僕のもふもふ異世界生活(仮)

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僕の試練①

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 何か長い夢を見ていたみたいだ。
 何故か目を覚ましたら僕は異世界にいて、そこで出会った白いもふもふの狼の獣人に溺愛される夢を見ていた。白い狼の獣人さんはとても格好良くて、優しくて、僕はそんな彼にすぐにめろめろになったんだ。彼も僕をとても愛してくれて、尻尾にかけて僕を愛するなんて、そんな事も言ってもらって、すごくすごく幸せな夢だったんだ……

 頬に何かざりざりとした生温い感触がする。今、何時だ? ここ、どこだっけ……?
 耳元で「うにゃ~ん」と、猫の鳴き声が聞こえた。あぁ、もう朝なんだ。

「……ぅはよ、クロ。ちょっと待ってて、今、ご飯準備するから」

 僕はいつものように起き上がり、いつものように寝惚け眼のまま台所の戸棚を開ける。戸棚の中にはクロのご飯。カリカリをクロの皿に盛り付けて、目の前に差し出せば、クロは一心不乱にそのカリカリを食べ始める。

「クロは呑気でいいなぁ……」

 時計を見上げると時間はもう九時で、遅刻とかそんなレベルじゃないな……と、僕は頭を振った。目覚まし時計をセットし忘れたんだ。学校をサボった事はないんだけど、この時間から登校とか正直ダルすぎる。母さんは出張で家にいないしバレなきゃ一日くらい許されるかな? もう学校に行くのもかったるいや……
 僕はリビングのソファーに腰掛け、そのままパタンと横倒しに横になった。
 何だかとても幸せな夢を見ていたのに、やっぱり現実なんてこんなもので、誰もいない静かな我が家は相変わらずしんと静まり返っている。聞こえてくるのはクロがカリカリを齧っている咀嚼音だけで、なんの物音もしやしない。

「夢の中の方が楽しかったな……」

 獣人が支配する世界、だけど僕の周りはシロさんを筆頭に優しい獣人さんばっかりで、魔法なんかも使えちゃって、魔物はちょっと厄介だったけど、なんとか暮らしていけそうな気がしていたんだけどな。まぁ、夢だからね。僕に都合のいい世界だっただけかもしれないけど。
 僕はぐぅんと腕を伸ばす。今の僕の手には何もない。勿論魔法だって使えない。

「コテツ様の魔法、格好良かったな。僕も指ぱっちん出来るように練習してみようかな」

 そんな練習をしてみた所でこれからの人生になんの役にも立ちはしないのは分かっているのだが、何とはなしに僕は指を鳴らそうと試みる。音は鳴るどころか、すかっと空気を切るだけで、僕には指ぱっちんの才能はないのだと悟る。
 でも、拍手で魔法ってやっぱりちょっとタイミングが難しいんだよねぇ……魔物退治なら射撃でなんとかなったけど――と、そこまで考えて。馬鹿みたい……と、大きな溜息を零した。
 こんなの全部夢じゃないか、僕が何をした所で魔法なんて使えないし、あの世界にはもう行くことも出来ない。いや、もしかしたら行きたいと望んでいればまた夢で見ることも出来るかもしれないな。もう、今日は学校にも行きたくないし、また寝ちゃおうかなと瞳を閉じる。
 クロの足音が聞こえる。ご飯は食べ終わったのかな? お皿を片付けなきゃと思うのだけど、身体が上手く動かない。なんかすごくダルイ。腰痛いし。寝すぎかな?
 クロが僕の身体によじ登ってくる気配に瞳を開けた。長毛種のクロの毛皮はとてももふもふ。恐らく雑種だと思うんだけど、手触りは極上なんだよね。シロさんのあの寝心地のいい毛皮にはちょっと容量が足りなさ過ぎるけど、やっぱり手触りが少し似ている。
 それにしても普段は付かず離れず適度な距離を保っているクロが僕に登ってくるなんて珍しい。

「ク~ロ~、ご飯だったらもうないよ。それとも僕と遊んでくれるの?」

 クロは僕の身体をよじ登り、背中側へと首を突っ込む。なんだよちょっとくすぐった……い? ふと、覗き込んだ背中側、クロが何かに腕を伸ばしてちょいちょいと遊んでいるんだけど、それって……え、待って!

「尻尾!?」

 慌てて飛び起き背中を見やる、その拍子にころりと転がったクロは抗議の声を上げた。けれど僕はそれどころじゃない、だって僕のお尻には尻尾が生えている。慌てて頭を触ったら、そこにも耳が生えていた。

「え……待って、嘘、耳? 尻尾? ニセモノ……?」

 思わず引っ張った尻尾はとても痛くてそれが夢ではないのだと確信させた。完全に眠気も吹き飛んで、僕は洗面所に駆け込み鏡を見やる。そこにいたのは僕だけど、間違えようもない耳はぴょこんと動く。

「夢じゃ、なかった……」

 夢じゃない、アレは夢じゃなかったんだ。でも、ここはどう考えても僕の世界の僕の家。なのにこんな猫耳生やしてどうすんの!? 僕、これからどうやって生きてけばいいのさ!! こっちに戻すなら戻すで元の状態で戻してくれなきゃ意味なくない!? だったらそのままなんで向こうに残してくれなかったの!? こんな理不尽ありゃしない、しかもあんな幸せの絶頂でこっちに戻すってどういう了見なのさ! もし本当に神様がいるのなら、神様の馬鹿っっっ!! って思い切り叫びたい。

「ぅな~ん」

 クロが僕の足に纏わりつく。なんだよ、ご飯はもうないって言っているのに……そんな事をふと考えた時に、僕は自分が自分の寝巻きを着ている事に気が付いた。
 ここは自分の家で僕は寝起きな訳だから寝巻きでいる事になんの不思議もないんだけど、僕はこちらに戻された時には確かに服は着ていたはずなんだ。それはシリウスさんの物で僕の服ではなかったはずだ。ふと、見やれば寝巻きのズボンの尻尾の部分は誰かが鋏で切ったような感じだし、もしかしたら僕をこれに着替えさせた人間がいるのではなかろうか?

「まさか、クロ……? なんて事あるわけないよねぇ」

 でも、現在この家には僕とクロ以外には誰もいない。だって母さんは出張中で……って、アレ? 確かに僕が向こうの世界に行った時、母さんは仕事で出張していたけどアレからどのくらい経ってるの? 向こうの世界で僕は一ヵ月程度過している訳だけど、こっちでは時間が止まってる? それとも動いてる? 浦島太郎みたいに向こうの一ヶ月がこっちの一日とかだったら、母さんが出張中でも不思議はないけど、もしこっちでも同じように時間が経過しているなら今日は一体何月何日だ?

「あの日……何日だったっけ? 確かまだ十月の頭だったはずだけど……」

 何を見ればいい? カレンダー? いや、カレンダーなんて見たって今日の日付は分からない。我が家は新聞も取っていないから、外に出て買ってこないと無理だけど、この猫耳と尻尾で外になんか出たら、明らかに不審者だよ!!
 あぁ、そうだ! テレビ!? リビングに駆け戻ってテレビを点ける、だけど時間は分かっても日付までは分からない。朝のワイドショーなんて、いつ点けたって同じような事しかやってないし、この時間はワイドショーじゃなければ再放送のドラマや時代劇ばかりで日付が分かるような番組が何もない。

「もう! どうすればいいんだよ!」

 テレビのリモコンを放り投げたらどこかにぶつかったのだろう、テレビの画面がぱっと切り替わった、それは今日の番組表で、よくよく見ればそこに日付が映っている。

「11月15日……」

 時間が進んでいる。僕がこの世界にいない間、この世界もちゃんと時間は進んでいたんだ。でも、だとしたらこの一ヵ月、この世界の僕は行方不明だったって事? いや、ちょっと待って、そういえばシロさんが言っていた、シリウスさんが僕の世界の僕の身体の中に入っている、って。

「うぁ、もっとちゃんと聞いとけば良かった! 今、どういう状況になってるのか全然分かんない!」

 でも、シロさんの言葉が正しければ僕の体の中にはシリウスさんがいて、そう、確かお隣の同級生、橘美鈴とシリウスさんは一緒にいたはずだ!! この世界にシリウスさんがいる……だったら僕はシリウスさんに会わなければ! 会えば何かしら、この状況がどうなっているかも分かるはずだ。でも、その当のシリウスさんは何処にいるの? まさか僕の変わりに学校に……? なんだかすごく嫌な予感しかしない。だって、シリウスさん異世界の人だよ? あっちはこっちとは全然常識も生活も違っていて、そんなシリウスさんがこっちの世界に馴染んで普通に生活していた、なんてあり得る?
 いや、僕だって向こうの世界になんとか馴染んでいこうとしていたんだから出来ない事はないかもしれないけど、でもシリウスさんの職業剣士だよ? こっちの世界にはそんな職業はないし、魔物だっていないし、何もかも生活は違っていたと思う訳で、なんかすごく不安が過ぎる。
 僕がぐるぐるとリビングで頭を悩ませていると、またしてもクロが足元に纏わり付いてきた。僕はそんなクロを抱きあげる。

「クロ……僕、どうなっちゃうんだろう……」

 言葉を語らぬ愛猫は「ぅなん?」と一声鳴いて、僕の腕から逃げ出した。
 逃げ出したクロの背中を瞳で追い駆けていると、クロはとてとてと廊下に向かい僕の方を向くとまた「うなん」と一声鳴いた。

「ん? なに? 着いてこいって? いやいや、まさか、そんな事……」

 そうは思ったのだが、クロはじっとこちらを見据えたまま動かないので、僕はとりあえずクロに着いて行く事にした。クロが向かったのは僕の部屋で、扉の前でクロはまた開けろとばかりに「うなん」と鳴く。

「なに? 僕の部屋に何かあるの?」

 僕が部屋の扉を開けると、そこは先程起きた時のまま、何も変わらない僕の部屋だ。クロは戸惑う僕なんか我関せずで僕のベッドの上で丸くなった。なんだよ、もしかして昼寝がしたかっただけなのか?
 僕がそんなクロに苦笑しながらふと机の上を見やるとそこに置かれていたのは、僕があの時シロさんに魔物の核だと手渡された赤い水晶。

「これ……」

 僕はそれを手に取り大事にぎゅっと握りこむ。夢じゃない、やっぱり夢じゃないんだ。シロさんはちゃんと何処かに存在していて、今頃僕を探している!
 帰らなきゃ、僕は向こうに帰らなきゃ! だってシロさんを一人になんてさせられないよ、いつでも少し自信なさげで、優しい僕の白い狼。そんな彼を一人きりにはさせられない。
 僕は改めて部屋の中を見渡した。いつもと変わらないはずの僕の部屋、けれど部屋の隅に昨日僕が着ていたはずのシリウスさんの服が畳んで置かれているのに気が付いた。荷物も一式纏められた状態で、やはり僕はあの時、何者かにこちらの世界に連れて来られたのだ。でも、それは一体誰に?
 僕はあの時、魔物の触手に絡め取られたのだと思うのだ、けれど僕は無傷でここにいる。これは一体何故なんだろう?
 僕はシロさんに貰った水晶を大事に首にかけた。これは肌身離さず持っていようと思う、だってこれはシロさんが僕に初めてくれた贈り物だ。
 何か、向こうとこちらの関係を結びつける手がかりを……そう、思った時僕ははっと気付く、シリウスさんのお守り袋、その中に入っていた写真とSDカード、僕はそれを持っていたはずだ。
 飛び付くように鞄を漁る、その中から出てきた巾着袋の中にSDカードは入っていた。

「あった!」

 この中に何か手がかりはあるに違いない。僕はそれを持って部屋を飛び出した。僕は自分用のパソコンを持っていない、使いたい時には母の許可を取って母に借りるのが定石なのだけど、今はそんな事をしている暇はない。というか、連絡を取ろうにも僕のスマホが見当たらない。寝る時にはだいたい枕元に置いて寝るのだけど、その辺には見当たらないので、連絡の取りようがない。だからもうこの際連絡なんて二の次だ!
 僕はリビングに置かれたノートパソコンの電源を入れる。そして、SDカードを差し込んでそのデータを読み込んでみた。
 SDカードは何枚かあって最初の一枚目、読み込んだSDカードの内容、それは日記だった。
 『まさか子を授かるとは思っていなかった。これは驚くべき事象だ。私にはこの事象を後世に残す義務があると思う……』そんな一文から始まったそれは言ってしまえば子育て日記、妊娠発覚からつけ始めたらしいその日記は確かに内容は日記なのだが、読んでみるとまるで何かの観察記録のようで、何とも普通の子育て日記とは言い難い。少し堅苦しい語り口、何故か僕はそれに心当たりが在りすぎる。

「これ、母さんの日記なんじゃ……?」

 SDカードを読み込んだつもりで実はパソコンの中身、母が隠していた日記か何かを開いてしまったか? と慌てた僕なのだけど、確認してみても、それはシリウスさんが持っていたSDカードに入っていた情報で間違いがなく、僕は首を傾げた。
 僕の母親は少し変わった人だ。
 研究家肌とでも言うのだろうか? 物事を深く考え込むきらいがあって、語り口も考え方も少し堅い所がある人なのだ。僕は今まで、母みたいな母親というか女性に遭遇した事がないので、母はやはり少し変わり者なのだとそう思う。

「やっぱり、シリウスさんって北斗なのかなぁ……」

 もしシリウスさんの持っていたこのSDカードの中身が母の日記で間違いないのならその信憑性はぐんと上がる。けれど、残る疑問はあの世界とこっちの世界は全く違う世界なのに、何故北斗が向こうの世界でシリウスと名乗って生きていたのか、という謎だ。
 この世界と向こうの世界はどこかで繋がっている、だけどその接点は一体何処にあるのだろう?
 僕が日記を眺め考え込んでいると、背後でドアの開く音が聞こえた。クロが体当たりでドアの開閉をするのは日常茶飯事なので、クロの仕業かと顔を上げたらそこには「あら? 起きていたの?」と、あまり愛想の良くない母親が、何処かから帰って来たのだろう、きっちりとしたスーツを着込んだ姿で、だが、少し疲れた様子で僕を見やった。

「母さん……」
「何をしているの? もう意識ははっきりしたの?」
「え……えっと……」

 僕は何から言葉を口にしていいか分からずに口籠った。まずは『おかえりなさい』と言うべきか? それとも『この日記母さんの?』と、尋ねるべきか?

「どうかした? 私の顔に何か付いている?」
「ううん、えっと……おかえり、母さん」
「ただいま、はぁ――疲れた。ホント警察って何度行っても嫌なものだね……」

 そう言って母はスーツの上着を脱いでソファーの背に掛けると、溜息を吐くようにソファーへと腰掛けた。

「警察? え? なんで警察?」
「昨日からお隣の美鈴ちゃんが行方不明なんだよ。最後の目撃情報があんたと一緒に居たって情報だったものだから、少し話を聞かれてね……」

 行方不明? 美鈴が?

「僕、知らないよ……」

 そもそも僕は昨日までこの世界にはいなかったのだ、もし僕が美鈴と一緒に居たというのなら、その僕の姿をしていた人間は恐らく間違いなくシリウスさんだ。そんな僕の頭の中を知ってか知らずか、母さんは「だろうね」と頷いた。

「だってあなたは昨日までここにはいなかった」
「なんで知って……」
「分かっているさ、そんな猫耳の生えた人間なんてこの世界にはいやしない」

 思わず僕はばっと頭の耳を隠した。そういえば母さんがあんまりにも普通に話すものだから、うっかり失念していた。そうだよ、この世界に頭に猫耳を生やしている人間なんて存在しないんだ。

「別に隠す必要はない。大体の事情はシリウスに聞いているから」

 僕のそんな行動に母は穏やかに言葉を続ける。

「驚かないの?」
「シリウスが……いいえ、北斗が目の前に現れた時にはさすがに私も驚いたよ」

 母はそう言って苦笑する。やっぱりシリウスさんって、僕の兄さん『北斗』なんだ。

「シリウスさんは今、何処にいるの?」
「それが美鈴ちゃんと一緒に行方不明なんだよ……そして現れたのが北斗の姿のあんただもの、驚きすぎて一周回って色々とどうでもよくなったわ」

 我が母ながら酷い言い草だ。それにしても行方不明って……僕のこっちでの体、北斗ごとどっか行っちゃったって事? 僕、ものすごく困るんだけど……

「警察にはあなたは何者かに襲われて現在意識混濁中、事件の時の事は何も覚えていないって言ってあるから、ちゃんと口裏合わせるんだよ」
「え、そうなんだ。でも、それって医者にかかって色々調べられたりするんじゃ……僕、こんなだし、それすごく困る」
「医師としての診断は私がおろした。問題ない」
「えぇ……でも母さんは医師って言っても獣医師じゃんか……」

 そう、母の職業は獣医師。あちこちの動物病院を転々としている流しの獣医師だ。自分の病院を持たない母は、仕事先を変えるたびに僕を引っ張りまわして、ようやくここ最近落ち着いたくらいに、ひとところに留まれない獣医師なのだ。

「私、ちゃんと医師免許も持っているよ」
「だから、それ獣医師の免許だろ?」
「いいえ、私は元々人間の医者だったんだ、獣医師の免許を取ったのはあなた達が生まれた後。私には獣医としての知識が必要だった、だから獣医になっただけ」

 母のまさかの発言に僕は驚きが隠せない。だって、僕が物心付いた頃には母は既に獣医師だった、だからそんな事を欠片も知りはしなかったのだ。

「なんで医者から獣医になんてなったの? 医者の方が稼ぎは良いんじゃないの?」
「必要に迫られたからね、私は医者だけど動物の生態には詳しくなかった。あんたは普通の人間として産まれたけれど、北斗は父親の血の方が濃く出てしまって……北斗をこの世界で育てる為に私にはその知識が必要だったの」

 母の言っている意味がよく分からない。いや、分かる、今なら分かる、でもそれは本当に?

「もしかして……僕達の父親って獣人だったりするの?」

 母が小さく息を吐き「まぁ、そういう事だね」と、頷いた。

「え? 本当に? でも、どうして? 母さんは向こうの世界の事を知っているの?」
「知っているよ、一ヵ月程度だけど向こうの世界で暮らしていた事もあるからね」

 まさかの展開に僕は言葉が出てこない。自分の父親が獣人なのも驚きだが、まさか母が向こうの世界の事を知っていて、あまつさえ暮らした事があると言うのに僕は驚きが隠せない。

「どうやって!? どうやって向こうの世界に行ったの!? そんでもってどうやって帰ってきたの!?」
「話せば長くなるよ?」

 溜息を吐くように母は言う。僕は「構わないから話して!」と、改めて母の前に椅子を持ち出し腰掛けた。
 そんな僕達を見上げていた愛猫クロが母の膝の上に飛び乗り、丸くなる。

「さてと、どこから話せばいいものか……」

 母はそう言ってクロの丸い背中を撫でながら話し始めた。
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