榊原さんちの家庭の事情

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強気なΩは好きですか?①

厄介な人々

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「樹、待ってくれ!」

 今日も今日とて篠木先輩は僕を追ってやってくる。サッカー部のエースは部活動だって忙しいのだろうに、なんで来るの!?

「あなたに名前で呼ばれる筋合いないですよ! 呼び捨てにしないでください!」
「何でだ!? 樹は俺の『運命』なのに!」
「はぁ!? 冗談も大概にしてください、僕は先輩の『運命』なんかじゃありません!」

 『運命』それはαとΩの中でも特別に結ばれる事を運命づけられている相手の事を指す。そんな2人の事をバース性の人間は『運命の番』と呼ぶのだけれど、そんな2人はお互いを一目で選び出し結ばれると聞いている。どうやら先輩はその『運命』を僕に感じたらしいのだけど、生憎僕の方は先輩に『運命』なんてこれっぽっちも感じてないからね!

「俺はお前の為なら命だって賭けられる!」
「そういうの本当に迷惑! 止めてくださいって何度も言いましたよね!?」

 僕は立ち止まり、追いかけてくる先輩に面と向かってもう一度「僕はあなたの『運命』なんかじゃあ・り・ま・せ・ん!」と言い切る。

「そんな訳はない! 俺ははっきり樹に『運命』を感じたんだ! この感覚が間違っているだなんてあり得ない!」
「そんなの勘違いです、それこそ絶対あり得ません! 先輩いい加減うざいですよ!」
「俺は! 俺は……今までの人生をサッカー一筋で生きてきた、だけど譲れない! お前の事は譲れない、樹が手に入るなら俺は俺の人生だったサッカーだって捨てられる!」

 えぇ……なんか滅茶苦茶重いんですけどぉ。僕、そういうの好きじゃないなぁ。

「いい迷惑」
「俺は本気だ!」
「はいはい、そこまで言うならやってみなよ、どうせ口だけでできもしない癖に!」

 まぁ、本気でサッカーを捨てたとして僕が先輩の恋人になるかどうかは別問題だけど、僕は売り言葉に買い言葉でそんな返答を返してしまう。

「俺は本当に本気だからな!」
「だから好きにしたらって言ってるんですよ。僕は先輩がサッカーをやってようが辞めようがどうでもいいですから!」

 「分かった」と頷いて篠木先輩は行ってしまったのだけど、何が「分かった」なのか僕には全然分からないよ!



「榊原樹というのはどいつだ?」

 篠木先輩とそんな会話をした翌日、教室にいた僕の前に大きな男が現れた。たぶん間違いなく上級生、厳つい表情のその先輩は僕の顔を見るなり「お前が?」と不審気な表情を見せて僕を上から下まで眺め回す。

「どんな美女かと思ったら、おかまじゃないか」

 んなっ!? それ面と向かって僕に言う!? 確かにΩは男女の性差的には曖昧な部分があるからそういう性差別に晒される事はよくあるけど、こんな真正面からそんな事言われたの初めてだよっ!

「僕はただのΩです、そういう差別はいけないと小学校で習いませんでしたか?」
「あぁ、Ω……Ωねぇ、実際にいるもんなんだな」

 バース性の人間は数が少ない、この世界のほとんどはβの人間で構築されていて、αと呼ばれる優秀な人間は多くても一学年に2・3人、Ωは更に少なくて僕の学年には僕一人しかいない。
 けれど、そんな少数のαに支配されたこの世界ではバース性だというだけで色々な優遇が受けられる。それをやっかむ人も多いのだけど、僕の周りは今までわりと平穏だったから、こういう差別発言は初めてだ。
 先輩に促されて僕達は教室を離れ、少し人気の少ない階段の方まで移動する。完全に人気のない場所だと何されるか分からないし危険だから常に退路は確保しつつ距離も詰めないよ。だってこの人怖いもん。

「先輩、僕に何の御用ですか? 用件は手短にお願いしたいのですけど……」
「お前、分かってるんじゃないのか? 篠木に退部を唆したのはお前だろ!」
「篠木先輩?」
「そうだ! 面子的にも今年は全国優勝だって狙えると思っていた矢先にこれだ、篠木はうちの部のエースなんだぞ!? しかも奴は特待生だ、部を退部すれば即退学だ」

 あぁ、この人サッカー部の人なんだ。まるで僕が彼の事を知っていて当たり前みたいな話ぶりだけど僕全然知らないからね、スポーツってあんまり興味ないし。それにしても篠木先輩、本気でサッカー辞める気なのかな? それを僕に言われても困るんだけど。

「篠木がΩを襲って一週間の謹慎を受けたのは聞いているが、そこからあいつはおかしくなった、お前篠木に何をした!」
「僕は何もしてませんよ。何なら僕の方が被害者です。篠木先輩は勝手に暴走しているだけで、僕だって篠木先輩には迷惑してるんです」

 まるで僕が先輩を誘惑したような口ぶりだけど、ホント言いがかりも甚だしい。先輩は勝手に辞めると言い出して、勝手に暴走してるだけなのに、それを全部僕のせいにされたら堪らないよっ!

「キャプテン! 何やってるんですか!? 樹、大丈夫か?」

 そこに現れたのは騒動の張本人である篠木先輩、あぁ、この大きい人、サッカー部のキャプテンなんだ。どうりで物言いが偉そうだと思ったよ。

「篠木先輩、あなたが部活を辞めるのは勝手ですけど僕にまでいちゃもんつけられるのは迷惑です! 僕、関係ないんで部活の話は本人同士で話を付けてくださいね」
「キャプテンが樹に? それは申し訳なかった」

 そう言って篠木先輩は僕に頭を下げる。何だかね、篠木先輩って割とこういうとこ礼儀正しくて、四季兄を病院送りにしたの嘘みたいに穏やかな人なんだよね……あの事件の後も平身低頭土下座せんばかりの勢いで謝られたから、なんとなく許しちゃったんだけど、そんな人がなんであの時だけはああなっちゃったのか、僕にはよく分からないよ。

「篠木! なんでお前が頭を下げる必要がある!? それはおかしいだろう!?」
「おかしくなんてないですよ、樹は俺の番相手で生涯を共にする伴侶です! 尊厳を持って接するのは当然でしょう?」
「いや、待って! 僕達まだ付き合ってすらないですよね!?」

 物腰穏やかにこられるとつい絆されがちだけど、言ってる事は滅茶苦茶で頭が痛い。

「樹はそんなに俺が嫌いか?」
「嫌いとかそれ以前の問題ですよ! 僕は先輩を知らないし、先輩だって僕の事全然知らないでしょう!? 僕、自分が可愛い自覚はあるんで、顔に惚れられるのは迷惑です。むしろ、そういう人は嫌いです!」
「俺が樹に惚れたのは顔じゃない! そもそもあの時、俺は樹の顔を見ていない」

 あぁ、そう言えばそうだった。あの時、発情期ヒートのせいで溢れ出したフェロモンに困った僕は、男子トイレの個室に籠って四季兄に助けを求めたんだ。そんな時に現れたのが篠木先輩で、僕が個室から外に出たのは篠木先輩が連行された後だったから僕もその時点で篠木先輩の顔を確認してないんだった……
 だけど変だな? 僕は謝罪に来た篠木先輩を一目見た瞬間からそれがあの時の人だってすぐに分かったんだ。名前だけは聞いてたけど顔は知らなかったはずなのにね。

「ああもう! どっちにしても部活云々は僕関係ないんで、お二人で相談の上で決めてください! 僕は失礼します!」

 そう言って僕は踵を返す。あぁ~あ、厄介な事に巻き込まれちゃったなぁ……
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