童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第五章

聖女様は相変わらず怖いもの知らずのようで……

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「ロイドさんって実は勇者だったんですか……?」

 びっくり眼の小太郎がおずおずとロイドに問うた言葉に「いやいやいや! ないないないって! そんな話初耳で、俺だって意味が分からない!」と、ロイドは早口でまくし立てる。
 そして、そんな話は全くの寝耳に水の国の重鎮たちも「そんな馬鹿な話があるか!」と口々に騒ぎ始めだした。
 けれど、そんな騒動の中で何故かレオンハルト王子は笑みを浮かべて「確かに彼はその聖剣に選ばれし者なのは間違いないですよ」と言ってのけた。

「レオンハルト、それは一体どういう事だ!」
「その剣を持ってみれば分かります」

 王子のその言葉を受けて目配せをされた女騎士マリーが聖剣グランバルトに手を伸ばすと、剣は以前と同じようにその手を避けるようにして逃げ出した。
 そんな聖剣の様子に目を見張ったおじさん達が「そんな馬鹿な」と聖剣に手を伸ばすのだが結果はやはり同じ。
 そして「私でも駄目なのです」と王子が手を伸ばし、聖剣に軽く打ち払われた所で国王陛下が「そなたはこの剣を扱えるのか?」とロイドに問う。

「扱える……というか、持つ事はできます」

 そう言ってロイドが手を伸ばせば剣はそこが本来の自分の居場所だと言わんばかりにロイドの手の中に収まって、周りの者達は一様に驚きの声を上げた。

「これは一体どういう事だ……ん……そういえば以前、聖女エリシアが西方の街に聖者が降臨されたとかなんとか言っていた事があったな……まさかそれが……?」

 あああ、それは僕の事でロイドじゃないのに、変な誤解が生まれてるぅ。
 僕が「それは……」と言いかけたところで「タケル」と静かに、それでも有無を言わさぬ強さでルーファウスから名を呼ばれた。同時に『なにも言うな』というルーファウスの強烈な圧を感じて僕は言葉を続けられない。
 ロイドもロイドでそれは僕の事だと人身御供のように僕を差し出す事はできなかったようで「誤解です」と首を横に振る。

「俺っ……私は、ただの冒険者です。勇者なんかである訳がない」
「だがしかし、聖剣はお前を選んだ」

 厳しい表情の国王陛下。その横では王妃様も静かにこちらを見つめている。

「勇者ロイドよ、私はそちを歓迎しよう」
「……へ?」

 表情は厳しいままなのだが国王陛下はそう言って言葉を続ける。

「現在我が国は危機に瀕している。レオンハルトに既に聞いているかもしれないが、魔王国の進行は現在予断を許さぬ状況で魔物の大暴走スタンピードはいつ起こっても不思議ではない状況だ。民の不安を闇雲に煽らぬため伏せられている情報は幾つもあってこちらも対策は練っているがその状況は芳しくない。藁をも縋る思いで召喚した勇者コタローは姿を消し、我が国の安寧も風前の灯火と覚悟していた。だが……」

 国王陛下がきりっとした表情でロイドを見やる。

「君は初代国王陛下の聖剣と共に我らの元に遣わされた選ばれし勇者、私はそちを歓迎する。どうか我が国を助けて欲しい」

 国王陛下が頭を下げる。そんな陛下の行動にロイドはおろおろと言葉も出せないのだが、国王陛下が頭を下げた事で周りの重鎮たちも陛下に倣うように頭を下げるので、もはやロイドに逃げ道はない。
 これは言ってしまえば唐突に召喚勇者としてこの世界に連れて来られた異世界人の小太郎の身代わりに差し出された勇者と言っても差支えない状況で、小太郎自身も事の成り行きに更に顔を青褪めさせている。
 僕自身もこの世界に来てやれ聖者だ賢者だと追い回されたりしたけれど、こうやって逃げ道を塞がれてしまっては当事者は何も反論なんてできないのだ。だから僕はあの当時そんな厄介事から逃げ出した。
 けれど、ほとんどの人間が言い返せないこの状況でも、何も考えずに反論出来てしまう者も世の中にはいるもので……

「馬っ鹿じゃないの! コタが駄目なら次は聖剣に選ばれた勇者様? おっさん達は厄介事を他人に押し付けて自分達は高みの見物なの? ホントそういう態度、腹が立ってしょうがないんだけど!」

 茉莉が声を荒げて国のお偉方相手に食ってかかった。怖いもの知らずにも程があるというか、これこそが社会を知らない子供の大胆さか。
 立場や年齢による上下関係を社会に出て嫌という程叩き込まれてきた僕には茉莉の言動は恐ろしくも見えるし頼もしくも映る。
 そしてそんな茉莉の隣に立っているレオンハルト王子は相変らず余裕の笑みで何を考えているのか分からない。
 この王子様は少し頭が残念なだけの人だと思っていたけれど、王子のその態度はどこかルーファウスの父親アルバートを思い出させて、この人も実は食えない人間の内の一人なのではないかという考えが頭を過った。

「聖女マツリよ、私はそんなつもりでは……」
「だったらどんなつもりよっ!」
「いや、それは……」
「この国の国王だって言うんなら国民守って最前線で先頭切って戦いなさいよ! 何でもかんでも他人任せで、困っているから頼むって金だけ積んで、勝手に話を進めたあげく他人に命差し出させてんじゃないわよ、バ~カっ!」
「ちょ……さすがに茉莉ちゃんそれは言い過ぎ……」
「何が言い過ぎ!? ってかこのくらい言わなきゃ割に合わないのはあんた達の方でしょ! 本当はこの件に関わりたくないくせに!」

 あ~……確かに。そしてルーファウスは静かに頷いてるしな。

「まぁ、そうは言ってもあたしは行くけどね!」
「……え?」
「あたしはあたしの意志で魔王領に乗り込んでやるって言ってんの。はっきり言って面倒ごと押し付けられてる感じめっちゃ激おこなんだけど、せっかく連れて来られた異世界だもの、あたしはとことんまでこの世界を満喫するつもり!」

 …………茉莉ちゃん、強すぎない?
 この世界に来てから面倒ごとは避けまくりで逃げ回ってたおじさんはちょっと恥ずかしくなっちゃうよ。
 これこそがまさに勇者の資質、っていうか、彼女はなんでこの世界で『聖女』なんてやっているのだろうか? 格好はまるで女騎士のようだし、彼女は一歩下がって皆を援護・治癒だけしてるタイプじゃない。どう考えても自ら先頭切って突っ込んで行くタイプなのになんで聖女なんてやってんだ?
 僕はもしやと思い茉莉のステータスを覗き見る。
 そこに現れたステータス画面、トップ画像はいつもの通り名前・人種・職業・好感度(?)そして謎の数字なのだけど……

『囃子田茉莉 異世界から来た革命児。聖女(暫定) ♡ 382』

 ツッコミどころが多すぎてどこからツッコんでいいか分からないよ!
 革命児ってなに? 暫定ってどういう事? そんでもって数字! 300越ってどういう事さ。
 数字は恐らくスキルの総合レベル数だと僕は認識しているのだけど、これルーファウスより多いんじゃ……ちなみに好感度と思われる♡の中の色は薄い桃色だ。うん、そこは普通で良かったよ。
 個別のスキルレベルまでは確認できないのだが、この数字を考えるに茉莉のスキルの数は相当に多い、もしくはどのスキルレベルも達人レベルで高いかのどちらかだ。
 でも暫定聖女である事を鑑みるに、彼女は聖女の資質が高いだけで実は他の職業に転職しようとしたら簡単に出来てしまうくらいにスキル数が多いのではないだろうか?
 僕自身、何故従魔師テイマーではなく魔術師なのかと今まで何度も問われた事があるし、剣技も格闘技も習えば習っただけレベルは上がっている。
 細かい事を言うのであれば調理師としてのレベルもほぼMAXに近くて、できる事がレベル数として反映していくこの世界では数字はその人間の可能性を指し示している。そしてその数字が茉莉は300越、そしてこれからも数値は上がり続けていくのだろう。
 暫定聖女か……これ、もしかしたら聖剣に選ばれさえしていたら茉莉は勇者にだってなれていたのではないのか?
 突然召喚されてきた二人の少年少女、片方は男の子だったから『勇者』で、もう片方は女の子だったから『聖女』だと認識されたが、もしかしたら性質的には茉莉が『勇者』で小太郎が『聖者』であった可能性もあるのかもしれないな……
 茉莉は聖女の資質があると判断されて聖女としてこの国に迎えいれられ、小太郎は逃げ出した事で何の資質も問われずに召喚勇者として名前だけが残った。
 僕はふと思い立ち小太郎のステータスも覗いてみる。

『蓮見小太郎 異世界からの召喚勇者(?)闇魔法の使い手 ♡ 82』

 勇者に(?)マーク付いてるよ。そんでもってレベル低い。いや、でもまぁ、小太郎は僕達がこの世界に来てからの三年間をすっ飛ばしてしまっていると思えばこの数字は妥当とも言えるのか。
 一般市民のレベルの数値が大体平均50~80くらいだと思えば、数値的には少し高いよ、うん。
 そんでもって少し気になるのは僕への好感度だと思われる♡の中の色がほぼ真っ白だという事。
 茉莉ですら少し桃色がかっているというのに白い。いや、よく見れば少し灰色がかっているようにすら見えるのだけど、僕、小太郎君に嫌われてるのかな。だとしたらちょっと凹む。
 そもそもこのステータスに関してはチュートリアルが全くなかったのでこの情報をどう見ていいのか僕には分からないのだ。神様が「ステータスオープンって言ってみて」と言った時に文句をつけずに一応聞いておけば良かったよ。
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