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※43.
イヤイヤと抵抗する間もなく俺は赤ちゃんと同然の状態になった。そしてどこからともなく香油を取り出すと、指と俺のお尻に塗りたくられる。ひんやりとした感覚に少し、体がびくっと反応する。
「カリム! ちょっと待て!」
尻に伸ばされた腕とカリムの胸を押しのけるように押すが、指はどんどん俺の中に入ってくるし、カリムの体はびくともしなかった。
「お前はいつまで俺を待たせる気だ。」
「言っただろ? 次は最後まで挿れるからな、と。」
カリムはぐちゅぐちゅと俺のお尻をかきまぜるように広げてくる。前したときに俺のいいところを見つけていたからか、カリムはすぐに俺の中にある膨らんだ部分をノックしてくる。
同時に胸の赤い粒をカリムにぱくりと咥えられる。生温かい感触が粒を転がしていくたびに下腹部が疼きだす。
そこをちゅるちゅると吸われたり、指でぴん、と弾かれれば、ぴりっとした感覚が走り、背筋が泡立つ。
「ゼノは、痛い方が好きなのか」
「んん、あっ、わ、かん、ない」
歯で甘噛みされ、空いている方の手で乳首をぐにぐにと軽く摘ままれたりしたせいで、俺の胸はぷっくりと赤く膨れていた。胸だけの快楽だけでなく、尻の方からも押し上げられるように快感の波が襲ってくる。
トンッ、トンッ、と押されるたびに口からは「あ、あ、」、と短い息が漏れる。
胸をいじられながら、いつの間にか指は一本から二本、三本に増えていて、俺の後ろはすんなりそれを受け入れていた。カリムが上手いのか、それとも俺に才能があるのかは分からないが、どちらにせよ頭の中は与えられる快感に支配されている。
「......このくらいでいいか。」
「ふっ......んんっ、あぁっ」
カリムの指がゆっくり俺の中からいなくなると、俺のお尻はひくひくと収縮を繰り返している。
カリムも着ていた服をすべて脱ぎ、全身が顕わになる。相変わらず彫刻のような肉体美に思わず息を呑んだ。カリムの分身もすでに先端から蜜をこぼし、グロテスクな血管が浮かび上がっていた。
獲物を目の前にした空腹な猛獣が、よだれを垂らしているようだと言っても差し支えないだろう。
「挿れるぞ。ゼノ。」
ぐずぐずに解された部分に、ひたりとカリムの物があてがわれる。
俺は無言でこくっと頷いた。
その瞬間、ぐぐぐっと一気にカリム熱塊が俺の中に入ってくる感覚が分かる。内側のひだを押しのけて行くように、ゆっくりと侵入してくる。
指を三本も咥え込んだためか、最初の方は痛みもなく、するするとカリムの物を拒むことなく受け入れていく。
どんどん奥へ入っていくたびに、俺の腰は次第に弓のようにしなっていく。
それをカリムは俺が逃げていると勘違いしたのか、腰をぐっと掴み、貫くような勢いで一気に杭を打ちこまれる。ぐぷん、とカリムの亀頭が絶対に届いてはいけないような場所に入り込んでくる。
その瞬間、目の前にチカチカと閃光が散り、びくびくと痙攣を繰り返す。口の端からは唾液が垂れ、頭が真っ白になる。口からは犬のような、短く荒い息遣いが零れていた。
「挿れただけで、ちょっと出てるじゃねぇか......エロいな。」
ほら、ここまで入ってるぞと言わんばかりにカリムは俺の臍のあたりに手を添え、優しく擦ってくる。そして、吐き出された精液を手に取り、それをぺろり、と舐めとると再び俺の腰を掴んで、カリムはゆっくりと注挿を始める。
ごりごりと内壁が削られ、結腸にごちゅごちゅと当たる感覚に耐え切れそうになくて、カリムの背中に腕をぐっと回す。
「ふっ、はぁっ、あぁ」
ぱちゅ、ぱちゅんと激しくカリムに最奥を突かれるたびに口からは自分の声とは思えないほどの嬌声が漏れる。自分の発する声だとは信じたくないが、声は抑えようにも抑えることはできず、ただ喘ぐことしかできない。
カリムは俺の反応を確認しながら、ピストンの速度や体位を変えてくる。いいところに当たるたびに、腰のあたりからびりびりと電流のようなものが流れていく。そのたびに俺はびくっと身体を大きく震わせ、きゅうきゅうとカリムの物をきつく締め付けてしまう。
それによってカリムは俺に聞かなくとも、いい場所を把握しているのだと思う。
それもあって、いくら俺が「やだっ、やめて、もう無理、」と音を上げても
「気づいてるか? ゼノ。口ではいやいや言ってるが、お前のここは喜んでいるぞ。」
艶やかに口角を上げながら、カリムはやめることはなかった。くるっと、カリムは俺をうつ伏せの状態にベッドに組み敷くと、また一気に俺の中を貫いてくる。
ベッドに押し付けられた状態で、後ろからやられると、カリムの体重のほとんどが俺にのしかかり、前立腺を内側からぎゅうぎゅう、と押しつぶしてくる。
視界が一瞬、真っ白に染まり(あ、これやばいやつだ)と瞬時に悟った。
その快感から逃げようと、ベッドのシーツを握りしめながらなんとか這い出そうとする。
けれど、そんな抵抗も虚しく、すぐさまカリムに腕を掴まれた。そっと上から包み込まれるが、手の自由はカリムによって奪われた。
カリムがそれから動くたびに、ベッドに顔を埋めて「ふーっ、うぅーっ、」と喘ぎ声が響かないように抑えるので必死だった。
「ゼノ、声、殺すな。」
「!? んぁっ!」
カリムは俺の口の中に指をつっこみ、舌と上顎を弄んでくる。噛んではいけないと分かっていても、声が漏れてしまうのが嫌で、カリカリと甘噛みをするようにカリムの指を嚙んでしまう。
俺が快感に耐えているのと同時に、カリムも低く、荒い息を漏らしながら、屹立を固く、大きくさせていて、ビクビクと俺の中で動いてる。
「っ、ゼノ、出すぞ、」
「んんっ、あぁっ、あぁー!」
ぴゅ、ぴゅっと同時に果てた後、カリムの物はしばらく俺の中で収縮と膨張を繰り返しながら白濁を吐き出していた。俺の中もカリムの杭から白濁を搾り取るように蠕動しているようだった。
尻に残った生温かい記憶を最後に、俺は意識を落とした。
次に目を覚ましたのは、カリムにお姫様抱っこでベッドに連れて行かれているときだった。妙にふわふわと空に浮いているような夢を見てたけど、これだったのか。
「起きたか。ゼノ」
「......はい」
カリムの顔を直視できなくて、視線をわずかに下へ落したまま答える。相変わらず腰は重いし、尻も痛む。それでも、服と体はキレイになっているあたり、カリムがぜんぶやってくれたのだろう。
カリムはそっと俺をベッドに降ろすと、そのまま隣に横になった。
その間もカリムは優しい目をしながら、俺の髪をくるくるといじっている。
何が楽しくてそうしているのか分からないが、慈愛をもった瞳に安心感を覚える。
......今なら、言っても大丈夫かもしれない。
そう思って、俺はゆっくり口を開く。
「カリム。ちょっと聞いて欲しいことがあって、」
「なんだ」
うまく言葉にできるか、分からない。
それでも、伝えなくちゃいけない。
一呼吸置いてから話始める。
「......俺さ、ほんとうはゼノじゃないんです。」
静寂が落ちる。
「......今まで、黙っててごめーー」
「あぁ、だろうな。」
あまりにもあっさりとした返答に、思わず間の抜けた声が出る。
それは、ずっと前から知っていたことを確認するような声色だった。
「え、それだけ? もっとこう......驚くとかさ」
「人が自分の気持ちを打ち明けるときってのは、大抵、それを受け入れてもらいたいときだ。わざわざ否定されたいと思って話すやつなんて、そういない。」
「いや、まぁ......うん。それは、そうなんだけど。」
「それに、薄々気づいてたしな。三年に上がってから、あれだけ執拗にアルトに絡んでたお前が、急に距離を置くようになった。勘当されたショックで、とも考えたが、ありえないしな。これまでの行動を見ていれば、“別人だ”って言われた方が納得できる。」
図星すぎて、何も言い返せない。まさか、そんな前から勘付かれていたなんて。
「でも、今の俺はこの世界のゼノじゃないわけで......。」
「関係ない」
言葉を遮るように、カリムが言い切る。
「俺が好きになったのは、“この世界のゼノ”だからじゃない。今ここにいる、お前だからだ」
そのまま、正面から抱きしめられる。
強くもなく、けれど、どこにも逃がさないような腕の力。胸に耳を押し当てられて、カリムの鼓動がはっきりと伝わってくる。
「どんな姿でも、どんな出自でも、俺はお前を選ぶ」
......嬉しくて、恥ずかしくて、少しだけ、泣き笑いのような感情が込み上げる。
「......昆虫でも?」
「ふはっ、せめて意思疎通ができるものだとありがたいがな。」
迷いのない声だった。俺はその声を聞いて、カリムの胸の中ですすり泣いてしまった。落ち着くまでの間、カリムはずっと背中を優しく擦ってくれていた。
俺が落ち着くと、カリムは静かに口を開いた。
「この世界のゼノじゃないってことは、元の名は他にあるということか?」
「はい。前世はゼノという名前ではありませんでした。」
「その、前世とやらのお前の名前は何だったんだ?」
「えっと......太陽って言うんだ。」
「タイヨウ、そうかタイヨウと言うのか。
口の中で転がすように、カリムが呟く。
「いい響きだな。」
そう言われた瞬間、妙にむずがゆい感覚が胸に広がる。今まで特別に意識したことなんてなかったのに。
「でも、今まで通りゼノでお願いします。いきなりタイヨウなんて呼ばれたら、周りが混乱してしまいます。」
「......そうだな。その名で呼ぶのは、二人きりのときだけにしておく」
少しだけ口元を緩めて、カリムは続けた。
「このまま王宮にいればいい。婚約はすでに公表した。お前がここにいても、誰も文句は言えない」
「いえ、それは遠慮しておきます。」
即答したからか、カリムがわずかに目を細めた。
「俺は、まだ足りてないんです。もっと学ばなくてはいけないことがありますし......自分の力で立てるようになりたいんです。」
これは、俺なりの覚悟だ。
ルクシオ家の人間として生きていくために。
そして、カリムの隣に立つことを許される存在になるために。
「......だから、もう少しだけ待っててほしいです。」
そう言うと、カリムは一瞬だけ言葉を失ったように見えた。
「お前な......今ので断るのか......」
呆れたように息を吐いてから、ふっと小さく笑う。
「......まぁ、お前らしいな」
カリムはもう一度、俺の頭を優しく撫でた。
「カリム! ちょっと待て!」
尻に伸ばされた腕とカリムの胸を押しのけるように押すが、指はどんどん俺の中に入ってくるし、カリムの体はびくともしなかった。
「お前はいつまで俺を待たせる気だ。」
「言っただろ? 次は最後まで挿れるからな、と。」
カリムはぐちゅぐちゅと俺のお尻をかきまぜるように広げてくる。前したときに俺のいいところを見つけていたからか、カリムはすぐに俺の中にある膨らんだ部分をノックしてくる。
同時に胸の赤い粒をカリムにぱくりと咥えられる。生温かい感触が粒を転がしていくたびに下腹部が疼きだす。
そこをちゅるちゅると吸われたり、指でぴん、と弾かれれば、ぴりっとした感覚が走り、背筋が泡立つ。
「ゼノは、痛い方が好きなのか」
「んん、あっ、わ、かん、ない」
歯で甘噛みされ、空いている方の手で乳首をぐにぐにと軽く摘ままれたりしたせいで、俺の胸はぷっくりと赤く膨れていた。胸だけの快楽だけでなく、尻の方からも押し上げられるように快感の波が襲ってくる。
トンッ、トンッ、と押されるたびに口からは「あ、あ、」、と短い息が漏れる。
胸をいじられながら、いつの間にか指は一本から二本、三本に増えていて、俺の後ろはすんなりそれを受け入れていた。カリムが上手いのか、それとも俺に才能があるのかは分からないが、どちらにせよ頭の中は与えられる快感に支配されている。
「......このくらいでいいか。」
「ふっ......んんっ、あぁっ」
カリムの指がゆっくり俺の中からいなくなると、俺のお尻はひくひくと収縮を繰り返している。
カリムも着ていた服をすべて脱ぎ、全身が顕わになる。相変わらず彫刻のような肉体美に思わず息を呑んだ。カリムの分身もすでに先端から蜜をこぼし、グロテスクな血管が浮かび上がっていた。
獲物を目の前にした空腹な猛獣が、よだれを垂らしているようだと言っても差し支えないだろう。
「挿れるぞ。ゼノ。」
ぐずぐずに解された部分に、ひたりとカリムの物があてがわれる。
俺は無言でこくっと頷いた。
その瞬間、ぐぐぐっと一気にカリム熱塊が俺の中に入ってくる感覚が分かる。内側のひだを押しのけて行くように、ゆっくりと侵入してくる。
指を三本も咥え込んだためか、最初の方は痛みもなく、するするとカリムの物を拒むことなく受け入れていく。
どんどん奥へ入っていくたびに、俺の腰は次第に弓のようにしなっていく。
それをカリムは俺が逃げていると勘違いしたのか、腰をぐっと掴み、貫くような勢いで一気に杭を打ちこまれる。ぐぷん、とカリムの亀頭が絶対に届いてはいけないような場所に入り込んでくる。
その瞬間、目の前にチカチカと閃光が散り、びくびくと痙攣を繰り返す。口の端からは唾液が垂れ、頭が真っ白になる。口からは犬のような、短く荒い息遣いが零れていた。
「挿れただけで、ちょっと出てるじゃねぇか......エロいな。」
ほら、ここまで入ってるぞと言わんばかりにカリムは俺の臍のあたりに手を添え、優しく擦ってくる。そして、吐き出された精液を手に取り、それをぺろり、と舐めとると再び俺の腰を掴んで、カリムはゆっくりと注挿を始める。
ごりごりと内壁が削られ、結腸にごちゅごちゅと当たる感覚に耐え切れそうになくて、カリムの背中に腕をぐっと回す。
「ふっ、はぁっ、あぁ」
ぱちゅ、ぱちゅんと激しくカリムに最奥を突かれるたびに口からは自分の声とは思えないほどの嬌声が漏れる。自分の発する声だとは信じたくないが、声は抑えようにも抑えることはできず、ただ喘ぐことしかできない。
カリムは俺の反応を確認しながら、ピストンの速度や体位を変えてくる。いいところに当たるたびに、腰のあたりからびりびりと電流のようなものが流れていく。そのたびに俺はびくっと身体を大きく震わせ、きゅうきゅうとカリムの物をきつく締め付けてしまう。
それによってカリムは俺に聞かなくとも、いい場所を把握しているのだと思う。
それもあって、いくら俺が「やだっ、やめて、もう無理、」と音を上げても
「気づいてるか? ゼノ。口ではいやいや言ってるが、お前のここは喜んでいるぞ。」
艶やかに口角を上げながら、カリムはやめることはなかった。くるっと、カリムは俺をうつ伏せの状態にベッドに組み敷くと、また一気に俺の中を貫いてくる。
ベッドに押し付けられた状態で、後ろからやられると、カリムの体重のほとんどが俺にのしかかり、前立腺を内側からぎゅうぎゅう、と押しつぶしてくる。
視界が一瞬、真っ白に染まり(あ、これやばいやつだ)と瞬時に悟った。
その快感から逃げようと、ベッドのシーツを握りしめながらなんとか這い出そうとする。
けれど、そんな抵抗も虚しく、すぐさまカリムに腕を掴まれた。そっと上から包み込まれるが、手の自由はカリムによって奪われた。
カリムがそれから動くたびに、ベッドに顔を埋めて「ふーっ、うぅーっ、」と喘ぎ声が響かないように抑えるので必死だった。
「ゼノ、声、殺すな。」
「!? んぁっ!」
カリムは俺の口の中に指をつっこみ、舌と上顎を弄んでくる。噛んではいけないと分かっていても、声が漏れてしまうのが嫌で、カリカリと甘噛みをするようにカリムの指を嚙んでしまう。
俺が快感に耐えているのと同時に、カリムも低く、荒い息を漏らしながら、屹立を固く、大きくさせていて、ビクビクと俺の中で動いてる。
「っ、ゼノ、出すぞ、」
「んんっ、あぁっ、あぁー!」
ぴゅ、ぴゅっと同時に果てた後、カリムの物はしばらく俺の中で収縮と膨張を繰り返しながら白濁を吐き出していた。俺の中もカリムの杭から白濁を搾り取るように蠕動しているようだった。
尻に残った生温かい記憶を最後に、俺は意識を落とした。
次に目を覚ましたのは、カリムにお姫様抱っこでベッドに連れて行かれているときだった。妙にふわふわと空に浮いているような夢を見てたけど、これだったのか。
「起きたか。ゼノ」
「......はい」
カリムの顔を直視できなくて、視線をわずかに下へ落したまま答える。相変わらず腰は重いし、尻も痛む。それでも、服と体はキレイになっているあたり、カリムがぜんぶやってくれたのだろう。
カリムはそっと俺をベッドに降ろすと、そのまま隣に横になった。
その間もカリムは優しい目をしながら、俺の髪をくるくるといじっている。
何が楽しくてそうしているのか分からないが、慈愛をもった瞳に安心感を覚える。
......今なら、言っても大丈夫かもしれない。
そう思って、俺はゆっくり口を開く。
「カリム。ちょっと聞いて欲しいことがあって、」
「なんだ」
うまく言葉にできるか、分からない。
それでも、伝えなくちゃいけない。
一呼吸置いてから話始める。
「......俺さ、ほんとうはゼノじゃないんです。」
静寂が落ちる。
「......今まで、黙っててごめーー」
「あぁ、だろうな。」
あまりにもあっさりとした返答に、思わず間の抜けた声が出る。
それは、ずっと前から知っていたことを確認するような声色だった。
「え、それだけ? もっとこう......驚くとかさ」
「人が自分の気持ちを打ち明けるときってのは、大抵、それを受け入れてもらいたいときだ。わざわざ否定されたいと思って話すやつなんて、そういない。」
「いや、まぁ......うん。それは、そうなんだけど。」
「それに、薄々気づいてたしな。三年に上がってから、あれだけ執拗にアルトに絡んでたお前が、急に距離を置くようになった。勘当されたショックで、とも考えたが、ありえないしな。これまでの行動を見ていれば、“別人だ”って言われた方が納得できる。」
図星すぎて、何も言い返せない。まさか、そんな前から勘付かれていたなんて。
「でも、今の俺はこの世界のゼノじゃないわけで......。」
「関係ない」
言葉を遮るように、カリムが言い切る。
「俺が好きになったのは、“この世界のゼノ”だからじゃない。今ここにいる、お前だからだ」
そのまま、正面から抱きしめられる。
強くもなく、けれど、どこにも逃がさないような腕の力。胸に耳を押し当てられて、カリムの鼓動がはっきりと伝わってくる。
「どんな姿でも、どんな出自でも、俺はお前を選ぶ」
......嬉しくて、恥ずかしくて、少しだけ、泣き笑いのような感情が込み上げる。
「......昆虫でも?」
「ふはっ、せめて意思疎通ができるものだとありがたいがな。」
迷いのない声だった。俺はその声を聞いて、カリムの胸の中ですすり泣いてしまった。落ち着くまでの間、カリムはずっと背中を優しく擦ってくれていた。
俺が落ち着くと、カリムは静かに口を開いた。
「この世界のゼノじゃないってことは、元の名は他にあるということか?」
「はい。前世はゼノという名前ではありませんでした。」
「その、前世とやらのお前の名前は何だったんだ?」
「えっと......太陽って言うんだ。」
「タイヨウ、そうかタイヨウと言うのか。
口の中で転がすように、カリムが呟く。
「いい響きだな。」
そう言われた瞬間、妙にむずがゆい感覚が胸に広がる。今まで特別に意識したことなんてなかったのに。
「でも、今まで通りゼノでお願いします。いきなりタイヨウなんて呼ばれたら、周りが混乱してしまいます。」
「......そうだな。その名で呼ぶのは、二人きりのときだけにしておく」
少しだけ口元を緩めて、カリムは続けた。
「このまま王宮にいればいい。婚約はすでに公表した。お前がここにいても、誰も文句は言えない」
「いえ、それは遠慮しておきます。」
即答したからか、カリムがわずかに目を細めた。
「俺は、まだ足りてないんです。もっと学ばなくてはいけないことがありますし......自分の力で立てるようになりたいんです。」
これは、俺なりの覚悟だ。
ルクシオ家の人間として生きていくために。
そして、カリムの隣に立つことを許される存在になるために。
「......だから、もう少しだけ待っててほしいです。」
そう言うと、カリムは一瞬だけ言葉を失ったように見えた。
「お前な......今ので断るのか......」
呆れたように息を吐いてから、ふっと小さく笑う。
「......まぁ、お前らしいな」
カリムはもう一度、俺の頭を優しく撫でた。
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