死ぬことが確約されている悪役令息ですが、推しの闇落ち回避のために頑張ります

蒸しケーキ

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32.カリム視点

「いいから落ち着きなさい、カリム。まずは状況の整理が先よ。」

「黙っていられるか!!」

 エルザの言葉にさえ冷静に答えられないほど、今の俺は気が立っていた。血を吐いて倒れたときのゼノの表情が、脳裏にこびりついて離れない。

 ゼノは、あの毒が混ぜられた飲み物に気づいていた。それにもかかわらず、自らそれを飲んだ。

 ーーあのときの顔は、まるで最初からそうすることを決めていたかのように。そして、それを受け入れたかのように、穏やかだった。

 理解できるはずがなかった。

「......まだ、息はあるんだろうな。」

「えぇかろうじて、息はしている状態よ。けれど、予断は許さないわ。またいつ呼吸が止まってもおかしくない。」

 冷や汗が背中に伝る。

「あの子の体から検出された毒物......劇薬なんて生易しいものじゃないわ。軽く数十人は殺せる代物よ。」

「それが、あの飲み物の中に?」

「えぇ。今こうして息があること自体がおかしいくらいにはね。おそらく標的は王族......というより、アルトやカイラスを狙ったものだとは思うけれど、ゼノを狙った可能性も捨てきれないわ。」

「......それで? 飲み物を運んできたメイドはどうした。吐かせたんだろうな。」

 俺の問いに、エルザはゆっくりと首を横に振った。

「残念だけど、それも叶わなかったわ。聞き出そうとした瞬間、自分で舌を噛み切って死んでいったわ。......あれは、命令に逆らえないよう躾けられたペットね。」

 エルザは冷静な物言いで吐き捨てた。

「くそっ......!」

 収穫は何もないのか。

 俺は目の前のサイドテーブルを蹴り飛ばした。ガシャン、とガラスが割れる音、壁に木製のテーブルが壁に叩きつけられる音が、静まり返った部屋に響く。

「......物に当たるなんて、愚か者のすることよ。今は冷静に判断しなさい。」

「っ......」

 握りしめた拳から血が滲む。守ると決めたはずなのに、この様か......。

 もしかしたら、これがあいつの言う“華やかな死”なのか。

 ふざけるな。

 そんなもの、俺は望んでいない。

 そのとき、扉が開いた。

「随分と荒れているな、カリム。」

「......何の用ですか、兄上。」

 カイラスとアルトが部屋に入ってくる。

「そう睨むな。疑わしき人物が自決したのは残念だが、証拠は他にもある。」

「......何が言いたいのですか。」

「これは、お前にとって有益な物証になるかもしれない。アルト、ここに見せなさい。」

「はい、カリム様。もしかしたらこれは、この計画を実行した人物の手がかりになるかもしれないです。」

 アルトが差し出したのは、小さなガラス片と紫色の小瓶に入った液体だった。一見して、それが証拠になるとは思えない。

 だが兄上の性格上、持ってくるものが無意味なはずがない。

「右がゼノ君のグラスの破片、左が自決した従者の内ポケットから発見したものです。」

「......なるほどな。」

「理解したか。毒物は付着した箇所に残留する。この二つには、同じ毒の痕跡がある。つまり、毒の種類と入手経路を特定すれば、犯人に辿り着けるということだ。」

「アルトの進言がなければ見逃すところだった。」

「毒の鑑定はもう終わっているわ。あとは入手経路の特定だけね。」

 エルザは兄上の言葉に続けて話した。

「さすがはエルザだな。」

「当然よ。」

 ーーいける。

 微かながら、確かな光が見えた。これで......守れる。

 ヴェリタス家の関与はほぼ確実だろう。あとは証拠を揃えるだけだ。

 揃い次第、潰す。

 何が何でも。

 一人たりともーー生かして帰すものか。
感想 30

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