ある幸せな家庭ができるまで

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番外編:その後のある幸せな家庭

ミレニアさんの事情

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 晩御飯の準備が整い、改めてライザックとミレニアさんに声をかけると二人はちゃんと部屋から出てきたがミレニアさんの体調はやはりあまり芳しくなさそうで、ただでさえ白い顔が更に白くなってる。

「あの、本当に大丈夫ですか? 無理して食べなくてもいいですからね?」

 そもそも料理は俺よりミレニアさんの方が遥かに上手で、付け焼刃の俺の料理が口に合わないのなら、体調が悪いのに無理をする必要はない。けれど、ミレニアさんは目の前に差し出した粥を少しずつ匙で口に運んで胃に収めていく。
 そういえばミレニアさん、少し細くなってない? 元々スレンダーな体つきだったけど、本気で体調悪いんだろうな。
 ようやっとという感じで粥を完食したミレニアさんは明らかに顔色が悪いのに帰ろうとするので、さすがの俺も彼を引き留め泊っていけと促すと、何故か少しだけほっとしたような表情を見せた。もしかして帰りたくないのかな?
 客間なんてないから子供部屋を彼に提供して、今日は親子三人川の字だ。
 シズクを寝かしつけしていると自分も寝てしまう事が多くて、今日もうつらうつらしていたらライザックに「少し話がある」と起こされた。

「んん~なにぃ?」
「相談なんだが、少しの間ミレニアのことをうちで匿う事は可能だろうか?」
「? なんで?」

 別に家に泊める事自体は問題ないけど、その理由が分からない俺は首を傾げる。それに匿うって……?
 俺の問いかけにライザックは少し考え込むように沈黙する。なんだろう? 何かまた問題勃発? 我が家で匿うって言うなら、誰かからミレニアさんを隠したいという事だろうし、だとしたらその相手って、もしかしてバートラム様?

「ミレニアさんとバートラム様、喧嘩でもしたの?」

 いや、喧嘩自体は日常茶飯事だったか、と、半分頭の寝ている俺はぼんやり考える。喧嘩するほど仲が良いって感じで、ミレニアさんとバートラム様は揃えばいつも口喧嘩をしていた。けれどそれはバートラム様の好意に対してミレニアさんが乗り気でないから勃発していた喧嘩で、ミレニアさんが折れれば丸く収まる話でもある。
 ただどうしても生理的に受け付けないというのなら仕方がないと思うけど、ミレニアさんはそこまでバートラム様の事嫌っている風にも見えなかったんだよなぁ。
 確かに口では絶対お断りだと言っていながら、ロゼッタさんと仲良くしていた時には不安そうに彼の姿を目で追っていたのを知っている俺は、なんでそこまで意固地になってミレニアさんがバートラム様を拒否するのかが分からない。

「カズは本当に鋭いな……」
「当たり? でもあの二人の喧嘩なんて日常茶飯事だろ」
「ああ、そうだな。ただ今回は少し訳が違う」
「なに?」

 俺の問いかけにまたライザックが言いずらそうに逡巡した。

「……夜這いを、されたのだそうだよ」
「夜這い……」

 えっと、それは夜に忍んで来られたって事?

「え? 無理やり?」
「そこはあまり本人が語りたがらないので詳しくは聞けていない」

 ぼんやりしていた頭が覚醒した。だって夜這いって夜中に部屋に押し入って無理やり抱いたって事だろう? いや、詳しく聞けてないって事は未遂の可能性もあるのか。だけど、そんなのどう考えても犯罪だろ! あのクマ最低だなっ!
 
「それでもしばらくは私達の手前、黙って働いていたのだそうだが、最近ストレスから急激に体調を崩したらしく私に泣きついてきた。なんでもっと早くに言わなかったのかと、私はあの屋敷にミレニアを置いてきてしまった事を悔やんでも悔やみきれない」

 瞳を逸らし拳を握った彼の手が震えている。ライザックにとってミレニアさんは従兄弟で戦友で同じ家に暮らしていた家族みたいなもんだ。
 俺は震えるライザックの手を取って「いいよ」と返す。
 そんな理由があるのなら嫌だなんて俺は言わない。だってミレニアさんがあの屋敷に残ったのは屋敷売却の金額をバートラム様に上乗せしてもらう為だった、いわばミレニアさんは俺達の恩人だ。それを無碍に扱うなんてそんな事出来るはずもない。
 ライザックは眉を下げた情けない表情で「ありがとう」とそう言った。

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