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強気なΩは好きですか?①
本能
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女友達が言っていたように篠木先輩はその日、それはもう紳士的に僕を家まで送り届けてくれた。特別口説かれるでもなく迫られるでもなく他愛もない話をしながら並んで歩く。まるで普通の友達みたい。
「樹、今日はあいつに送ってもらったんだ? 何もされなかったか?」
四季兄ちゃんが少し心配そうに僕の顔を覗き込むので「平気」と首を縦に振る。
「普段のあの人にそこまでの甲斐性はないよ。あの日はやっぱりたまたま僕の発情フェロモンにやられただけみたい。僕も懲りたし、ちゃんと薬は持ち歩いてるから大丈夫」
僕の返答に少し心配顔の四季兄ちゃんは「それでもあいつはαなんだし、前科もあるんだから油断はするなよ」と釘を刺す。
「連絡くれればいつでも迎えに行くから」
「兄ちゃんにだって友達付き合いあるだろう? そこまで過保護に心配してもらわなくても大丈夫だよ!」
「だけどなぁ……」
「兄ちゃん受験生なんだから、僕の心配より自分の心配。僕の都合で振り回して兄ちゃんが受験に失敗する方が僕は嫌だよ」
僕の言葉に兄ちゃんは苦笑しながら「俺、そこまで頭悪くないから」とそう言った。知ってるよ、四季兄ちゃんは我が家で唯一のβなものだから、兄弟の誰の隣に立っても恥ずかしくないようにって人一倍頑張ってる人だもん。僕はそういう頑張り屋な所が大好きなんだから。
ああ、そうか……僕はたぶんそういう人が好きなんだ。先輩をいまひとつ好きになりきれないのは先輩にそういう前向きな姿勢が見えないからだ。優秀だと言われているαは色々な事ができて当たり前で、だからこそ自分が成した事でも簡単に捨てられる。僕はそういう先輩の姿勢がたぶん好きじゃないんだな。
「どうした? 樹?」
「うんん、何でもない」
僕は笑って首を振る。僕が先輩の『運命』なんだって信じられない所以はそこなのかな? バース性の『運命』ってのは所詮身体の相性なんだと思うんだよね、お互いに求め惹かれ合うって聞くけど先輩が僕に発情したのって匂いが好みだったって結局そういう理由だろ? そんでもって僕があの時発情したのもたぶんαの匂いに身体が勝手に反応しただけ。元々発情期の時期でもあったからタイミングが悪かったってそれだけの話。
たったそれだけの事で自分の人生を決めちゃうなんて早計もいい所だし、αの側はΩを選び放題だけどΩは一度番にされたらそのαに一生束縛される運命なんだから、そこは慎重にならないとね。
「それより僕お腹空いた。四季兄なにか作ってよ」
甘えたような声で僕がねだると四季兄ちゃんは仕方がないなと苦笑して僕を甘やかしてくれる。やっぱり僕は四季兄ちゃんがこの世で一番大好きだ。
その日、僕の前に現れた先輩は少し顔色が悪かった。
「何ですか? 風邪? 体調悪いのに来ないでくださいよ、移されたら堪らない」
「ふふ、樹は相変わらずだな。ちょっと寝不足でな、ついでに寝惚けてて抑制剤飲み忘れた。それでも樹の顔が見たくて来たけど、今日は行くわ」
「? 抑制剤?」
小首を傾げる僕に先輩はにこりと笑って「樹と居る為には必要だから」とそう言った。
Ωはそのフェロモンでαを欲情させてしまう事があるから自衛のために抑制剤を飲むのだけど、αにもそういう薬があるんだ? うちの兄ちゃん達がそんな薬を飲んでる所なんて見た事ないのに……そんな事を思っていたらふわりと薫る先輩の匂いに何故かドクンと心臓が跳ねた。
「っ……」
「どうした樹?」
「近寄らないで!」
心配そうに僕の顔を覗き込もうとした先輩を僕は突き飛ばす。何だこれ? 心拍が上がる、それはあの初めて見に行った先輩の試合観戦後に感じた動悸と息切れ、あの試合の時以外は今までこんな風になった事なかったのに!
「あ……やっぱり反応するんだな」
「なに?」
「嬉しいけど、まだ駄目だ」
なに? 何がダメ? っていうか、これ何? 身体から勝手にフェロモンが溢れ出す。それはまるで発情期の時のように体温が上がり鼓動が跳ねる。そんなはずないのに、だって発情期はまだ先のはず……
「ううう……もうなにこれぇぇぇ」
「やっぱり樹は俺の『運命の番』なんだよ。詳しい話はまた今度な」
そう言って先輩は踵を返すのだけど、どうしてくれるんだよ僕のこの状態! 訳もわからず身体が疼いて仕方がない。こんな感覚初めてでどうしていいのか分からないよ!
僕は近くにあったトイレに駆け込み個室に籠って自分で自分の熱を逃がす。
最悪だ、学校でこんな事するだなんて……もう恥ずかしくて皆の顔見れないよ!
「樹、今日はあいつに送ってもらったんだ? 何もされなかったか?」
四季兄ちゃんが少し心配そうに僕の顔を覗き込むので「平気」と首を縦に振る。
「普段のあの人にそこまでの甲斐性はないよ。あの日はやっぱりたまたま僕の発情フェロモンにやられただけみたい。僕も懲りたし、ちゃんと薬は持ち歩いてるから大丈夫」
僕の返答に少し心配顔の四季兄ちゃんは「それでもあいつはαなんだし、前科もあるんだから油断はするなよ」と釘を刺す。
「連絡くれればいつでも迎えに行くから」
「兄ちゃんにだって友達付き合いあるだろう? そこまで過保護に心配してもらわなくても大丈夫だよ!」
「だけどなぁ……」
「兄ちゃん受験生なんだから、僕の心配より自分の心配。僕の都合で振り回して兄ちゃんが受験に失敗する方が僕は嫌だよ」
僕の言葉に兄ちゃんは苦笑しながら「俺、そこまで頭悪くないから」とそう言った。知ってるよ、四季兄ちゃんは我が家で唯一のβなものだから、兄弟の誰の隣に立っても恥ずかしくないようにって人一倍頑張ってる人だもん。僕はそういう頑張り屋な所が大好きなんだから。
ああ、そうか……僕はたぶんそういう人が好きなんだ。先輩をいまひとつ好きになりきれないのは先輩にそういう前向きな姿勢が見えないからだ。優秀だと言われているαは色々な事ができて当たり前で、だからこそ自分が成した事でも簡単に捨てられる。僕はそういう先輩の姿勢がたぶん好きじゃないんだな。
「どうした? 樹?」
「うんん、何でもない」
僕は笑って首を振る。僕が先輩の『運命』なんだって信じられない所以はそこなのかな? バース性の『運命』ってのは所詮身体の相性なんだと思うんだよね、お互いに求め惹かれ合うって聞くけど先輩が僕に発情したのって匂いが好みだったって結局そういう理由だろ? そんでもって僕があの時発情したのもたぶんαの匂いに身体が勝手に反応しただけ。元々発情期の時期でもあったからタイミングが悪かったってそれだけの話。
たったそれだけの事で自分の人生を決めちゃうなんて早計もいい所だし、αの側はΩを選び放題だけどΩは一度番にされたらそのαに一生束縛される運命なんだから、そこは慎重にならないとね。
「それより僕お腹空いた。四季兄なにか作ってよ」
甘えたような声で僕がねだると四季兄ちゃんは仕方がないなと苦笑して僕を甘やかしてくれる。やっぱり僕は四季兄ちゃんがこの世で一番大好きだ。
その日、僕の前に現れた先輩は少し顔色が悪かった。
「何ですか? 風邪? 体調悪いのに来ないでくださいよ、移されたら堪らない」
「ふふ、樹は相変わらずだな。ちょっと寝不足でな、ついでに寝惚けてて抑制剤飲み忘れた。それでも樹の顔が見たくて来たけど、今日は行くわ」
「? 抑制剤?」
小首を傾げる僕に先輩はにこりと笑って「樹と居る為には必要だから」とそう言った。
Ωはそのフェロモンでαを欲情させてしまう事があるから自衛のために抑制剤を飲むのだけど、αにもそういう薬があるんだ? うちの兄ちゃん達がそんな薬を飲んでる所なんて見た事ないのに……そんな事を思っていたらふわりと薫る先輩の匂いに何故かドクンと心臓が跳ねた。
「っ……」
「どうした樹?」
「近寄らないで!」
心配そうに僕の顔を覗き込もうとした先輩を僕は突き飛ばす。何だこれ? 心拍が上がる、それはあの初めて見に行った先輩の試合観戦後に感じた動悸と息切れ、あの試合の時以外は今までこんな風になった事なかったのに!
「あ……やっぱり反応するんだな」
「なに?」
「嬉しいけど、まだ駄目だ」
なに? 何がダメ? っていうか、これ何? 身体から勝手にフェロモンが溢れ出す。それはまるで発情期の時のように体温が上がり鼓動が跳ねる。そんなはずないのに、だって発情期はまだ先のはず……
「ううう……もうなにこれぇぇぇ」
「やっぱり樹は俺の『運命の番』なんだよ。詳しい話はまた今度な」
そう言って先輩は踵を返すのだけど、どうしてくれるんだよ僕のこの状態! 訳もわからず身体が疼いて仕方がない。こんな感覚初めてでどうしていいのか分からないよ!
僕は近くにあったトイレに駆け込み個室に籠って自分で自分の熱を逃がす。
最悪だ、学校でこんな事するだなんて……もう恥ずかしくて皆の顔見れないよ!
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