童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第三章

早朝からの訪問者

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 その日の夢見は最悪だった。
 泣いて縋ってくるルーファウスを振り切って自室に戻ってベッドに潜り込んだ僕だけど、その日見た光景があまりにも衝撃だったせいもあるのだろう、夢の中で僕の顔によく似た人形が僕を追いかけ回すのだ、あんまり自分に似てるモノだから攻撃するのも躊躇われて、かといって追いかけてくるのが気持ち悪くて僕はひたすらに逃げ回る。
 やっぱりこれはもう燃やすしか……と考えたところで来客を告げる玄関ノックの音が家に響いて僕は驚いて飛び起きた。なんと言うか、朝っぱらから心臓に悪いったらありゃしない。
 玄関ノックの音は忙しなく続いている。それに加えて「開けてください、御在宅ですよね」と声もする。
 ってか、早朝! まだ日が昇って間もない時間、他人の家を訪ねてくるには少しばかり非常識な時間ではあるまいか?

「はいはいはいはい、誰ですか? そんなに喧しくしないでも聞こえてますよ」

 僕が身繕いもそこそこに玄関扉を開けると、そこに立っていたのは昨日僕の案内をしてくれた従魔師ギルドの職員さん、そしてその後ろには見知らぬ数人の大人たち。

「おはようございます!」
「え、あ……おはようございます。どうしたんですか、こんな朝っぱらから」

 あまりに元気のいい第一声に僕は思わず引く。何でこの人こんな早朝からこんなに元気なんだ?

「早速なのですが、私達従魔師ギルドの職員で夜通し会議をした結果、君と君の従魔のドラゴンの処遇について決まった事があるから報告に来ました!」

 え……今、夜通しって言った? しかも処遇ってなに?

「タケル、こんな時間から誰ですか?」

 ルーファウスがあまり機嫌の宜しくない表情で僕の背後に現れる。その後ろにはきちんと身なりを整えこちらを覗くロイドもいる。ロイドって意外と朝に強いんだよな、そんでもって身支度が早い。

「従魔師ギルドの職員さんが来たみたいです、そういえばオロチは?」
「私は知りませんよ」
「昨日部屋の片付けしたあとアランさんと飲み直すとか言ってたから、アランさんの部屋かも」

 会話もままならない2人だが、酒好きという点で意気投合したのかあの後更に飲み直す事にしたらしいと聞いて僕は少し笑ってしまう。共同生活の中で共有嗜好品として購入してあった分の酒のストックは既に無くなっていたもののアランが自分用の酒を別に自室でストックしている事は知っていたので、それを解禁したのだろう。仲良くなれたのなら結構な事だ。

「オロチというのは? 君のドラゴンは何処に?」
「そのドラゴンの名前がオロチですよ、ちょっと様子見てきますね」

 僕は職員さん達をリビングに通してアランの私室へと足を向ける。アランは元々朝に弱い、こんな早朝では恐らく客の来訪にも気付かず寝ている可能性は高い。

「アラン、アラン、入るよ~」

 各々の部屋には一応鍵がかかるようにはなっているが、基本的に僕達は鍵をかけてまで部屋に籠る事はない。僕が扉のノブを回すとやはり簡単に扉は開いたのだけど、扉を開けた瞬間に薫ってきたのは強烈な酒気で僕は思わず眉を顰める。

「アラン、オロチいる~?」

 恐る恐る部屋の中を覗き込むとそこには床に倒れている人影。僕は瞬間ビクッと身を竦ませた。
 部屋の中はカーテンを締めきっているので薄暗い、そして足元には倒れる人影、なんというサスペンスな光景。

「アラン? オロチ?」

 体格の近い2人なのでこの薄暗がりでは床に伸びているのがどちらか分からなくて僕はその人影の傍らにしゃがみ込んだ。
 ようやく薄暗がりに目が慣れてきて、よくよく見てみれば倒れていた人影は酒瓶を抱き枕代わりに爆睡しているオロチだった。一方でアランはベッドの上で寝ればいいものを、ベッドの上に半分上半身が乗ったような状態で潰れている。一体2人してどれだけ飲んだのだか……まぁ、部屋に転がっている酒瓶の数を見れば推して知るべしだけど。
 僕はとりあえず部屋のカーテンと窓を開け放ち酒気のこもった空気を入れ替えた。

「2人とも起~き~て~! お客さんだよ」
『うっ……』

 明るい日射しにオロチが眉を顰めて寝返りを打った。僕はそんな彼の傍らに座り込んで彼を揺さぶる。

『なんだ、俺はまだ寝たばかりなのだぞ』
「そうなの? でもオロチに会いたいってお客さんが来てるんだよ、寝ててもいいからリビングの方に来てくれないかな?」
『いやだ、俺はまだ眠い。俺に会いたいのならそちらから来ればいい』

 そう言って頑なに目を開けようとしないオロチに僕は溜息を吐く。恐らく明け方近くまでアランと飲んでいたのだろう、何と言うか、生活習慣的に先が思いやられる。酒は飲んでも飲まれるなだよ。
 僕より体格のいいオロチを自力で運ぶのは困難だと判断した僕はライムにオロチの運搬を依頼する。ライムは『わかった~』と、相変らず元気なお返事でもこもこと膨らむとオロチを持ち上げリビングまで運んでくれた。
 ちなみにアランにはそのままそっと毛布だけかけておいた。

「お待たせしました、連れてきました!」

 もこもことスライムに運ばれるがまま運ばれてくる酒瓶を抱えて爆睡する浅黒い肌の青年に従魔師ギルドの職員さん達は若干引いている。

「あの、この方は……?」
「僕の従魔になったドラゴンのオロチ君です。昨晩飲みすぎたみたいで起きないので、そのまま連れてきちゃいました!」

 職員さん達は恐らく威厳たっぷりなドラゴンを想像して来たのだろうが、残念な事にドラゴン君はたいそう残念な感じだよ、うん。

「ドラゴンというのは人型にもなれるのですね、少し近くに寄っても……?」

 恐る恐るという感じの職員さん達、オロチが完全に爆睡していると見てとるとオロチを取り囲んで手足の造作を観察して模写を始めてみたり、だらんと放りっぱなしの尾を撫でようとして尾で叩かれ歓喜の声をあげたりしている。彼等にとってオロチは研究対象か。まぁ、彼の存在が人様のお役に立てるのであれば結構な事だ。
 ついでにどさくさに紛れてオロチがベッド代わりにしている「人をダメにするソファー」のような状態のライムをぷにっている職員もいるのだが、どんな魔物に対しても研究熱心な職員さんなのだろう。

「あの、彼の鱗を一枚頂戴する事とか出来ませんかね?」
「それは本人に聞いてみない事には何とも、それよりも会議の結果で決まった事があるんですよね? 処遇がどうとか言ってましたが、それは?」
「あ、ああ! そうでした! まず君にはこれを! 貴方は職員会議の結果、冒険者ギルドの臨時職員として採用となりましたのでこちらをお受け取りください」

 オロチにご執心だった職員さんが慌てたように僕に差し出したのは冒険者ギルドカードに似た名刺サイズの社員証(?)だった。そこには従魔師ギルドでの僕の役職であろう『特殊生体保護職員(臨時)』の記載がある。でも特殊生体保護職員ってなんだ?
 僕が小首を傾げてそのカードをまじまじと眺めていたら、職員さんはそのカードに手をかざす様にと僕に指示する。僕が言われた通りにカードに手をかざすと、一瞬カードが光り輝き、カードに僕の名前が刻み込まれた。

「おお……」

 感動しきりでカードを眺めていたら職員さんは僕の役職について説明してくる。特殊生体保護職員というのは各地で見付けた特殊個体の魔物を保護する職員の事を言うらしい。ある意味そのまんま。一応僕以外にも各地にそういう職員は派遣されているのだそうだ。
 そしてこの社員証、このカードを提示する事で各地のどこの従魔師ギルドでも色々な値引きや何かしらのサービスを受けられるらしい。これはとても助かるな。

「臨時とはいえ職員として働いていただく事になるので、勿論給金も支払われます、給金は保護した魔物のランクによって変わってきますのでご了承ください」
「え、お金貰えるんですか!?」
「これも仕事の一環なので」

 なんという棚からぼたもち! まぁ、そうは言ってもその辺で簡単に捕まえられるような魔物をいくら保護した所で大した金額にはならないのだろうけれど、これからは珍しい魔物を目撃したら積極的に保護するように務めよう。
 僕がそんな事を考えながらそのカードを眺めていると続けて「こちらもお受け取り下さい」と職員が僕に手渡してきたのは何の変哲もない一本の鍵だった。

「これは?」
「見ての通りの鍵です。その鍵を挿して回してみてください」
「え? どこに?」
「どこでも結構ですよ」

 どこでもと言われて僕は戸惑う。だって鍵というのは錠とセットで錠前だ、錠がなければ鍵は用をなさない訳で、その錠が現在どこにもないのだから何処に挿していいのか分からない。

「タケル、それは魔法の鍵ですよ。回せば扉は現れます」

 戸惑う僕を見かねたようにルーファウスが鍵を持つ僕の手を取って宙に向かって鍵を回すような動作をさせる、すると目の前に四角く光る扉が現れて、かちりと鍵の外れる音がした。

「お、おお!?」

 目の前に現れた光る扉、ドアノブを回して扉の向こうを覗き見たらあの魔物の楽園に繋がっていた。

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