童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第四章

アルバート・ホーリーウッドという人

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「……一体何の用ですか? 何故コタローを攫うような真似をしたのですか? こんな手の込んだ事をしてまで私達をこの家に招き入れたのは何故ですか?」
「最初は普通に勇者様の保護だったんだよ。勇者様はこちらに顕現されてすぐに行方をくらましてしまったからね」
「それは父上がされた事なのでは?」
「何故私がそんな事を? 国の有事にわざわざ招いた勇者様を私がどうこうするはずがないだろう?」

 少し苦笑するように答えるアルバートにルーファウスは厳しい瞳を向けたまま畳みかける。

「だったらあの紋印は? あれはコタローの居場所を探るためのものでしょう」

 詰問するようなルーファウスの言葉にアルバートは終始穏やかな態度を崩さない。

「ああ、あれは勇者様と聖女様の身の安全を護るために入れただけで他意はないよ。無断で入れたのは悪かったと思っているが、詳しい説明をする前に勇者様は消えてしまったからね。その点は先程勇者様にも説明して謝罪させてもらったよ」

 アルバートの態度を見ていると嘘を吐いているようには見えない。ちらりと部屋の奥を見ると、ソファーに腰掛ける小太郎と目が合って、彼はこくりと頷いた。

「だったら父上は彼が姿を消して何故すぐに追わなかったのですか?」
「追わなかったのではない、追えなかったのだよ。彼が城から姿を消して、私だってすぐに彼の後を追おうとした、けれど勇者様はまるでその存在自体を消してしまったかのように消えてしまって、私にも消息が掴めなかったのだから仕方あるまい」

 あまり納得いっていない表情ではあるのだが、ルーファウスはそこまで聞いてようやく僕の体を離した。けれど警戒は解かぬまま僕を自分の後ろに隠すように一歩前へ出た。

「立ち話もなんだし君達も中へどうぞ。あ、勇者様は無理のないよう横になっていて構わないよ。今人数分のお茶の準備をさせよう」

 そう言ってアルバートは僕達を部屋の中へと招き入れると指をひとつぱちんと鳴らした。すると、どこからともなく燕尾服を着た老紳士が現れてアルバートの指示を受けるとすぐにお茶の手配を始めた。
 まるであらかじめ控えていたかのような周到さでメイドまで部屋に現れて、全く人の気配がしなかったのに一体何処に隠れていたのかと僕は驚きが隠せない。
 長椅子のソファーにはスライムを頭に乗せたまま、まだ顔色の悪い小太郎がゆっくりと体を背もたれにもたれかけさせる。そういえば彼はまだ熱が下がっていないのだったと慌てて駆け寄り購入してきたばかりの熱さましを差し出すと、彼はそれを受け取りつつも、もう飲んだから大丈夫だと首を横に振った。

「コタローに怪しい薬なんか飲ませていないでしょうね」
「ははは、そんな事をして私になんの益がある? 薬はお前が幼い頃に熱を出した際にいつも飲ませていた甘いシロップだよ」
「高級品じゃないですか……」
「何か問題でも?」

 どうやらルーファウスはその熱さましの正体を知っているようで、複雑そうな表情だ。僕も薬草摘みは依頼でよくやっていたから幾つか心当たりはあるけれど、甘いシロップになる薬は確かに依頼難易度の高い薬草から抽出される事が多かった。
 良薬は口に苦しとはよく言ったもので基本的に薬は苦いものだ、けれど飲みやすく効き目の高いものは高額取引される事が多い。それを考えると『甘いシロップ』の値段も察しがつくというものだ。
 それにしてもここまでの二人の会話を聞いている限り、どうもルーファウスの語る父親像と目の前のアルバート総務大臣の印象が一致しないんだよな。どちらかと言えばレオンハルト王子の語ったアルバートの印象の方が目の前の彼の印象に近くて、ルーファウスの言動はまるで反抗期の息子が父親に反発しているだけのようにも見えてしまう。
 ルーファウスって、落ち着いた印象のわりに中身は意外と子供だしな……
 そんな事を思っていたら、アルバートが不意に僕の方を向いてにこりと満面の笑みを浮かべた。

「君がもう一人の勇者様だね。はじめまして私の名はアルバート。この国の総務大臣をしている者だ。君の話は聞いているよ、うちの息子がずいぶんと世話になっているようだね」
「は!? 何を知ったような事を! タケルに近付かないでください!」

 ルーファウスがアルバートから僕を隠すように僕と彼の間に割って入った。
 それにしても僕の話って何だ? 一体誰から聞いてんの? あ、もしかしてエリシア様辺りから僕の情報が漏れてるのか? 僕は勇者なんかじゃありませんよ!

「そんなに父を邪険に扱わなくても……」
「私は貴方が母を生涯日陰の身に置かせた事も、姉に私欲のために望まぬ婚姻を強いた事も忘れてはいませんよ。あんな肖像画をこれ見よがしに飾り立てて、まるで仲の良かった家族を演出しているようですが、私に言わせればあんなもの悪趣味もいい所だ!」
「………………」

 笑顔を顔に貼り付けたまま何も言わない父親に「そうやって、さも自分は何も悪くありませんという顔で自分の思い通りに人を動かそうとするところ、変わりませんね」と、ルーファウスは吐き捨てる。
 それにしてもルーファウスの言葉が全て真実だとしたら、確かにこの人とんだ食わせ者だよ。無害そうな笑みを浮かべてやってる事はあまり褒められた事ではない。
 アルバートはそんなルーファウスの悪態は華麗にスルーして、今度はくるりと向きを変えると、まだ入り口付近で待機していたアランに向かって笑みを浮かべた。

「君はアラン君、だったね」
「俺の事まで知ってるんですか?」
「情報というのは大事だよ。息子がいつも世話になっている。長いこと息子のサポートをしてくれているのだとか、礼が遅くなって申し訳ない」
「俺は別に……」

 アランが気まずげに瞳を逸らした。何だかこの人調子が狂う。良い人そうに見えるのはやはり見た目だけなのかな……

「ところで君、何処かでお会いした事があったかな? そのお顔何処かで見かけた事がある気がするのだけれど、もしかして王都に……」
「ありませんよ」

 アルバートの声に被せるようにアランが言葉を遮った。

「俺はただの一般市民、そしてしがない冒険者です、大臣にお目にかかった事なんて一度もない」
「そうかい? そうだったか……人違いかな」

 最後は呟くようにそう言ったアルバートの言葉にアランは瞳を逸らした。確かにアランは王都に暮らしていた事があるみたいだけど、この二人には全く接点なんてなさそうだもんな。

「父上、話を逸らさないでいただけますか。父上は一体何がしたいのか、私の仲間に挨拶がしたくて彼等を攫っただなんて私には到底納得できない答えです、どうせ何か裏があるのでしょう? 目的は何ですか? 聖剣グランバルトですか? そんな物、私達には必要のないものですから、欲しいのでしたらどうぞとっとと持っていってください」
「我が息子は冷たいなぁ」
「……っ」

 ルーファウスは何かを言い返そうと口を開きかけ、そのまま何も言わず黙りこんだ。口のよく回るルーファウスがここで言い返さないのは珍しい。けれど口の達者さで言ったらアルバートも同じようなもので、言い返せば更にのらりくらりと論点を逸らされるばかりだ。

「分かった、分かったよ、そんなに怖い顔をするんじゃない、母親似の綺麗な顔が台無しだ」
「私はどちらかと言えば貴方似です」
「え~そうかな? 目元なんか……」
「父上!」

 ルーファウスの一喝にアルバートは苦笑の笑みを浮かべて、またしても指をぱちんと鳴らす。すると全員が座るには数が少なかったソファーの数が増え、その一つに彼はゆっくりと腰掛ける。
 そんな彼のタイミングをまるで計っていたかのように老紳士がティーカップをアルバートの前に差し出す、彼はそのカップを手に取り一口飲んで「話が長くなりそうなので皆さんもかけてください」とそう言った。

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