君という名の物語

カニ

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再会

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彼女がいなくなったので、僕はまた今まで通りの生活に戻ることができた。一日二回のお父さんとお母さんの訪問、読書、友達へのメール。ずっとこんな生活を続けて飽きないかと思う人がいるかもしれないが、本はたくさんある。読み終わってもまた新しい本を読めばいい。訪問してくる友達が今いない僕はそれで十分だった。

ある日、お父さんがDVDを持ってきてくれた。案の定、彼女が出てる作品だった。どうやらお父さんは彼女にハマっているらしい。でもせっかく持ってきてくれたので、見てみようと思い、テレビをつけたら、彼女が出ていた。復活会見的なものだった。しばらくそれを聞いていたが、気がついたら寝てしまっていた。DVDを見るのは明日でいいかと思いながらスマホを手に取った。何となく彼女のことを調べてみた。それを見て僕は絶句した。検索して一番上に出てきたページを何気なく開いてみると、一番上の書き込みに「演技が下手なんだから出てくるな。そのまま死んじまえば良かったのに」と書いてあった。

僕は久しぶりに怒りという感情を体験した。どうせここに書いた人は彼女にあったこともないくせに。本当の人間性を知らないくせにと思った。演技が下手なら死ななくてはいけないのか。それならお前が彼女よりも上手に演技をしてみろよとその人に心の中で叫んでいた。しかし、それは僕がさっき思ったことに反していた。自分だってその人にあったことないのに悪口を言うなと自分で思った。そう思うことで怒りの矛先を自分に変えようとしたが、結局その人への怒りが収まることは無かった。

その次の日、DVDを見た。自分はやっぱりその演技が下手だとは思わなかった。そしてその後、DVDの映画の原作を買いに行った。読み終わると、もう夜だった。そしてその後来たお父さんにDVDとその原作の本を渡して、検査を受けた。この時しか僕は病気の存在を意識することはなかった。それほど現代の医療は発達していた。

そのまま一週間がたった。その一週間は、何も無かった。いつも通りの、彼女と会う前の生活をしていた。しかし、その次の日、また彼女が戻ってきた。またうるさくなるな、と思った。その考えを見越したかのように須賀さんが、

「すいません、またうるさいのが戻ってきてしまいました」と言ってきた。ほんとですよ、と言おうかと思ったが、心に留めといた。病室は違ったが、またこの病院に来たのであいさつに来たらしい。

「じゃあ、僕先に行きますね」

須賀さんが居なくなるとすぐにまたうるさくなった。

「また戻ってきちゃった。ねぇ、どうしてか気になる?実はねー、最近調子良かったんだけどねー、急にまた悪くなっちゃったんだー」

僕は無視を続けたが、気にしていないのか、ずっと一人で話し続けてた。ついに我慢できなくなって、話に入ってしまった。

「ねぇねぇ、最近何かいい事あったー?」

「面白い本を読めたよ。はい、これで満足?」

「まだまだー。次はねー」

話しかけて、永遠に続くんだろうなーと話に入ったことを後悔した。

「私もねー、好きな本あるんだー。教えてあげようか?」

「君が知ってるような本は僕も知ってるよ」

「まあまあそんなこと言わずにこれ読んでよー」と、一冊の本を差し出してきた。本屋で貰えるカバーには「共病文庫」と書いてあった。

「何これ?」

「え、この本を知ってるならこの単語を知らないわけがないよねー?」

なんだか腹がたったので、無視してカバーをとった。題名には「君の膵臓をたべたい」と書いてあった。題名は聞いたことがあるが、読んだことは無い本だ。

「読んだことあるー?」

「いや、題名は知ってるけど読んだことは無い、かな」

「じゃあ読んでみなよ。この本めっちゃ感動するんだよー?」

「なんか気が進まないから嫌だ」

「実はねー、この本を君にすすめたのはね、この本に出てくる子が膵臓の病気で、もうすぐ死ぬの。私達も余命宣告されてるんだし、入り込みやすいと思うよー」

「それは少し興味があるな。読んでみるよ」

「そうしてくれると嬉しいなー」

そう言って彼女は出ていった。とりあえずしばらくはこの本で暇を潰せそうだと思った。

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