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運命に花束を①
運命との旅立ち⑦
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気まずいままに日数だけ重ねてナダールは遠くから彼をぼんやり見つめていた。
アジェは同い年のマルクと気が合ったようでちょこちょこと彼と一緒に出掛けてしまう。できればアジェとグノー、二人一緒にいて欲しいとお願いするのだが、どうにもマルクが言う事を聞いてはくれずアジェを連れ出してしまうのだ。
マルクもまだ成り立てとはいえ騎士団員の端くれだ、何かあったとして対処はできると信じ任せてはいるが、どうにも不安は隠せない。
一方グノーの方もあれからどうにも元気がなく、それはそれで心配で仕方がない。近付くなと怒られるのであまり近付かないようにしているのだが、元気がないとどうにもこちらまで不安になってしまう。
ここ数日、グノーは陽のあるうちは小刀片手になにやらせっせと作っている。そして陽が落ちると今度は飽きもせずにひたすら剣を振るっていた。それは皆が寝静まる深夜まで続いていて、彼はちゃんと寝ているのかと首を傾げたくなるほどだった。
「何を作っているんですか?」
「あ? なんでもいいだろ」
返答は相変わらずにべもない。
「私と話すのも嫌ですか?」
「別に……」
そう言う彼は全くこちらを見ようとはせず、ただひたすらに何か部品を彫り続けている。それはとても小さな物で、一体何を作ろうとしているのかもまるで分からずナダールはまたその様子をぼんやりと眺めていた。
「……からくり人形」
唐突に彼がぼそりと言う。え? と眺めていた彼の手元から彼の顔へと視線を移せば、彼はやはりそっぽを向いているのだが、久しぶりなまともな会話に嬉しくなった。
「からくり人形、作れるんですか?」
「趣味だから、簡単なヤツだけだけどな」
そういえばメリアはそういったからくり細工が有名だったなと思い出す。人形であったり、動力であったり、それは様々な場所で利用されていると聞いたことがある。
「どんな物を作ろうとしているんです?」
「自動人形、オートマタって知ってるか?」
「いえ、それはどういった?」
「普通人形はネジを回したり、人の手で操って動かすものだけど、それを自動でやる。言っても全部自動かって言ったらそういう物でもないけど、ある程度動く、そういう人形」
「それは凄いですね」
素直に感心してその手元をまた覗き込む。
「興味ある?」
「それはそうですね、見た事ないですから」
「そうか……」
言って彼はまた黙り込んだ。
「あなたはなんでそれに興味を持ったんですか?」
その言葉に彼は少し手を止め「自分にそっくりだと思ったから」と、そう言った。
自分に似ている? それがどういう意味なのかよく分からず首を傾げる。
「何も考えない、ただ動くだけの人形。その仕組みが知りたくて作り方を覚えた。自分の中身もきっと同じだと思ってる」
「そんな事、ある訳ないじゃないですか」
「切ってみたら部品が壊れて動かなくなるかと思ったのに、思いの外痛かった。ついでに血が大量に出てきて、自分の動力どうなってんだろうな……ってそんな事ばっかり考えてた」
彼の言葉に戸惑った。これは彼の心の闇か?
「人形は操者の手の中だ、それが嫌で壊し方を研究してる」
「壊すために作ってるんですか?」
「これは違う。アジェが見たいって言ったから作ってるだけ」
彼はそう言って、またその小さな部品と格闘を始める。彼の心はどこか壊れている、それはずっと感じていたことだ。今の言葉は自身への自傷行為の告白だ。
自動人形、何の意思も持たずただ操者に操られる……彼を操っているのは、縛っているのは一体誰なのか……彼の頑なな心の鍵はきっとその人物が握っている。だがそれは彼の一番の心の禁忌だ、迂闊に触れればまた彼を怒らせかねない。
「完成したら、私にも見せてくださいね」
今はその過去に触れる時ではないと、言葉を選んでそう言ったら彼は黙って頷いた。
今はまだこれだけでいい、時間はまだある。
彼の心の鍵を必ず見つけ出してみせる、そうナダールは心に誓った。
アジェは同い年のマルクと気が合ったようでちょこちょこと彼と一緒に出掛けてしまう。できればアジェとグノー、二人一緒にいて欲しいとお願いするのだが、どうにもマルクが言う事を聞いてはくれずアジェを連れ出してしまうのだ。
マルクもまだ成り立てとはいえ騎士団員の端くれだ、何かあったとして対処はできると信じ任せてはいるが、どうにも不安は隠せない。
一方グノーの方もあれからどうにも元気がなく、それはそれで心配で仕方がない。近付くなと怒られるのであまり近付かないようにしているのだが、元気がないとどうにもこちらまで不安になってしまう。
ここ数日、グノーは陽のあるうちは小刀片手になにやらせっせと作っている。そして陽が落ちると今度は飽きもせずにひたすら剣を振るっていた。それは皆が寝静まる深夜まで続いていて、彼はちゃんと寝ているのかと首を傾げたくなるほどだった。
「何を作っているんですか?」
「あ? なんでもいいだろ」
返答は相変わらずにべもない。
「私と話すのも嫌ですか?」
「別に……」
そう言う彼は全くこちらを見ようとはせず、ただひたすらに何か部品を彫り続けている。それはとても小さな物で、一体何を作ろうとしているのかもまるで分からずナダールはまたその様子をぼんやりと眺めていた。
「……からくり人形」
唐突に彼がぼそりと言う。え? と眺めていた彼の手元から彼の顔へと視線を移せば、彼はやはりそっぽを向いているのだが、久しぶりなまともな会話に嬉しくなった。
「からくり人形、作れるんですか?」
「趣味だから、簡単なヤツだけだけどな」
そういえばメリアはそういったからくり細工が有名だったなと思い出す。人形であったり、動力であったり、それは様々な場所で利用されていると聞いたことがある。
「どんな物を作ろうとしているんです?」
「自動人形、オートマタって知ってるか?」
「いえ、それはどういった?」
「普通人形はネジを回したり、人の手で操って動かすものだけど、それを自動でやる。言っても全部自動かって言ったらそういう物でもないけど、ある程度動く、そういう人形」
「それは凄いですね」
素直に感心してその手元をまた覗き込む。
「興味ある?」
「それはそうですね、見た事ないですから」
「そうか……」
言って彼はまた黙り込んだ。
「あなたはなんでそれに興味を持ったんですか?」
その言葉に彼は少し手を止め「自分にそっくりだと思ったから」と、そう言った。
自分に似ている? それがどういう意味なのかよく分からず首を傾げる。
「何も考えない、ただ動くだけの人形。その仕組みが知りたくて作り方を覚えた。自分の中身もきっと同じだと思ってる」
「そんな事、ある訳ないじゃないですか」
「切ってみたら部品が壊れて動かなくなるかと思ったのに、思いの外痛かった。ついでに血が大量に出てきて、自分の動力どうなってんだろうな……ってそんな事ばっかり考えてた」
彼の言葉に戸惑った。これは彼の心の闇か?
「人形は操者の手の中だ、それが嫌で壊し方を研究してる」
「壊すために作ってるんですか?」
「これは違う。アジェが見たいって言ったから作ってるだけ」
彼はそう言って、またその小さな部品と格闘を始める。彼の心はどこか壊れている、それはずっと感じていたことだ。今の言葉は自身への自傷行為の告白だ。
自動人形、何の意思も持たずただ操者に操られる……彼を操っているのは、縛っているのは一体誰なのか……彼の頑なな心の鍵はきっとその人物が握っている。だがそれは彼の一番の心の禁忌だ、迂闊に触れればまた彼を怒らせかねない。
「完成したら、私にも見せてくださいね」
今はその過去に触れる時ではないと、言葉を選んでそう言ったら彼は黙って頷いた。
今はまだこれだけでいい、時間はまだある。
彼の心の鍵を必ず見つけ出してみせる、そうナダールは心に誓った。
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