君という名の物語

カニ

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退院

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僕らはしばらくトランプを続けたが、朝食が運ばれてくると会話を始めた。学校での話などを聞かれた。僕は女優という職業について聞いた。

そして時計の針が10時を回った頃、誰かが来た。その人たちはテレビでしか見たことの無い俳優さんや女優さんだった。今日撮影する予定だったドラマの撮影が中止になったので、お見舞いに来たらしい。僕は別に有名人に興味はなかったので、本を読もうとしたが、俳優さんの1人が話しかけてきたので、それから会話に参加した。

たくさん話をして、早苗さんのことも色々知れて、僕は満足だった。俳優さん達は帰っていった。昼食を食べたあと、今度はお母さんが来た。簡単に会話を交わしてお母さんは帰っていった。

「あーあ、みんな帰っちゃって暇だなー」

「別に僕はそれでいいけどね」

彼女がもっと親しくなりたいからタメ口でいいよと言ってきたので遠慮なくそうさせてもらった。

「君と二人でももう話すことないなー」

「僕は読書するからいいけど」

「相変わらず本ばっか。友達と別れちゃって本当に良かったの?」

「別にいいんだよ。メールで話せるし」

しばらく話して、僕がトイレから戻ってくると、彼女は寝ていた。その間に僕は本を読み終えた。退屈になったので、スマホを見ていた。ネットニュースでは彼女の病気の話題で持ち切りだった。不思議な感覚だった。ニュースで話題になってる人が隣で寝てるのだ。なんの病気かは書いてなかった。こんなに元気そうな人が病気になってるなんて未だに信じられなかった。

次の日、僕は久しぶりに外に出た。別に出ちゃ行けないわけではなかったが、ずっと本を読んでいたので、外に出ようとも思わなかった。昨日本を読み終わってたし、新しい本も貰えなかったので、鞄の中に入っている財布を片手に本屋に行った。色々な本を物色して、気になった本を立ち読みしていた。

30分くらいたっただろうか。話も一段落していて、これを買おうとレジの方を見ると、隣で彼女が本を読んでいた。まさかいるとは思わなかったので、思わずうわっと言ってしまった。周りの人が一斉にこっちを見ている。彼女は、大笑いしてた。僕は自分の顔が赤くなるのがわかった。

「いやー、ここまでびっくりするとは思いませんでしたよ」

「普通びっくりするでしょ」

「あー面白かった」

不注意な自分が100%悪いんだけど何故かむかついた。そのまま僕は本を買って1人で病室に戻った。

次の日、朝起きてネットニュースを見た。するとそこには思いがけない記事があった。そこには、「闘病中の女優、青木早苗、恋人がいる!?」というもので、一緒に載っていた写真には本屋で僕と仲良さそうに話している彼女が写っていた。

その日から、週刊誌の記者がこの病院の僕らの病室にやってきた。そして、その度に色んな週刊誌に同じことが書いてあった。

彼女はそんなに気にしていない様子だったが、僕は彼女に迷惑をかけるのが嫌だった。病室を変えてくれと頼もうか迷っていたが、そんなことしなくても良かった。

彼女は少し良くなったらしく、須賀さんが看護師さんに言ったらしく、そのまま退院して行った。

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