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君と僕の物語
謀
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まもなく年が明ける、去年の今頃僕は何をしていただろう?
少なくとも今年の僕がこんな所で新年を迎えようとしている事など想像もしていなかったなと僕は苦笑する。
あれからエディはたびたび僕のもとに訪れてくれるようになった。危ないし、捕まったら困ると言うのだが、彼はどこ吹く風で僕のもとへとやって来る。
「もうじきです、年が明けたら迎えに来るのでもう少し待っていてください」
そう言って彼は僕の頬を撫でた。
鉄格子越しの逢瀬、彼の手は冷たく冷えていて、その手を温めるように体温を分け与えると彼は嬉しそうに笑ってくれた。
年が明けた。
そうは言っても僕の幽閉生活はなんら変わる事はないのだけど、ただひとつ変わった事がある、ある時を境に何故だか疑惑の大臣ウィリアム・メイスの僕に対する態度が軟化したのだ。
そのきっかけが何だったのかよく分からなかったのだけど、この間ついに決定的な事を言われてしまった。
僕のもとを訪れた大臣はにこやかに『年明けにはあなたをここから解放します』とそう言うのだ、そして……
『私には妻子が居ない、もしあなたにその気があるなら私の子を生んではくれませんか?』
続けられたのはそんな言葉で、僕は何を言われたのか分からず硬直してしまう。
そんな僕に更に畳み掛けるように彼は言った。
『もしご承諾いただけるようなら、すぐにでもこんな檻からお出ししますよ?』
そう言って大臣は目を細め舐めるように僕を見て、僕の頬を撫でた。
一気に鳥肌が立って後ずさると、彼は更に続けて言うのだ、
『あなたは、あなたを捨てた王家に復讐したくはありませんか?』
冗談なのか、本気なのか分からない言葉だったがその言葉を残して『返事は年明けに……』とそう言い残して彼が去って行ったのは昨年末の事だった。
僕を訪ねてきたエディに「年明け」の話と「復讐」の話しは伝えたのだが「子供」の話しは言えなかった。
言ったら最後エディが暴走するのが目に見えるようで、どうしても言えなかったのだ。
この国を大臣が乗っ取ろうとしている事はエリオットからの便り、そしてエディの話からもう公然の秘密のようになっていて、彼等がそれを阻止する為に走り回っているのは知っている。
けれどそんな事を知らない大臣は恐らくすでにもう乗っ取った先の事を考えているのだ。
僕の両親と兄弟を殺し王家を乗っ取った先、すぐに人民の心を掴める訳ではない、大臣は僕に子供を生ませてその子を王とする事で、王家の血筋を残しつつこの国を治めようと思っているのだろう。
ランティス王家に姫はいない、だからその矛先が僕に向いたのだ。
僕が「男性Ω」だと言った時、確かに大臣が何やら反応を示していたのを覚えている、でもそんな事に利用されるのは真っ平ごめんだ。
僕は両親も兄弟も憎んでなどいない、復讐などありえない……けれど、口車に乗ったふりをして話を聞くのはありだろうか?
どのみち相手は僕が外への連絡手段を持っている事を知らない、うまく誘導すれば何か情報を得られるかもしれないとそう思った。
「返事は年明け」彼がそう言ったのだから、たぶん恐らくそろそろコンタクトがあると思うのだ。
そして、食事の時間を外してノックされる鍵のかかった扉、返事を返すと大臣の来訪を告げられた。
「新年、如何お過ごしですか?王子」
「特に何も変わる事はありません」
僕は極力顔に表情を乗せないようにそう言った。
放っておけば嫌悪感が露に出てしまいそうでそうしたのだが、大臣は気に留める様子もない。
逆にどこか宴会にでも呼ばれた帰りなのか少々酒の入った大臣の顔は赤ら顔で、どこか箍の外れていそうな彼の様子は眉を顰めざるを得なかった。
「本日のご来訪は一体どういったご用件ですか?」
「なに、そろそろ返事を聞かせて貰おうと思いましてな」
「返事?」
「とぼけていらっしゃるのですか? 言ったはずですよ、あなたを捨てた王家に復讐する機会をあなたに与えようと言うのです」
「…………それは一体どういう事ですか?」
「あなたはあなたを捨てた両親が憎くはないのですか? 自分と違って華々しい生活を送っている兄弟を妬ましいと思いはしませんか?」
そんな事は欠片も思った事はないのだが僕は「そうですね」と相槌を打った。
「確かに僕は僕を捨てた両親が掌を返したように僕に接してくる事には違和感をもっていました、今もメリアのスパイとして疑われまた掌を返したように両親は僕に見向きもしない。ですが、だからと言って僕に何ができると言うのですか? 僕はエリオット王子の双子の弟です、でも同時に何の力もないただの一市民です」
ウィリアム大臣は僕の返事に満足げに頷いた。
「何をおっしゃいます。あなたには大きな力があります、それはあなたの身体に流れる血そのもの。あなた自身が大きな力なのですよ、あなたは日陰の身で今まで暮らしてきたが、あなたの生む子供は王家の血を引いた子供だ。王子がいなくなり、あなたが子を生めば、その子供はこの国の正当な王位継承者に他ならない」
「あなたはこの国をどうするつもりなのですか?」
「なに、どうという事もない、ただ支配者が変わる……それだけの事ですよ。現国王がいなくなり、あなたの子供が王位に就くそれだけの事」
「その子供を僕に生めという事ですか? それはあなたの子供……そういう事ですか?」
「その通りです」
大臣は目を細めて笑みを見せた。
「まぁ、どちらにしてもこれは決定事項です。あなたが「うん」と頷けばあなたは自由を手に入れる、断ればこの牢獄が我が屋敷に変わるだけ……」
元々選択の余地などなかったのか、と青褪めた。
僕が彼の言いなりに表舞台に出れば彼にとって多少都合がいいだけで、もし嫌だと言っても彼は無理やりにでも自分を娶る気でいるという事だ。
「僕に選択権はないのですね」
「陽のあたる場所に出る、という選択肢はある」
僕はひとつ息を吐いて大臣と対峙する。
「具体的にお話お伺いしてもよろしいですか?」
「それは了承と受け取っても?」
「そう思っていただいて結構です。どのみち僕がここから出る為にはあなたの言う事を聞くしかないのですから」
大臣は満足げに頷いた。
「近々城では新年の祝賀会が催されます、その際に王家の人間は賊に襲われ不慮の事故で亡くなるのです。あなたは唯一ここで難を逃れ……後はお分かりですね?」
「その賊と言うのは?」
「なに、その辺のチンピラ共ですよ、金さえ積めば何でもやるような輩です。所詮捨て駒、用が済んだら片付けてしまえばいい」
「失敗したらどうするのですか? そんなに上手く行くとは思えない」
「私には大きな後ろ盾がいる、失敗などありえませんよ。でもそうですね、もし失敗した所で実行犯はあくまでその賊達です、私達には関係ない」
「大きな後ろ盾、というのは?」
「それはあなたはまだ知らなくてもいい事です。ですが、事が動いてしまえばすぐに分かります」
「そうですか」と僕は頷き、しばらく考え込むように沈黙した。
「僕があなたの言う通りに動けば、あなたは僕を解放してくれると本当に信じても大丈夫ですか? 僕は口約束だけで自分の人生を決められるほどあなたを信用はできない」
「ふむ……でしたら一筆書きましょうか?」
「誓約書のような物を?」
「そんなもので安心できるのでしたらいくらでも」
恐らく何を書いてもいざとなったら反故にする気満々の態度が窺い見えるが、無いよりは証拠はあった方がいい。
「では、いざという時の為に今の計画を書面に残してください。それにサインをして僕にください。僕はあなたにまで裏切られるのはごめんです、どのみちあなたと僕は一蓮托生それが公表されればあなただけでなく僕にも害は及ぶ、あなたが裏切らない限り僕はそれをお守り代わりに持ち続けます。もし裏切ったら遠慮なく公表させていただきますけどね、それくらいのリスク背負ってもらってもいいでしょう? 僕はあなたに純潔を捧げなければならないのでしょうからね」
「ほう、あなたはまだ誰とも?」
「僕がそんなあばずれに見えますか?」
「それは更に楽しみが増えましたな」
大臣はまた瞳を細めてにやりと笑った。
「その楽しみは総てが終わった後までとっておいてください」
「いいでしょう」と頷いて大臣は差し出した紙に自筆で事の詳細を書きつけ僕にくれた。
きっとこんな物、彼にとったら何の証拠にもならないただの紙切れだと思っているに違いない、何も分からぬ子供がと侮られている事がよく分かる。
事件が終わってしまってからこれを表に出しても握り潰されるのがせいぜいだ、だったらこれは事件が起こる前に公表されなければならない。
「ありがとうございます」それを受け取ると大臣はまたこちらを舐めるような嫌らしい笑みを向ける。
あぁ、本当にこの人、生理的に受け付けない。
「あなたが思いのほか賢い方で助かりました。駄々をこねるようであれば多少乱暴に扱わねばならない事も覚悟しておりましたのでね。まぁ、それはそれでまた一興……ですが」
この男に組み敷かれる自分を想像するとぞっとする。
それでも無理にでも笑みを作る……事には失敗したが、不自然ではない程度に無表情に「お待ちしております」と言葉を返すと、大臣は満足したように去って行った。
手付け代わりに少しくらい何かされるかと思ったが、意外とそんな事も無くほっとした。
どこにでもある紙に書いた落書きのような書き付け、サインは有るが印は無い。
正式証書としてはかなり価値は薄い代物だ、それでも僕にとっては命綱、そしてこの国にとっては大きな証拠。
僕は今聞いた情報をつぶさに書き止め卵に詰める、日暮れを待ってそれを外に投げるとそれほど時間を置かずに回収されていった。
新年の祝賀会というのがいつ行われるのか分からないが、これで事前に警戒もできるだろう。
僕にできる事などたかが知れている、それでも少しは役に立てたかな……と変わらぬ窓の外の景色を見やった。
少なくとも今年の僕がこんな所で新年を迎えようとしている事など想像もしていなかったなと僕は苦笑する。
あれからエディはたびたび僕のもとに訪れてくれるようになった。危ないし、捕まったら困ると言うのだが、彼はどこ吹く風で僕のもとへとやって来る。
「もうじきです、年が明けたら迎えに来るのでもう少し待っていてください」
そう言って彼は僕の頬を撫でた。
鉄格子越しの逢瀬、彼の手は冷たく冷えていて、その手を温めるように体温を分け与えると彼は嬉しそうに笑ってくれた。
年が明けた。
そうは言っても僕の幽閉生活はなんら変わる事はないのだけど、ただひとつ変わった事がある、ある時を境に何故だか疑惑の大臣ウィリアム・メイスの僕に対する態度が軟化したのだ。
そのきっかけが何だったのかよく分からなかったのだけど、この間ついに決定的な事を言われてしまった。
僕のもとを訪れた大臣はにこやかに『年明けにはあなたをここから解放します』とそう言うのだ、そして……
『私には妻子が居ない、もしあなたにその気があるなら私の子を生んではくれませんか?』
続けられたのはそんな言葉で、僕は何を言われたのか分からず硬直してしまう。
そんな僕に更に畳み掛けるように彼は言った。
『もしご承諾いただけるようなら、すぐにでもこんな檻からお出ししますよ?』
そう言って大臣は目を細め舐めるように僕を見て、僕の頬を撫でた。
一気に鳥肌が立って後ずさると、彼は更に続けて言うのだ、
『あなたは、あなたを捨てた王家に復讐したくはありませんか?』
冗談なのか、本気なのか分からない言葉だったがその言葉を残して『返事は年明けに……』とそう言い残して彼が去って行ったのは昨年末の事だった。
僕を訪ねてきたエディに「年明け」の話と「復讐」の話しは伝えたのだが「子供」の話しは言えなかった。
言ったら最後エディが暴走するのが目に見えるようで、どうしても言えなかったのだ。
この国を大臣が乗っ取ろうとしている事はエリオットからの便り、そしてエディの話からもう公然の秘密のようになっていて、彼等がそれを阻止する為に走り回っているのは知っている。
けれどそんな事を知らない大臣は恐らくすでにもう乗っ取った先の事を考えているのだ。
僕の両親と兄弟を殺し王家を乗っ取った先、すぐに人民の心を掴める訳ではない、大臣は僕に子供を生ませてその子を王とする事で、王家の血筋を残しつつこの国を治めようと思っているのだろう。
ランティス王家に姫はいない、だからその矛先が僕に向いたのだ。
僕が「男性Ω」だと言った時、確かに大臣が何やら反応を示していたのを覚えている、でもそんな事に利用されるのは真っ平ごめんだ。
僕は両親も兄弟も憎んでなどいない、復讐などありえない……けれど、口車に乗ったふりをして話を聞くのはありだろうか?
どのみち相手は僕が外への連絡手段を持っている事を知らない、うまく誘導すれば何か情報を得られるかもしれないとそう思った。
「返事は年明け」彼がそう言ったのだから、たぶん恐らくそろそろコンタクトがあると思うのだ。
そして、食事の時間を外してノックされる鍵のかかった扉、返事を返すと大臣の来訪を告げられた。
「新年、如何お過ごしですか?王子」
「特に何も変わる事はありません」
僕は極力顔に表情を乗せないようにそう言った。
放っておけば嫌悪感が露に出てしまいそうでそうしたのだが、大臣は気に留める様子もない。
逆にどこか宴会にでも呼ばれた帰りなのか少々酒の入った大臣の顔は赤ら顔で、どこか箍の外れていそうな彼の様子は眉を顰めざるを得なかった。
「本日のご来訪は一体どういったご用件ですか?」
「なに、そろそろ返事を聞かせて貰おうと思いましてな」
「返事?」
「とぼけていらっしゃるのですか? 言ったはずですよ、あなたを捨てた王家に復讐する機会をあなたに与えようと言うのです」
「…………それは一体どういう事ですか?」
「あなたはあなたを捨てた両親が憎くはないのですか? 自分と違って華々しい生活を送っている兄弟を妬ましいと思いはしませんか?」
そんな事は欠片も思った事はないのだが僕は「そうですね」と相槌を打った。
「確かに僕は僕を捨てた両親が掌を返したように僕に接してくる事には違和感をもっていました、今もメリアのスパイとして疑われまた掌を返したように両親は僕に見向きもしない。ですが、だからと言って僕に何ができると言うのですか? 僕はエリオット王子の双子の弟です、でも同時に何の力もないただの一市民です」
ウィリアム大臣は僕の返事に満足げに頷いた。
「何をおっしゃいます。あなたには大きな力があります、それはあなたの身体に流れる血そのもの。あなた自身が大きな力なのですよ、あなたは日陰の身で今まで暮らしてきたが、あなたの生む子供は王家の血を引いた子供だ。王子がいなくなり、あなたが子を生めば、その子供はこの国の正当な王位継承者に他ならない」
「あなたはこの国をどうするつもりなのですか?」
「なに、どうという事もない、ただ支配者が変わる……それだけの事ですよ。現国王がいなくなり、あなたの子供が王位に就くそれだけの事」
「その子供を僕に生めという事ですか? それはあなたの子供……そういう事ですか?」
「その通りです」
大臣は目を細めて笑みを見せた。
「まぁ、どちらにしてもこれは決定事項です。あなたが「うん」と頷けばあなたは自由を手に入れる、断ればこの牢獄が我が屋敷に変わるだけ……」
元々選択の余地などなかったのか、と青褪めた。
僕が彼の言いなりに表舞台に出れば彼にとって多少都合がいいだけで、もし嫌だと言っても彼は無理やりにでも自分を娶る気でいるという事だ。
「僕に選択権はないのですね」
「陽のあたる場所に出る、という選択肢はある」
僕はひとつ息を吐いて大臣と対峙する。
「具体的にお話お伺いしてもよろしいですか?」
「それは了承と受け取っても?」
「そう思っていただいて結構です。どのみち僕がここから出る為にはあなたの言う事を聞くしかないのですから」
大臣は満足げに頷いた。
「近々城では新年の祝賀会が催されます、その際に王家の人間は賊に襲われ不慮の事故で亡くなるのです。あなたは唯一ここで難を逃れ……後はお分かりですね?」
「その賊と言うのは?」
「なに、その辺のチンピラ共ですよ、金さえ積めば何でもやるような輩です。所詮捨て駒、用が済んだら片付けてしまえばいい」
「失敗したらどうするのですか? そんなに上手く行くとは思えない」
「私には大きな後ろ盾がいる、失敗などありえませんよ。でもそうですね、もし失敗した所で実行犯はあくまでその賊達です、私達には関係ない」
「大きな後ろ盾、というのは?」
「それはあなたはまだ知らなくてもいい事です。ですが、事が動いてしまえばすぐに分かります」
「そうですか」と僕は頷き、しばらく考え込むように沈黙した。
「僕があなたの言う通りに動けば、あなたは僕を解放してくれると本当に信じても大丈夫ですか? 僕は口約束だけで自分の人生を決められるほどあなたを信用はできない」
「ふむ……でしたら一筆書きましょうか?」
「誓約書のような物を?」
「そんなもので安心できるのでしたらいくらでも」
恐らく何を書いてもいざとなったら反故にする気満々の態度が窺い見えるが、無いよりは証拠はあった方がいい。
「では、いざという時の為に今の計画を書面に残してください。それにサインをして僕にください。僕はあなたにまで裏切られるのはごめんです、どのみちあなたと僕は一蓮托生それが公表されればあなただけでなく僕にも害は及ぶ、あなたが裏切らない限り僕はそれをお守り代わりに持ち続けます。もし裏切ったら遠慮なく公表させていただきますけどね、それくらいのリスク背負ってもらってもいいでしょう? 僕はあなたに純潔を捧げなければならないのでしょうからね」
「ほう、あなたはまだ誰とも?」
「僕がそんなあばずれに見えますか?」
「それは更に楽しみが増えましたな」
大臣はまた瞳を細めてにやりと笑った。
「その楽しみは総てが終わった後までとっておいてください」
「いいでしょう」と頷いて大臣は差し出した紙に自筆で事の詳細を書きつけ僕にくれた。
きっとこんな物、彼にとったら何の証拠にもならないただの紙切れだと思っているに違いない、何も分からぬ子供がと侮られている事がよく分かる。
事件が終わってしまってからこれを表に出しても握り潰されるのがせいぜいだ、だったらこれは事件が起こる前に公表されなければならない。
「ありがとうございます」それを受け取ると大臣はまたこちらを舐めるような嫌らしい笑みを向ける。
あぁ、本当にこの人、生理的に受け付けない。
「あなたが思いのほか賢い方で助かりました。駄々をこねるようであれば多少乱暴に扱わねばならない事も覚悟しておりましたのでね。まぁ、それはそれでまた一興……ですが」
この男に組み敷かれる自分を想像するとぞっとする。
それでも無理にでも笑みを作る……事には失敗したが、不自然ではない程度に無表情に「お待ちしております」と言葉を返すと、大臣は満足したように去って行った。
手付け代わりに少しくらい何かされるかと思ったが、意外とそんな事も無くほっとした。
どこにでもある紙に書いた落書きのような書き付け、サインは有るが印は無い。
正式証書としてはかなり価値は薄い代物だ、それでも僕にとっては命綱、そしてこの国にとっては大きな証拠。
僕は今聞いた情報をつぶさに書き止め卵に詰める、日暮れを待ってそれを外に投げるとそれほど時間を置かずに回収されていった。
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