童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第三章

僕はお刺身が食べたいのです

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 僕達が冒険者ギルドに辿り着き、扉を開けるとそこには大勢の冒険者たちが壁を見上げていた。その壁は常には依頼書などが所狭しと掲示されている壁なのだが、いつもは貼られていない高所に一枚、いつもとは少し様子の違う依頼書が掲示されている。
 その依頼書はいつものぺらぺらとした紙質とは違った厚手の羊皮紙に大きな文字で依頼文が掲載されている。どうやら冒険者たちはそれを熱心に読み込んでいるようで、一体どんな依頼があったのかと、僕はそんな彼等の後ろからその依頼書を見上げた。
 その依頼書の冒頭にはSS級依頼の文字が見える。SS級という事はその依頼を受けられる冒険者は限られてしまうはずなので、こんなに誰にでも見られるような場所に大きく依頼書が掲示される事もないはずなのだが、と続きを読んでいったら、どうやらその依頼は依頼そのものはSS級であるものの、どの階級の冒険者でも依頼を受ける事ができるらしい。
 一体どういう事なのかと更に読み進めていくと、どうやらその依頼はある宝剣の捜索願であるらしい。誰でも受けられる依頼でありながら見付けだし、取り戻した者には白金貨10枚の褒賞があるという事で、そんな高額の依頼ならばと皆瞳を輝かせて依頼書に釘付けになっていたのだ。

「これは一種の宝探しのようなものでしょうか」
「だな、一攫千金狙いの冒険者が殺到しそうな依頼だな。ん~と、なになに、宝剣の名前は……って、おい、これって――」

 アランが慌てたような声を上げるので、訝しく思った僕は依頼書の続きに目を向ける。そこに記されていた宝剣の名は『聖剣グランバルト』それはつい先日話題に上ったばかりの初代国王陛下が愛用していたとされる剣の名前だった。
 その剣は確か、教会が大事に管理保管をしていると聞いている。しかも魔力を帯びたその剣は使う者を選び、資格のない者は触れる事も出来ないと聞いたような気がするのだが……

「あの場で枢機卿が聖剣の話を出してきたのは一体何故なのかと思っていましたが、どうやら件の聖剣は盗難に遭っていたようですね。恐らくタケルはその犯人と疑われていたのでしょう」
「え……」

 そんな言いがかりも甚だしい! 僕は宝剣の存在すら知らなかったのに犯人扱いなんてあんまりだ!

「その割には向こうさん、あっさり引き下がったような気がするが?」
「そもそもタケルは剣士ではありませんしね、聖剣グランバルトは使い手を自ら選ぶ魔剣です、そんな魔剣がタケルを選ぶ事はないだろうと判断されたのかもしれません」
「ああ、なるほどな。だが、だとしたら、その盗難されたとされる聖剣グランバルトは自らの意志で窃盗犯に付いて行ったって事になる訳だが?」
「………………」

 ルーファウスが無言で何事か考え込んでいる。僕はもう一度依頼書を見上げて、依頼文を読み返した。
 その依頼書にはあまり詳細な事は記されていない、奪われた宝剣を取り戻した者には報奨金を与える、と、それだけだ。何者に奪われたのか、どのように奪われたのか、そういった情報は一切記されていないのだから依頼と言ってもまるで雲を掴むような内容でもある。
 宝剣がどのような形をしているのか等の詳しい記載もないのだから、依頼書としてもどうなのか? と思わざるを得ない。
 まぁ、これだけ高額の依頼だ、その辺を詳しく調べて調査する所から既にこの依頼は始まっているのだろう。

「この依頼、挑戦してみるか?」
「教会に関わるのはどうかと私は思いますけれど」
「でも、教会はもう僕を追うのを止めてくれましたし、僕は少し興味があるかも」
「俺も剣士の端くれとして聖剣グランバルトには興味津々です!」

 ルーファウス以外の三人がこの依頼に興味を示した事で、僕達はこの依頼を受ける事に……というか、この依頼は特に受付手続きをする必要のない依頼であって、見付けだしたら冒険者ギルド、もしくは教会等関係各所に申し出ればいいだけの依頼である。
 絶対に聖剣を見付けだす! と一攫千金を夢見て意気込んで依頼に望もうとしている冒険者たち程に僕達に熱はない。一応調査はしてみようか、くらいのスタンスで僕にはちょうどいいユルさだ。

「どのみち王都には行く予定だったのでちょうどいいですね」
「いや、さすがにもう王都に聖剣はないだろう? 盗難品をいつまでも手元に置く犯罪者なんてそういない。早々に売り払われて地方に出ている可能性が高いから、こうやって各地に依頼が出ているんだろう?」
「まぁ、そう考えるのが妥当でしょうね。それでも王都に向かわなければ、盗品の流れも分かりませんので、どのみち王都は冒険者で溢れ返るのでしょうけれど」

 なるほど、盗品を探し出す為にはまずはその盗品の流れる先を探すのか。勉強になるな。
 僕達はロイドの所有物である残りのリヴァイアサン素材を査定に出して、査定額が出るまでの待ち時間で旅に必要な情報を集めていく。冒険者ギルドでは冒険に関する各地の情報が随時収集開示されているので旅に出るなら冒険者ギルドで情報収集をするのが一番手っ取り早い。
 どの街道を通って、どう旅をするのが一番効率がいいかを考える。今回は特に旅費を稼ぐ必要がないのでギルドのある街にわざわざ寄る必要もない。

「どうせなら、美味いもん食いながら旅がしたいな」

 そんなアランの一言で、僕達は王都へのメイン街道からは外れるが、郷土料理で有名な観光地リブルを経由して王都へと向かう事が決定した。
 リブルはリブル湖という湖の湖畔に栄えた土地で魚料理がとても美味いらしい。王都に近い観光地という事で貴族達の別荘などもあって高級リゾートとしても有名なのだとか。
 そんな場所なので庶民には敷居が高いのかと思いきや、そういう貴族の保養施設は街の一角の高級住宅街に建っており、繁華街のある辺りは普通に観光地として庶民人気は高いらしい。

「魚料理かぁ、お刺身とかも食べられますかねぇ」

 頭の中で刺身の船盛を思い浮かべて僕は思わずにやけてしまう。

「刺身?」
「こっちではあまり食べないですよね、生魚の切り身……」

 そこまで言った所で何故か三人にものすごくドン引きしたような顔をされた。確かにこの世界で僕は刺身を食べた事がない。そもそも最初に暮らしていたシュルクもここメイズも水辺が近くにないので魚自体があまり流通していなかった。マジックバックがあれば鮮度は保たれるとはいえ、それ自体もあまり出回っている物ではないし、刺身は鮮度が命だ、そんな環境では食べられないのは仕方がないと思ってはいたけれど、なんでそんな顔をされなきゃいけないのか分からないのだけれど!?

「タケル、生き物を生で食べるのは駄目です。お腹を壊す上に最悪死にます」
「えっと……そのくらい僕も分かってますよ?」
「でも今、生魚の切り身って……」
「お刺身は美味しいよ?」

 何故か『駄目だ、こいつ何も分かってねぇ』って顔をされた。失礼な! この三年間、皆に食事を提供してたのは一体誰だと思ってんだ! その辺の管理はきちんとしてるから食中毒だって一度も起こさなかったはずだけど!?

「あのですね、鮮度の高い魚はきちんとした手順を踏んでちゃんと料理すれば生でも食べられるんですよ! 今まで刺身を食卓に上げなかったのは、鮮度の高い魚が手に入らなかったから、その一点に尽きます! 人をゲテモノ食いみたいな顔で見ないでください!」
「そうは言っても、そんな料理、食うどころか見た事もねぇからな……」

 なんだって!? この世界には刺身を食べる文化がないのか!? 釣った魚をその場で捌いて食べる漁師飯はないのか!? 寿司がないのは仕方ないとしてネギトロ丼に鉄火丼、海鮮丼だって美味いのに!! いかん、考えてたらますます食べたくなってきた……

「そんな事言う人達には新鮮な生魚が手に入っても食べさせてあげませんから! 僕が全部独り占めで食べちゃうのでいいです!」
『おいしい食べ物ひとりじめはダメ~! ボクもたべる、ボクもたべるぅ~!!』

 ローブの中に収まっていた食いしん坊が、食い意地を発揮して顔を覗かせた。うんうん、ライムも一緒に食べような。食べられると分かっている美味を文化にそぐわないからと食べないというのも勿体ない。他人に無理強いするのはどうかと思うし、それはするべきじゃないと思うから僕達だけで楽しもうな。

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