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閑話:熊さんの昔話
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「でもお前が一番最初に言ったんだ、なのに父上はごり押しでお前を私の婚約者にと決めてしまった」
俯いて顔が見えなくなってしまったミレニアの肩が震えている。俺? 俺、こいつに何か言ったっけ?
「父上は分かっていたのだ、私のこの容姿ではこの国では出世はおろか結婚もできないと分かっていたのだ、だから……」
きっ! とミレニアが顔を上げて「私はいずれこの国を出て行く、お前と結婚する気はない」と断言した。
「? この国を出ていく事と婚約破棄の因果関係が分からないのだが?」
「私はそもそも嫁になる気はさらさらないんだ、可愛い嫁を貰って守り慈しむ、私の理想の家庭はそういうもので、お前とはそういう家庭を絶対に築けないと分かっている! だから婚約は破棄だと言っているのだ!」
青天の霹靂、まさかミレニアがそっち側だとは思っていなかった。何故だろうな? 俺はミレニアを嫁に貰うのだと頭から決めてかかっていた、そういえばその辺の話し合いなど今まで一度もした事がない。
「いや、それは普通に考えてお前が嫁だろ? 身体も小さいし貧弱だし」
「んなっ! ここ獣人国ではひ弱に見えるかもしれないが、人の国では平均以上だ! ふざけるなっ!」
お? そうなのか? 俺、ズーランド出た事ないからなぁ……そういえば親父の付き合いで会った事のある『人』はどいつもこいつも小さかったな。
「それに私は獣人にだって引けを取らない! さっきだってお前を助けてやっただろう! 劣っているのは容姿だけで、それ以外でお前達に負ける所など私にはない!!」
先程まで泣き出しそうな顔をしていた癖に、急に強気に怒鳴られた。
「なのにこの国の奴等ときたら『半獣人の癖に生意気だ』だとか『半獣人は劣っている』だとか、私の何処がお前達に劣っているというのだ! 私は成績も優秀だ、お前達にトップを譲った事など一度もない! なのにっ!!」
「おいおい、落ち着けよ」
「私には金が必要なんだ、お前はもうあの店に来るな!」
びしっと指を眼前に突き出されて、俺は思わず後ずさる。
「あの店しか半獣人である私を雇ってくれる店はなかったというのに、お前ときたら毎日毎日、色狂いも大概にしておけ! ついでにもっと若者向けの店がよそに幾らでもあるだろうが!!」
「やっぱりお前がミニーだったのか!」
「うるさい! その名を呼ぶな! それはただの源氏名だ! 裏方仕事でも給金はくれるがアレが一番儲かるんだ、私の邪魔をするな!」
「なんだ、お前いつも裏に居たのか?」
ミレニアがしまったというような表情で、またしてもツンとそっぽを向いた。
「俺はただの客だ、気にせず稼げばいいだろう?」
「っ……お前には見られたくない、分かるだろう!?」
「なんでだよっ! 俺は見たい! あの舞はあんな場所で披露するようなものじゃない、もっとこう……」
「嫁の嗜みとして習わされたが好きでやっていた訳じゃない、金になると分かったからやっているだけで、好き好んでやってる訳でもない!」
「勿体ない、綺麗なのに」
瞬間ミレニアがぽかんとした表情を見せた後、ぶわっと顔が赤くなった。獣人と違って毛のない人の顔は皮膚が薄くて、その朱に染まった頬がよく分かる。
「そ……き……綺麗だなんて……」
「? あの舞はとても美しかったぞ?」
「っつ……」
言葉に詰まったミレニアが口をパクパクさせながら朱に染まった頬を隠すように掌で顔を覆う。
「そういう事を簡単に言うな!」
「俺は本当の事を言っているだけだろう?」
またしても泣き出しそうな表情に変わってしまったミレニアが、ふいっとそっぽを向いて「お前なんか嫌いだ!」とそれだけ叫んで逃げ出した。
俺はミレニアの舞を褒めたのに、なんで嫌われなきゃならんのだ? 意味不明、理解不能、やっぱり俺はミレニアの事がよく分からない……
俯いて顔が見えなくなってしまったミレニアの肩が震えている。俺? 俺、こいつに何か言ったっけ?
「父上は分かっていたのだ、私のこの容姿ではこの国では出世はおろか結婚もできないと分かっていたのだ、だから……」
きっ! とミレニアが顔を上げて「私はいずれこの国を出て行く、お前と結婚する気はない」と断言した。
「? この国を出ていく事と婚約破棄の因果関係が分からないのだが?」
「私はそもそも嫁になる気はさらさらないんだ、可愛い嫁を貰って守り慈しむ、私の理想の家庭はそういうもので、お前とはそういう家庭を絶対に築けないと分かっている! だから婚約は破棄だと言っているのだ!」
青天の霹靂、まさかミレニアがそっち側だとは思っていなかった。何故だろうな? 俺はミレニアを嫁に貰うのだと頭から決めてかかっていた、そういえばその辺の話し合いなど今まで一度もした事がない。
「いや、それは普通に考えてお前が嫁だろ? 身体も小さいし貧弱だし」
「んなっ! ここ獣人国ではひ弱に見えるかもしれないが、人の国では平均以上だ! ふざけるなっ!」
お? そうなのか? 俺、ズーランド出た事ないからなぁ……そういえば親父の付き合いで会った事のある『人』はどいつもこいつも小さかったな。
「それに私は獣人にだって引けを取らない! さっきだってお前を助けてやっただろう! 劣っているのは容姿だけで、それ以外でお前達に負ける所など私にはない!!」
先程まで泣き出しそうな顔をしていた癖に、急に強気に怒鳴られた。
「なのにこの国の奴等ときたら『半獣人の癖に生意気だ』だとか『半獣人は劣っている』だとか、私の何処がお前達に劣っているというのだ! 私は成績も優秀だ、お前達にトップを譲った事など一度もない! なのにっ!!」
「おいおい、落ち着けよ」
「私には金が必要なんだ、お前はもうあの店に来るな!」
びしっと指を眼前に突き出されて、俺は思わず後ずさる。
「あの店しか半獣人である私を雇ってくれる店はなかったというのに、お前ときたら毎日毎日、色狂いも大概にしておけ! ついでにもっと若者向けの店がよそに幾らでもあるだろうが!!」
「やっぱりお前がミニーだったのか!」
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「なんだ、お前いつも裏に居たのか?」
ミレニアがしまったというような表情で、またしてもツンとそっぽを向いた。
「俺はただの客だ、気にせず稼げばいいだろう?」
「っ……お前には見られたくない、分かるだろう!?」
「なんでだよっ! 俺は見たい! あの舞はあんな場所で披露するようなものじゃない、もっとこう……」
「嫁の嗜みとして習わされたが好きでやっていた訳じゃない、金になると分かったからやっているだけで、好き好んでやってる訳でもない!」
「勿体ない、綺麗なのに」
瞬間ミレニアがぽかんとした表情を見せた後、ぶわっと顔が赤くなった。獣人と違って毛のない人の顔は皮膚が薄くて、その朱に染まった頬がよく分かる。
「そ……き……綺麗だなんて……」
「? あの舞はとても美しかったぞ?」
「っつ……」
言葉に詰まったミレニアが口をパクパクさせながら朱に染まった頬を隠すように掌で顔を覆う。
「そういう事を簡単に言うな!」
「俺は本当の事を言っているだけだろう?」
またしても泣き出しそうな表情に変わってしまったミレニアが、ふいっとそっぽを向いて「お前なんか嫌いだ!」とそれだけ叫んで逃げ出した。
俺はミレニアの舞を褒めたのに、なんで嫌われなきゃならんのだ? 意味不明、理解不能、やっぱり俺はミレニアの事がよく分からない……
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