ある幸せな家庭ができるまで

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番外編:その後のある幸せな家庭

来訪

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「あれ? お久しぶりですミレニアさん」

 オーランドルフの家を出てから俺はミレニアさんとはほとんど顔を合わせていない。ミレニアさんはオーランドルフ家の執事で、現在はオーランドルフの屋敷を購入したバートラム様の執事になっている。俺とミレニアさんは頻繁に顔を合わせるような仲ではないし、風の噂で近況を知る程度だったので急な来訪に俺は驚く。
 それにしてもライザックに隠れるようにして我が家にやって来たミレニアさんの顔色が優れない。ライザックも少し困惑した様子で、「少しミレニアと話があるから」と奥の部屋へと連れて行ってしまった。
 その際、少し心細げな表情のミレニアさんがライザックの服の裾を軽く握った事に俺は何故かもやっとする。
 我が家の間取りは狭い、玄関を入ってすぐの部屋がリビング兼応接間で通常お客さんが来た場合はそこで過ごしてもらうのが当たり前なのに、奥の部屋へ通したという事は俺には聞かれたくない話があるという事だ。
 瞬間よぎる「浮気」の二文字。けれど俺はそれを即座に脳内で打ち消す。そもそも浮気相手を家に連れ込むとかさすがにあり得ないだろう。
 けれどよく考えたら最近ライザックとあまり夫婦の営みしてないな……と、ふと余計な考えが頭をよぎった。シズクが生まれて、家事や育児に追われている内になんとなくそういう甘い雰囲気にならなくなったというか、ぶっちゃけ四六時中シズクが俺に引っ付いてるからできないし!
 愛を口に出せない典型的な日本人の俺と違ってライザックは変わらず毎日俺に愛を囁いてくれるが、そういえば最近お触りも減ってるな……?
 今度は「倦怠期」の三文字が頭をよぎる。
 ライザックは出会った時からイケメンで、それは今も変わりなく毎日キラキラとイケメンなのに俺、最近気ぃ抜きすぎなのでは……?
 ミレニアさんは相変らず美人だし、オーランドルフ家の血統ってみんな美形だよな。お義父さんやお義母さんも年齢はいってるけど整ってるし、従兄弟のロゼッタさんも美丈夫だった、そんな美形に囲まれた環境にも関わらずライザックは毎日「カズが世界一綺麗だ」と囁くから、うっかり慣れきってしまっていたけれど、俺はキングオブ平凡なのだから少しくらい頑張らないと!

「まぁま、まんま」

 シズクが足に纏わりついてきて我に返る。そうだよ、晩飯、ミレニアさんもいるのかな?
 客を想定していなかったので食事は自分達の分しか用意してないのだけれど、作り置きもなくはないので少し考えて俺は奥の部屋へと足を向ける。
 なにか意味ありげな二人だったけど変に勘ぐっても仕方がない、ここは普通に対応するにかぎる。

「ライザック~ミレニアさんも晩御飯い……る? ふぁっ!?」

 扉をノックはしたものの、返事を待たずに扉を開けたら室内の光景に絶句した。そこに佇んでいたのは涙を零すミレニアさんと、そんな彼の肩を抱くライザックで瞬間頭が真っ白に……
 浮気はない、浮気相手を家に連れ込むなんてあり得ないと思ったのは数分前、まさかそんな展開になってるだなんて予想外!

「あ、カズ、これは……」

 慌てたようなライザック。涙を零したミレニアさんがきっ! とこちらを睨み付けた。

「あなたは躾がなってなさ過ぎる! ノックの返事も返ってこないうちに扉を開けるなんて失礼にも程がある!」

 まさかのミレニアさんからの駄目だし、いや、だってさぁ……
 ライザックに肩を抱かれたミレニアさんは弱っているようにも見えたのに、俺を叱りつけるミレニアさんは相変らずのミレニアさんだ。
 けれど、俺を叱りつけたあと、ミレニアさんは急に顔を青褪めさせてその場に蹲った。

「おい、ミレニア、大丈夫か?」
「少し気持ちが悪いだけなんで、大丈夫です」

 あれ? もしかしてミレニアさん体調不良? 涙目なのもそのせいか?

「ごめん、晩御飯どうするか聞きたかっただけで邪魔するつもりじゃなかったんだ」

 いや、邪魔ってなんだ? 俺が踏み込まなかったら割とこれってラブシーンに近い展開……でもミレニアさん体調不良っぽいし、ライザックはたぶんそれを介抱してただけだよな?

「食事……うっ」

 ミレニアさんがまた口元を抑えて呻き声をあげる。あれ? この反応ちょっとだけ心当たりがある気が……いや、でも、まさか……

「もしかして、ミレニアさん、子供できた……?」

 それはないだろう? という気持ちが半分。だってミレニアさんはそういう事には厳格で俺がシズクを身籠った時には散々な事を言われたものだ。けれど残り半分で、つわりの時ってお腹すくけど食事の事考えると何故か気持ち悪くなるんだよなぁ、と経験からの推測が頭をもたげる。

「そんな事、ある訳ないだろう! これはストレスからの胃痛です!」
「…………、ですよね~」

 ミレニアさんはどこまでいってもミレニアさんだ。お変わりなくて安心したよ。

「バートラム様の所はやっぱり大変なんですか?」
「今はあいつの顔も思い出したくない」

 イライラした様子のミレニアさん、相当ストレス抱えてんだな。まぁ、元々ミレニアさんはバートラム様が苦手そうだったし、そんな人の所で働く事にストレスがない訳がないよな。
 だけど喧嘩しているミレニアさんとバートラム様は傍目には仲良くも見えて、観念して付き合っちゃえばわりと上手くいくんじゃないかと俺なんかは思っていたのだけど、事はやはりそう簡単には進まないらしい。

「体調悪いなら無理しない方がいいですよ。晩御飯どうしようかと思ってたんですけど、胃に優しいもの作りますね。ライザック、あんまりミレニアさんの調子が悪いようならベッド使ってもらっていいから」

 この部屋は俺達の私室兼寝室、そこにあるのは当然二人のベッドだけれど、無理させて倒れられても困るしな。

「信用されているのですね、あなたは私がライザックを奪いに来たとは思わないのですか?」
「ミレニア!?」
「あはは、ミレニアさんはそういう事できる人じゃないって信じてますから」

 少しだけ「浮気」の二文字が頭に思い浮かんだのを見透かされたみたいだ、けれど俺の信じているというその言葉に嘘はない。ライザックもミレニアさんもそういう事ができるタイプじゃない。
 「ゆっくりしていってください」と俺が笑うと、ミレニアさんは少し複雑そうな表情で息を吐いた。


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