榊原さんちの家庭の事情

矢の字

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βだって愛されたい!③

もちろん愛してる

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 それにしても樹を牽制したのはいいのだが、現在四季の隣には俺の知らない女がいるという現実に俺は悶々とする。
 四季の選択した事には従う、それは自分自身にも言い聞かせた言葉だ。無理やり奪っても意味はない、分かっていても心は苦しい。ついでに何故か最近四季は俺との間に距離を取ってくる。俺の気持ちを知られた今となっては樹に遠慮する必要もなく俺は目一杯樹を利用する。「一兄って、ちょっとズルいよね」なんて樹に言われてしまったが、なりふり構ってなどいられなかった。

 そしてそんな折事件は起こる。学校で発情期ヒートを起こした樹がαに襲われ、そんな樹を助けようとした四季が怪我をした。とはいえ怪我自体は青痣程度で命に別状はなかったのだが俺の怒りは収まらない。
 意識を失い病室で眠り続ける四季の白い顔を見た途端かっと頭に血が上った。大事はないと分かっていても、ひとつ間違えば大怪我を負っていたかもしれないというその事実と、見知らぬαに噛まれたその肩口の噛み痕に怒りが治まらない。
 四季に触れていいのは俺だけだ、傷を付けるなど言語道断! 怒りのままに会社に有給申請、電話の向こう側では何か喚くような声が聞こえたが知った事ではない。
 襲った相手をどうしてくれようかと鬱々と考え込んでいたら、目を覚ました四季に大丈夫だと言われたのだが、お前がそれを良しとしても俺は相手が許せない。
 四季が自分を卑下する事は、お前を心配している俺をも否定するのと同じなのだと、つい声を大にして言い募ったら少し引かれた。けれどそれは間違いようもなく俺の本心なのだから仕方がない。

「勘違いだったらごめんだけど、兄ちゃんもしかして……」

 ぎゃあぎゃあといつも喧しい双子の弟達の横やりから何かを察した様子の四季が、考えた事もなかったというような表情で俺を見上げる。誤魔化されておけば良かったものを、何故そんなに気にするのか?
 お前は知らなくてもいい事だ、俺のこんなどす黒い執着なんて知らなくていい、けれど一縷の望みがあるのならば、それを口に出す事には意味がある。
 両親が番う事を家族に反対されて一縷の望みを賭けて俺を生んだように、俺にとってはその選択の時が今なのか?
 勢いのままに「好きだ、愛している」と告げたら、驚いた表情はされたものの、意外とすんなりと受け入れられた。勢い余って押し倒したら、さすがにストップをかけられたのだが、予想外に可愛く「抱っこして」とおねだりされて頬が緩む。と同時に自制心を試されているのか……と困惑もしたのだが、そんな可愛いおねだりに否を言える訳もなく俺は四季を抱き締めた。



 末弟の樹には「ぬけがけだ」と散々怒られはしたのだが、こうして両想いになった俺達の生活は劇的に変わる……などと言う事はなく、日々は淡々と過ぎて行った。変わった事と言えば少し俺を避けるように生活していた四季が俺の膝の中に入ってくる事を厭わなくなった事くらいで、生活に大きな変化は見られない。

「兄ちゃんまだ四季とやってないの?」
「あの状態で手を出さないとか、兄ちゃんの忍耐力凄いよね」

 双葉と三葉はそんな事を言って俺をけしかけるのだが、俺には心に決めている事がある。それは四季の嫌がる事は決してしないという鉄の掟。四季が手順を踏めと言うのならそのようにしてやりたいと思っているし、今の状態でも十分満足している俺にとっては別段不満などなかったのだ。
 けれどそれが一か月、二か月と続けばさすがに俺も不安になる。四季の態度は変わらない、傍にいる事は格段に増えたが、それだけで何も言ってくれない四季に俺は手出しが出来ず、ついにぽろりと本音が漏れた。

「四季、俺はいつまでこの状態でお預けを喰らっていればいいんだろうか?」

 それに対する四季の答えは「それなんだけどさ、こんなにずっと一緒にいるのに兄ちゃん本当に手を出してこないんだもん、びっくりだよね。ちょっと忍耐力強すぎじゃない?」だったので、流石の俺も言葉に詰まる。いやいや、手順を踏めと言ったのはお前の方だろう?

「俺さぁ、手順を踏んで欲しいとは言ったけど、嫌だって言った覚えはないんだけど?」

 確かにそれは四季の言う通りだ、けれどだとしたらここまで手出しをしなかった俺の我慢の意味……

「俺は四季の許可を待っていたんだが……」
「兄ちゃんは俺が『して』って言うまで本気で何もしないつもりだったの?」

 思わず無言で見つめ合う。言われてみれば確かにそうか、俺自身も四季にしてもいいかと問うたことすらない事に改めて気づく。どうやらお互い思う所があって一歩を踏み出せずにいた事は分ったのだが、どうにも四季の考えている事は読みづらい。
 許可を求めればはぐらかし、かと言って嫌がるそぶりもなく俺を誘惑すらしてみせる。どう返すのが正しいのかも分からなくて戸惑っていたら、泣かれてしまって更に慌てた。

「四季、お前はなんで泣く? 何がそんなに気に入らない? 言ってくれなければ分からない、俺はお前を泣かせたい訳じゃない」
「だったら兄ちゃんも言ってよ! 俺が言わせたんじゃ意味がない、俺がやらせたんじゃ意味がない、俺はそんなの望んでない! 俺はΩじゃないから、兄ちゃんが噛んだ痕だってもうとっくに消えちゃったよ!」

 俺が嫉妬のままに刻み付けた所有印、それが消えたと泣く四季は最高に可愛らしくて胸が震えた。

「もしかして、不安にさせていたか? 事を急いては駄目だと思っていたんだが、こんな風に泣かせては意味がなかったな……」

 四季が潤んだ瞳で腕を伸ばす。

「ぎゅってして!」
「ああ、そんな事ならいくらでも。もう、それだけでは止まれないが……」

 許可など待つ必要はなかったのだな、とようやく気付いた瞬間だった。



 四季はなかなか一筋縄ではいかない。うぶなのかと思えば積極的だったり、嫌がっているのかと思えば喜んでいたり、嫉妬丸出しで感情的になれば「そういうのもっと見せて!」と嬉しそうに言われてしまう。存外四季は放任よりも束縛されたいタイプのようだ。
 自分は優しく甘やかしたい方なのだが、うまく噛み合わないものだな。

 何度も身体を重ね、最近では四季の良い所は大体把握が出来た。ついでに天邪鬼な四季の言葉は大体いつも意思とは裏腹だという事にも気が付いた。
 「やめて」と「もっと」は同義語だし、わがままを言う時は酷くされたい時だ。非常に加減が難しいのだが、そんな事も分かってしまえばその言動のひとつひとつが可愛くて仕方がない。

「最近俺、めっちゃΩに間違われるようになった」

 そう言って四季は今日も新たに俺が付けた項の噛み痕を撫でる。

「嫌だったら別の場所にするが?」
「そんな事言ってないだろ! 別にこれは良いんだよ、ただ……」
「今度一緒にチョーカー買いに行くか?」

 四季の顔がぱっと上がり、その後はっとした表情で瞳を逸らす。
 バース性の人間にとってチョーカーは大事な物だ。αとΩが番う為にはΩの項を噛む必要があるのだが、Ωは無暗にαに番にされてしまわないように自衛のためにチョーカーを付ける、もちろんただの防犯用として付ける者がほとんどなのだが……

「そんなんしたら余計Ωに間違われる」
「勝手に勘違いさせておけばいい、そんな事よりどんなのがいい? 四季には原色より淡い色の方が似合いそうだ。石は光にあてたら七色に輝くようなのがいい」
「石……?」
「指輪とセットで売ってるんだぞ?」
「?」

 一瞬期待をしたのだろうに、鈍いと言うか何と言うか、そんな所も可愛いのだけど。

「四季が卒業したら家を出るか、物件も探しに行かないとな」
「え? え……?」

 バース性の人間にとってチョーカーは指輪と同じような物、αからΩにチョーカーを贈るのは言わばプロポーズと同じなんだがなぁ。
 まぁ、気付かなくても問答無用、俺はもうお前を手放す気はないからな。

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