童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

矢の字

文字の大きさ
148 / 222
第四章

誰かの犠牲の上に成り立つ世界

しおりを挟む
「ははは、という訳で私は君達を歓迎しているよ。聖剣グランバルトは正規の持ち主の元にあるのだからなんの問題もない。ギルドの方にも依頼を下げるようさっそく手配をしておくよ」

 そう言ってアルバートが目配せをすれば燕尾服の老紳士は全て承知していると言わんばかりに頷いているので、すでに手配は済んでいるという事なのかもしれないな。

「それにしても今回は勇者様が二人もいる事だし、長年苦慮してきた魔物の大暴走スタンピードも今度こそ完全封殺できるかもしれないね」

 呑気にそんな希望を述べるアルバート総務大臣に「言っておきますけどタケルは勇者ではありません」と、ルーファウスが反論してくれる。
 うんうん、そこは声を大にして言ってやって。僕は勇者ではありませんよ。

「ん? 勇者だよね?」
「違います」
「でも、異世界から来た勇者だよね?」
「だから違うと言ってます!」

 この人、人の話を聞かないな。アルバートにとっては異世界人は全員勇者という認識なのだろうか? 男なら勇者、女なら聖女、みたいな?

「あの、本当に僕は勇者ではありませんよ。そもそもこちらにやって来る時に神様にそういうのには関わらなくていいと言われています」
「神様に?」
「はい」
「それは何故?」
「何故と言われても……」

 アルバートがルーファウスによく似た思案顔だ。こうやって見ると、やっぱりこの二人似てるよな。
 それにしても、何故誰もかれも僕のことを特別な人間みたいな扱いをするんだろうか。確かに僕は多少のチート能力を持っているけど、勇者ってガラじゃないんだけどな……

「そもそも、しなくていいのとできるできないは別問題ではないですか?」
「え?」
「貴方には力があるのに、それを使わずしてどうします?」
「父上、タケルはこの件には関わりたくないと言っているのです、そちらの都合に彼を巻き込むのはやめてください!」
「ふむ、確かにエリシア様にも似たような事を言われはしたが……」

 そう言ってアルバートがちらりと僕を見やる。以前、エリシア様とホウエル枢機卿が僕の前に現れた時もそうだったけど、やはり僕の持つこの各種能力をこの世界の人々は欲しているのか。
 確かにこの力を駆使すれば世界の危機ですら救えるのかもしれないけれど……

「貴方がタケルに全てを押し付け何かをなそうと考えておいでなら考えを改めていただきたい。私は今度こそ大事な人を護りきると決めたので」
「そのたった一人の犠牲で世界が救われると分かっていても?」
「誰かの犠牲の上でしか成り立たない世界など、最初から救われるべきではないのですよ!」

 ルーファウス、また言ってるよ。それは駄目だって言ってるのに……
 僕は何もしないと言っている訳ではないのだ、僕だって誰もかれもを見捨てて自己保身に走るような人間にはなりたくないから僕のできうる限りの協力はしたいと思う。だけど、それを誰かに押し付けられるのは違うと思っているだけなんだよ……

「君がそんなでは、タロウも報われないな……」

 アルバートの放った一言にルーファウスの肩がぴくりと震え、物凄い形相で彼を睨む。けれどそんな彼の激情を知ってか知らずかアルバートは言葉を続けた。

「タロウは君達の未来のためにと身を賭して己を捧げてくれ――」
「ふざけんなっ!!」

 アルバートの台詞に被せるようにルーファウスが吠える。

「あんたがそれを言うな! まるで自ら望んでそうしたかのようにタロウを語るな、ふざけんなっ! あんたがタロウを追い詰めた! タロウが身を賭して世界を救ったのは確かにその通りだ、だがそう仕向けたのはお前達だろう!!」
「いいや、私達だって彼を止めたさ。だけど彼はそれを受け入れなかった。自分が身を捧げる事で何もかも上手くいく、と。その真意も理由も私達には分からなかったが、そうしてタロウは……」
「嘘だ!」

 まるで泣き出しそうなルーファウスの絶叫にこちらの胸の方が締め付けられる思いだよ。一体彼の過去に何があったんだ? 一体タロウさんは己の身を賭して何を成した?

「嘘じゃない」
「だったら何故、100年毎に未だ大暴走スタンピードは起こるのですか! タロウの死は無駄だった、あんた達は己の仮説のもとタロウを無駄死にさせたんだ!」
「タロウは死んでいないよ、ルーファウス」
「え……」
「問題は魔物の大暴走スタンピード、それさえどうにかできればタロウは晴れて解放される」

 アルバートが何を言っているのかがさっぱり分からない。それにタロウは死んでいない? タロウさんって確か普通に人間のはずだし、死んでないっていうのには年齢的にも無理があるのでは……?
 その辺りにはルーファウスも疑念を抱いたようで「どういう事ですか?」と再び父親を睨んだ。

「言葉の通りですよ、タロウは大暴走スタンピードを抑えるためにかの地に自ら赴いてその身を賭してかの地を封じた。それでも100年毎に大暴走が起きてしまうのは、かの地から漏れ出す魔力が抑えきれないからです。けれどそれもタロウが抑え込む前に比べたら微々たるもので、彼はまだ現在もかの地でこの世界を護っている」
「そんな話、私は知らない」
「この国の最重要機密だから当然だ。この国は……いや、この世界は、紛れもなく一人の人間の犠牲の上に成り立っている」
「何故……」

 アルバートは「何故だろうね」と、窓の外を眺めやる。

「それはあまりにも突然で、誰にもその理由は分からなかった。そして今も分かってはいない。今現在分かっているのはかの地にはこの世界を覆いつくせる程の魔力の源流が流れているという事だけ、そしてそれをたった一人で抑え込んでいる名も無き英雄が存在するというだけの事さ」
「名も無き……名を……タロウの名をこの世界から抹消したのはお前達だろう!」
「それはタロウ自身が望んだ事だ、私達はその望みを叶えたにすぎない。タロウは自分自身の名声など求めていなかった。彼は言っていたのだよ、いつか遠い未来できっとお前が自分を助けに来てくれる、と。お前はタロウに懐いていたし、タロウもお前を可愛がっていた、だからそんな未来を彼はお前に託したのだ。そんな彼の願いすら無下にするような言葉をお前が吐くようになるなんて思いもしなかったがな」

 重たい沈黙、部屋の中は不自然な静寂に包まれる。けれど、その静寂を破るように「それをあんたが言ったら駄目だろう」と、アランが静かに声を上げた。
 タロウさんが生きている。もしその事実をルーファウスが知っていたなら、きっとルーファウスはもっと早い段階で行動に移していたはずだ。ルーファウスはそういう人間だという事を僕はもう知っている。
 そして僕よりもルーファウスと付き合いの長いアランなら尚更に声を上げずにはいられなかったのだろう。

「僕もアランの言う通りだと思います。貴方は今までタロウさんについて何もルーファウスに教えていなかったのですよね? なのに何も知らなかったルーファウスを一方的に責めるのはお門違いじゃないですか? ルーファウスはルーファウスなりに自分が護れるものを護ろうと精一杯頑張っています、それが空回ってる事もしょっちゅうですけど、それを責められる言われはありません」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...