ある幸せな家庭ができるまで

矢の字

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閑話:熊さんの昔話

そして現在

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 そんな事があった翌日から俺は学校でもミレニアにマメに声をかけるようになった。ミレニアは微妙な表情で逃げ回るのだが、何故逃げられなければならないのか俺には分からない。
 もちろん店にも顔を出す、そしてやはり「もう来るな!」と怒られるのだが、店に顔を出すのは俺の自由だし、俺は普通に客なのだから嫌がられる意味も分からない。

「別に普段通りにすればいいだろう? 俺は何もしやしない。踊り子さんにはお触り厳禁だってルールも俺はちゃんと守っている」
「お前に見られているかと思うと、それだけで気が散る! 私の邪魔をするな!」
「前から思っていたがミレニアは俺の名前を呼ばないよな。俺は『お前』じゃない、バートラムだ。ほら呼んでみ、バートラム」
「な……」
「愛称の方がいいならバートでもいいぞ、俺もミニーって呼ぶし」
「それは源氏名だと言っただろう! 店以外では絶対に呼ぶな!」

 またしても顔を真っ赤に染めたミレニアは怒っているのか照れているのか判別はとてもつきにくい。うん、でもここは良い方に考えて、きっとこいつは照れているだけだな。

「だったらミレニーでいいか?」
「はぁ!?」
「ほら俺の事も、バートって呼んでみ?」
「何故私がそんな馴れ馴れしい名でお前を呼ばなければならないんだ!」
「何故って俺達婚約者なんだから良いだろう?」
「それはもう解消だと言っただろう!?」

 まぁ確かに一方的に婚約解消を告げられはしたが、なんだか今のミレニアを俺はそこまで嫌いになれない。マメに声をかけるようになってみれば普通に返事は返ってくるし、打てば響くように言い合いができるのも新鮮で、俺は俄然ミレニアに興味が湧いてしまったのだ。今までは全く興味が湧かなかったのに不思議な話だ。

「お前はなんでそうやって私を振り回すんだ!」
「お前じゃなくてバートだって言ってるだろ?」

 「話にならない!」とミレニアが踵を返した。こいつは自分の分が悪いと悟るとすぐに逃げ出す、俺達にはもっと話し合いと歩み寄りが必要だとは思わないのか?

「ミレニー、今日も行くから待っててな!」

 何か物言いたげに振り向いたミレニアは何かを言いかけその後大きな溜息を吐いてそのまま行ってしまった。
 そんな感じの学生生活を共に過ごした俺達は卒業と同時に親の決めた通り結婚するのだと思っていた。
 なにせここ獣人国での半獣人の扱いは相変わらず酷く、成績優秀にも関わらずミレニアの就職先が決まる事はなかったし、ミレニアが可愛くなってしまっていた俺はそれに不満はなかったのでミレニアのいう婚約破棄などという言葉は綺麗に右から左へと聞き流していたのだ。
 だが、事は卒業の少し前ミレニアが隣国オーランドに留学すると聞いて俺は驚く。

「そんな話聞いてない!」
「今言った、それにお前に相談する必要などないだろう?」
「いやあるだろう?! そういう重要な話はまずは夫に相談するものだ!」
「何度言えば分かる! 私はお前と結婚しない! それにこれはもう決定事項でお前にだって覆せないし覆させやしない!」

 そんな事を言ってミレニアは俺を置いてオーランドに渡り、すぐに帰って来ると思いきや何年経っても帰って来やしない。しまいには『私はもうズーランドには帰らない』とぺらっと薄い手紙を寄越して、そこからは完全なる音信不通に。

「ふむ……」

 俺は空を見上げる。この空の向こうにミレニアはいる。大人しく待っているのは性に合わないし、帰ってくる気がないと言うのなら、本当に帰らない腹積もりなのだろう。困った奴だ。

「親父、俺ちょっとミレニア迎えに行ってくるわ」
「オーランドにか? それならちょうど駐在員の異動の時期だ、オーランドに赴いてしばらくお前も他国の文化を学んで来い」

 そんな風にして俺のオーランドへの派遣は決まり、そして俺は今こうしてオーランドでミレニアを口説いている訳なのだが、未だミレニアは俺に対して良い顔をしない。

「ミレニー、お前に執事は向いてないって。な? 俺の嫁になれば一生楽に暮らさせてやるから」
「そんなの絶対にお断りです!」

 相変わらずミレニアは俺になびかない、けれど揺れる尻尾が少しだけ嬉しそうなのを俺は知っている。まぁ、ミレニアはそれを認めたりは絶対にしないけどな。


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