ある幸せな家庭ができるまで

矢の字

文字の大きさ
50 / 113
閑話:熊さんの昔話

2人の関係

しおりを挟む
「バート、今日は何して遊ぶ?」

 俺の周りにはいつでも誰かしらの取り巻きが侍り、腕に絡みついて俺を見上げる。ああ、こいつは俺が好きなのかと、その揺れる尻尾ですぐに分かった。獣人というのは好意が非常に分かりやすい。いくら感情を押し殺そうとしても揺れる尻尾と探る耳で何かしらの感情を読み取れてしまう。そんな感情の揺れを押し殺すのはとても大変で、それができるのは一部の訓練された者達だけだ。
 元来感情というのは押し殺すものではない、そういう点で獣人というのはとても素直で分かりやすい。だが、世界を見渡した時それだけでは駄目なのだと思い知る。
 獣人は基本的に人間とは交わらない。力では人間より優れている獣人だが狡猾さでは人間に勝つ事ができない獣人の住まう地域は限られている。人間と対等に渡り合う為には素直になっては駄目なのだ、俺の父親はその点に長けて外交面で出世した成り上がり者だった。
 ついでに言えばミレニアの家系も同じように感情を操る事に長けていて、長く国外向けの外交を一手に担ってきていた。俺の父親とミレニアの父親はいわばライバル関係、そして唯一苦労を共有できる仲間として認めあってもいたのだろう。だが、それを子供世代にまで強制するのはいかがなものかと思うのだ。
 ミレニアには愛想がない。何を考えているのかも非常に分かりづらいミレニアは確かに感情を綺麗にコントロール出来ているのだろう。だが基本素直で分かりやすい獣人にとってそれは異端でしかなくミレニアは学校でも完全に浮いていた。

「あ、あいつ! またこっち見てる」

 腕に絡みつく猫獣人の尻尾が激しく揺れる、その視線の先にはミレニアが本を抱えて佇んでいたのだが、俺と視線が合うとふいと逸らし、踵を返し行ってしまった。

「僕、あいつ嫌い。何考えてんのか全っ然、分からないんだもん!」
「別に放っておけばいいだろう? 害がある訳じゃなし」
「でもいつも恨みがましそうな目でこっちを見てさ、気分が悪いったらないよ」

 そんな事をそれまで感じた事はなかった俺は驚く。恨みがましい? ミレニアが? いつも完璧なポーカーフェイスのミレニアは俺には些細な感情ですら見せた事がないのに。

「きっと僕とバートの仲が良いのが気に入らないんだ」
「え?」
「婚約者なんでしょ、あいつ」
「ああ、まぁな」
「きっと妬いてるんだ、バートが僕を選んだから」
「選ぶ?」

 きゃんきゃんと五月蠅いこの猫と俺との間には実は身体の関係がある。それは誘われたから乗っただけで特別な感情があった訳ではなかったのだが、もしかして既に恋人気取りか?

「そうだよバートは僕を選んだ、だから妬いてるんだ。婚約なんか早く破棄しちゃいなよ、もう必要ないだろう?」
「お前は何を言っている? 俺とミレニアの婚約は親の決めたものでそんなに簡単に破棄できるものではない」
「? なんで? だったら僕はどうなるの?」
「別にどうもならないだろう? 元々俺達は恋人関係ではないはずだ」

 猫獣人の尻尾がぶわりと膨らみ「最っ低!!」と頬を引っぱたかれた。なんなんだお前、そんな最低限の事は分った上で俺に抱かれたんじゃなかったのか? 言っておくが俺にとってはお前など数いるセフレの内の1人でしかないというのに図々しいにも程がある。でもまぁ、そこはきっちり説明しなければ駄目だったとしたら俺にも落ち度があったな。
 興奮する猫獣人を宥めていたら視線を感じ、顔を上げたら遠くからミレニアがまたこちらを見ていた。だが、やはり俺と視線が合うとふいと逸らして踵を返して行ってしまった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...