童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

矢の字

文字の大きさ
61 / 222
第二章

ルーファウスとタロウさんの関係

しおりを挟む
 宿屋に戻った僕とルーファウスは現在部屋で二人きり。少しだけ居心地悪く感じていた僕だったのだけど、ルーファウスは僕を椅子に座らせ静かに僕の髪を櫛で梳いている。
 この世界へやって来て二か月と少し、その間一度も切っていない僕の髪は現在肩下あたりまで伸びている。
 僕は今まで髪を伸ばした事が一度もないので髪の手入れの仕方なんてもちろん分からないし、自分で縛るのなら適当に括るだけなので、こうやって毎日手入れをしてくれるのは正直とても助かっている。
 たぶん自分一人ではこんなに丁寧に髪を梳く事もなかっただろうし、うっとおしくて切ってしまっていたと思うのだ。
 僕の髪を梳くルーファウス自身の髪はとても長い、自分の髪の手入れだけでも大変だろうになんだか申し訳ないな。

「ルーファウスの髪って綺麗だよね、いつから伸ばしてるんですか?」

 ルーファウスの髪は白銀色でとても綺麗だ、髪の長さも腰下くらいまであるのに絡みもしないし痛んでもいない。黙って窓辺に佇んでいたらそれこそ等身大の人形が立っているのでは? と錯覚するほどにルーファウスは浮世離れした見た目をしている。
 まぁ、エルフが美形なのはお約束だから、不思議ではないけどね。

「いつからでしたかねぇ、物心ついた時にはもう伸ばし始めていたので覚えていないです」

 そうなんだ。一体何年切っていないのかと聞いたら毛先はちょくちょく切っていると言うので、全く鋏を入れていない訳ではないらしい。

「魔力は髪に宿るって本当ですか?」
「昔は信じられていましたけど、どうなんでしょうね。タケルを見ていると、そんなのはただの迷信なのではないかと私も思い始めている所ですよ」

 確かに僕はこの世界に来た時は普通に短髪だったけれど、魔力は相応にあったもんな。髪を伸ばしたら、あの括弧で隠蔽された魔力が解放される、なんて事もないだろうし。

「エルフの里でも魔術師を目指す子供は髪を伸ばすのが慣習でしたので、私は幼い頃から何の疑問も持たずに髪を伸ばしていました。そんな幼い私の髪をこうやって毎日梳いてくれた人がいるのです。なにせ私はタケルと違ってとてもやんちゃな子供だったので、いつも絡まり放題に髪が絡まっていましたからね」
「え、意外! ルーファウスにもそんな時代があったんだ!」
「エルフは確かに長命ですけど、私にだって子供時代はありますよ。もう昔過ぎて記憶も朧気ですけどね」

 僕は改めてルーファウスって何歳なのだろうか、と首を傾げる。最初は鑑定スキルで覗き見てしまったウィンドウ画面に表記されていた数字が年齢なのかな? と思ったのだ。けれどそう考えた時、アランの86という数字がどうにも腑に落ちなかったのだ。
 あの数字に該当する数字が何なのかと、自分のステータスを確認してみたら、各種スキルレベルを足した総数がそれにあたるのではないかと僕は気が付いた。
 そう考えると僕のスキルレベルの総数は現在アランより少し上になるのだと思う。そう考えればルーファウスはやっぱり凄いのだなと改めて思わざるを得ない。
 だって僕のステータスは神様が弄ってこの数字、それでも充分チートなのに、それの上をいくってよっぽどだよね。確かにスキル自体は簡単に会得できるけれど、そのスキルレベルを上げる事は簡単ではない。実際僕のスキルは二か月経ってもそれほど変化を見せていない。
 会得したスキルが増えている分だけレベルの総数は上がっているけど、それだけで、どんな条件を満たせばレベルが上がっていくのか、僕にはそれすら分からないのだ。

「タケルは……」

 ルーファウスが何かを言いかけ口籠る。

「ん? なんですか?」
「もし気分を害したら申し訳ないのですが、タケルは本当にタロウ・スズキの関係者、もしくは血縁関係ではないのですか?」
「え? なんでですか? それは何度も否定しましたよね? それだけは絶対あり得ないです」

 そういえばルーファウスは以前にもタロウさんは僕のご先祖様じゃないのかと言った事がある。そんな事は絶対にあり得ないのに、何故ルーファウスはそんなに僕とタロウさんを結び付けたがるのだろう?

「そうですか」
「? まさかルーファウスまで本気で僕のこと聖者さまの生まれ変わりだとか言い出すつもりじゃないですよね?」
「いいえ、いいえ……ただ――」

 またしてもルーファウスが口籠る。何かそんなに言い難い事でもあるのだろうか? 僕は僕で生まれ変わりでもなければタロウさんと面識だって全くないというのに。

「タケルの容姿は……タロウに、よく似ているので」
「え?」

 ルーファウスの意外な言葉に僕は驚く。
 それは一体どういう事だ? まさかルーファウスとタロウさんって面識があるのか? いや、でも、確かタロウさんってすごく大昔の人なんじゃなかったか? 

「まさかとは思いますが、ルーファウスはタロウさんと会った事があるんですか?」
「幼い頃、少しだけですが」

 まさかの! 本気でルーファウスって何歳なんだ!?

「ただ私があの人をタロウ・スズキだったのだと認識したのは随分歳を重ねてからの事でした、彼は私には何も語ってくれなかった。いえ、語った所で理解もできなかったのでしょう、それだけ当時の私は幼かったのです」

 ルーファウスが瞳を伏せる。まるで何かを耐えるようなその表情に、僕の胸の内がざわりと揺れた。

「そんなに僕とタロウさんって似てるんですか?」
「タロウはタケルより随分年上でしたのでそっくり同じとは言いませんが、似ていると思います。髪の色も瞳の色も同じ、何よりその雰囲気と語り口調がよく似ている」
「もしかして、ルーファウスはタロウさんの事が好きだった?」
「え……」
「もしかして初恋、だったり?」

 またしてもルーファウスが黙り込む。これ、もしかしなくても図星だろう。でも、なんだかそれを聞いて色々な事がストンと腑に落ちた。
 だってずっとおかしいと思っていたのだ、何故ルーファウスが僕にここまで執着してくるのか。
 そもそも僕なんてちょっと魔術が人より優れているだけのぽっと出のただの子供なのだ。そんな僕に大の大人が大真面目に好きだとか愛を囁いてくるなんて最初からおかしいと思っていた。まぁ、僕はそんな彼の恋心に便乗して今まで甘え倒してきた訳だけど。

「残念ですけど、本当に僕はタロウさんとは全くの無関係ですよ。そもそもこの容姿自体この世界に来てから手に入れたもので、僕本来の姿ではありませんから」
「そうなのですか?」
「はい。こっちの世界に来る時に神様が盛りに盛って造形してくれたおかげで、こんな美形になれましたけど、元の世界での僕の容姿は笑っちゃうくらい平凡そのものでしたよ。もしかしたらこの容姿は神様の好みなのかもしれませんね」

 ルーファウスは以前タロウさんは異世界人だったと言っていた、だとすればこの説は我ながら信憑性が高い気がする。
 それにしても、そうか……僕はタロウさんに重ねられていたのか。まぁ、そうだよね。僕なんかホント今まで全然モテた事ないんだから、こんな美形に無条件に惚れられるなんてあり得ない。それを本気にするなんて思い上がりもいい所だよ、はは。

「僕がタロウさんと完全に無関係だと分かってがっかりしましたか?」
「いえ、そんな事は……」

 言葉では否定しているけど、何となくルーファウスの落胆の表情は見て取れる。初恋と言うものはとかく美化されがちだし、僕の初恋は保育園の先生だったからその気持ち、分からなくもないよ。

「タロウさんってどんな人だったんですか?」
「とても綺麗で、いつでも凛としている人でした。けれど時折見せる儚げな表情がとても印象的でしたね」

 それって僕に似てるかな? 成長したら今の僕は確かに美形に育つと思うけど、儚げはちょっと違う気がする。何せ中身がこれだから儚げとは縁遠い。外身が似てるからってルーファウスは僕に夢見過ぎだ。
 タロウさんの面影をそんな風に僕に投影されても今後は理想とかけ離れていくばかりで、将来的には失望待ったなしじゃないか。
 これは早目に気付けて正解だったな、もしこれで僕が本気でルーファウスに想いを返したところで、理想とかけ離れた時点で破局の未来しか見えない。
 いや、逆に考えればこのままほっとけば勝手にルーファウスは僕へのこの間違った恋情に気付くはず。僕が育つまで待つなんて言っていたけど、たぶんその頃には普通の友人関係になれてるんじゃないかな。
 だったらこれからは無駄に色々悩む必要はないな。

「僕は育ったとしてもタロウさんにはなれませんよ」
「! そんな事、私は考えていません!」
「そう?」
「タケルが気分を害してしまったのなら、本当に申し訳なかったです、けれど私はそんな風に考えた事は一度も……」

 「ない」という単語を発する前に口籠るルーファウス。うん、そういう所ルーファウスってほんと素直だよね。

「僕は別に気分を害したりはしてないですよ。それよりも逆に色々腑に落ちました。大丈夫です、これからも仲良くしてください」

 気にするなとばかりににっこり笑ってそう言うと、ルーファウスはやはり複雑そうな表情だ。でもこれで分かった、僕はタロウさんに似ている事でここまでルーファウスに甘やかされてきたのだ、だとしたらこの甘やかしに浸かり過ぎては将来的に非常にまずい。
 自立しなければと思いつつも今まで甘やかされるままに甘やかされていたけれど、ここはやはりきちんと自立の道を模索しなければ!

「僕、魔術師として早く一人前になれるようにこれからも頑張りますので、今後もご指導お願いしますね!」
「え……それはまぁ、はい」

 今後ルーファウスとの関係をどうしたものかと思っていたけれど、何となく方向性が見えた気がする。これからはあくまでも師匠と弟子、あまり甘え過ぎないように気を付けよう。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...