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第四章
100年前の大暴走
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「ルーファウスのお父さんってどんな人なんですか?」
「そうですね、一言で言えば『出世欲の塊のような人』でしょうか。自分が権力を持つためなら周りなんてお構いなしで利用する。父はそういう人ですよ」
ルーファウスが吐き出した言葉に「そうなんだ?」と、意外そうな声を上げたのはレオンハルト王子だった。
「私はアルバート総務大臣にそういう強欲さを感じた事はないよ。彼は実直でそして国の為を想い行動してくれるとても良い家臣だ」
「別に王子がそう思うのであればそれでもいいですよ。ただ貴方が気付いた時にはこの国の全権力が父の手に握られていた、というような事になっていても私は知りませんけれどね。実際のところ父は既に総務大臣です、この国の権力はほぼ掌握済みと言っても過言ではない。父には有り余るほどの時間がある、貴方たち王家の人間を掌の上で転がす事なんて雑作もない事だと私は思いますけれどね」
ルーファウスの父親はハイエルフ、そして少なくとも300年以上の時を生きている。そんな人物が国政に食い込んでいるのだ、王子の言うように実直に政をこなしてくれているのであればこれほど心強い者はいないが、ルーファウスのいう事が正しいのであればアルバート総務大臣はいずれ王家に牙を剥く可能性だって否定はできない。
その人物像をまだはっきりと捉える事はできないけれど、一筋縄ではいかない相手である事は間違いなさそうだ。
「だけどさぁ、大臣がそんな事して一体なんのメリットがあるって言うの? 呼び出してすぐに放り出すくらいなら最初から呼び出さなきゃ良かったんじゃない? やってる事が意味わかんない。それにあたしはその場にいたけど、コタが消えた時、本気で焦ってる感じだったよ」
茉莉の疑問は最もだ、少し怪しそうな人物である事は間違いないが、かと言ってその全てを大臣が企てた事であると断定するのは現状まだ早計だろう。
ルーファウスは腕を組み、少し何かを言いたげな様子だったが、小さく首を振って言葉を飲み込み「何を語るにしてもまずは最後までコタローの話を聞いてからですね、続きをどうぞ」と、小太郎に話の先を促した。
「続きと言われても、ボクは剣を押し付けられて、気が付いたら森の中でした。右を見ても左を見ても真っ暗で、どうしようかと途方にくれてたら野犬? みたいなのに襲われて、ナイフに引っ張られるままに戦ってたらいつの間にか夜が明けてました」
「なんで夜? あたし達がこっちに召喚されたの夕方だったじゃん。あたしが解放された時、まだ日は暮れきってなかったからあんたが消えたのも夕方だよ」
「そ、そんな事言われても……」
戸惑い顔の小太郎、すでにその時点から時間に誤差が生まれているのは確定なのかな? ナイフが勝手に戦ってくれていたとはいえ、小太郎が森に住む魔物相手に夕方から朝まで戦い続けたというのは少し考え難い気がする。
そこから小太郎はその辺に生えている木の実をもいで食べたり、川の水で飢えをしのぎつつ人を探して数日放浪、そんな所で出会った人に親切にされて家に付いて行ったら、その家というのがガラの悪い人達の住処で、見た目に豪華なナイフを奪われそうになったのだそう。
小太郎は命が助かるのならばナイフを差し出しても一向に構わなかったようなのだが、それにナイフ自体が応戦してしまい結局その人達からは逃げる事になってしまう。しかもそんなガラの悪い連中がずっと自分を探し回っているものだから街に行く事もできず更に放浪。リブル湖畔に辿り着き、湖沿いに歩いていてナイフを投げ捨てようとしていた所でオロチに捕獲されて現在に到るという事らしい。
「ねぇ、コタ、ちょっといい?」
茉莉が小太郎を指差し「小太郎」と言い、次に僕を指差し「タケル」と続ける、そのまま続けて「ロイド、ルーファウス、アラン」と確かめるように指差し確認をしていき「オロチって誰?」と、眉間に皺を刻んだ。
「あ……えっと、タケルさんの従魔です、よね?」
少し自信がなさそうに小太郎が僕の方を向いて問うてきたので「そうだよ」と僕は頷く。
「従魔? あんた従魔師なの? 魔術師って言わなかった?」
「正しくは『魔術師』兼『従魔師』ですね。従魔は二体しかいませんし、一体は期間限定の従魔契約なので従魔師を名乗るのもおこがましいですけど。そういえば先程、お二人はドラゴンがどうとか言っていましたけど……」
「ああ、私達が城を出る際、魔物の大暴走を止めるのに必要だと告げられたのが聖剣グランバルトとドラゴンの入手でね。この二つを手に入れ無事王国の危機を救った暁には国王も私達の結婚を認めてくださると……」
「そこ、ダウト! あたしは結婚なんて望んでない! 王様はこの世界を救ったらあたし達の願いを聞き届けるって言ったの、変な曲解とあんたの勘違いはいい迷惑! なんでこんな苦労してまであんたと結婚しなきゃいけないの!? 罰ゲームかよ!!」
「相変らずマツリは辛辣だな、だけど君はそこが良い」
う~ん、暖簾に腕押し、沼に杭って感じ? 王子様ちょっと気持ち悪いな。少しばかり茉莉さんに同情してしまうよ。
「それにしても何で聖剣とドラゴンなんでしょうか? 何か理由でもあるんですか?」
「理由は過去そうやって魔物の大暴走をくい止めてきた実績かな? 魔物の大暴走は現在過去三回確認されている。今回で四回目の大暴走なのだけど、その都度その聖剣が勇者を見付けだしドラゴンを傍らに大暴走を止めたという伝承が……」
「初耳ですね、それ」
楽しそうに語る王子様、その一方でルーファウスは淡々とした口調で「最初の大暴走の時は知りませんけど、二回目、三回目の大暴走の際にはドラゴンなんていませんでしたよ」ときっぱりと言い切った。
「おじ様、そんな見てきたように……」
「実際に見てきてるんですよ。私は二回目の時も三回目の時も問答無用で戦場に連れて行かれているので間違いないです。ああ、でも私も初めてその戦場に行かされた時にはまだ若輩者でしたので前線に立っていた訳ではありませんけれど」
ええ……
「少なくとも100年前の戦いでは最前線に居てもドラゴンの姿は見ていません。それどころか……」
「それどころか?」
「これ以上の情報は軍から箝口令が出ているのですが話してもいいのでしょうか? 100年前の箝口令が生きているのかも分かりませんが……」
「構わないよ、続けて。私が許可する」
王子の言葉にひとつ頷き、ルーファウスは言葉を続ける。
「100年前の魔物の大暴走の折、それを沈めたのは一人の仮面を被った子供だったのです。王国軍は魔物の群れに成す術もなくほぼ壊滅状態、そんな中、ある一人の子供が魔物の大群の中に降り立って、荒れ狂う魔物達を操るように沈めていった。そしてその子は全ての魔物を沈めると、自らを魔王と名乗り去って行きました。そんな子供に操られた魔物の軍勢に一国の軍が翻弄されたあげく負けたのかと現場は大混乱で、箝口令が敷かれたのです。子供は魔王領を脅かさない限り我が国には手を出さないとも言っていました、けれどこの箝口令のお陰で上層部に上手く情報が伝わらず……いえ、伝わっているから尚更なのでしょうか、毎年の恒例行事のような魔王討伐派兵が行われている訳です。まぁ、毎年簡単に退けられてしまっているのですけれど」
「魔王が子供って……」
「単純に考えれば代替わり、なのでしょうね。そうは言ってもそれも既に100年前の話です、魔族の寿命は魔力量で変動するそうですので、今頃は立派な大人の魔王に成長されているのではないでしょうか」
ルーファウスは以前から魔王の話をする時、何故か魔王を高評価するかのような発言をする事があった。この世界は魔王の温情で平和が保たれているなどと言っていた事もあったのだが、なるほど、そんな事があったからこその発言だったという訳か。
現在魔王領を治めているであろう魔王は幼い子供の身でありながら魔物の大群を操ってみせた、とすれば立派に成人した大人の魔王となっているであろう現在では更に力は強大になっている可能性を否定できない。それが分かっているから尚更に、こちらに全く手出しもせず派兵を退けるのみに徹している魔王へのルーファウスの評価は上がっているのだろう。
「ですので、魔王討伐にドラゴンが必要だなんて話は聞いた事もありませんし、一体何処からそんな話が出てきたのか私には分かりません」
「えええ……おかしいじゃない、ここまでの話を聞く限りじゃ、その話をあたし達にしてきたのはお兄さんの父親だよ。魔王を退け大暴走を止めるにはドラゴンの咆哮が必要だっておじさん言ってたんだから!」
ルーファウスの発言に意見を挟んできたのは茉莉だった。全く腑に落ちないという表情の彼女は「もしかして何の根拠もない事にあたし達付き合わされてたわけ?」と、大きく溜息を吐く。
「いえ、根拠が全くないという訳ではないとは思いますよ」
「は? どういう事よ?」
「私が話したのはあくまで100年前の話です。300年前、この国が建国された際に魔王軍を退け聖剣グランバルトを持って戦った勇者がいた事は間違いありませんし、その傍らにドラゴンが居た事も間違いではありません。それをなぞるという意味では父の語った言葉に嘘はありません。当時と同じように事が進むか否かは別問題ですけれど。まぁ、現在勇者が聖剣を持つ事を拒否している時点で既にあの頃とは違う、と思った方が賢明かと私は思いますけれどね」
うん、完全に正論。そもそも何事も同じようにすれば同じようになると思ったら大きな間違いだよ。時代は変わるし環境だって日々変わっていく、それこそ300年前と現在が全く同じであると考える事の方が間違ってるって話だよ。
「だったら、これからあたし達どうすればいいって言うのよ! 大暴走はもうすぐそこだってのに!」
「とりあえず、やるだけやってみたら良いのでは?」
「あんたふざけてんの!? どうせ全部他人事だって思ってんでしょ! あたし達が大暴走を止められなかったらこの国は壊滅するって分かってる!?」
「それはまぁ」
「だったらもう少し真剣に――」
「一人で多くを護ろうとするから駄目なのですよ、己の手で護れる数なんてたかが知れている、私はそれを理解しています。私は私が護るべき者だけを護りたい、ただそれだけですから」
ルーファウスの言葉に茉莉が眉間に皺を刻む。
「あんたは自分だけが良ければ何でもいいって言うの!?」
「国なんてものは栄枯盛衰、栄える事もあれば滅びる事もあるのです、永遠なんて存在しません。何事にも終わりはやって来る、その全てを己の基準でどうにかしようと思うのは傲慢でしかありません。私は己の小ささを理解していますので、何もかも己の手でどうにかしようなどと思うのは止めました。必要最小限でいいのです、私が求めるのは一人だけ」
その言葉を聞いた瞬間、僕の心の中に何とも言えない気持ちが湧いて出た。ルーファウスの言う一人というのはたぶん間違いなく「僕」なのだろう。タロウさんはもういない、僕はタロウさんの身代わりであるのだろうけど、それでも今のルーファウスに必要なのは僕だけなのだと思ったら、ふつふつと嬉しいような恐ろしいような複雑な感情に心が占められて言葉が出てこない。
「それに、ドラゴンはいますしね。ドラゴンの咆哮が効くのかどうかは知りませんが、やってみたら良いと思います」
僕の複雑な心中になどまるで気付かないルーファウスは何事もなかったかのように言葉を続ける。
「ドラゴンは、いる?」
「ええ、ドラゴンは居ます。ね、タケル、オロチを呼び出していただけますか?」
「え? あ! はい! 少々お待ちを!」
何だかテンパって変な喋り方になってしまった。だって僕にとっては不意打ちで愛を囁かれたようなもんでさ、心臓に悪いよ。これって自意識過剰だろうか? いやいや、でもでも……
頭の中をグルグルさせながら、僕は首から下げた鍵を取り出し楽園への扉を開ける。龍笛を吹き鳴らせばすぐにオロチはやって来て『何か用か?』と首を傾げた。
「そうですね、一言で言えば『出世欲の塊のような人』でしょうか。自分が権力を持つためなら周りなんてお構いなしで利用する。父はそういう人ですよ」
ルーファウスが吐き出した言葉に「そうなんだ?」と、意外そうな声を上げたのはレオンハルト王子だった。
「私はアルバート総務大臣にそういう強欲さを感じた事はないよ。彼は実直でそして国の為を想い行動してくれるとても良い家臣だ」
「別に王子がそう思うのであればそれでもいいですよ。ただ貴方が気付いた時にはこの国の全権力が父の手に握られていた、というような事になっていても私は知りませんけれどね。実際のところ父は既に総務大臣です、この国の権力はほぼ掌握済みと言っても過言ではない。父には有り余るほどの時間がある、貴方たち王家の人間を掌の上で転がす事なんて雑作もない事だと私は思いますけれどね」
ルーファウスの父親はハイエルフ、そして少なくとも300年以上の時を生きている。そんな人物が国政に食い込んでいるのだ、王子の言うように実直に政をこなしてくれているのであればこれほど心強い者はいないが、ルーファウスのいう事が正しいのであればアルバート総務大臣はいずれ王家に牙を剥く可能性だって否定はできない。
その人物像をまだはっきりと捉える事はできないけれど、一筋縄ではいかない相手である事は間違いなさそうだ。
「だけどさぁ、大臣がそんな事して一体なんのメリットがあるって言うの? 呼び出してすぐに放り出すくらいなら最初から呼び出さなきゃ良かったんじゃない? やってる事が意味わかんない。それにあたしはその場にいたけど、コタが消えた時、本気で焦ってる感じだったよ」
茉莉の疑問は最もだ、少し怪しそうな人物である事は間違いないが、かと言ってその全てを大臣が企てた事であると断定するのは現状まだ早計だろう。
ルーファウスは腕を組み、少し何かを言いたげな様子だったが、小さく首を振って言葉を飲み込み「何を語るにしてもまずは最後までコタローの話を聞いてからですね、続きをどうぞ」と、小太郎に話の先を促した。
「続きと言われても、ボクは剣を押し付けられて、気が付いたら森の中でした。右を見ても左を見ても真っ暗で、どうしようかと途方にくれてたら野犬? みたいなのに襲われて、ナイフに引っ張られるままに戦ってたらいつの間にか夜が明けてました」
「なんで夜? あたし達がこっちに召喚されたの夕方だったじゃん。あたしが解放された時、まだ日は暮れきってなかったからあんたが消えたのも夕方だよ」
「そ、そんな事言われても……」
戸惑い顔の小太郎、すでにその時点から時間に誤差が生まれているのは確定なのかな? ナイフが勝手に戦ってくれていたとはいえ、小太郎が森に住む魔物相手に夕方から朝まで戦い続けたというのは少し考え難い気がする。
そこから小太郎はその辺に生えている木の実をもいで食べたり、川の水で飢えをしのぎつつ人を探して数日放浪、そんな所で出会った人に親切にされて家に付いて行ったら、その家というのがガラの悪い人達の住処で、見た目に豪華なナイフを奪われそうになったのだそう。
小太郎は命が助かるのならばナイフを差し出しても一向に構わなかったようなのだが、それにナイフ自体が応戦してしまい結局その人達からは逃げる事になってしまう。しかもそんなガラの悪い連中がずっと自分を探し回っているものだから街に行く事もできず更に放浪。リブル湖畔に辿り着き、湖沿いに歩いていてナイフを投げ捨てようとしていた所でオロチに捕獲されて現在に到るという事らしい。
「ねぇ、コタ、ちょっといい?」
茉莉が小太郎を指差し「小太郎」と言い、次に僕を指差し「タケル」と続ける、そのまま続けて「ロイド、ルーファウス、アラン」と確かめるように指差し確認をしていき「オロチって誰?」と、眉間に皺を刻んだ。
「あ……えっと、タケルさんの従魔です、よね?」
少し自信がなさそうに小太郎が僕の方を向いて問うてきたので「そうだよ」と僕は頷く。
「従魔? あんた従魔師なの? 魔術師って言わなかった?」
「正しくは『魔術師』兼『従魔師』ですね。従魔は二体しかいませんし、一体は期間限定の従魔契約なので従魔師を名乗るのもおこがましいですけど。そういえば先程、お二人はドラゴンがどうとか言っていましたけど……」
「ああ、私達が城を出る際、魔物の大暴走を止めるのに必要だと告げられたのが聖剣グランバルトとドラゴンの入手でね。この二つを手に入れ無事王国の危機を救った暁には国王も私達の結婚を認めてくださると……」
「そこ、ダウト! あたしは結婚なんて望んでない! 王様はこの世界を救ったらあたし達の願いを聞き届けるって言ったの、変な曲解とあんたの勘違いはいい迷惑! なんでこんな苦労してまであんたと結婚しなきゃいけないの!? 罰ゲームかよ!!」
「相変らずマツリは辛辣だな、だけど君はそこが良い」
う~ん、暖簾に腕押し、沼に杭って感じ? 王子様ちょっと気持ち悪いな。少しばかり茉莉さんに同情してしまうよ。
「それにしても何で聖剣とドラゴンなんでしょうか? 何か理由でもあるんですか?」
「理由は過去そうやって魔物の大暴走をくい止めてきた実績かな? 魔物の大暴走は現在過去三回確認されている。今回で四回目の大暴走なのだけど、その都度その聖剣が勇者を見付けだしドラゴンを傍らに大暴走を止めたという伝承が……」
「初耳ですね、それ」
楽しそうに語る王子様、その一方でルーファウスは淡々とした口調で「最初の大暴走の時は知りませんけど、二回目、三回目の大暴走の際にはドラゴンなんていませんでしたよ」ときっぱりと言い切った。
「おじ様、そんな見てきたように……」
「実際に見てきてるんですよ。私は二回目の時も三回目の時も問答無用で戦場に連れて行かれているので間違いないです。ああ、でも私も初めてその戦場に行かされた時にはまだ若輩者でしたので前線に立っていた訳ではありませんけれど」
ええ……
「少なくとも100年前の戦いでは最前線に居てもドラゴンの姿は見ていません。それどころか……」
「それどころか?」
「これ以上の情報は軍から箝口令が出ているのですが話してもいいのでしょうか? 100年前の箝口令が生きているのかも分かりませんが……」
「構わないよ、続けて。私が許可する」
王子の言葉にひとつ頷き、ルーファウスは言葉を続ける。
「100年前の魔物の大暴走の折、それを沈めたのは一人の仮面を被った子供だったのです。王国軍は魔物の群れに成す術もなくほぼ壊滅状態、そんな中、ある一人の子供が魔物の大群の中に降り立って、荒れ狂う魔物達を操るように沈めていった。そしてその子は全ての魔物を沈めると、自らを魔王と名乗り去って行きました。そんな子供に操られた魔物の軍勢に一国の軍が翻弄されたあげく負けたのかと現場は大混乱で、箝口令が敷かれたのです。子供は魔王領を脅かさない限り我が国には手を出さないとも言っていました、けれどこの箝口令のお陰で上層部に上手く情報が伝わらず……いえ、伝わっているから尚更なのでしょうか、毎年の恒例行事のような魔王討伐派兵が行われている訳です。まぁ、毎年簡単に退けられてしまっているのですけれど」
「魔王が子供って……」
「単純に考えれば代替わり、なのでしょうね。そうは言ってもそれも既に100年前の話です、魔族の寿命は魔力量で変動するそうですので、今頃は立派な大人の魔王に成長されているのではないでしょうか」
ルーファウスは以前から魔王の話をする時、何故か魔王を高評価するかのような発言をする事があった。この世界は魔王の温情で平和が保たれているなどと言っていた事もあったのだが、なるほど、そんな事があったからこその発言だったという訳か。
現在魔王領を治めているであろう魔王は幼い子供の身でありながら魔物の大群を操ってみせた、とすれば立派に成人した大人の魔王となっているであろう現在では更に力は強大になっている可能性を否定できない。それが分かっているから尚更に、こちらに全く手出しもせず派兵を退けるのみに徹している魔王へのルーファウスの評価は上がっているのだろう。
「ですので、魔王討伐にドラゴンが必要だなんて話は聞いた事もありませんし、一体何処からそんな話が出てきたのか私には分かりません」
「えええ……おかしいじゃない、ここまでの話を聞く限りじゃ、その話をあたし達にしてきたのはお兄さんの父親だよ。魔王を退け大暴走を止めるにはドラゴンの咆哮が必要だっておじさん言ってたんだから!」
ルーファウスの発言に意見を挟んできたのは茉莉だった。全く腑に落ちないという表情の彼女は「もしかして何の根拠もない事にあたし達付き合わされてたわけ?」と、大きく溜息を吐く。
「いえ、根拠が全くないという訳ではないとは思いますよ」
「は? どういう事よ?」
「私が話したのはあくまで100年前の話です。300年前、この国が建国された際に魔王軍を退け聖剣グランバルトを持って戦った勇者がいた事は間違いありませんし、その傍らにドラゴンが居た事も間違いではありません。それをなぞるという意味では父の語った言葉に嘘はありません。当時と同じように事が進むか否かは別問題ですけれど。まぁ、現在勇者が聖剣を持つ事を拒否している時点で既にあの頃とは違う、と思った方が賢明かと私は思いますけれどね」
うん、完全に正論。そもそも何事も同じようにすれば同じようになると思ったら大きな間違いだよ。時代は変わるし環境だって日々変わっていく、それこそ300年前と現在が全く同じであると考える事の方が間違ってるって話だよ。
「だったら、これからあたし達どうすればいいって言うのよ! 大暴走はもうすぐそこだってのに!」
「とりあえず、やるだけやってみたら良いのでは?」
「あんたふざけてんの!? どうせ全部他人事だって思ってんでしょ! あたし達が大暴走を止められなかったらこの国は壊滅するって分かってる!?」
「それはまぁ」
「だったらもう少し真剣に――」
「一人で多くを護ろうとするから駄目なのですよ、己の手で護れる数なんてたかが知れている、私はそれを理解しています。私は私が護るべき者だけを護りたい、ただそれだけですから」
ルーファウスの言葉に茉莉が眉間に皺を刻む。
「あんたは自分だけが良ければ何でもいいって言うの!?」
「国なんてものは栄枯盛衰、栄える事もあれば滅びる事もあるのです、永遠なんて存在しません。何事にも終わりはやって来る、その全てを己の基準でどうにかしようと思うのは傲慢でしかありません。私は己の小ささを理解していますので、何もかも己の手でどうにかしようなどと思うのは止めました。必要最小限でいいのです、私が求めるのは一人だけ」
その言葉を聞いた瞬間、僕の心の中に何とも言えない気持ちが湧いて出た。ルーファウスの言う一人というのはたぶん間違いなく「僕」なのだろう。タロウさんはもういない、僕はタロウさんの身代わりであるのだろうけど、それでも今のルーファウスに必要なのは僕だけなのだと思ったら、ふつふつと嬉しいような恐ろしいような複雑な感情に心が占められて言葉が出てこない。
「それに、ドラゴンはいますしね。ドラゴンの咆哮が効くのかどうかは知りませんが、やってみたら良いと思います」
僕の複雑な心中になどまるで気付かないルーファウスは何事もなかったかのように言葉を続ける。
「ドラゴンは、いる?」
「ええ、ドラゴンは居ます。ね、タケル、オロチを呼び出していただけますか?」
「え? あ! はい! 少々お待ちを!」
何だかテンパって変な喋り方になってしまった。だって僕にとっては不意打ちで愛を囁かれたようなもんでさ、心臓に悪いよ。これって自意識過剰だろうか? いやいや、でもでも……
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すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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