童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

矢の字

文字の大きさ
30 / 222
第一章

そんな装備で大丈夫ですか?

しおりを挟む
「あの、僕、ものすごく基本的な事を聞くんですけど、僕のこの装備ってゴブリン討伐に行って大丈夫な装備ですか?」

 毎日薬草採取に通っていた草原はとても見晴らしのいい草原だった。スライムがその辺を飛び跳ねている以外は魔物らしい魔物も出ない憩いの場のような場所でかなり安全なエリアだったと思う。
 ゴブリン討伐に向かった僕達が向かった先はそんな草原とは反対方向で、実は僕はこちらに来た事が一度もない。こちらはいつもの草原エリアより樹木が多く草の背丈も高い鬱蒼とした場所だった。森というほど樹々が密になっている訳ではないのだが、背の低い僕からするととても視界の悪い草原で、何故だか急に不安になってくる。
 こちらのエリアでももちろん薬草採取の依頼は出ていて、草原エリアより少し高額な依頼もあったのだけど、高額だからこそ少し採取が難しいのだろうなと思って避けていた。だから僕はこちらに来るのは初めてで不安は募るばかりだ。
 冒険者ギルドで手に入る情報ではこちらにはスライム以外にも色々な魔物が出るというのも聞いていて、行くのならもう少し準備を整えてからと思っていたのだけれど、今回勢いに呑まれてここまでやって来てしまった訳で、頭の中で『そんな装備で大丈夫か?』と何かのゲームでモブに言われた言葉を反芻してしまう。
 うん、気持ち的には全然大丈夫じゃないです!

「そういえばタケルの装備は皮の胴着だけか。武器は? ナイフとか小刀は?」
「そんなの持ってないです」

 僕は魔術師としてルーファウスから教えを受けていて、基本的には自ら近接戦をする予定はなかった、それでも一本くらいは持っていた方がいいのだろうなと思っていたのだけれど、現状まだ資金が足りずに保留にしたままだったのだ。

「もしかして丸腰?」

 ロイドの問いに僕は力なく頷く。なんだかとても心細い。腕の中に抱いたライムもプルプル震えていて、少し脅えているのかもしれないな。

「まぁ、タケルは魔術師だしな。とりあえずゴブリンは火球ファイアーボール火球で倒せる。攻撃はなるべく受けないように気を付けて、すぐに火球が撃てるように心構えだけしておけば大丈夫だろう。ただゴブリンっていうのは知能が低くてこん棒以外の武器は扱えない。だがもしまともな武器を扱うゴブリンがその中にいたら、そこにはゴブリンの大きな巣があって上位種がいる可能性が高いからすぐに逃げること」

 少し不安になって「ゴブリンにも上位種なんているんですか?」とアランに問うと「スライムにだって上位種はいるんだ、そりゃあいるさ」とあっけらかんと返されてしまった。

「だけど、上位種が大きな街の近くに現れる事はまずない、何故ならこうやってマメに冒険者が討伐しちまうからよっぽどの事がなければそこまで育つ事はないんだ。だからお前達は安心して依頼をこなせばいい」

 アランの言葉にぼくはひとまずホッとする。火球で倒せるならたぶん何とかなるはず。というか何とかならないと困る。
 不意に目の前の草むらがガサガサっと揺れて何かが目の前に飛び出してきた。思わず「ひっ」と小さく悲鳴をあげて後退ると、そこに居たのはスライムより少しサイズの大きいもこもことした白ウサギだ。いや、ウサギか、これ? なんか額に角があるぞ?

「ああ、そいつはホーンラビットだな。宿の奴等がよく狩ってくるからタケルも食べた事あるだろう?」

 ああ、確かにその名前には聞き覚えがある。ラビットと言うからにはウサギなのだろうと思っていたのだけど、冒険者達に手渡される時には既に肉塊になっているので生きているホーンラビットを見たのは初めてだ。
 こいつ肉が柔らかくて鶏肉に似た味わいで美味しいんだよね。それにしてもウサギのくせに角があるのかと、近寄ってよく見ようとしたらロイドに「馬鹿っ、近寄んな!」と思い切り後ろに引っ張られた。
 その瞬間だ、ものすごい跳躍力で僕のいた場所に突っ込んできたホーンラビットが牙を剥いて真っ赤な瞳をこちらへと向ける。
 怖っ! ってか牙……!? ウサギって草食じゃなかったっけ!?
 ロイドが剣を一薙ぎすると、ホーンラビットは慌てたように逃げてしまったのだけれど、僕は驚きすぎて全く動けなかった。

「あ~タケル、ホーンラビットは見た目は可愛いが肉食で危険だぞ。人を襲う事は滅多にないが、噛まれると大怪我するから気を付けろよ」

 それ、もっと早くに教えて欲しかったな……いや、これも僕の勉強不足か。薬草採取ばかりしていたからこの地域の魔物分布図なんて片手間にしか見てなかったよ。噛まれなくて本当に良かった。

「先に言っておけば良かったな、この辺にはゴブリンの他にもさっきのホーンラビットやコカトリスも出る、タケルはコカトリスも食べた事はあるよな?」

 コカトリス、それも冒険者の人達が手土産に持ってくる魔物肉の中に入ってる。それこそこっちは完全に鶏肉で尾が蛇なんだよな。蛇の部分は討伐証明の為に冒険者ギルドに提出するらしいから渡される時は普通に鶏の形で蛇の部分は見た事ないけど毒があるというのは聞いている。
 コカトリスの蛇の部分は毒抜きすれば滋養強壮に効くらしくて高値で売れるから討伐報酬も高いんだって冒険者のお兄さんお姉さん達が言っていた。

「あの、もう一度聞きますけど、僕の装備本当にこれで大丈夫ですか?」
「まぁ、今回の標的はゴブリンだからな、ホーンラビットもコカトリスも基本的にこちらから狩りにいかなければ襲ってはこない、が……」

 ええと、そんなホーンラビットさんに先程僕は噛みつかれそうになった訳ですがね?

「僕は装備を整えてからの出直しを希望します」
「んなっ! そんなんしてたら日が暮れちまうだろ!」
「ゴブリンの討伐期限は一週間あるんだから一日くらい時間くれたっていいじゃないか!」
「それはそうだけど、せっかくここまで来たのに……」

 ロイドは帰るのを渋るけど、そもそもこの辺の野草は1m程の丈があって背の低い僕の視界はとても悪い。背の高い二人は周りの状況を簡単に把握できるのかもしれないけど、僕にはそれができないのだから防具くらいは万全にしておかなければ怖いじゃないか!
 今の僕の服装は普通の半袖のワイシャツにハーフパンツとショートブーツそれに皮の胴着だけだよ、防御力なんてほぼ無いに等しい子供が危険だとは思わないのか! 毒持ちの魔物が足元に出るのに生足とかあり得ないだろう!?
 向こうの世界でだってマムシが出る場所に行く時には長袖長ズボン、靴も防御力の高いものをって言われたぞ!

「無理です、戻りましょう」
「タケルは本当に意気地がないな」

 相変らずのロイドからの憎まれ口、だけどノリに任せてここまで来てしまったが、なんの下調べもなしに魔物討伐なんてしては駄目だ。Bランク冒険者のアランがいるから大事にはならないにしても怪我をする可能性は非常に高い、僕はそれを看過できない。

「う~ん、確かにタケルの言うことにも一理ある。俺もまさかタケルが丸腰だとは思っていなかったし、簡単な仕事だと俺自身思っちまったがお前達はまだGランクだもんな」
「疾風までそんな事! あんた、さっき俺達のこと優秀だって言っただろ!」
「お前達は俺の目から見て優秀なのは間違いない、だけどまだなりたての冒険者なのも事実だろう、勇敢と無謀を履き違えると大怪我するぞ」

 アランにまで諭されるようにそう言われてロイドはむすっと黙りこんだが、そのうち不貞腐れた声で「分ったよ」と頷いてくれた。

「でも明日は絶対だかんな! ちゃんと今日のうちに装備整えとけよ!」
「うん、分った」

 ロイドの言葉にホッとして僕達が踵を返そうとしたその瞬間、またしても草がガサガサっと大きく揺れた。またホーンラビットかと僕が身構えると、そこに居たのは小さなおっさん……もとい、これはもしや――

「ゴブリン!?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...