童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

矢の字

文字の大きさ
101 / 222
第三章

僕達の家

しおりを挟む
 ダンジョン核のあった部屋は部屋そのものに封印の魔法陣が組まれているという事で、僕達は最初に飛ばされた真っ暗な部屋へと引き返した。
 ルーファウスはその部屋の中央に片膝をついて座り込み、自分を中心にして杖で地面に模様を描き始めた。それはとても繊細で芸術的でもあるのだが、ルーファウスは決してそこにただ絵を描いている訳ではない。

「魔法陣ってこんな風に描くものなんですね……」

 僕はルーファウスの作業の邪魔にならないように、彼の作業風景を眺める。そういえばあの不思議な部屋にあった本を読めば僕にも転移魔法陣が描けるようになると手紙にあったけれど、本当に描けるようになるのだろうか?
 魔術を使う事と魔法陣を描く事は似て異なる全く別の作業だ。魔術を行使する事は魔術師の基本だけれど魔法陣を描くというのはどちらかと言えば職人的な作業で僕のように魔術師と名乗っていても魔法陣を描けない魔術師はいくらもいる。
 そういう職人的作業もそつなく完璧にこなしてしまうルーファウスはやはり本当に凄い人なのだと僕は思う。普段の奇行が目立つ分、こうやって真面目に作業をしているルーファウスはとても格好良く見えてしまって困るんだよな。
 ルーファウスの作業は小一時間程かかるという事で、その間僕達は少し手持ち無沙汰だ。これで、このダンジョン城も完全攻略かと思うと少し寂しい気持ちもある。とは言え、僕はまだダンジョンの全ての階層を攻略した訳ではない、途中をショートカットしているのだから達成感も薄い。

「アランはこのダンジョン城でどの階層が一番印象的でした?」
「一番といえば間違いなく48階層の大海原なんだが、47階層も凄かったぞ。なんせ一面の砂漠だからな。」
「砂漠……」
「歩けど歩けど、砂・砂・砂。俺達は身を隠す場所もないのに至る所にサンドワームが潜んでいて襲い掛かってくるんだ。フィールドが広いのに加えて寒暖差もえぐくてな、昼間は灼熱、夜は極寒で死ぬかと思った」

 うわぁ……それはまたなかなか。

「46階層は樹海、45階層は沼地、どの階層も印象という点では甲乙つけ難かったな、お前等も一度行ってみるといい。ああ、そう言えば43階層は昼夜のない階層だったんだが、景色は常に夕暮れの景色でなかなか綺麗だったぞ。ただ、出てくる魔物はブラッディ・コンバットやらシャドウマンやら面倒くさいのばっかりだったけどな」

 そんな風にアランがダンジョンについて語るのを聞いていたら一時間なんてあっという間で、気付いたらルーファウスの作業は終わり、転移魔法陣は描き終わっていた。

「さて、これで私の依頼は全てクリアです」
「お疲れ様、ルーファウス」
「はは、タケルのお陰で最終階層の攻略が楽勝でしたので特に疲れてなんていませんよ」
「そんな僕なんて全然。凄いのはオロチとライムで、僕はまだ半人前の魔術師ですからね」

 ルーファウスは「御謙遜を」と苦笑したけど、実際オロチやライムがいなければ僕なんてまだまだ未熟な半端者だ、これからも慢心せずに精進しないと。
 そんなこんなで僕達は一日足らずでダンジョン城から地上へ帰還する事になった。地上に戻ると時間はもう夜半過ぎで、冒険者ギルドへの報告は夜が明けるのを待ってという事になり、僕達は家へと直帰する事に。
 ああ、でもすっかり住み慣れたこの家もダンジョン城攻略の依頼を受ける代わりに借り受けている物件な訳で、ダンジョン城を攻略してしまったらいつまでも居座り続ける訳にはいかないのだろうな。
 リヴァイアサンの素材を売り捌いていけば当面生活には困らないだろうし、この際だから新たに皆で暮らす家を購入するのも有なのかも。
 けれどダンジョンの攻略というひとつの目標を達してしまった今、この街に暮らし続ける意味もなく、冒険者は冒険者らしく旅に出るのもまた一興。
 遅い夕食をとりながら僕が何気なくそんな話題を振ってみたら「タケルはせっかちだな」とアランに笑われてしまった。

「でも、この家の賃料が無料なのは依頼報酬な訳ですからいつまでも居座り続けるのは不法占拠になりますよ」
「タケル、私達は今まで誰もなし得なかったダンジョンの攻略をしたのですよ、それも無償で。この家くらいの見返りはあって当然、むしろこのまま報酬として受け取っても良いくらいです。タケルがこの家を気に入ったと言うのならばなんなら私が買い上げてもいい。転移魔法陣の設置の方はギルドから正式に出ている依頼なので、その分に関しては依頼料が入りますのでね、その依頼料を受け取ればこの家を買ってもおつりがきます」

 真剣な表情でそんな事を言い出したルーファウス。

「それはルーファウスが受け取るべき報酬だから、そんな事しなくていいよ!」
「そうですか、それならもっと自然豊かな土地に一軒家でも購入しましょうか?」

 僕が迂闊に「いいね」なんて言った日にはルーファウスなら本気で家の一軒や二軒くらい購入してしまうだろうという確信を持っている僕は、思わず全力で首を横に振った。

「何だかんだでメイズも3年か、ダンジョン攻略って目標も達したし、俺は一度王都に戻ってみようかと思っているんだが……」

 アランがいつもの軽い口調でそんな事を言い出して僕は驚く。だってアランにとって王都は色々としがらみのある土地でもあるはずで、別れた妻子が暮らしている場所でもあるのだ。そんな諸々の事情を何となく察している僕達はどんな顔をしていいのか分からず顔を見合わせた。

「なんだよお前等、そんな顔すんな。確かに俺は王都で色々あったし、顔を合わせづらい奴もいる、だけどそういうの一度全部自分の中で片を付けなきゃならんかなって思ってんだよ。別に一緒に来て欲しいなんて事は思っていない、ただ一度行ってくるって言ってるだけだ」
「まぁ、アランが決めた事なら私は止めませんよ」
「僕もアランがいいなら……というか僕自身、王都には少し興味があるので行ってみたいです」

 ルーファウスに続けて言った僕の言葉に、ルーファウスが少しだけ眉間に皺を寄せ「王都には教会の総本部がありますよ」と僕に告げる。

「あ~……駄目ですかね」
「駄目ではないですが、リスクはあるかと」
「ワイバーン騎兵団、見てみたかった……」

 しょぼんとしてしまった僕にルーファウスは何とも言えない表情で言葉を詰まらせる。ルーファウスを困らせたい訳ではないけれど、それは僕の正直な気持ちなのだから仕方がない。
 それに最近は僕の周りも平和だし、もういい加減3年も経っているのだからエリシア様も僕の事は諦めてくれているのではないだろうか。それこそ聖女様だってそこまで暇じゃないだろう?

「ま、まぁ、数日滞在するくらいなら、どうと言う事もないでしょう」

 ルーファウスが頷いてくれた所で、僕はロイドに「ロイド君も行くよね?」と声をかけたら、ロイドは少しだけ浮かない表情で「ああ」と一言頷いた。そんな彼の表情に僕は小首を傾げる。そういえば、今日の彼は何やらとても言葉数が少ない。

「ロイド君、もしかして体調悪い?」
「え……いや、そんな事はない、けど」
「じゃあ、疲れが出たのかな? 無理したら駄目だよ。回復魔法かけようか?」

 ロイドは「平気だ」と首を振ったがやはり表情は浮かないまま「今日は先に寝る」と寝室へと籠ってしまった。

「ロイド君、どうかしたのかな……」
「あ~……まぁ、今は放っておくしかないだろう」

 アランは何やら理由を分かっていそうな意味ありげな表情でそんな事を言うのだが、そんなアランの言葉を受けてルーファウスは「彼は拗ねているだけですよ」と僕に告げる。

「拗ねてるって、何をですか?」
「圧倒的な実力差っていうのに凹んでいるのですよ、彼は」
「あ~あ~、ルーファウス、もうそれ以上言ってやるな、ロイドが可哀想だろう」

 実力差って、今までだってアランやルーファウスとの実力差は分かっていたはずだし、まだDランクに昇格したばかりの僕達が彼等と並び立つのなんて無理だって話は彼としたはずなのに、なんでだ?

「お前も全然分かってないって顔だな、そういうとこだぞ」

 アランに唐突にデコピンされた。そういうとこって、どういうとこ!?

「アラン! タケルが怪我をしたらどうするんですか!」
「俺だって、さすがにそんなに強く弾いてねぇよ。ああ、俺も今日はもう寝る、おやすみ」

 そう言ってアランも寝室へと戻ってしまうと何となく今日はもうお開きかなという雰囲気になったので僕とルーファウスもそれぞれ寝室へと戻る。
 それにしても、そういう所……か、僕は彼の気に障るような事をしてしまったのだろうか? だとしたらちゃんと謝らないとな、と僕は瞳を閉じた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...