童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第一章

いきなり正体がバレました

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 何処かで僕の名を呼ぶ声が聞こえる。
 起きなければ、早く起きて……を、しなければ大変な事になる。けれど眠い、身体が重い、何かがずっしりと僕の身体の上に圧し掛かっているような重みで身体が動かせない。

「っ……おも……」

 はっと気付いたら目の前にあったのは厚い胸板。何が起こっているのか分らなくて、グルグルしていたらぎゅうっと身体を締め付けられて思わず「ぐえっ」とカエルの鳴き声のような声が出た。
 ぎりぎと僕を締め付ける腕がキツイ、ついでに僕を締め付けている人がごろんと転がり身体を引き倒されて潰された。

「ん~!!!」
「ああ、目が覚めた?」

 僕が必死の思いで身体の拘束を解くために暴れていたら、僕の上に圧し掛かっていた重い筋肉がごろりとまた転がった。まるで重しのようだった筋肉だるまを押し退けてくれたのは見目麗しい天使様……じゃなく、今日も今日とて神々しいまでに綺麗な顔立ちのルーファウスだ。

「アランは寝相が悪いから、大丈夫?」

 どうにかこうにか逞しい腕の中から這い出した僕は、朝っぱらから一仕事終えたような気持ちで頷いた。どうやら僕はアランに抱き枕にされていたようで、当のアランはまだ夢の中だ。
 室内には明るい日差しがさし始めている、ルーファウスは一体いつ帰ってきたのだろう? 全然気付かなかったよ。

「おはようございます、ルーファウスさん」
「はい、おはよう。タケルは寝起きが良いね。アランなんか寝起きはいつもぼんやりしていて使い物にならないってのに」

 そうなんだ。確かにあれだけ腕の中で暴れたにも関わらずアランはまだ寝こけているので睡眠に貪欲なのはよく分かる。

「ルーファウスさんは寝起きがいいみたいですね。でも、昨晩帰りが遅かったみたいですし、ちゃんと寝ました? 大丈夫ですか?」
「ああ、それは大丈夫。ちゃんと寝たよ、ありがとう」

 そんな風に言ってルーファウスは笑みを見せるが、顔には少し疲れが見える。何時に帰ってきたのか分からないけど、少なくとも睡眠時間は短かったんだろうな。睡眠は大事だよ! ちゃんと寝れる時は寝ないと!

「昨日言っていた調べものは終わりましたか?」
「え……ああ、うん、ある程度はね」

 ルーファウスの歯切れが悪い。やっぱり疲れているのだろうか。

「ねぇ、タケル、少し聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「え? 何ですか?」
「単刀直入に聞くけど、君ってもしかしてどこか他の世界から来た人?」

 唐突な指摘に僕は驚いて言葉が出ない。確かにルーファウスの指摘は正しいのだけれど、ルーファウスが何をどう考えてその結論に達したのか僕には皆目見当がつかない。

「あの……なんでそんな事聞くんですか?」
「理由は色々あるんだけど、一番は昨日君が僕に見せてくれた無属性魔法、かな」

 あれ? 昨日ルーファウスはこの世界に無属性魔法は存在しないって言い切ってなかったっけ? 正しくは無属性魔法であそこまでの威力は出ない、だった気もするけど。

「君が最初に見せてくれた魔法、あれは本当に凄かった。だけど、その後に見せられた基本魔術はお世辞にも凄いとは言い難かった。あれは本当に初心者の魔術でしかなくて、それがどうにも引っかかったんだよ。そもそもあそこまで魔術が使えないのに魔力量が二万って時点で不思議ではあった、生まれ持った魔力量が桁違いに多かった? だけどその割には今まで魔術の手ほどきを一切受けていないのは明らかにおかしい」

 理路整然とルーファウスは言葉を続ける。

「そこで私は思い出した、それは昔から一般的に流布されているお伽噺だ。昔々、まだこの世界が混沌に満ちていた頃、魔法は一部の者達が使えるだけの特別な力だった。けれどある時一人の人族がその膨大な魔力を使い実験を繰り返し魔術という学問を確立した。魔術はそれまで魔法を操る事ができなかった者にまで浸透し生活に恩恵をもたらすまでになっていく、そして今の魔法社会の礎となった……って、簡単に言えばそんなお話。本当にそんな人物が実在したのかどうかも分からないような伝承だけど、それが皆が良く知る魔術の成り立ちなんだよね。だけどエルフの里にはもう少し詳しい伝承が残されていてね……」

 ルーファウスは少し言葉を濁す。

「その者の正体はある日突然この世界へとやって来た異世界の住人だった、って話。そしてその者の名は『タロウ・スズキ』、タケルと同じスズキ姓だ」

 おおう、まさかの! 確かに神様は前にもこの世界に送られた人が居たような事は言っていた。だけど、なんかすごい事になってたんだな……完全に文明変えちゃってるじゃないか。
 しかもスズキ・タロウさん! あからさまな偽名過ぎてツッコミどころ満載だよ! いや、もしかして本名の可能性もあるのかな?

「もしかして君はそのタロウという人物と何か関りが?」
「いいえ、ありませんね」

 そもそも「すずき」という姓は日本国内において「さとう」に次いで多い姓なのだ、僕の住んでいる地域は「石を投げれば鈴木に当たる」ってくらい鈴木さんが多い地域だった、だから余計にその鈴木さんと僕に何かしらの関係があるとは思えない。

「そうか……でも、魔術は確かに魔法を操りやすく体系化してくれた、けれど大昔は魔法は限られた者にしか操れない特別な力だったんだ。そのタロウという人は魔術を体系化する前から優れた魔法を操れたと聞く、それこそ今の魔術に匹敵するほどのね。そしてそれは、おそらくエレメンタルに頼らない無属性魔法……」

 おっと! そうきたか! 今となっては体系化された魔術が主流で無属性魔法は操り手が少なくて廃れちゃった感じ? だとすると僕はとても貴重な無属性魔法の操り手……な~んて――
 そんな事を呑気に考えていたらルーファウスにがしっ! と両手首を掴まれ、ぐいっと顔を寄せられた。

「もし、私の仮説が正しいのであれば、君の中には今まで知り得なかった魔法の根幹が眠っている、私はそれが知りたいのです!」
「魔法の、根幹……?」
「そうです! それが分かれば魔術はもっともっと進化する、私はそれを見てみたい!」

 えっと……ルーファウスって、澄ました顔して意外と熱い男だったんだな。

「もし僕が『そうだ』と言ったらルーファウスさんはどうするんですか? 僕は閉じ込められて研究対象にされたりとかそういうのは嫌ですよ」

 なんか監禁されて実験体にでもされそうな勢いだったものだから、思わずそんな事を口走ってしまったのだけど、ルーファウスの動きがぴたりと止まった。
 いや、本当に嫌だからね、動物実験の被験体みたいに檻に閉じ込められて飼い殺しとか絶対嫌だから!

「……もしかして、今までそんな経験が……?」

 昨日の今日でそれはないけど! でもそんなこと聞かされたら、ありそうで怖くなるじゃないか。
 僕が黙っていると、何をどう解釈したのか「私は決してそんな事はしません!」とルーファウスは断言してくれた。けれど続けて「しかしタケルが本当に無属性魔法の使い手であるのならば確かに不埒な考えを持つ者も湧いてくる可能性を否定できない」と怖い言葉を告げてくる。

「けれど安心してください、これでも私はAランク冒険者、あなたの事は私が守る!」

 オウフ……自分が女でこんな美形にそんな事言われたら恋でも始まりそうな予感がするけど、相手は男、そして僕は子供、何も始まる予感がしない。むしろ行動制限されて不自由な生活になる予感しかしない。

「少し、考えさせてもらってもいいですか?」

 手首を握ったまま詰め寄ってくるルーファウスを避けるようにのけぞって僕が答えると「早目の検討お願いします」と、ルーファウスは頷いた。
 まぁ確かにこんな異世界で子供の姿な僕だから保護者ができるのはとても有難いけれど、なんか思ってたのと違うんだよなぁ……
 そうこうするうちにアランが「お前等朝から元気だな」と大あくびで起き上がった。けれどまだ半分夢の中という感じでグラグラと揺れている。

「おはようございます、アランさん」
「ん、おはようさん」

 挨拶と共にアランに抱きつかれくしゃくしゃに髪を撫で回された。昨夜も思ったけど、僕ってアランにとって一体どんな扱いなんだろう? 弟? ずいぶん距離が近くて遠慮がない気がする。

「アラン、タケルが困ってる」

 そう言ってルーファウスがアランの腕の中から僕を攫った。いや、別に困ってはなかったけどな?

「あん? 急にずいぶん過保護だな?」
「別にそんな事はありません。それよりも今日はタケルの試験ですよ、アランに付き合っていたら遅刻してしまう、アランは放って朝食にしましょう」

 僕を促すように言ったルーファウスの言葉に「んん~?」と、アランが不審気に首を捻った。けれど僕とルーファウスが部屋を出ようとすると、すぐに頭を振って「俺も行く」と立ち上がり、もう一度大あくびをした。

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