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第三章:出産編
最近の俺の生活
しおりを挟む俺の名前は渋谷和寿、ある夏の暑い日に車に轢かれ異世界トリップした俺は飛ばされた不思議な世界で美形の騎士様に愛されてなんと現在妊娠中。男の俺が妊娠なんてそんな事ってある?? なんて思ったりもしたものだけど、間もなく出産予定日の俺の腹は現在はちきれんばかりにぱんぱんで、現実逃避なんてしている場合じゃない。
やらなきゃいけない事は幾らもあるし、毎日の生活だってあるのだから俺はこの現実と向き合わなければいけないのだ。
それにしても俺には最近繰り返し見続けている夢がある。この腹の子は間違いなくライザックの子なのだけれど、何故か夢の中でその子供は触手に真綿のようにくるまれてきゃっきゃと笑っているのだ。確かに俺はこの世界に来た当初触手に犯され種付けをされた、けれど触手の種は人の種よりも弱く、種付けから24時間以内に人に種付けされれば触手の害はないとされている。
触手に犯され種付けされた俺を治療目的でライザックは抱き、そして俺は妊娠した。だからこの子はライザックの子供で間違いないはずなのだけれど、やはり頭の片隅のどこかで引っかかっている部分もあるのかもしれないな。だって俺は別の世界からやってきた異世界人で、俺の世界では男は妊娠なんてしないのだから。
「まぁ、五体満足で生まれてきてくれたらそれだけで良いけどさ……」
俺はぱんぱんに膨れた腹を撫でる。出産予定日はもう間もなく、無事に産めさえすればそれでいい、余分な事は考えない。そうやって俺はこの異世界と折り合いをつけて生活してきたし、これからも生きていくしかないのだから無駄に悩むのは止めておこう。夢の中に現れるという事は潜在意識で不安があるという事なのだろうけど案ずるより産むがやすし、産んでしまえばきっとこの不安も払拭されるに違いない。
「さてと、そろそろライザックも帰って来るかなぁ……」
最近俺は独り言が増えた。俺とライザックはあの無駄にデカいはりぼての屋敷を2人で出て、現在小さな新居で新しい新生活を始めている。妊娠中の俺はもちろん仕事なんてできなくて、昼間は一人で家の留守を守っているのだがテレビもラジオもないこの世界では外に出なければ人の声すら聞こえて来なくて、必然的に独り言が増えてくる。なんかまるで寂しい独居老人みたいだ。だから俺は子供が生まれたらもっと外に出ないとだな、なんて考えている。
だがそれにも問題がない訳じゃない、俺の夫になったライザックはこの国では名の知れた貴族オーランドルフ家の末端貴族だった。本当に端の端だから、家の家計は火の車だったし、正直貴族とは名ばかりだったけど、それでも世間の目は彼を『オーランドルフ家』の家の人間だと認識している。人の口には戸は立てられないもので、現在俺達は身分差を苦に駆け落ちした事になっているらしい。現実は別に駆け落ちでも何でもなくただ家を出ただけなんだけどな。
近所の者は俺の姿を見ればひそひそと何かを囁き合い、瞳を向ければ目を逸らす。はっきり言って気分は良くない、だけどわざわざそんな人達一人一人に事情を説明して回るのもなんだし、今は子供を無事に産む事だけを考えて俺は日々生活している。
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