今日から管理人さん、寮はVtuberだらけ。

小林夕鶴

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第34話 3つの光が重なるとき

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 画面の中で、ライトが照らすステージは、現実味がないほどに眩しかった。

 実際に3人がライブをするステージも広く、大勢のスタッフが入っている。
 忙しなくスタッフが動く中、配信画面を注視する。待機する視聴者数はすでに5万人を超えていた。


 控え室の空気は張りつめている……はずなのに、どこか柔らかく、温かい。


「緊張してんの?」

 すぐ隣に立っていた雪代さんが、ふとそんな言葉を落とす。

「まぁ、少しだけ。やっぱり場違いですから」

 そう返すと、彼女は肩をすくめた。
 結局、3人からの強い要請もあり生演奏に合わせた歌の披露となった。そのメンバーに俺もいる。
 コーラスだけは男性の声で炎上させてはいけないと必死に止めた。

「大丈夫よ。あの2人は、本当に楽しみにしてるみたいだったから。私も、もちろん」

 この3Dライブの主役であるひまりがリズムを取るように軽く身体を動かしている。
 その隣でナヅキは目を閉じ、静かに息を整えていた。

 モーションキャプチャーをつけた3人は、不思議な格好だが、ステージ衣装のようで思ったよりもずっと、まばゆかった。


 音森荘に集まったみんなは“表現者”として、まさに光の真ん中へ向かおうとしている。

 その姿に目を細めると、後ろからひとつ、溜息まじりの声が聞こえた。

「ほんと、やってくれるなぁ……このままいったら、私、泣いちゃうかも」

 そう言って笑ったのは、ナヅキのマネージャーである雨音美羽さんだった。







 照明が暗転し、配信画面ではコメントがざわつく。
 いよいよ、ひまりの3Dソロライブが始まった。


 ステージに立ったひまりは、まるで別人のように堂々としていて──
 でも、どこか、あの頃の彼女のままだった。

「みんなーっ! 来てくれてありがとーっ!」

 観客の拍手と歓声が響く。
 実際にそう思える量のコメントが降り注ぐ。

 彼女は、まっすぐ前を向いて歌い、踊り、飛び跳ね、煽る。
 何度もリハーサルを繰り返したステージ。その全てを、彼女は楽しそうにやってのけていた。

 
 不安で、置きに行くように歌っていた頃。
 自信がなくて、笑っているのに、どこか泣きそうな目をしていた頃。
 それでも、“楽しい”を届けたいと思っていた、あの頃。

 すべてが、報われるような時間だった。

 50分間のライブを笑顔でやり遂げると、ひまりは深々と頭を下げ──

「ありがと! ……でも、まだ、終わりじゃないよっ!」

 コメントがまたひとつ、はやくなった。



 そして──

 予告にはなかった、新曲のイントロが始まる。
 コメントがざわつく。モニターの中で、三つのシルエットが現れた。


 ひまり、ナヅキ、雪代さん。


 この日初めて披露されるユニット、“Tintaleティンターレ”としての初ステージ。

 衣装も新しく揃え、白を基調に、それぞれのイメージカラーを差し色に取り入れた華やかなもの。

 センターに立つのは、リーダーであるひまり。ナヅキと雪代さんが、左右に並ぶ。


 緊張の中、俺の弾くイントロが終わり、静寂。
 そして──


 「♪──秋の風が 名前を呼んだ日、声にならなかった色が いま、ひとつに──」


 あの曲だ。
 俺が昔、趣味で作っただけの未発表曲。
 雪代さんが“これがいい”と引っ張り出してきて、ナヅキが言葉を綴ってくれた。
 そして、3人が声を重ねて完成させた曲。


 このステージのために生まれ変わった曲が、いま視聴者に向かって真っ直ぐ届けられている。


 ひまりの低く力強い声。
 ナヅキの柔らかく透明感のある声。
 雪代さんの、澄んで芯のある声。


 3つの声が、交差し、重なり、響き合う。
 これは、ライブじゃないと聴けない音だった。


 コメントは、一時的に空白となる。誰もが、ただ聴き入っていた。
 息を飲み、目を見開き、心を奪われて──
 爆発的に、コメントが流れだす。
 時が動き出したかのように。






 ラストのサビを歌い終え、3人が手をつなぐ。

 照明が落ちて、暗闇の中にただ万雷のコメントが流れていく。

 その中で、再びライトが戻る。
 ひまりの頬には涙。ナヅキは微笑み、雪代さんはまっすぐ前を見て言った。


「──これが、“Tintaleティンターレ”です。聴いてくれて、ありがとう」




 控え室に戻ってきた3人は、全身汗と熱気に包まれながらも、まるで晴れやかな表情だった。
 俺が駆け寄ると、ひまりが笑顔で飛びついてきた。

「かなたーんっ! ほめてーっ、ほめてほめてーっ♪」

「わ、ちょ、ちょっと落ち着けって!」

 慌てて引き剥がそうとした俺の袖を、ナヅキが小さく引いた。

「……見てた。ずっと。奏太が、いてくれだから、わたしたち──こごまで来れだ」

 視線を合わせずに、でもしっかりと届くように。
 その声は、誰よりまっすぐだった。


 俺は──この日、この瞬間を、きっと一生忘れない。
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