童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第四章

ルーファウス、過去を語る④

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 その当時姉には想う相手がいたのだとルーファウスは続ける。

「その相手が誰だったのか姉は教えてくれませんでした。けれど少なくともその相手が国王陛下ではなかった事だけは確かです。姉は陛下の事を優しい人だと評していましたが、愛しているとは言いませんでした。結婚してからもお互いの生活はバラバラで、そこに愛があるようにも見えませんでした。それでもそんな二人の間に子ができたのには驚きましたが、政略結婚のような間柄の父と本妻の間でさえも子供が二人も居るのですから、まぁ、無くはないのかと納得しました。姉の婚姻の後しばらくして母が病の末に他界、けれど姉の花嫁姿、そして孫の顔を見る事ができた事を母は喜んでいました。ですが、その婚姻、子供の誕生で一番得をした人物が誰かなんて言わなくても分かりますよね。姉は死の間際に父を恨むな、自分は幸せだったと私に言い残しましたが、そんな言葉を私が信じられる訳もない」

 そうか、王妃の父であり次期国王陛下の祖父という肩書を手に入れたルーファウスの父親は自分の地位を盤石にしたのは間違いないよな……しかもエルフは長生きで、一度手に入れたその地位を返還させるのも難しい。
 娘の婚姻によってアルバートの権力はゆるぎないものとなったって事だ。
 それにしてもルーファウスがあんまりにも淡々と話すものだからうっかり聞き流してしまいそうだけど、気を許して仲良くしてくれていた兄のような存在だったタロウさんとは理由も分からず会えなくなり、自分の世界のほとんどを占めていたであろう姉とも婚姻を機に会う事すらままならなくなった幼いルーファウスの事を思うと胸が痛む。
 そしてそのどちらにも関わっているフロイド国王陛下はルーファウスに対してあまり優しくはない態度をとっている。
 お姉さんはフロイド国王陛下を憎む事はなかったみたいだけど、そうやってお姉さんが彼を庇えば庇うほどルーファウスの国王陛下への怒りは募ったのだろうな……
 自分ではどうにもできない大人の事情によって、自分の大切な人達を奪われていく。
 思春期真っ只中だったであろうルーファウスのその時の心情を想うと、できる事ならその時彼の傍に居てあげたかったってそう思う。

「父は本当は私も官僚にしたかったのでしょうね、成人と共に私は王宮で召し抱えられました。ですが私は元来人付き合いが上手くありません、出世競争に興味はありませんでしたし同僚同士での腹の探り合いのようなやり取りにも辟易していました。姉が存命の間は少しでも姉との関りが欲しくて宮勤めをしていましたが、姉が亡くなってしまってからは政治や権力争い、そんな何もかもが嫌になって家出しました」

 そう言ってルーファウスは溜息を吐き出す。

「宮仕えをしている間、自分なりにタロウについて調べた事もありましたが、タロウの情報はまるで隠蔽でもされているかのようにほとんど見当たりませんでした。当然のように彼の消息の手掛かりとなるような物も見付かりませんでしたが、彼の功績のようなものだけは幾つも見付かったのです。けれどそのほとんどが姉の功績として塗り替えられていた。私はそれが偽りの情報である事がすぐに分かりましたよ。何故なら姉の事を一番理解していたのは私でしたからね。私はその事に関して勿論父に問い詰めましたが、父はのらりくらりと言葉を濁すばかりで私には何も教えてはくれませんでした。私は父に失望していたそして、あれほどタロウを敬愛しているように見えたホーリーウッド一族のタロウへの無関心ぶりにも嫌気がさしていました。そうして私は紆余曲折ありまして現在の冒険者稼業です。これが私の人生です。長い割にはあまり面白くもなかったでしょう?」

 確かに面白いとは言えないけれど、充分に濃い話ではあったと思う。今まで知らなかったルーファウスの過去。
 冒険者になってから出会った人も何人もいたのだろうけど、ルーファウスからはその頃の話が出てきたことはほとんどない。それは今までルーファウスは長い時間を一人で生きてきたという事なのだろう。
 ルーファウスと出会って間もなくの頃、彼がドラゴン討伐依頼を受けて出掛けた時、僕が「ご飯を作って待っている」と告げたら彼は言葉を詰まらせた事があった。
 あの当時はそれが何故なのか分からなかったけれど、エルフの人生は長い、他人とは違う長い生を生きている彼にはそれを共有できるエルフの友人もいなかった。だからそんな些細な僕の言葉がとても特別だったのかもしれない。
 僕はその時何故か無意識に傍らに座るルーファウスの頭撫でていた。

「? え? 何ですか?」

 驚いたような表情のルーファウス。僕も自分で自分の行動に驚いてる。
 でも何故だろう、いつもと変わらないルーファウスがまるで幼い子供のように思えて、思わず撫でてしまっていた。

「あ……ごめん。だけど、今までたくさん我慢して頑張って偉かったね」
「……っっ」

 バッとルーファウスが顔を伏せ「なんで今そんな事言うんですか!」と声を荒げる。
 ヤバイ、これは失言だった。そうだよな、ルーファウスは僕なんかよりずっと長い生を生きていて、なのに僕の今の台詞はまるで子供を褒める大人のそれだ。

「す、すみません!」

 僕は慌てて謝るがルーファウスは顔を上げてくれない。これ完全に怒らせた!?

「今のはタケルが悪い」

 アランにまでそんな風に言われてしまって何度もルーファウスに謝り倒すと、アランは「そうじゃない」と呆れ顔を僕に向けた。

「俺の時もそうだったが、お前は天然の人たらしだな……」
「へ?」
「お前等ホントお似合いだよ、ルーファウスはタケルにもっと存分に甘やかしてもらえばいい」
「え? え……?」
「わ、私が求めているのはそういうんじゃないんで!」

 今度はルーファウスが慌てたように顔を上げる。そしてそんなルーファウスの瞳が涙目だ。
 あれ? これもしかして僕が泣かせた?
 戸惑いながら僕がルーファウスを見ていると、それに気付いたルーファウスは気まずげに僕の視線から顔を逸らす。

「あぁ~あ、俺もイライザに会いてぇな……」

 イライザさんってアランの別れた奥さんの名前だよな。確か今ではアランとは別の人と再婚してしまったって聞いているけど……

「ルーファウスも親父さんからあんな話聞いちまったら、どうせ王都に行く気にはなってんだろう? だったらさっさと話し纏めて行こうぜ、王都」
「父の口車にまんまと乗せられたようでとても癪なのですが……」

 拗ねたような表情のルーファウスはやはりいつもより少し幼く見えて、僕は失礼だとは思いつつも可愛いなと思ってしまう。
 何でだろうな、今までは頼れるお兄さんだったのが、昨日からの一連の言動を見ていたら今はまるで弟でも見てるような感覚なんだよ。

「今更今更、あの人はお前が敵う相手じゃない。どう見たって海千山千のタヌキじゃねぇか、お子ちゃまなお前が太刀打ちできる相手じゃねぇよ、諦めな」

 ルーファウスはぐぬぬと悔しそうな表情を浮かべながらも「分かりましたよ!」とやけくそのようにアランに返事を返した。

 





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