童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第四章

僅かな違和感

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 魔力溜まりを封じる。そうすれば大暴走スタンピードは阻止できるのか?

「似てはいてもダンジョン核と魔力溜まりは違う、そもそも場所も特定できないのに封じるのは難しくないか?」

 アランが珍しく口を挟んでくる。

「まぁ、それもそうですね。それにそもそもそれを考えるのは勇者様と聖女様の役割で私達は無関係です。そろそろお暇させていただきましょうか」
「え……」
「オロチも聖女様の言う事を聞いてよく働くのですよ」
『ああ!? なんで俺様がお前に指図されなければならん! ふざけんな!』

 オロチが怒りの声をあげても、その声はルーファウスには届かない。そもそもルーファウスはオロチの話す言葉を理解していないのだ、唸り声を聞いただけでは動じる事もない。いや、言葉を理解しててもルーファウスは動じない可能性もあるけれど。

「ルーファウス、それはあんまり一方的じゃないかな? 大暴走スタンピードが起こればこの国は壊滅的な痛手を追う可能性だってあるんだろう? だったらもう少し……」
「タケルには関係ありません。この国が滅ぶというのであれば、この国を捨てて別の国、別の大陸に移住すればいいだけです」
「ルーファウス!」

 確かにこの世界にはこのグランバルト王国以外にも国はあるし、まだ人類が未到達の大陸も存在すると聞く。だけど僕はこの世界にやって来て、この国でたくさんの知人友人に囲まれながら新しい人生をやり直させて貰っているのだ、なのにそんな新しい生活を全て捨てろだなんて、そんなのあんまりじゃないか。

「そんなに行きたけりゃ一人で行きなよ、ルーファウス! ルーファウスはそうやって何でも勝手に僕の行動を決めようとする。もう、うんざりだよ! 僕は自由に生きろと言われてこの世界にやって来た、だけどルーファウスと一緒にいたら僕の自由なんて何にもない! 僕はルーファウスにはずっと感謝してきた、こんな右も左も分からない世界で僕の事を異世界人だと理解しても頼っていいと言ってくれたルーファウスには感謝してもしきれない! だけどもう限界だ、僕には僕の意志がある、僕はルーファウスの人形じゃない!」

 一気に言い切った僕に場がしんと静まり返る。

「タケル、私はそんなつもりでは……」
「ルーファウスが僕の身を案じて全部先回りして危険を回避しようとしてくれているのは分かってる、だけど今まで僕と関わってくれた人達全員を見捨てるなんてこと僕にはできないし、しようとも思わない!」

 僕だって大暴走スタンピードを自分が何とかできるなんて思ってない、だけど少しでも僕に何かできる事があるのなら、僕は全力でそれに取り組みたいし、災厄を前に何もせず高みの見物なんてそんな気持ちにはとてもなれない。ましてや全てを捨ててルーファウスと二人だけで逃避行なんてあり得ない。

「まぁ、今回は俺もタケルに賛成だな。お前がタケルを大事に想ってるのは分かっているが、お前の感情は押し付けだ。本人が望んでもいないのに勝手に先回りして全ての可能性を潰していくのはお前の自己満足でしかない。自分勝手な善意の押し売りは与えられた方には迷惑にしかならないんだよ、ルーファウス」
「っ……アラン、あなたに何が分かると……」
「お前の後悔はお前だけのものだ、それをタケルに押し付けるな。過去を教訓にどうにかしたいという気持ちがあるのは分かる、だがそれは他人に強要する事じゃない」
「だったらどうしろと! タケルが自ら危険に踏みこんで行こうとするのをただ黙って見ていろと? かつて守れなかった人達と同じ道を歩もうとするその姿を、ただ指を咥えて見ていろとでも言うのですか!?」
「違う、そうじゃない!」

 こんな風にアランとルーファウスが言い争うのを見るのは初めてだ。アランとルーファウスはいつも付かず離れず、多少ルーファウスがアランを邪険に扱う事はあったものの、アランはそんなルーファウスを軽く流していつも笑っていた。

「俺にだって後悔はある。護るべき者を護れなくて自分の人生も家族の人生も滅茶苦茶にした。だがな、その後悔は俺だけのもので他人に背負わせるべきものじゃない。お前がすべきはタケルを全力で護る事だ、お前はAランク冒険者だろう! お前は誰よりも強い魔術師で、タケルを護れるだけの力を持っている、お前は俺とは違って護るべき者を護る力を持っているんだよ! だから逃げるな! なすべき事をなさない者に未来はやってこない!」

 アランは基本的にはいつもルーファウスを立てていて、ルーファウスはそんなアランに対してどこか一目置いているような所もあったのだ。けれど今、アランは本気でルーファウスを叱っている。

「なすべき事って何ですか? それはタケルを危険に向かわせる事ですか? それで一体何がなされるとあなたは言うのですか?」
「それは……」
「答える事ができないのでしたら余計な口は挟まないでください」

 アランが何か物言いたげに顔をあげ、何かを言いあぐねるように逡巡している。掌は落ち着きなく握ったり開いたりを繰り返していて、それはいつでも歯に衣着せぬアランにしては珍しい行動だったので僕は微かに違和感を覚える。

「アラン、もしかして何か言いたい事があるのかな?」

 何気なく放った僕の言葉にアランが驚いたようにこちらを見やった。

「な、何を?」
「んん? 何をと言うか、何だろう?」

 本当に何かがあるとは思っていなかった僕はアランのその態度で逆に違和感が明確になってしまう。
 アランが何かを隠してる? アランは裏表のない男で隠し事なんてするタイプではない、けれど今、確実に彼が何かを言いあぐねている事は分かるのだ。

「隠し事? ではないよね?」
「何か言いたい事があるのならば言えばいいのです、この際です腹を割ってお話しようではないですか。私の事を罵りたいのであれば罵ればいい、臆病者だと笑いたいのであればそれでも構いません。私は己が間違っているなんて思いませんからね」

 喧嘩腰のルーファウスにアランは「そうじゃない」と首を振り「もういい」と溜息を吐いた。

「よく考えたら俺がお前の行動にケチを付けるのも押し付けになるからな。俺はタケルの言葉を尊重する、それだけでいい」

 そう言うとアランは茉莉や王子達の方を向き「俺は魔力溜まりをどうにかする為に協力をしたいと思う、あんた等に付いて行っても良いだろうか?」と、静かに告げた。それに対してレオンハルト王子は「それは願ったりだね、仲間は多いに越した事はない」とにこりと笑みを浮かべる。

「あ、それじゃあ僕も!」

 便乗するように僕が手を挙げると「タケル、あなたは駄目です!」と、すかさずルーファウスが異議を唱える。だけどそんなの知った事ではない。

「僕、さっきも言ったよね。行きたかったらルーファウスは一人で行って、僕は自分の事は自分で決める。僕は小太郎君の保護者だし、オロチは僕の従魔だよ、一緒に行くの当たり前だろ」
「っ……! 何故あなたはみすみす危険な場所に飛び込もうとするのですか!」
「僕さ、前の世界では何にも冒険できない人生を送ってたんだよね。だから、やりたい事を全部我慢して自分を殺して生きる事はもうやめようと思うんだ。だってこれは僕の人生だから、せっかく新しくやり直させてくれるって言うんだから、僕は僕の生きたいように生きるよ」
「っっ……」

 こうなるとルーファウスは何も言えない。それが分かっていて我が儘を通した僕も意地が悪いと思うけど、そんな僕に愛想をつかしてくれてもいいのに結局ルーファウスは僕に付いてくる。
 前にルーファウスはタロウさんの事をとても綺麗で、儚げな表情がとても印象的な人だと言っていた事がある。そんな彼と僕との印象は今や全くの別人と言ってもいいはず。むしろ僕はタロウさんの真逆をいこうと思うのだ。
 僕は僕だ、誰の代わりにもならない。それで愛想をつかされるのなら、それでもいいと僕は思っている。そして、そんな初恋の人からかけ離れた僕でもルーファウスが愛してくれるというのであれば、その時は僕も腹をくくるつもりだ。
 まぁ、それでもルーファウスの言いなりになんて絶対なってやらないけれど!
 
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