童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第三章

古老のドラゴン

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 ドラゴンに咥えられたまま飛び続けること四半時、僕が思っているよりこの異空間は広いようで、何処までも自然の大地が広がっている。
 このドラゴンは一体僕達を何処へ連れて行くつもりだ? 古老の所へ連れて行くと言われたが、僕にはドラゴンの知り合いなんていやしない。
 僕は何のために連れて行かれるのかも分からないし、ドラゴンと言うのは国が高ランク冒険者を集めて国家予算を投入してでも排除しなければいけない存在のはずで、それにも関わらずこんな普通に会話したあげくに連れ去られるって一体どうなっているのだろう?

「職員さ~ん、大丈夫ですか?」
「さ、寒くて、死にそう」

 ドラゴンの身体、というか足にしがみついたままの職員さん、ドラゴンの受ける風を直でくらっているので寒いのは当然だろう。ずいぶん顔色も悪くなっているし、どうにかして助けてあげたいと思うのだけど、如何せん僕もドラゴンに胴体を咥えられたまま身動きが取れないのでどうにもならない。
 うっかり動いてドラゴンの口に力が入ればぷちっと潰されてしまう状況だし、でもここで職員さんが落下したら助かる見込みはかなり低い。

「ライム、あそこに捕まってる人、どうにかライムの結界の中に入れてあげられない?」

 僕の問いかけにライムは『わかった~』と一言、ローブから這い出してライム自身風圧で飛ばされないようにドラゴンの身体に密着しつつ職員さんの元まで這っていき、その体内に職員さんを取り込んだ。
 突然の事に目を白黒させている職員さん、けれどドラゴンの足に袋状に引っ付いたライムの胎内は恐らく風圧もかからないはずだし、ライム自身がドラゴンの足に付着している状態なので落ちる事はないだろう。
 そんな状態のライムに気付いたのかドラゴンが放せとばかりに足を振ったがライムが離れる事はなかった。
 そんな状態のままたどり着いたのは山の中腹にぽかりと空いた洞窟だった。入口こそ狭かったものの、中は意外と広くて、そこへ到着するやいなやドラゴンは僕をぽいっと放り出した。そして開いた口で『なんだこれは、全く気持ちの悪い!』とライムの身体にがぶりと歯を立てる。
 ライムの身体は弾力に富んでいるのでそんなに簡単に噛み潰されたりはしなかったけれど、ライムごしにドラゴンに思い切り噛みつかれた職員さんは生きた心地がしなかったと思う。

『や~ん、かみつかないで』
『やかましい! スライム如きが俺に口答えするな!! 食っちまうぞ!』
『ボクは食べても美味しくないよぅ』

 そんな事を言いつつも相変らずスライムボディは頑強で、ライムには全く痛手がなさそうなのは幸いだ。

「あの、ドラゴンさん、ここは何処ですか?」
『我がドラゴン族の古老の住処だ、ついて来い』

 そう言って僕達を連れて来たドラゴンはのしのしと洞窟の奥へと進んでいく。僕の合図でライムは職員さんを吐き出して、そのまま僕達が洞窟の突き当りまで進んでいくと、そこにはごつごつした岩壁だけがあった。

『古老、連れて参りました』

 僕達を連れて来たドラゴンが壁に向かって声をかける、するとその岩壁が僅かに動いて辺りも揺れる。

「っ!? なに!?」
『ご苦労であった、創造神様の気配がすると思ったら、懐かしい者と再会したのう』

 そんな声と共に岩壁の岩と岩が僅かに開き、そこからぎょろりと光る瞳がこちらを覗く。どういう事だと思わず後退ると、ビックリな事に僕が岩壁だと思い込んでいたのは巨大なドラゴンの顔だったのだ。
 僕を運んできたドラゴンも大きかったが、古老と呼ばれたそのドラゴンはそんなドラゴンの比ではない。そもそも山の中腹だと思っていたのが間違いで、その山自体が顔を覆うように目を瞑っていたドラゴンだという事が判明して僕は言葉も出ない。これはちょっとサイズがでかすぎやしないか?

『古老、懐かしい者とはどういう事ですか? こ奴ら2人は人族でも若輩者のように俺には見えますが』
『ふふふ、そうであろうのう。私の馴染みはそちらではない、のう、スライム?』
『? おじいちゃん、ボクのお友達?』

 僕の肩の上のライムが声をかけられ不思議そうに伸び縮みを繰り返す。向こうは面識がありそうなのに、当のライムは全く心当たりがなさそうで僕の肩からぴょんと飛び降り、古老のドラゴンの方へと跳ねていく。

『おい、お前! 無礼者!!』

 僕達を連れて来たドラゴンが慌てたようにライムを抑えにかかるが、ライムはドラゴンの爪から軽々と身を躱し、古老の傍まで跳ねて行ってしまう。

『私の事ももう忘れてしまったか……』
『ん~……なんか懐かしい感じはする!』
『お主は本当に変わらぬなぁ』

 そう言って古老は少し身を起こしたのだろう、またしても足場が揺れて僕は倒れないように壁、というか、古老の岩壁のようにごつごつした鱗に手をかけた。

『昔はこうやってよく一緒に遊んだものだが、覚えておらぬか』

 そう言って年老いたドラゴンが巨大な爪先でライムを爪弾くとライムはまるでおはじきのように飛んでいき、岩壁のような古老のドラゴンの鱗の一角にべしゃりと張り付いた。

「わあぁぁぁ!? ライム、大丈夫!?」

 たぶん結構な衝撃で壁にぶつかったのだろう、かなり変形したライムの姿に僕が思わず声を上げると、返ってきたのは『わぁぁ、楽しい! もう一回やって~』という、呑気なライムの声で、僕は思わず脱力する。
 壁から剥がれて元に戻ったライムがいつものようにぽよんぽよんと戻ってくる姿はとても楽し気で、そんなライムが戻って来ると古老はまたしてもライムを爪弾く、あっちへこっちへ跳ね飛ばされているにも関わらず『わぁ~い、もっとぉ!』とおねだりするその姿はまるでフリスビーやボール遊びをする犬のようだ。

『やはりお主は変わらぬなぁ、少し強く弾きすぎて行方知れずになってからは生死も分からず案じていたが、息災であったようで幸いだ』

 爪先でぐりぐりとライムを撫でる古老の瞳は穏やかだ、ライムはそんな古老の事を覚えているのかいないのか分からないのだが『おじいちゃん、もっとぉ』とねだっている。

『お主におじいちゃんと呼ばれるようになるとは、私も歳をとったものだ。というか、私が爺ならお主だって爺だろうが、これだからスライムは……』

 まさかとは思うのだがこの年老いたドラゴンはもしかしてライムの幼馴染なのか? 確かにライムは最古のスライムの一片だって鑑定には出ていたけど、意外過ぎる交友関係に僕は言葉も出ないよ。

「創造神様の加護持ちの少年、まさかこの歳になって旧知の友に再会できるとは思っておらなんだ、こやつを連れて来てくれた事、感謝する」

 急に頭に響くような声から、普通の音声に変わった事に僕は驚く。

「あれ? 言葉……」
「私くらい歳を重ねると人の言葉を解することができるようになるのだ、人は短命であるが故に我らの言葉を理解せぬからな」
「あ、それは痛み入ります」

 僕はぺこりと古老のドラゴンへと頭を下げる。けれどそれに怪訝な表情を見せたのは僕達をここへ連れて来た若いドラゴンだ。

『古老、その小僧は最初から我らの声が聞こえておりますぞ』
『ぬ? そんな事はあるまい、こ奴等は我らの言葉を解さない』
『ですが私はそこの小僧と普通に会話しながらここまで来たのですよ、少なくともそこの小僧は我らの言葉を解しています』

 年若いドラゴンの言葉に古老のドラゴンの瞳がぎろりと僕を見据えた。

『小僧、その話は真か?』
「えっと、はい。聞こえてますよ」

 驚いたように瞳を見開く古老のドラゴンは『これも創造神様のご加護か……』と、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。

『お主、名は?』
「タケルです」
『そうか、タケル。ここで合えたのも何かの縁だ、我らの言葉を解する事ができるお主に頼みをひとつ聞いてはもらえないだろうか? もちろんただでとは言わない、こちらの頼みを聞いてくれるのならば、こちらもお主の願いをひとつ叶えてやろう』
「頼み、ですか? 僕にできる事ですか?」
「お主が我らドラゴン族の言葉を解するのならば、お主にしか出来ない事だ」

 そう言って古老のドラゴンが僕に依頼したのは、仲間の保護だった。

「我がドラゴン族は現在絶滅の危機に瀕している。我らドラゴン族は一匹で何千何万もの兵を滅する事ができる。我らは強い、それ故に驕りすぎた。我らは世界の敵とみなされ、人の前に姿を現せば問答無用で狩られるようになってしまった。もちろんこちらも対抗して何百万もの敵を倒した、だがそれでは火に油を注ぐばかりでここしばらくは安心して子を産み育てる事も出来なくなってしまったのだ。人は我らの言葉を解さない、例え子竜であろうとも、見付かれば即座に狩られてしまう。子を狩られた親は人を憎む、それは当然の事だろう? 人は我らを悪と決めつけるが、そちらが狩るから我らも抵抗しているというのにそんな事にすら人は思い至る事はない、そもそも我らと人が共存しようというのが間違っているのだ」

 古老のいう事はもっともだ、家族を何の理由もなく問答無用で殺されれば、残された者が怒り狂って暴れたとしても文句は言えない。けれどそれによってドラゴンはますます危険視されて迫害されるという繰り返し、これでは共存の道を探す方が難しい。

「この土地が我らを護る異空間である事を私は知っている。ここには我らを狩る冒険者などはやって来ない、ここは我らの安息地なのだ。ある一部の冒険者が有志を募ってこの地を整備したのだと私はこの地を訪れる者達に聞いた。ここならば我らも安心して暮らす事ができる、だからどうか、まだ保護されていない我が同胞をこの安息の地へと導いてはくれやしまいか」
「えっと……それは出来れば協力したい所なのですが、僕にはこの土地に直接アクセスする権限はないんですよね……」
『なに!?』

 古老が驚いたように目を見開く。でも僕は今日たまたまこの地へ招かれただけの言ってしまえばただの「お客様」で、そんな僕がそんな大任を二つ返事でOKするのは難しいと思うのだ。

「ここを管理しているのは従魔師ギルドの、その中でも一部の人達だけだと思うんですよ。僕は現在ギルドに所属すらしていないので、即答は難し……」
「少年! そこはOKしといて! 諸々の手続きは僕が何とかするから!!」

 急に声をかけられ僕はビクッとしてしまう。そういえば一緒に職員さんも来てたんだった。影が薄くて忘れていたよ。

「僕たち従魔師ギルドにとって希少な魔物の保護に尽力するのは基本理念だ、そんな話を聞いてNOなんてあり得ないよ、上層部へは僕が話を通す、だから君はその話を受けて!」

 えっと……それは僕には拒否権はないって事なのかな?
 いや、まぁ、困っている人は魔物だって助けたいと思うし悪い活動ではないと思うけど、もう少し考える時間をくれても良くない?

『そこの者は何者だ?』

 古老に頭の中に直接問われて「ここの管理をしている人族の一人ですよ」と僕が答えると、古老は少し顔を動かし「頼まれてくれるか?」と職員さんに問うた。

「それはもう! 全力で尽力させていただきます!」
「我らドラゴン族の中でも若輩者は人の言葉を話せぬでな、今まで人との意思疎通をはかる事も難しかったが、これで私の肩の荷もおりると言うものだ」

 そう言って、古老は静かに瞳を伏せた。

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