死ぬことが確約されている悪役令息ですが、推しの闇落ち回避のために頑張ります

蒸しケーキ

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「まぁ何がともあれ、カリムの言いなりにはならないことね。じゃないとあいつすぐ、つけあがるんだから。」

 それと、気になることがあった。さっきからガガガガ......と、地響きのような音が王宮内に轟いている。

「この地響きみたいなの、さっきから聞こえますけど......地震ですかね?」

「この音? 違うわよ。また一つ、王宮の敷地内に離宮を建てるみたいで、それを建設してる音よ。」

「王妃とかが住まわれるんですか?」

「いいえ、カリムがよ。」

「へ、へぇ。......え、カ、カリムが? なんで。」

 エルザさんは俺を可哀想な目で見てくる。

「また知らなかったのね。なんでって、あんたと二人きりの部屋を作りたいからに決まってるじゃない。」

「......?」

 理解が追いつかず、口をぽかん、と開けるだけで、もはや声すら出なかった。

「あと、あんたの住んでたあの山奥の家? カリムが取り壊したらしいわよ。だから、もうここにいるしかなくなったわね。......っていうのも、聞かされてないのね。」

 言葉が出てこず、口だけがぱくぱくと動く。そんな俺を横目に、エルザさんは手際よく採血の器具を外し、ガーゼで止血してくれた。

「はい、これで今日はおしまい。また一週間後ね。」

 用が済むと、研究室からはあっさりと追い出されてしまった。

 ......え、俺の家、なくなったの?

 しかも俺の同意なしに?

 あの傲慢王子......俺がどうせ断れないのをいいことに......!

 今にも腹の底から「カリムーー!!」と叫びそうになるのをぐっと堪え、俺はカリムの待つ部屋へと早歩きで向かった。

 ノックもせず、扉をバンッ!と開けると椅子に腰かけ優雅に本を読んでいるカリムの姿が目に入った。

「カリム! 俺のあの家、壊したってどういうことだよ! まだ荷物の整理とかできてないんだぞ!」

「あ? もともとあの家にあったもんは全部こっちに運んである。それと、爺やに頼んで、大きい家具は倉庫のなかに入れさせた。それ以外はそこにまとめておいた。」

 カリムが指さした方向を見ると、確かに俺の制服やバッグがきれいに畳まれて置かれていた。

「第一、そんな荷物もなかっただろ。あの家、最低限のものしかなかったしな。あぁ、そうだ。日記も一応残しておいたぞ。」

 カリムは読んでいた本をパタン、と閉じて俺の方へ近づいてくる。

 まさか、日記を残しておいてくれるとは思っていなかった。

 カリムは、俺がゼノとの繋がりを大切に思っていることに気づいていたのだろうか。

 今はもう、本当のゼノ・ヴェリタスはどこにもいない。唯一、彼が生きていたと証明できるものは、それくらいしかない。処分しなかったことには感謝している。

 ......それでも。

 無断で家をぶっ壊したことは、やっぱり許せない。いい思い出があるかと言われたらそうでもないが、転生してきた俺を初めて迎えてくれた家だから、多少なりとも愛着は沸いていた。

 それに、なんだかんだ秘密基地みたいな感じでお気に入りだったのに。

「何をそんなに怒ってんだ?」

「......別に、怒ってないです。」

「あぁ......お前が、あの家に多少なりとも思い入れがあるのは分かっているつもりだ。」

「だがな。お前を苦しめたヴェリタス家の存在を、痕跡を俺は残したくない。一つたりともな。」

 カリムの目は本気だ。

 夜空から星がすべて消えたような、光を失った目。

 もし、その視線が俺に向けられていたらーーそう思うだけで、背筋が冷える。

口を尖らせて不満を漏らすと、カリムは小さく息を吐いた。

「ごめんな。だが、これだけは譲れない。」

 そう言って、カリムは俺のことを子どもみたいに軽々と抱き上げた。

 そして、ほんの少し見つめ合ったあとーー唇が触れ合う。

 ただ重なるだけの、静かなキス。

 ......はぁ。

 これだけで満足するなんて、ちょろすぎだろ、俺。

 そんなことを思いながらも、結局、俺はカリムとの時間を受け入れてしまう。

 ーー後に離宮の件が、俺が住んでいた家をモチーフに作られていると知るのは、もう少し先の話だった。
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