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運命に花束を①
運命と我が愛し子②
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「今日は仕事はいいんですか?」
「しばらく休み。長く仕事に出た後はちゃんと休みをくれるんだよ。仕事中は休みなしだけどね」
ルークはそう言ってしゃがみこみ、毛布をめくってグノーの顔を覗き込もうとする。それを阻止しつつ、彼を自分の方へ向くように抱え込んだ。
「顔くらい見せてくれたっていいじゃん、ケチ」
「見せたら減る、と先程も言いました」
子供の喧嘩のような事を言って彼を抱え込む、寝顔にキスなど当たり前にするので油断も隙もない。
「いつの間にか、ちゃっかり子供まで作っちゃってさ、本当ズルイ」
ずるいずるいと喚かれても、そんな事知った事かと威嚇する。本気で勘弁して欲しい。
「ところでルーク君、その後ボスから連絡は?」
「ないよ、なんにも。進展なしってとこじゃない?」
グノーの寝顔を盗み見ると彼は気持ち良さそうに寝入っていて起きる気配はない。実を言うとこの村に来て知った事実で幾つか彼に伝えていない事がある。
「まだ言ってないの?」
「言う必要はありませんよ。この人は知らなくていいことです」
「知ったら『なんで言わなかった!』って怒るんじゃない?」
「それでも今は言うべき時ではない」
そう、とルークは立ち上がった。彼に言っていない話、それは現在アジェがランティス王家に捕縛、軟禁されているという事実。
一度はファルスの使者、彼の『運命』でもあるエドワードに保護されたアジェだったが、現在彼は一人メリアとの関係と王子暗殺の疑いをかけられ城内に軟禁されているという。
エドワードに保護されそのまま無事にファルスに帰る事ができれば良かったのだが、不審人物の捜索の折り彼は見つかりランティス側に捕らえられてしまった。
エドワード達の私室に潜んでいたアジェは見つかった際二人はまったくの無関係だと言い張り、たまたまその部屋に潜んでいただけだと二人を庇い捕縛されたと聞いている。実際事件は「王子暗殺未遂」という大事件で、ファルスの使者二人が絡んでいるとなれば国同士の問題にも発展しかねず、アジェは一人でその罪をすべて被ったのだ。
グノーからの証言も合わせて考えるとそれは王子自身の狂言だったのだが、そんな事は誰も知らないのだ、助け出しようもなかった。
それでもすぐに処刑とはならず軟禁という形になっているのは、彼自身が王子の双子の弟本人だからに他ならない。彼には利用価値がある、そう思われている節もある。
王と妃は彼に会いたがっていたと父から聞いていたのに、どうにも話の食い違いに何が起こっているのかもよく分からない。メルクードから遠く離れてしまった今、自分には何もできないのだから考えても仕方がないのだが、疑問ばかりが頭を巡る。
情報をもたらしてくれるのはルーク達を雇っている「ボス」と呼ばれる人。ルーク達はその「ボス」に雇われ、諜報活動で生計を立てていた。
この村の民の若者の多くはその仕事に従事しており、ルークにとってアジェとグノーを追いかけるのは彼にとっての初任務だったのだ。
「ボス」は何故その二人を追わせたのか、考えればなんとなく「ボス」が誰なのか見えてくる、ルークは「そこは企業秘密なんで」と教えてくれなかったが、恐らく「ボス」というのはグノーの友人、ブラックの事で間違いないと思う。この村と彼との関係を考えればおのずとその結論が導き出されるからだ。
だが、ではブラックというのが一体何者なのか? それを考えた時、その答えが出てこない。エドワードの父で大工、グノーの旅の友、長老の孫であり、村一番の出世頭そして「ボス」という立場。彼にはたくさんの顔がありすぎてまるで実像が見えてこない。ルークにそれを問うても「最重要機密です」とにっこり笑ってかわされてしまう。
ブラックはグノーがメリアの第二王子であることも知っていたのだろうか? 彼の周辺には各国王家に関わる人間がそれと知らずに集中している。
友人であるグノーしかり、養い子の『運命』であるアジェしかり、ついでに彼の嫁自体がランティス王妃の妹だ。これはあまりにも不自然なのではないだろうか?
ブラックは何かを知っている。知っていて何かを探っているのだ。それは一体何の為に? 謎は深まるばかりだが、まずはそんな事を考えずに与えられる情報は受け取っていた。
恐らくこちらの情報も筒抜けなのだろうが、こちらは知られて困る事など何もない。
アジェが捕まっている事を知れば恐らくグノーは助けに行こうとするに違いない。だが今はそんな無茶をさせる訳にはいかないのだ。
自分の幸せが最優先なのか? 言われてしまえばその通りで、自分達の幸せの影で父も投獄されているというし、アジェもそんな状態だ。本来なら出て行って釈明すべきなのかもしれない、それでも今はグノーを危険な目に合わせたくはなかった。
腕の中で今までないほどに穏やかに過している彼に、何故わざわざ辛い現実を見せる必要がある? そんな必要どこにもない。だから自分は口を噤んだ。ルークや長老にも言わないで欲しいと釘を刺したのだが、それは間違った事だろうか?
「予定日、春でしたっけ?」
「そうですね、春というより初夏くらいでしょうか。そろそろ名前も考えないといけないですね」
「おいら女の子がいいなぁ。絶対美人に育つよ」
「あなたに言われるのは正直微妙ですけど、きっと可愛い子が生まれるでしょうね。もちろん私は男の子でも構わないですけど」
「Ωだったらお嫁にちょうだい、大事にするから」
軽口のような言葉にまた眉を寄せてしまう
「嫌ですよ、年齢差幾つあると思ってるんですか? うちの子にはちゃんと歳相応の相手と結婚してもらいたいのであなたの出る幕はありませんよ」
「旦那はアレも駄目、コレも駄目って本当ケチ」
「好き好んで言っている訳ではないですよ、無茶ばっかり言っているのはそっちですからね!」
まだ言うか、と威嚇するとグノーがぐずぐずと眼を擦って「おまえら五月蠅い」と寝言のように呟いた。
「しばらく休み。長く仕事に出た後はちゃんと休みをくれるんだよ。仕事中は休みなしだけどね」
ルークはそう言ってしゃがみこみ、毛布をめくってグノーの顔を覗き込もうとする。それを阻止しつつ、彼を自分の方へ向くように抱え込んだ。
「顔くらい見せてくれたっていいじゃん、ケチ」
「見せたら減る、と先程も言いました」
子供の喧嘩のような事を言って彼を抱え込む、寝顔にキスなど当たり前にするので油断も隙もない。
「いつの間にか、ちゃっかり子供まで作っちゃってさ、本当ズルイ」
ずるいずるいと喚かれても、そんな事知った事かと威嚇する。本気で勘弁して欲しい。
「ところでルーク君、その後ボスから連絡は?」
「ないよ、なんにも。進展なしってとこじゃない?」
グノーの寝顔を盗み見ると彼は気持ち良さそうに寝入っていて起きる気配はない。実を言うとこの村に来て知った事実で幾つか彼に伝えていない事がある。
「まだ言ってないの?」
「言う必要はありませんよ。この人は知らなくていいことです」
「知ったら『なんで言わなかった!』って怒るんじゃない?」
「それでも今は言うべき時ではない」
そう、とルークは立ち上がった。彼に言っていない話、それは現在アジェがランティス王家に捕縛、軟禁されているという事実。
一度はファルスの使者、彼の『運命』でもあるエドワードに保護されたアジェだったが、現在彼は一人メリアとの関係と王子暗殺の疑いをかけられ城内に軟禁されているという。
エドワードに保護されそのまま無事にファルスに帰る事ができれば良かったのだが、不審人物の捜索の折り彼は見つかりランティス側に捕らえられてしまった。
エドワード達の私室に潜んでいたアジェは見つかった際二人はまったくの無関係だと言い張り、たまたまその部屋に潜んでいただけだと二人を庇い捕縛されたと聞いている。実際事件は「王子暗殺未遂」という大事件で、ファルスの使者二人が絡んでいるとなれば国同士の問題にも発展しかねず、アジェは一人でその罪をすべて被ったのだ。
グノーからの証言も合わせて考えるとそれは王子自身の狂言だったのだが、そんな事は誰も知らないのだ、助け出しようもなかった。
それでもすぐに処刑とはならず軟禁という形になっているのは、彼自身が王子の双子の弟本人だからに他ならない。彼には利用価値がある、そう思われている節もある。
王と妃は彼に会いたがっていたと父から聞いていたのに、どうにも話の食い違いに何が起こっているのかもよく分からない。メルクードから遠く離れてしまった今、自分には何もできないのだから考えても仕方がないのだが、疑問ばかりが頭を巡る。
情報をもたらしてくれるのはルーク達を雇っている「ボス」と呼ばれる人。ルーク達はその「ボス」に雇われ、諜報活動で生計を立てていた。
この村の民の若者の多くはその仕事に従事しており、ルークにとってアジェとグノーを追いかけるのは彼にとっての初任務だったのだ。
「ボス」は何故その二人を追わせたのか、考えればなんとなく「ボス」が誰なのか見えてくる、ルークは「そこは企業秘密なんで」と教えてくれなかったが、恐らく「ボス」というのはグノーの友人、ブラックの事で間違いないと思う。この村と彼との関係を考えればおのずとその結論が導き出されるからだ。
だが、ではブラックというのが一体何者なのか? それを考えた時、その答えが出てこない。エドワードの父で大工、グノーの旅の友、長老の孫であり、村一番の出世頭そして「ボス」という立場。彼にはたくさんの顔がありすぎてまるで実像が見えてこない。ルークにそれを問うても「最重要機密です」とにっこり笑ってかわされてしまう。
ブラックはグノーがメリアの第二王子であることも知っていたのだろうか? 彼の周辺には各国王家に関わる人間がそれと知らずに集中している。
友人であるグノーしかり、養い子の『運命』であるアジェしかり、ついでに彼の嫁自体がランティス王妃の妹だ。これはあまりにも不自然なのではないだろうか?
ブラックは何かを知っている。知っていて何かを探っているのだ。それは一体何の為に? 謎は深まるばかりだが、まずはそんな事を考えずに与えられる情報は受け取っていた。
恐らくこちらの情報も筒抜けなのだろうが、こちらは知られて困る事など何もない。
アジェが捕まっている事を知れば恐らくグノーは助けに行こうとするに違いない。だが今はそんな無茶をさせる訳にはいかないのだ。
自分の幸せが最優先なのか? 言われてしまえばその通りで、自分達の幸せの影で父も投獄されているというし、アジェもそんな状態だ。本来なら出て行って釈明すべきなのかもしれない、それでも今はグノーを危険な目に合わせたくはなかった。
腕の中で今までないほどに穏やかに過している彼に、何故わざわざ辛い現実を見せる必要がある? そんな必要どこにもない。だから自分は口を噤んだ。ルークや長老にも言わないで欲しいと釘を刺したのだが、それは間違った事だろうか?
「予定日、春でしたっけ?」
「そうですね、春というより初夏くらいでしょうか。そろそろ名前も考えないといけないですね」
「おいら女の子がいいなぁ。絶対美人に育つよ」
「あなたに言われるのは正直微妙ですけど、きっと可愛い子が生まれるでしょうね。もちろん私は男の子でも構わないですけど」
「Ωだったらお嫁にちょうだい、大事にするから」
軽口のような言葉にまた眉を寄せてしまう
「嫌ですよ、年齢差幾つあると思ってるんですか? うちの子にはちゃんと歳相応の相手と結婚してもらいたいのであなたの出る幕はありませんよ」
「旦那はアレも駄目、コレも駄目って本当ケチ」
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