死ぬことが確約されている悪役令息ですが、推しの闇落ち回避のために頑張ります

蒸しケーキ

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44.カリム視点

 皇帝生誕祭の日。

 本当なら、あんな不安そうな顔をしたゼノを一人にしたくはなかった。

 あの潤んだ紫色の瞳で見られると、どうにも俺の心臓は締め付けられる。

 だが立場上、そうもいかない。だから代わりにエルザをつけた。あいつなら問題はないだろう。

「ふーん、あの子がカリムの恋人かしら?」

 ずっとゼノの方を見ていたからか、母上にゼノの姿が見られてしまった。

「母上、あまりじろじろ見ないでください。ゼノが萎縮してしまいます。」

 俺はわざと視線を遮るように一歩前へ出る。母様の目から、ゼノを隠すために。

「まったく、ちょっと見るぐらいいいでしょう? 減るもんじゃあるまいし。......ふふ、反抗期かしら。」

 そう言い残し、母上は満足げに父上の元へ戻っていった。

 生誕祭は滞りなく進んでいた。

 兄上とともに壇上へ上がり、ヴェリタス家の処分を告げるーーそこまでは、何の問題もなかった。

 だが、ゼノとの婚約を宣言した瞬間、案の定、異を唱える者が現れた。

 壇上からそいつらを見下ろす。

 ......一人は、ヴェリタス家に加担していた伯爵家の人間。もう一人は、議会でくだらん理想論を振りかざしている老害か。

 どちらも、この国に不和を抱いている連中だ。

 ーーちょうどいい。

 本来であれば、ここではなかったのだが、まとめて消すには、都合がいい。

「証拠なら今ここで出してもいいが......それ以前に、明日にでも記事に載るだろうな」

 俺はアルトに合図を送り、用意していた書面をその場で配らせた。

 すると、先ほどまで声を荒げていた老いぼれどもは、みるみるうちに顔色を失っていく。

 そこに記されているのは、ヴェリタス家の処刑に関する正式記録。そしてーー狩猟大会での黒狼の出現、毒物事件に関与した家門の名だ。

 日時、場所、取引の内容。さらには国家転覆を企てた計画、その実行過程までも詳細に記されている。

 ......いい気味だ。

 先ほどまで威勢よく吠えていた連中が、こうして地に落ちていく様は、実に愉快だ。

 ヴェリタス家の処遇は、すでに決定事項。今さら覆ることはない。

 ーー爵位の剥奪。全財産の没収。そして、“関係者”の処刑。

 すべて、先日の議会で可決済みだーーもちろん、こいつら自身も賛成していた。

 それがまさか自分たちがその罪を被る側になるとは、夢にも思っていなかっただろうがな。

 くわえて先日、ヴェリタス一家を拷問した現場の惨状もこいつらは知っている。

 だからこそ、自分たちがその対象に入ったことが何より恐ろしいのだろう。

 よくもまあ、涼しい顔でこの決定に賛同していたものだ。つくづく愚かで、そして哀れだ。

 こういう無能は、いずれ国の足枷になる。

 今この場で切り捨てられただけでも、僥倖と思うべきだろう。

 まぁ、殺すのはお前らだけで、一族だけは兄上の温情で生かしておいてやるつもりだ。

「カ、カリム様......! 何かの間違いでございます!!」

「でっちあげでございます!! こんなどこの馬の骨かも知らぬ”阿呆”の虚偽の情報を信じるというーー」

「主、今......私のことを“阿呆”と申したか?」

 背後から、低く、冷たい声が落ちる。

 ーー空気が、一瞬で凍りついた。

「この情報は、私の隠密隊が集めたものだ。......当然、私自身も関わっているがな」

 追い詰められた者たちの顔は、青を通り越して白く染まっていく。

「陛下!! お待ちください!!」
「我々は被害者ーー!」

「......もうよい。話は牢の中で聞いてやろう。連れていけ」

「ハッ!」

 近衛兵に拘束され、連行されていく。

 最後まで喚き散らしていたがーー不快でしかない。耳が腐り落ちそうだ。

 ......これで、お前を縛るものは消えた。

 あぁでも、お前は”人が死ぬところなんて見たくない、やりすぎだ”、と思うだろうな。

 安心しろ。お前には見せるつもりはない。

 知らなくてもいい。俺だけの手で終わらせる。

 そう思い、ゼノへ視線を向ける。

 ーーしかし、なぜかあいつは人だかりの中で、ぽかんと口を開けて立ち尽くしていた。

 ......何をやっているんだ、あいつは。思わず額に手を当て、ため息をつく。

「カリム。後は任せて、ゼノのところへ行ってあげなさい。」

「ありがとう、兄上」

 礼を告げ、壇上から飛び降りる。

 そしてーーゼノを担ぎ上げ、そのまま会場を後にした。

 ......もちろん、そのあと気を失うまでたっぷり愛してやったが。

 その後、目を覚ましゼノをベッドに寝かすと、ゼノは何回も躊躇うようにしながら

「自分は本当のゼノ・ヴェリタスではなく、別の人間がこの体にいる」と語り始めた。

 ーーやっと口を開いたか。

 ずっと抱いていた違和感が、ようやく形を持つ。やはりそうだったか。その方が、俺としても納得がいく。

 だがーーなぜそんな不安そうな顔をしている?

 問いかけると、ゼノは「本当のゼノではないこと」を恐れているのだと言う。

 ......バカだな。

 俺が愛しているのは、“ゼノ”という名前じゃない。お前という存在だ。

 姿がどうであれ、何者であれ、そこにお前がいる限り、俺はお前を愛するに決まっているだろう。

 それに、本当の名は「タイヨウ」と言うらしい。

 試しにそう呼んでやると、顔を真っ赤にして布団に潜り込む。その反応が、俺の中の庇護欲を強く刺激して

 ーーどうしようもなく、可愛がりたくなる。

 こんなに心臓が痛くなるのは、初めてだ。
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