榊原さんちの家庭の事情

矢の字

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強気なΩは好きですか?①

釣った魚

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「榊原君! さっきの先輩たち何だったの? また告白?」

 教室に戻ると同中だったクラスメイトの女子が興味津々で僕の前へと現れる。はっきり言って僕、男にも女にもよくモテるからね、こういうの割と日常茶飯事で、それに慣れきっている友人は「ご苦労さま」と、僕の肩を叩く。
 それにしても先輩『たち』と言ったって事はどこかで僕を見ていたな? 見てたんなら助けてくれてもいいのに。

「さっきのサッカー部のキャプテンとエースの人でしょ? 相変わらず榊原君は上玉ばかり釣りあげるよね、羨ましい」
「羨ましいなら持ってってよ、好きでもない相手に惚れられるって結構疲れるんだよ?」
「うわぁ、モテる人間の上から発言、そういう事ばっかり言ってると嫌われるわよ?」

 そう言って彼女はけらけら笑うのだけど、上からって言うか真実なのにな。モテたくてモテてる訳じゃないやい!

「あの先輩達、私テレビで見た事ある! 確か去年の全国大会良い所までいったのよね……動画とかあるんじゃないかしら?」

 そう言って彼女はすいすいとスマホを操作して動画サイトを立ち上げると僕にサッカーの試合の見どころダイジェスト的な動画を「ほら」と見せてくれた。そこに映っていたのは確かに篠木先輩とさっきのキャプテン、篠木先輩はセンターフォワードでキャプテンはゴールキーパーか……あれ? 予想外、篠木先輩がちょっと格好いい。
 エースストライカーである篠木先輩は2人のディフェンダーの間をすり抜け敵陣ゴールへ見事なシュートを決めてみせる。その姿は僕に縋り付いてくるようないつもの瞳ではない凛々しい顔つきで、あの人こんな顔も出来るんじゃないか……と少し微妙な気持ちになった。

「格好いいわよねぇ、ファンクラブもあるって聞くし、榊原君恨まれるわよぉ」
「そういうの本当に迷惑!」

 僕が不貞腐れたように頬を膨らませると彼女はまたけらけらと笑い「頑張って」と僕の肩を叩いた。



 その日、僕は家に帰ってから動画サイトを漁って先輩の出ている試合を幾つか発見した。その試合のどれを見ても先輩は目覚ましい活躍をしていてキラキラしている。

「何だよ、あの人すごくサッカー上手だし格好いいんじゃん。何であんなに簡単に辞めるとか言うんだろ? 意味分かんない……」

 僕は部屋でクッションを抱えてタブレットを見やる。ゴールを決めて満面の笑みでチームメイトにもみくちゃにされている先輩はどう見てもキラキラの好青年、なのに何で? なんで僕の前ではあんななんだろう? どうにも納得いかない僕は画面の中で格好良くボールを蹴る先輩を見やる。あぁぁぁぁ……もう、もやっとする!!!
 僕がベッドの上でじたばたと暴れていると、久しぶりに僕達の部屋に戻ってきていた四季兄ちゃんが「何かあったか?」と僕を窺う。

「別に何もないよ!」

 怒ったような僕の返答に「だったらいいけど、何かあるんならすぐに俺に言うんだぞ」と四季兄ちゃんは相変わらず僕に優しい。あああ、もう好き! 大好き!
 なんで四季兄ちゃんは一縷兄ちゃんを選んでしまったのだろう、僕ももっと積極的にアピールしとけば良かったよ。



「樹!」

 今日も今日とて篠木先輩は僕の元へとやって来る。

「先輩部活は良いんですか?」
「あぁ、もうきっちり話は付けてきた」
「部活辞めたら退学なんでしょう?」
「ん? 確かに俺はサッカーの特待生としてこの学校に入学したけど、成績だって悪い訳じゃない、特別に試験を受けさせて貰える事になってな、それに合格すれば良いと担任が……」
「なんで!?」

 満面の笑みでそんな報告をしてくる篠木先輩、なんでそんな普通に笑ってるの? サッカーは自分の人生だって言った癖に、それをそんなに簡単に捨てちゃうの?

「樹は俺が学校を辞めた方が良かったか?」

 急にしょんぼりと眉を下げる篠木先輩、だけど僕はそんな事一言も言ってない!

「僕は一度目指した目標を簡単に捨ててしまう人は嫌いです! そうやって何もかも放り出してそれで先輩は何がしたいの!? 一時の感情の盛り上がりで周りを振り回して何が楽しいの!? そんな事をする人、僕は信用できないよ! 他に好きな人が出来たらきっと先輩は今回のサッカーみたいに簡単に僕を捨てるんだろ? 僕はそんな人とは付き合えない!」
「樹……」
「サッカーしてる先輩、すごく楽しそうで、か……恰好良かったよっ! でも、今の先輩はすごく格好悪い。僕はそんな人の番になるなんて真っ平だ!」

 あぁぁぁ……格好いいとか言っちゃった……でも、小さな画面の向こう側でキラキラしてる先輩は本当に格好良かったんだよ。出会ってからこっち、乱暴だったり、かと思えば妙に低姿勢で僕に媚びへつらうみたいな態度の先輩しか見てこなかったから、こんな人大嫌いだって思ってたけど、試合中の先輩だけは何度見ても格好良かったんだもん!
 兄ちゃん達のスペックが高すぎて今まで他人にそんな風に思った事ほとんどない僕がそう思ったんだから、先輩は間違いなく格好いいんだ。悔しいけどね!

「樹……俺はお前がいればそれで……」
「僕、そういうのも嫌い! 恋愛で自我を失くすとか馬鹿なんじゃないの!?」
「そんな……だったら俺はどうすれば……」
「やるべき事はちゃんとやる! 全国大会、去年も良い所まで行ったんでしょう? だったら今年は優勝しなよ、そしたら付き合ってあげてもいいよ?」

 しょんぼり項垂れていた篠木先輩の顔がぱっと上がる

「全国大会優勝したら、番になってくれるのか!?」
「そこまでは言ってないよ! 高望みしすぎ。そもそも僕達まだ高校生なんだよ? 番になるとか早すぎる。それに未来の見えない番相手なんて僕は嫌だよ、もし番になるなら先輩がプロのサッカー選手になった時だ」
「俺、絶対にプロになる! 待っててくれ、樹!」

 そう言うが早いか、叫ぶようにして篠木先輩は踵を返し駆けて行った。なんだろな、知ってたけど先輩猪突猛進過ぎなんじゃない? 僕は少し可笑しくて、くすくす笑ってしまう。次の試合は僕もこの目で、生の先輩の雄姿を観に行ってみようかな?
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