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第四章

使い方が間違っている気がしなくもないけど

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「おおお、人がたくさんですよ!」
「まぁ、観光地だからな」

 僕達が今まで暮らしていた迷宮都市メイズも冒険者にとっては観光地だったので人口は多かったのだが、僕達が辿り着いたリブル湖畔の街リブルもずいぶん活気に満ちた街だった。
 メイズはダンジョン城に挑戦する冒険者が多かったので街行く人達は厳つい冒険者風の旅人がほとんどだったのだけど、ここリブルは少し観光客の毛色が違うように感じる。

「なんだかメイズより華やかですね」
「ここリブルは美食と宝飾の街と呼ばれていますからね」
「美食と宝飾……」

 食事が美味いというのは聞いていたが、この街は宝飾品産業も盛んであるようで、街の露店の半分はアクセサリーショップが並んでいてキラキラしている。宝石はもちろんだが魔石の発掘も盛んなのだそうで、僕が愛用している髪留めに付いている魔石も恐らくリブル産だろうとルーファウスは教えてくれた。
 僕の髪留めはロイドが買ってくれたものだ。魔石は本物だけど、なんの魔術付与もされていないその髪留め、宝飾産業が盛んな街なら魔術付与をしてくれる店もあるかもしれないな、と僕は何とはなしに辺りを見回した。
 その時、ある一軒の露店の前でオロチが風に靡く布に目を奪われていた。それは猫が揺れ動くカーテンに目を奪われているような感じだったのだろうけれど、僕はオロチの脇に寄り「欲しいのある?」と聞いてみた。

『あ? なんで俺様がこんな布切れを欲しいなどと望むと思うのだ』
「そろそろオロチの目印が欲しいんだよ、首輪は嫌だろうし、ライムの王冠みたいに気に入った物があるならそれが良いと思うんだけど何かないの? 髪飾りとかでもいいんだけど、こういうのどう?」

 僕が露店に並ぶ煌びやかな宝石の付いた髪飾りを指差すと、オロチはあからさまに嫌そうな表情で『俺様にはそんなキラキラしい石は必要ない』と一蹴されてしまった。

『そもそもこんな石は寝床にいくらでも転がっている、今更欲しいとも思わんわ』
「え~そうなんだ、困ったなぁ」

 ライムのアクセサリー選びもライムの体形のお陰で少し難航したけれど、オロチのアクセサリーはそれ以上に選ぶのが難しい。なにせ亜人の姿からドラゴンの姿に戻った時に普通のアクセサリーだと恐らく壊れてしまうと思うのだ。
 首輪に関しては従魔用という事で伸縮性能の付与された物も販売されているけれど、それは絶対嫌だと彼が言うだろう事は僕だって理解している。
 そう考えるとオロチが身に付けられるアクセサリーはとても限られてしまい何を選んでいいのか見当もつかない。

『ふむ、そうか、主がどうしても身に付けろというのなら仕方ない、俺様はそこの布で構わんぞ』

 それは先程オロチが眺めていた風にたなびく細長い布だった。使用用途としては恐らくリボン? 色々な色の物があり、中には金糸銀糸の刺繍が施された物もあって、なかなかに煌びやかだ。

「え? いいの?」
『主が付けろと言うのならば仕方がない』

 あれ? これはもしかして、オロチは最初からこのリボンが気になってた? 自分から欲しいって言うのはプライドが許さなかった的な?
 確かにアクセサリーってどちらかと言えば女性の為のものだけど、この世界では男性だって魔術付与されたアクセサリーを普通に身に付けている。オロチはあまり着飾るのを好まないのか普段はシンプルな出で立ちでいるのがデフォルトで逆に言い出しづらかったのかも?
 それにしてもリボンか、ワイルド系のオロチにしてはちょっと可愛いチョイスだな。

「色々種類があるけどどれがいい? この金糸の刺繍が入ったのなんかオロチの肌に似合いそう」
『あ? 俺様はキラキラしいのはいらんと言っているだろう、身に付けるならコレだ!』

 そう言ってオロチが言い切って指差したのはとてもシンプルで飾り気の何もない深紅のリボンだった。しかも布自体も然程高価ではないのであろうそのリボンは巻きで無造作に置かれていて、ほとんど叩き売り状態。

「この色がいいなら他にももっといい布のもあるよ?」
『これでいい』

 何故だ? どんなこだわりだ? ライムと言い、オロチと言い、安上がりが過ぎる。
 ライムの王冠だって二束三文の叩き売りだったのをライムが気に入り購入したのだが(正しくは無料で貰った)魔物の価値観というのはやはり人間とは根本的に違うのかもな。
 でもオロチがこれで良いというのなら、これにしようかな……

「長さ、どうしようか?」
「坊ちゃん、こっちのは安価だから計り売りはしてないよ」

 店主の言葉に僕は驚く。まさかの計り売りなし! いや、でも確かに値段安いもんなぁ……巻かれたリボンに付いている値段は小銅貨5枚。何メートルあるのか分からないけど、お値打ち過ぎだ。
 深紅のリボンは買うとして、僕は商品を見渡し何本かの飾りひもを手に取った。自分自身の髪も腰の辺りまで伸びてきているので実は括れる髪ひもを探していたのだ。
 そろそろ邪魔な長さなので切ってもいいかなと思わなくもないのだけど『魔力は髪に宿る』などと言われてしまうと、それが迷信だとしてもなんとなく切らない方がいいのかな、と悩んでしまう自分がいる。
 はっきり言って僕の魔力量は普通ではあり得ない数値を叩き出しているし、正直髪の長さに意味なんかないと分かっている。それでも何となく伸ばし続けているのは迷信の中にも一掴みの真実があるのではないかと考えてしまうからだ。

『武流、迷信にはそんなのは嘘だと思うような事がいくらもあるが、語り続けられているのにはそれ相応に理由があったりするものなんだよ。夜中に爪を切ってはいけないなんて今となってはおかしな迷信だが、電気が当たり前になかった時代には薄暗がりでは手元が狂って怪我をする事もあった、だから明るい陽のあるうちに切る事が推奨されたとそういう話だ。現代にはそぐわない、だからと言って昔の人の教えを一概に無下にしてはいけないよ』

 そう言って僕を膝の中に入れ爪を切ってくれた祖父の記憶が甦る。何だかんだで僕はおじいちゃん子でそんな祖父の語りも大好きだったんだよなぁ……
 意味がないと思われている迷信にももしかしたら理由がある(かもしれない)と思うと、そんな祖父の言葉を思い出して踏ん切りがつかない。少し邪魔だと思っても長くて困る事もないので、今は何となく伸ばし続けていこうと思っている。
 そしてそんな風に伸ばし続けた髪が小さな髪留めひとつで纏まる訳もなく、纏める手段を探していたので渡りに船だと思い、自分用の髪ひもも購入する事に。
 オロチのリボンが長いので分けて使ってお揃いでもいいけれど、僕の青味がかった髪色には赤は反対色であまり合わない気がするんだよね。

「う~ん」

 何本かの髪ひも手に取って悩んでいると「買うんですか?」と、ルーファウスに手元を覗き込まれた。

「髪ひもが欲しかったんですけど僕の髪色に合う色って意外と難しいです」

 限りなく黒に近い藍色というファンタジー色な僕の髪色、やはり同系色が良いのだろうか? でもせっかくの飾りひもなのであまり地味な色味もどうかと思う。藍色・空色・紫色、ブルー系の色だけでも色々あるけれど、どれもこれもしっくりこない。

「それではこんな感じで如何です?」

 僕が手にして悩んでいたのはある程度強度のありそうな太さのある髪ひもだったのだが、ルーファウスが僕に提案してきたのは、この太さの紐で髪を纏められるか? と考えてしまう程に細い飾りひも。それを何本か手に取ってラフに纏めてしまえば、ある程度の太さになる。
 色は銀色・藍色・淡い水色で色合わせも悪くない。

「あ、それいい」

 僕はルーファウスの提案をそのままにその髪ひもの購入を決めた。オロチのリボンと僕の髪ひもを合わせても銅貨一枚にもならなくてお買い得すぎる。
 「後で私に結わせてください」とルーファウスに言われて、髪ひもと一緒に髪を結って貰ったら、藍色の髪の中に所々細い銀色が入っていい感じ。お洒落っぽい! まぁ、今までお洒落と無縁で生きてきたからお洒落の何たるかは分からないけれども。
 オロチは僕が買い与えた深紅のリボンを眺めて、何処に付けるのかと思っていたらくるくると角に巻いていた。あまりにも無造作に巻いているのでまるで何かの旗のようで僕は少し笑ってしまう。目印としてはかなり分かりやすいのだけどね。
 リボンを巻き終わり、風にたなびかせてドヤっているオロチは本人には言えないけどとても可愛かったよ。

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