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第31話 色合い、歌う。
しおりを挟む「こんばんはー!」
4人で話し合いをしていると玄関から元気な声が聞こえてきた。
「……良かった。来てくれた」
メールの返信は確認出来ていなかったから後日になると思っていたけど、早急に対応してくれたようだ。
奏太が玄関に迎えに行くと、食堂からは「……あの声ってまさか?」「……だな」「さすがかなたん、仕事早いねー♪」と声が聞こえてくる。
玄関に立ち、辺りをキョロキョロと見まわしていたのは雨音美羽だった。
「遅くに来ていただいてありがとうございます」
「や、うちのライバーたちのためにありがとうございます!」
人好きのする笑顔を向ける雨音に向かい、一番気になっていることを謝罪する。
「管理人の枠を越えて、でしゃばってしまいすみません」
雨音さんは笑みを深めて、首を振る。
「こちらこ謝らないなきゃいけないですね。実は……ちょっと期待してたんです。それにお祖母様からも、『音楽に関して誰かが困ってたら自然と首を突っ込むだろうから使ってくれ』って……」
「ばあち……祖母に会ったことあるんですか!?」
思わぬカミングアウトに衝撃で目が点になる。
「寮にするにあたって下見に来てますからね。それに『音楽もやってる人たちに刺激をもらって欲しい』とも言ってましたよ」
ばあちゃんの入院を辞める言い訳に使ったのに……いつまでたってもばあちゃんには勝てないな、と頬が自然と緩む。
「ま、多分ここまでのことはお祖母様も予想外だったと思いますけどね」
雨音さんはイタズラっぽく笑って「さ、善良な管理人さんを巻き込んだうちの問題児たちはどこですかー?」と食堂へ歩いていく。
———
食堂のテーブルに、5人分のマグカップが並ぶ。
机に広げたノートには、仮のユニット名候補がいくつも書き出されていた。
Palette、Tricolore、canvas——どれも悪くない。でも、「これだ」とは誰も言わなかった。
「決まらないねぇ……」
ひまりがぽそっと呟くと、雪代さんが、マグカップの縁をなぞりながら笑う。
「今まで“自分の名前”だけでやってきたから、誰かと“ひとつの名前”を名乗るって、ちょっと不思議な感じね」
「そうですねー。ひとりじゃない分、余計に悩む」
ひまりも小さく頷いた。「三人で一つ」なんて、簡単なことじゃない。
「……んだな」
ナヅキがぽつりと呟いた。「筆触分割だって……」
と続く前に、声が挟まった。
「秋月さん、本当に“筆触分割”が好きね」
ナヅキのマネージャーの雨音美羽だった。
「この前、配信でも話してたし……他箱に芸術系の方いるから、コラボを打診しようかしら……」
仕事モードになり考え込む雨音さんに向かいひまりが「えへへ」と笑いながら声をかける。
「雨音さん、ナヅキちゃんは“筆触分割”が好きなんじゃなくて、“筆触分割の絵を見た経験”が大切なんですよー♪」
ひまりはそう言いながら俺の方を見る。ナヅキは顔を赤くして俯く。雨音さんその2人を交互に見てから、俺に顔を向けて目を細める。
「なるほど、これは私も予想外でした……まぁでもアイドル事務所でもないし、まぁいっか♪」
と小さく呟くやくと、そのまま雨音さんは、ふと紙に何かを書き始めた。
口元にはほんのりと笑みを浮かべている。
「“Tintale”……?」
俺は覗き込むようにして読んだ。
「Tint(色合い)とCantare(歌う)を合わせた造語です。なんか……奏太さんも含めたあなたたちにぴったりかなって。色合いの違う3人が、ひとつの歌を歌う。そんなユニット」
「Tintale……」
雪代さんがその響きを転がすように呟いた。
「優しくて、どこか芯がある音ね。私、好きだわ」
「……筆触分割の色合いみてぇで、悪くねぇな」
ナヅキも、小さく笑う。
「それぞれの色が、歌になる。……それ、いいな」
「わ! 新しい言葉♪先入観をもたれないってのはいいねー♪」
ひまりは弾けるように笑った。
「2人の歌に、うちなりの色を混ぜるよー♪」
俺は3人の表情を見回した。
「じゃあ、『Tintale』で決まりだな」
雨音さんは俺が淹れたお茶を飲んで、ほっと息をつく。
自分のアイデアが採用された安堵か、それとも……
「雪代さんが引退するって、社長の提案に乗りかけたときは本気で頭抱えたけどさ。……でも、今は期待してる」
「……雨音」
雪代さんは雨音さんが本当に心配をしていたことが伝わり、恥ずかしそうに小さく頬を緩める。
「この3人が集まったら、ただ“戻る”んじゃなくて、“進める”なって、思ったの。
長くマネージャー業してる勘だね。
だから、全力で支える。雪代さんがもう一度ステージに立つなら、それは白雪セラを追ってlyriccolourに入った私の“誇り”だもん」
その言葉に、雪代さんの肩が小さく震えた。
「……うれしいな。本当にあなたは口が回るようになったわね」
雨音はイタズラっぽく、「だって私、いつの間にか年数だけ上になっちゃったんですもん」と以前の会話をもじって笑った。
“Tintale”。色合いが異なる3人の声が、ひとつの歌になる——そんな爽やかな風が、誰かの心に響いてくれたらいい。
そう願いながら、奏太はそっとノートの次のページにその名を記した。
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