君という名の物語

カニ

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出会い

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僕は入院した。今の医療では完治は難しい病気だった。僕は友達を心配させたくなかったので、悲しかったが転校すると言って友達に別れを告げてきた。もう治らないと開き直っていたので、学校を辞め、唯一の趣味である読書を病室で楽しんでいた。僕の病室は三人部屋だったが、まだ一人しかいなかったので、家族か、友達とメールで話すことしかコミュニケーションをとることができていなかった。

ある日、小説を読み終わり、暇だったのでテレビで1年前に公開された映画を見ていた。ぼーっとしながら僕は必死に演じている女優さんを見ていた。

「この人、確か演技が下手って叩かれている人だったな。別にそうは思わないけど」と、独り言のように言っていた。まあ実際独り言なんだけど。

無性にその人のことが気になってネットで調べてみた。彼女は青木早苗という人だった。僕より2つ年上の18歳。この人みたいに病気なんて気にしないで好きなことを好きなように出来たらいいのにと彼女を羨んだ。

次の日、母親が本を持ってきてくれた。偶然にも、昨日テレビで見た映画の原作だった。僕はそれを夢中になりながら読んでいた。

気がつくと、日も暮れて6時になっていた。あと三分の一ほど残る本をベットの上に置いて、僕はトイレに行った。その後、売店で好きなジュースやお菓子を買い、夜するゲームの準備をした。

自分の病室の前に来ると、何故か違和感がした。中から物音が聞こえてきた。見舞いに来る人は家族しかいなく、お母さんは昼間に来たので、お父さんかと思った。いつも来るのが遅いお父さんに驚いたが、さほど気にもせず、扉を開けながら「お父さん今日は随分早いんだね」と言った。言ったあとお父さんじゃないことに気づき、とても驚いた。そこには思ってもいなかった人がいた。

「こんにちは。今日からこの部屋に入院することになった青木早苗です。よろしくお願いします」と、思ってもいなかった彼女はそう言った。

「え?」

困惑する僕を気にもせず彼女は、

「あ!これ私が出た映画の本じゃん!この本好きなの?」

と聞いてきた。仕方ないので僕は、

「いや、今日お母さんが持ってきてくれて、初めて読みました」

と言い返した。

「へぇ、そうなんだぁ。じゃあじゃあ、昨日やってたこれの映画見た?私が出てるんだよね」

「あ、はい。見ました」

「どうだった、私の演技?」

「え、あ、上手だったです」

「その反応、ちゃんと見てなかったなー」

「あ、いや、しっかり見てましたよ」

そんな話をしていると、誰かが扉をノックした。誰だろうと思って見てみると、全然知らない人だった。

「須賀さーん、私病気になっちゃったー」

そう彼女が言った。須賀さんと呼ばれたその人はどうやら彼女のマネージャーらしかった。

「もう、しっかりしてくださいよ。体調管理も女優の仕事のひとつですよ」

「そんなこと言うならスケジュールもっと考えてくださいよ。あんな馬鹿みたいに忙しいスケジュールだと病気になるの当たり前ですよー」

二人の会話を聴きながら、僕は最近家族と看護師以外の人と話してなかったことに気がついた。今更転校したと嘘をついたことに後悔した。二人は会話に夢中になっていた。なので、本の続きを読み始めた。その三秒後、須賀さんが僕に話しかけてきた。なんてタイミングが悪いんだろうと思った。

「あ、申し遅れました。わたくし、青木早苗のマネージャーの須賀義樹と申します。彼女、うるさいだろうけど、どうか許してやってください」と、保護者のように言った。

「いやいや、私さすがに同じ病室にいる人を不快にするような事しないですよー」

「いつも楽屋で騒いでスタッフの人に注意されているのはどこの誰ですか?」

「誰でしょうね」

「あなたですよ。あ、もうこんな時間だ。では、僕は明日からの撮影に出られないこととかを連絡しなきゃいけないので、もう帰るとします。君、もし彼女がなにか迷惑かけたらいつでも言ってくださいね」

「だからそんなことしませんって~」

「ではまた」

そう言って須賀さんは帰っていった。よし、続きを読むぞと思ったら、すぐに彼女は僕に大声で話しかけてきた。

「ってことでよろしくね。あ、そういえば、私まだ君の名前聞いてなかった。なんて名前なの?」

「えっと、山田幸一って言います。こちらこそよろしくお願い致します」

「へぇ、山田くんかぁ。趣味は?」

「読書です」

「学校は?」

「病気ってことを友達に知られないためにやめました」

「ふぅーん」

彼女は自分から聞いてきたくせに全く興味無いような言い方で話を終わらせて、テレビをつけた。ようやく質問攻めは終わったみたいなので、再び読書を始めようとしたら今度はお父さんがやって来た。どうしてみんな僕の読書の邪魔をするのだろうか。

「幸一、来てやったぞ~。あれ、新しい人が来たのか。ん?君どこかで見たことあるぞ?」

「私は女優の青木早苗です。よろしくお願いします!」

「ああ、道理でどこかで見たことあると思ったんだ。昨日の映画、見たからね。すごい良かったよ~」

「ありがとうございます!すごく嬉しいです」

このままずっと話していそうだったので今日来た理由を聞いた。「おう、そうだ、今日はお前のために本を買ってきてやったんだ」

そう言ってお父さんがテーブルに置いた本は、昼お母さんが持ってきた本だった。全く、今日はついてない。でも受け取らないと失礼かと思い、そのことは言わなかった。

「ありがとう」

しかし、隣のベットにいた彼女が僕の気持ちを踏みにじるように

「あ、それ今日彼持ってましたよ」と言った。

「なに、そうだったのか。じゃあ君にあげるよ」と言ってお父さんは持ってきた本を彼女に渡して帰っていった。これでようやく続きが読めると思ったらまた質問攻めにあった。

そんなこんなで、この日その本を読み終わることは出来ず、今までとは変わった一日を過ごした。でも、これが僕の未来を変えることになるなんて夢にも思わなかった。

次の日、朝6時に起きると彼女はもう起きていた。今まで僕より早く起きてる人はあまりいなかったので、僕は驚いた。どうやら彼女は今まで仕事が忙しく、朝4時に起きるのが習慣になっているらしかった。彼女の職業のせいで、僕の朝早く起きて続きを読むという僕の計画は一瞬で崩れ去った。何を聞かれるかと思ったら彼女はトランプを取り出してきた。彼女は出会った人とトランプをするのが日課だと言った。二人でトランプなんて楽しくないと言ったが、そんなこと気にもせずにババ抜きの準備をしていた。

結果は、7回やって6回勝った彼女の圧勝だった。僕はここまでババ抜きが弱かったのかと軽く自分に失望していた。その姿を見て、彼女は笑っていた。

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