運命に花束を

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二人の王子

観光 ①

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 翌日俺はアジェさんに貰ったメモを頼りに彼の宿泊先を訪ねていた。
 部屋から出てこないカイトに声をかけると、ヒート自体はだいぶ落ち着いているが、今日は家で休むと言うので、家の中でくらい自由に過して欲しかった俺は家を出てきたのだ。
 俺が伯父達の部屋を訪ねると、彼等は最初少し驚いたような表情を見せたが、アジェさんはすぐに満面の笑みで俺を招き入れてくれた。

「僕ね、今日君達の家を訪ねて行こうと思っていたんだ、凄いね、以心伝心だね!」
「え……あ、いや……カイトがヒート起こしたんで、何となく……家に居るとあいつ、俺に気を遣うから……」
「カイト君が? 大丈夫?」
「本人は大丈夫だって言ってましたけど、俺もよく分からないです」

 アジェさんは少しだけ心配そうな表情を見せる。そりゃそうだよな、自分の甥っ子だし。

「カイト君のヒートっていつもどんな感じ? 酷いの?」

 彼の問いに俺は首を横に振る、カイトがヒートを起したのを見る事自体が初めてなのだから答えようもない。

「声掛けたら普通に返答は返ってきましたけど、俺、あんまりΩのヒートの事はよく分からなくて……近くにいたΩって言えば母さんとカイト、あとヒナくらいですけど、母さんの時は父さんが完全にシャットアウトしてしまうからよく分からないし、カイトのヒートは初めて見たんで、酷いとかそういうの全然分からないです」
「返事は普通に返ってきたんだな?」

 伯父のエドワードが問うてくるのに頷くと「だったらそこまで酷くないかな」とアジェさんはそう言った。

「カイルさんはヒートのない特異体質だし、僕もヒート自体は一日で終わっちゃう体質だから、血筋的に軽い可能性は高いのかな。本当に酷い人になると1週間完全に意識が飛んじゃうって聞くし、普通に会話ができるなら、本当にもう落ち着いてる可能性は高いのかもね」
「そういうものなんですか?」
「こういう話しはあんまりΩ同士でもしないからねぇ、言ってしまえば自分の性生活暴露するようなものだし、そういうのってなかなか話題にはしづらいから一概には言えないけど、たぶんね」

 アジェさんは「そっか、そっか」と頷いて「じゃあ大丈夫かな……」とぽそりと呟くので、俺は首を傾げた。

「本当は2人一緒にと思ってたんだけど……」
「何がですか?」
「ツキノ君、今日は僕達と一緒に遊びに行かない?」

 アジェさんが満面の笑みで、子供のような事を言い出したので俺は驚いてしまう。

「遊びに……?」
「そう! 僕イリヤにはほとんど知り合いいないし、滞在するの初めてなんだよ! 君達だったらきっと楽しい場所知ってるんじゃないかと思ったんだけど、駄目?」
「え……観光、ですか?」

 「そう!」と、やはりアジェさんは心底楽しそうな笑みで頷いた。
 俺は彼が母さんのお見舞いにここイリヤを訪ねて来たものだとばかり思っていたので少々戸惑いを隠せない。

「うん、僕凄く楽しみだったんだよ!」

 母さんへの見舞いはただの旅行のおまけだったのかと思ったら、勝手な話だが失望した。この人は俺達の理解者だと期待していた分だけ失望が大きい。

「そんな顔するな、アジェはルーンからほとんど出ない、今回のこれだって10年ぶりの遠出なんだ、少しくらい浮かれても仕方がないだろう」

 伯父の言葉に俺は『それはそうかもしれないけど……』と心の中で溜息を吐いた。勝手に期待して勝手に失望する、それが身勝手な想いだと分かっていても、やはりがっかりした気持ちは否めない。

「旅行とか、あんまり行かないんですか?」
「これでいて仕事が多くてね。旦那さん放って放蕩もできないし、本当に久しぶりなんだよ」

 悪びれる様子もなく彼は笑うので、俺はもうそれにとやかく言う立場ではないと諦めた。

「俺、色々聞きたい事あったんですけど、お邪魔ですかね……」
「え? なになに? いいよ、何でも聞いて」
「でも、観光行くんですよね……?」
「うん、だから一緒に行こうよ、観光しながらだって話しはできるよ」
「でも、俺の親の事とか、あんまり大きな声で言えないんじゃ……?」
「レオンさんやルネちゃんの事聞きたいの? いいよ、全然平気。親の話を聞くのに遠慮する必要なんてないよ、一緒に行こう。ツキノ君の聞きたい事、なんでも答えるよ」
「でもルーンからほとんど出ないんですよね? そんなに知ってる事もなかったりするんじゃないですか?」

 どこまでも楽しげに食い下がってくるアジェさんは「ん~確かに僕はルーンからあまり外に出る事はないけど、知ってる事は結構あると思うよ。僕、メリアもランティスも行った事あるし、ルネちゃんやエリィとは文通してるからね」と、やはりにっこり笑った。
 アジェさんはその言葉をさらりと言ったが、よく考えたらランティスの王子とメリアの王妃が文通相手というのもどうなのか……と俺は複雑な気持ちになった。

「他にもユマちゃんとか、ナディアさんとか、あとギマール伯父さん!」

 聞いた事のない名前もぽこぽこ出てくるが、それは一体誰なのだろうか? まさか全員王族関係者という事もないだろうが……

「ちょっと待て、アジェ! ユマ? お前は今あいつが何処に居るのか知ってるのか?!」
「うん? 大体の場所はねぇ……でもお兄ちゃんにはナイショって言われてるから言わないよ。なんだかんだでエディ、居場所が分かったら連れ戻しに行っちゃうでしょ? ユマちゃん、帰りたくな~いってさ」

 『ユマ』それは俺の叔母にあたる人物で母ルネーシャの妹なのだと聞いている。何故俺がそんな伝聞のような言い方をするのかと言えば、実際俺はその叔母に会った事がないからだ。
 俺が自分の出自を知り、顔合わせをされ、城で世話になるようになった頃には彼女はもう城にはいなかった。誰もその居場所は知らないらしく『放蕩娘』の名を欲しいままにしていたが「便りがないのは無事な証拠」と祖父は笑っていた。
 城には2人の叔父が居て、上がジャン、下がジャックという名前でそれぞれこの国の第一・第二王子だ。
 第二王子のジャックはルイ姉さんにご執心な為、デルクマン家でもよく顔を見かけたが、第一王子のジャン叔父さんとは城で世話になるまであまり交流はなかった。けれど、寡黙で真面目な性格なこの叔父を、俺はあの自由奔放な王家の中での唯一の良心だと思っている。

「まぁそんな感じだからさ、僕、意外と皆の知らない事とかも知ってたりするんだよ。大事な話しは秘密厳守だけど、分かる事なら教えるよ」

 彼が自由気ままな叔母の所在まで把握している事に驚いた俺は、言葉を失う。

「だ・か・ら、変わりに僕の我が儘にも少し付き合ってよ。僕、見たい物も食べたい物もたくさんあるんだ。駄目?」

 小首を傾げる彼はずいぶん年上のはずなのに、なんだかとても幼く見えた。しかし、その笑顔にはどうにも断りづらい力がある。

「駄目では……ないですよ」
「やった! じゃあ、行こ行こ! エディも早く! 時間は無限じゃないんだから、さぁ出発だよ!」

 彼が飛び跳ねるように身支度を整えていくのを、俺は少し呆れて眺めてしまった。

「アジェさんって、いつもあんな感じなんですか……?」
「ん? まぁ、今日はいつもよりはしゃいでいるな。何せ本当に久しぶりの遠出だから」

 伯父はやはり少し気難しげな表情だったのだが、跳ねるように楽しげな伴侶を見やって「ふっ」と笑みを見せた。あぁ、この人こんな顔もできるんだ……

「こんなアジェは久しぶりでな、これはこれでなかなか楽しい」

 えぇ、これでいてこの人も楽しいんだ……?
 伯父は微かに見せた笑顔を引っ込め、仏頂面で言っている事は表情と真逆過ぎてなんだか変な感じ。

「アジェ、あまりはしゃぎすぎると体力が持たないぞ」
「あぁ! 今馬鹿にした! 馬鹿にしたでしょう! いくら普段そこまで体力作りしてなくても、一応それなりに体力はあるんだからね!」
「分かった、分かったから……ほら、忘れ物はないか?」
「えっと……うん、大丈夫!」

 ぽんぽんと自分の服や鞄を確認してアジェさんは笑い、伯父さんは黙って頷く。
 その姿は夫婦というよりは親子か、まるで手のかかる弟の世話でもしているようで、こっちもつられて笑ってしまった。

「あ……ツキノ君、笑ったね。ふふ、その顔いいと思うよ。もっといつもそんな顔で笑ってようね」

 そんな事を言って彼はやはりにっこり笑みを見せた。彼を見ているとどうにも笑顔が移る。
 そんな彼の傍らで仏頂面だった伯父も笑顔を見せていて、この人は不思議な人だな、とそう思った。



「ねぇねぇ、アレ何!? なんか、ふわふわしてる! 食べ物? 食べ物なの!?」
「綿菓子、食べた事ないですか?」
「ないよ! 初めて見たよ! アレ、どんな味?」

 目の前でくるくると綿毛のような綿菓子が大きくなっていくのを見やって、アジェさんは目を輝かせている。その綿菓子には色が付いていて、ピンクや黄色のそれがお菓子だとは俄かに信じられない様子の彼は、俺の服の袖を引っ張って尋ねてきた。

「砂糖からできてるので、甘いですよ」
「色が違う所は味が違うの?」
「……食べてみます?」

 瞳を輝かせて頷く彼は本当に子供のようだ。それを見た伯父は無言のままなのだが、何も言わずにその店に無言で並んで綿菓子を2つ購入している。
 伯父は買ったその綿菓子のひとつをアジェさんに手渡し、もうひとつを俺に手渡した。
 自分用に買っている物とばかり思った俺は驚いて、大きくて無愛想な伯父を見上げてしまったのだが、伯父はやはり無愛想なまま「食べろ」と一言呟いた。

「や……でも……」
「金なら気にするな。田舎者でも一応貴族だ、金はそこそこ持っている。それとも甘い物は嫌いか?」
「そんな事は、ないけど……」
「遠慮はいらん、食え。俺は甘い物は得意じゃない、食べられるならアジェに付き合ってやってくれ」

 言葉は本当にぶっきら棒なのだが、なんだかちょっと優しい。

「それじゃあ、いただきます」

 俺がぺこりと頭を下げると、伯父はひとつ頷いた。そんな俺達のやり取りを、全く気にする様子もないアジェさんは綿菓子にかぶりつき「甘い、美味しい~」とご満悦顔だ。

「ね、ね、ね、ツキノ君、あれは? アレは何?」

 まだ綿菓子を食べ終わらないうちに、アジェさんは次のターゲットを見付けては目を輝かせる、そして彼が興味を示した物を伯父は無言で片端から購入していく。
 なんだか、人事だけどこんな買い物の仕方で大丈夫なのか? と少し心配になるくらいの豪遊ぶりだ。

「凄いね、イリヤ! 楽しい物も美味しい物もいっぱいだね! これ、食べきれるかな」

 気が付けばアジェさんと伯父さんだけではなく、俺の腕にもたくさんのお土産物がぶら下がっていて、どうにも呆れて言葉も出ない。
 この場にカイトがいたら「無駄遣い駄目だよ!」と怒られそうだ。

「ふふふ、ちょっと買いすぎちゃったかな。疲れたね、休憩しようか」

 イリヤの中心の大通りを半分ほど巡って、ようやくアジェさんはそんな事を言う。
 広場の休憩所に買ってきた食べ物を広げて、あれもこれも美味しいねと彼は次々それを摘んでいく。俺も促されてそれらを摘むのだが、どうにも食は進まない。
 あの事件以降食べ物の味もよく分からなくなっていて、あまり食べられなくなっていた俺は最近食事自体もあまりしていない。そのせいもあるのか、自分が食べようとしても食べられなくなっている事にその時俺は初めて気が付いた。

「ツキノ君、食細いね。食べられない? 成長期なんだから食べないと身長止まっちゃうよ?」

 俺の身長は160cmそこそこだ。同じ年頃の男子と比べても少し低い身長は多少のコンプレックスでもある。けれど、今まではカイトも似たり寄ったりで、ずっとどんぐりの背比べだったので、あまり気にしないように努めていたのだ。
 だが、ここにきてカイトの身長が伸びてきているので、それを言われるとちょっと辛い。

「まぁ、僕も成長期遅かったから気にする事ないと思うけどね。そういえば僕、いつの間にかグノーの身長も越しちゃったんだよね、ビックリだよ」

 アジェさんの言葉に無言を貫く伯父が一言「寝る子は育つ」とぼそりと呟いた。

「なんか今馬鹿にされた気がする! もうエディなんか、自分が大きいからって馬鹿にして!」
「別に馬鹿にしている訳じゃない。よく寝て、よく食べていれば背なんかいくらでも伸びる、問題ない」

 どうやら伯父は俺が黙ってしまったのは身長を気にしての事だと思ったようで、不器用なフォローを入れてくれた事に気付いた俺は思わず2人の掛け合いに笑ってしまった。

「最近ちょっと食欲ないだけなんで、大丈夫です」
「本当に? さっきからお肉とか食べてないみたいだけど、嫌い?」
「肉は……今ちょっと食べられなくて」

 そんな事を言いながら俺が肉を食べられなくなった経緯を2人に話すと、アジェさんは「分かる!」と大仰に頷いてくれた。

「分かるんですか?」
「僕もそういう時あったもの。ツキノ君と似たような経験、僕にもあってさ、さすがに食べたくなくなるよね、お肉」
「それでも食べられるようになったんですか?」
「食べるよ、普通に。やっぱり体が欲するし、食べないと誰かさんが無理矢理口に突っ込んでくるからね。という訳でツキノ君、目瞑って、はい、あ~ん」

 何を言われたのか分からずに戸惑っていると、アジェさんは自分の口を開けて指差しながらもう一度「ほら、ツキノ君もあ~んして」と言うので、俺が恐る恐る口を開けると、そこに焼き立てのパンをぽんと放り込まれた。

「むぐっ、んん……ちょ……」
「はい、次いくよぉ。はい、あ~ん」
「え……えっ……まっ!」

 待てと言おうとした口の中に更に一口大の野菜を放り込まれ、それを嚥下するとまた次と、アジェさんは容赦がない。

「はい、じゃあこれでラスト!」

 次々放り込まれる食べ物を、どうにかこうにか食べ下し、最後に放り込まれたのが何だったのか確認できずにそれを咀嚼したら、口一杯になんだか懐かしい味が広がった。

「ちゃんと噛んで食べてね。喉に詰まらせたら大変だから」
「んん、これ……」
「特製ローストビーフサンド、どう? 無理そうなら出してもいいよ?」

 そんな事を言いながらも彼は静かに微笑んでいた。俺は見るだけでも吐き気を覚えていた肉をどうやら食べさせられてしまったようだ。けれど、口の中に広がるのは今までと変わらない肉汁の味で、元々肉が好きだった自分の身体はそれを覚えていたのだろう、普通に美味しいと感じてしまった。

「アジェ、あまり無理をさせるな。気持ち悪いようなら吐いてもいいからな」

 眉間に皺を寄せたまま伯父は言う。もうこれは分かってしまった、これ、この人の心配顔だ。
 俺はそんな2人を見やって首を横にふり。ゆっくりそれを咀嚼し、それを嚥下すると2人の顔にあからさまな安堵の顔が見て取れて、笑ってしまった。

「凄く……美味しかった」
「これ、見ちゃうと駄目なんだよね。まだ食べられそうなら野菜やパンに包んであげる。ここのローストビーフ美味しいね」

 アジェさんは自分も同じようにパンに野菜と一緒に肉を挟んで「うん、美味しい」と目を細めた。

「ツキノ、無理はしなくていいからな」

 その横で、やはり強面の顔はそのままに伯父はこちらを見るので「大丈夫です」と俺はパンに手を伸ばした。今度は自分の手で肉を摘んで野菜で覆ってパンに挟む。
 目を瞑って、ままよとばかりに口の中に放り込んだら、やはり肉汁が口の中に広がって、なんだか涙が出た。

「美味しい……ふふ、美味しいや」

 そんな俺を見ていた伯父は無言で俺の頭を撫でてくれたのだが、その大きな手は父さんの手に似ていて少し嬉しくなった。


  ※  ※  ※


「これ、どうしたの?」

 僕はどうにか体調も落ち着き、ふらりと自室からリビングに向かうとリビングの机の上には食べきれないような量の料理が並べられていて戸惑った。
 そこにはツキノがいて、最近ではとんと見ない笑顔をこちらに向け「もう大丈夫?」と僕に言った。

「うん、体調はもう大丈夫だと思う。変にフェロモン出てないよね?」

 確認するようにそう言うと、ツキノはすんと辺りの匂いを嗅いで、こくんとひとつ頷いた。

「それにしても、これ何? ちょっと量多すぎじゃない?」
「カイト昨日から食べてないからお腹空いてるだろ? 食べて。まだ、たくさんあるんだ」

 僕は椅子に掛け、料理を前にもう一度「これ、どうしたの?」とツキノに尋ねた。

「おじさん達がくれたんだ。カイトにも食べさせたいって、でもこの量2人でも食べきれないよな」

 心底可笑しいという表情でツキノが笑う。こんな笑顔を見るのは何時以来だろうか、あまりにもここしばらくのツキノとは違いすぎて僕は戸惑いが隠せない。

「おじさん達って昨日の? えっと、アジェさんとエドワードさん?」
「そう、アジェ叔父さんとエディ伯父さん、俺、あの2人好きかも」

 人の好き嫌いの激しいツキノの口からそんな言葉が出てきて僕は更に驚きを隠せない。
 少なくとも今までのツキノならば、あの愛想のないツキノの伯父、エドワードにここまで懐く事はなかったはずだ。

「今日はあの人達と一緒にいたの?」
「うん、メリアの事とか両親の事とか聞こうと思って……って、あぁ! 俺今日何にも聞いてないじゃん! ひたすら食べて歩き回って1日終わった……何してんだよ、俺……」

 気付いてがくっと肩を落としたそんなツキノの姿に僕は思わず吹き出してしまう。
 僕は改めて机の上の大量の料理を眺めやり、その中の一品に目を留めた。

「あれ、コレ……」
「あぁ、ローストビーフ、凄く美味しいからカイトも食べな」
「ツキノ……食べたの……? 食べれたの!?」

 僕のその叫びに彼は一瞬驚いたような表情を見せたのだが、何かに納得したようにひとつ頷き「うん、食べられたよ」と笑みを見せた。

「凄く美味しいから、カイトも食べて」

 この3ヵ月どうしても肉に手を付けられなかったツキノがその肉を食べたと言うのだから本当に驚きだ。一体彼等はどんな魔法を使ったのかと僕は戸惑いを隠せない。
 しかもツキノが笑っている、最近はずっと沈みがちで感情表現があまり表に出なくなっていたツキノの顔に表情が現われている。

「叔父さん達とのお出かけは楽しかった?」
「え? ……うん、楽しかった……よ?」

 僕が真面目な顔でそんな質問を投げたので、ツキノは僕の機嫌を損ねたとでも思ったのか不安そうな表情を見せる。

「……ズルイ!」
「え?」
「ツキノばっかりズルイ!! 僕だって叔父さん達と食べ歩きしたい!」
「えっ……や、来ればいいんじゃないか? 明日も一緒に出かける約束してるし」
「僕、仕事だよ! そんなに何日も休めないよっ! 明日もお土産持ってきてくれなきゃ許さないから!」
「えっ? えっと……うん、分かった」
「よっし、じゃあ食べよ! 僕本当にお腹空いてたんだ、ヒートってめっちゃお腹空くね! 体力勝負だね! これはちゃんと体力付けとかないと大変だよ」

 僕は目の前の大量の料理を腹に収める。それでもその料理は2人がかりでも多すぎて「買い込み過ぎだよ」と笑ってしまった。



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