童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第三章

魔物の楽園

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 魔物が入ったたくさんの檻が所狭しと積み上がった部屋の奥、そこにはかなり頑丈そうな扉が鎮座していた。ギルド職員はその強固な扉の前に立ち、扉に付いている金属板のような物に手をかざす。すると何処かで何かが外れるような音がして、頑丈そうな扉が僅かに開いた。
 その僅かな隙間に身を滑らせるように入り込んだ職員に続いて僕も扉の向こうへと足を踏み入れる。すると目の前に広がっていた光景は完全な屋外で僕は少し面食らう。
 僕が立っているのは少し小高い丘の上で、眼前にはどこまでも自然豊かな山林が広がっている。まさか扉の向こう側がこんな事になっているなど想像もしていなかった僕は入ってきた扉を振り返ってみたのだが、そこにはもう扉自体が消えてなくなっていた。

「あの、ここは……?」
「魔物達の理想郷ユートピアだよ。ここはダンジョンと同じで異空間と繋がっているんだ、ここでは魔物達が狩られる心配もなく自由気ままに暮らしている。こんな場所、冒険者達に知られてしまったら一網打尽に狩り尽くされてしまうだろうから絶対に他言無用だよ。まぁ、魔物に心底から信頼されているような従魔師だったら、そもそも口外なんてしようとは思わないはずだ、君だってそうだよね?」
「え、あ、はい! 荒らされたら大変なのは僕でも分かります!」

 僕は依頼をこなす為、そして生きていく為に魔物を狩るけどそれ以上の魔物の乱獲は望まない。
 現在では魔物の討伐依頼も受注するようにはなったけど、依頼された以上に狩ろうとも思わないし、狩猟を趣味みたいに狩りをしようとも思わない。

「うん、だから絶対に口外はしない事、まぁ、もし万が一口外したら従魔師ギルドの職員が総出で君の口を塞ぎに行くからそのつもりでね」

 え、怖っ! 言わない、言わない、絶対言わない!!
 瞬間顔をひきつらせた僕に職員は「まぁ、口外した所で資格のない者には扉は開けられないけど」と冗談めかして笑みを零した。

『タケル~なんかここ、懐かしい感じがするぅ』

 僕の肩からぴょこんと飛び降りたライムがぴょんぴょんと辺りを跳ね回る。

「ライムはここを知ってるの?」
『分からないけど、昔、住んでた気がする』
「じゃあ、ここはライムの故郷なのかな?」
『分かんないけど、そうかも~』

 僕とライムが呑気に会話を続けていると「やっぱり君はそのスライムと意思疎通が出来ているんだね、そこまできちんと魔物と会話ができている従魔師なんて久しぶりだな、それともそのスライムの方が個体として優秀なのかな?」と職員さんがまたしてもまじまじとライムを見やる。

「確かにライムは特殊な個体ではあるのかもしれないです、今はヒュージ・スライムですし」
「!? そのサイズで!?」
「ライムは伸縮自在なんですよ、ここ広いからライムも自由にしてていいよ」

 僕がライムに声をかけると『わぁ~い』と歓声を上げたライムがむくむくと大きく膨らんで、そのうち幾つかのスライムに分裂した。

「な!? え? 何これ!?」
「僕のスライムは複数のスライムの融合体なんですよ、大元のスライムに別個体が融合して一匹のスライムになってる感じですかね」
「えええ! そんなスライムの話聞いた事がないよ! その話ちょっと詳しく!!」

 僕が僕の知りうる限りのライムの情報を職員に話すと彼は感心しきりにメモを取りながら聞いている、冒険者ギルドのギルドマスターみたいにライムを直結で金勘定しない辺り、従魔師ギルドの職員には好感が持てるな。

「スライムってのはその辺に当たり前に転がっている魔物だけど、それでいて生態は謎に包まれている不思議な生き物なんだ、君の話はとても参考になるよ、ありがとう」

 そう言って頭を下げる職員さんは本当に魔物に好意的な人なんだろう。そういえば僕がスライムを従魔にしていると言った時、彼は困惑顔をしても笑いはしなかった。スライムを従魔にしてるなんてと何処へ行っても笑われてばかりだった僕なので、そんな職員さんの反応は素直に嬉しい。

「いいえ、僕の話なんかで何かのお役に立てるのなら僕もとても嬉しいです」
「ふふ、僕達従魔師ギルドは君のような従魔師を歓迎しているのに何故君は今までギルドに来なかったの?」
「特に用事がなかったので。それに僕の本業は冒険者で魔術師ですし」
「え!?」

 またしても僕の言葉に職員が絶句した。僕、何か変な事言ったかな?

「君、従魔師じゃないの!?」
「スキルは持ってますよ、でも本業は魔術師です」
「いやいや待って、それだけ従魔師の才能が有ってなんで魔術師!? 才能の無駄使いだよ、今からでも遅くないから従魔師に転向しなよ!」
「そう言われましても……」

 そういえば前にも従魔専用のアイテムショップで同じような事言われたな、特別禁止されている訳じゃなし「魔術師」兼「従魔師」がいたって別に良いじゃないか。

『くる……』
「え?」

 不意に頭の中に声が響いた。最初はライムの声かと思ったのだが、その声はさざ波のように辺りに広がっていく。

『くるよ、くるよ』『だれかな? だれがくるの?』『お迎えしなきゃ、準備をしなきゃ』『いそいで、いそいで』

 周りの樹々や草むらがざわざわと揺れている、よくよく見れば小さな魔物達が窺うようにこちらを見ている。別に襲ってくる気配はないのだが、誰かが来るとしきりに騒いでいる。一体誰が来ると言うのか、それとも僕が来たから歓迎してくれているのだろうか? でも、何か違う気がする。

「なんか魔物達の様子がおかしいね、どうしたのかな?」
「魔物達は何かがここへ来るって言っているみたいなんですけど、心当たりはありますか?」
「え? まさか、もう選ばれたの? 何が来るの!?」
「聞きたいのはこっちなんですけど、選ばれたって何ですか?」

 職員さんがあたふたと慌てている。

「さっきも言ったと思うけど、ここでは僕達が魔物を選ぶのではなく魔物が僕達を選ぶんだ、自分の相棒に相応しいと思う相手が来たら魔物の方から寄ってくる、ここへ来ても何年も誰にも相手にされない従魔師もいるって言うのに、展開が早すぎてビックリだよ!」

 そんな事を言われてもビックリなのはこちらも同じだ、一体何に選ばれたのか分からないけれど、魔物達の様子を見るにその辺にいるか弱い魔物ではない事だけは確かだろう。
 それにしても、ここにいる魔物達はやけに饒舌だ。今までも時折こうやって魔物の声が聞こえてくる事はあったけれど、こんなにはっきりと複数の声が聞こえてくるのは初めてだ。
 これはこの特別な土地のせいなのか、それともここに住む魔物達が特殊なのか? 先程ライムはもしかしたらここは故郷かもしれないと言っていた訳だし、そういう特殊個体が集まっている場所という可能性は否定できない。
 そんな事をつらつらと考えていたら急に辺りが暗くなり、何事かと上空を見上げたら、ぶわっと身体ごと吹き飛ばされそうな突風が吹いた。僕は足を踏ん張りその風に耐える。
 あまりの突風に目も開けられないのだが、耳には風を切る羽音が聞こえる。それと同時に聞こえてきたのは地を這うような低い唸り声、僕は恐る恐る瞳を開けてその唸り声の主を見やり言葉を失った。

『創造神様の気配を感じやって来たのだが、お前は一体何者だ?』

 そう言って真っ赤な瞳でこちらを睨み付けてきたのは、それはもう恐ろしく巨大なドラゴンだった。

「うわぁ……」

 ギルドの職員さんが目を白黒させてその場にへたり込む。できれば僕も同じようにへたり込んでしまいたかったのだけど、声をかけられている以上無視をする訳にはいかず、僕は足に力を入れる。

「僕の名前はタケルです。創造神様からは少しだけ加護をいただいている者ですが、怪しい者ではありません」
『ふむ、そうか。で、お主はここに何をしに来た?』
「えっと、新しい従魔を探しに……ですかね?」

 まさかこんな所でドラゴンに遭遇するなんて予想もしていなかったので、僕はしどろもどろに返事を返す。この土地では魔物が従魔師を選ぶと言うのを聞いてはいたが、まさかドラゴンに選ばれるなんて思っていなかったので僕は困惑を隠せない。
 いや、これ本当に選ばれているのか? 創造神様の加護に惹かれて興味本位で近寄ってきただけだったりしない?

「あの、もしかして、あなたが僕の従魔になってくれたり、とか……そんな事、あったりします?」

 僕の問いかけに鋭い目つきの大きなドラゴンは赤い瞳を細めてしばらく僕を眺め回してから、一言「笑止」と、ぷいっとそっぽを向いた。

「はは、そうですよねぇ」
『我らドラゴン族はそう簡単に使役される程安くはない。だが、古老がお主に会いたいと言うので連れて行く』
「へ? 古老? 連れて行くって、何処へ……うわぁぁ!」

 ドラゴンが大きな口を開いて僕の身体を咥えて問答無用で羽を羽ばたかせ始める。ライムが慌てたように飛び跳ねて僕のローブのポケットに潜り込んだのだが、職員さんは完全放置でそのドラゴンは宙に浮かび上がった。

「ちょ、嘘だろ!? 職員さん、助けてぇぇぇ!!」

 僕の叫びに我に返ったように職員さんはドラゴンの身体にしがみついた。そんな彼をドラゴンは一瞥したものの、僕を咥えているせいで何も言えなかったのだろう、そのまま我関せずという感じに飛び上がった。
 僕達はドラゴンとの問答無用の飛空旅行。危険はないって言ってたのに職員さんの嘘吐き! だけど、大事に咥えられている僕とは違って職員さんは僕よりも危険な状態で必死にドラゴンにしがみついてるので、あまり責めるような事は言いずらい。文句は無事に帰れてからにしよう、うん、そうしよう。

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