見るシオンは、正体を隠して王国の第一王子・アリスターの元に居候することに。ところが、この王子、爽やかな笑顔の裏で俺への重すぎる執着を隠し持っていた!?
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する
竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。
幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。
白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。
ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!
迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!
BLノベルの捨て駒になったからには
カギカッコ「」
BL
転生先は前世で妹から読まされたBLノベルの捨て駒だった。仕える主人命令である相手に毒を盛ったはいいものの、それがバレて全ての罪を被らされ獄中死するキャラ、それが僕シャーリーだ。ノベル通りに死にたくない僕はその元凶たる相手の坊ちゃまを避けようとしたんだけど、無理だった。だから仕方なく解毒知識を磨いて毒の盛られた皿を僕が食べてデッドエンドを回避しようとしたわけだけど、倒れた。しかしながら、その後から坊ちゃまの態度がおかしい。更には僕によって救われた相手も僕に会いにきて坊ちゃまと険悪そうで……。ノベル本来の受け担当キャラも登場し、周囲は賑やかに。はぁ、捨て駒だった僕は一体どこに向かうのか……。
これはこの先恋に発展するかもしれない青年たちのプロローグ。
【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。
竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。
自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。
番外編はおまけです。
特に番外編2はある意味蛇足です。
僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
没落名士の長男ノアゼットは日々困窮していく家族を支えるべく上級学校への進学を断念して仕送りのために王都で働き出す。しかし賢くても後見の無いノアゼットが仕送り出来るほど稼げはしなかった。
そんな時に声を掛けてきた高級娼家のマダムの引き抜きで、男娼のノアとして働き出したノアゼット。研究肌のノアはたちまち人気の男娼に躍り出る。懇意にしてくれる太客がついて仕送りは十分過ぎるほどだ。
そんな中、母親の再婚で仕送りの要らなくなったノアは、一念発起して自分の人生を始めようと決意する。順風満帆に滑り出した自分の生活に満ち足りていた頃、ノアは再婚相手の元に居る家族の元に二度目の帰省をする事になった。
そこで巻き起こる自分の過去との引き合わせに動揺するノア。ノアと太客の男との秘密の関係がまた動き出すのか?